初日1
短めです。
目が覚めて、カーテンを開き外の様子を確認する。
ーーー外は未だ、真っ暗である。
「うん…?お兄ちゃん、まだ5時だよ?
さすがに、早起きしすぎだよ…。」
俺の布団を出た時の物音で、起こしてしまったのか亜希が眠い目を擦りながら声をかけてきた。
でも、やっぱり眠気には勝てなかったのか、「お兄ちゃんもまだ寝ときなよ…。」と言い残して、布団の中へと戻っていった。
そんな亜希の様子を微笑ましく思いながら、俺ももうちょっと寝ようかと布団に潜り込んだのだが、なかなか寝付けない。
ーーーやっぱり、俺緊張しちゃってるな。
今日は10月1日、俺が女として高校に編入し、登校を始める日だ。
ーーーしっかり女の子として振る舞えるだろうか?
ーーー女子特有のいじめみたいなのってどれくらいあるんだろうか?
ネットで調べものをしてみれば、女子には陰湿ないじめがあるなんて書いてあった。
俺の今の容姿は自分で言うのもなんだが、整っているからそういうのに狙われやすいと思うし、かといって俺は亜希がいつか言っていたような身体のケアや化粧なんかの話なんか、この1ヶ月で少しだけ齧った程度なので出来るわけがないため、正直不安で不安で仕方ない。
もう寝れそうもないし、とりあえず最善は尽くしておこうと思い、母さんの部屋の化粧台へと向かった。
◆◆◆◆
ーーー結論を言おう。
全くもって無駄だった。
俺なりに以前買ってもらった化粧品を使って頑張ってみたのだが、二度寝から起きてきた亜希に、「お兄ちゃん…。それ、ふざけてるようにしか見えないよ?」と苦言を頂戴し、すぐさま落とされてしまった。
ーーー頑張ったんだけどな…。
ちょっと寂しく思いつつも、その後亜希にやってもらったナチュラルメイクの方が明らかに良かったので、文句を言うなんてことはしなかった。
ワイシャツ、スカートを身につけて、ワイシャツの襟を立てて藍色のリボンを取り付け、その後、襟を元に戻し、ブレザーを羽織る。
ーーーああ、男だった時はこんなこと、しなかったなぁ。
うちの学校、三田西高校は男子の制服は学ランなのに、なぜか女子の制服はブレザーなんていうよく分からない制服の採用の仕方をしている。
男子の頃は中学と同じ学ランだったため、楽でいいなと思っていただけだったが、女子になり、制服が変わるとなると話は変わってくる。
何しろ、リボンをつけるのなんて初めてのことなのだ。リボン自体にも違和感は大きい。
ーーー女子のリボン、みんな同じ形だなぁとは思っていたけど、結んでるんじゃなくてカチッとはめれる形になってるんだな。
付ける際、この事実に大変驚いたし、つけた後も何か胸元についているのは違和感がある。
ーーーまあ、胸元といったら、胸があることにも違和感があるんだが。
そして何よりスカートだ。
男子だったときには、「夏は涼しそうでいいな。でも、冬は寒そうで可哀想。」と思っていて、夏は女子になりたい、冬は男子で良かったと思っていたのだが、現実ではそうでないらしい。
ーーー今思えば、なんで俺そんなこと考えてたんだよとか思ってしまうが、この思考は今関係ないので置いておこう。
というのも、スカートというのは意外に蒸れるので、そこまで涼しくないのだ。
もう10月だから暑くはないので蒸れるかどうかはもう大丈夫なのだが、もうすぐ寒くなってくることを考えると少し怖くなってくる。
「お兄ちゃん、先に出るねー!
気をつけて行きなよー?」
そんな俺の思考とは関係なく、亜希が家から出て行った。
その後で、俺は鏡の前でくるくると回ったり、色々と体勢を変えたりしながら確認をする。
ーーーどこもおかしいとこないよな?
何度も何度も確認をする。
ネットで女子の陰湿ないじめというものを知ってしまったがために、少しでも突っ込みどころがあったら目をつけられるんじゃないかと神経質になってしまう。
そうやって、鏡に映る自分ばかりに気を取られてしまい、後ろに近づいてくる人がいることに気づけなかった。
「流石に気にしすぎじゃないか、奈津希?」
「ひゃっ!?」
後ろから声をかけてきた人物、それは誠也だった。
「な、何でお前家の中にいるんだよっ!
お前だからって、流石に人ん家に勝手に入るのは非常識だぞ!」
「え?いや、勝手に入ってきてないけど…。」
「え?は?…どういう事?」
「いや、表で待っていたら、亜希が『外で待たせてるのは申し訳ないですし、中に入っててください。』って言ってきたから、入ったんだけど…。」
ーーー亜希のやつ、入れるんなら俺にも声かけてから入れろよ。
そう、亜希を恨めしく思っていると、誠也が口を開いた。
「んで、なんであんなに鏡でジロジロ見てたんだ?」
そう言われて、頰が赤くなる。
いくら親友といえども、誰もいないと思いつつやっていたことを見られるというのは恥ずかしい。
化粧台に突っ伏し少し悶え、自分を取り戻せたところで、誠也に返事をする。
「いや、女子の制服なんて着たことないからな。
これで良いのか不安になるんだよ。」
そんな俺の言葉に対して、誠也は?マークを浮かべた。
「そこまで気にするもんか?
男子でも女子でも、制服を着崩している人なんてそれなりにいるし、気にし過ぎじゃないか?」
「そんなもんかなぁ…。」
誠也に気にしすぎと言われても、それでも気にしてしまう。
本当に大丈夫かな?とスカートや裾を掴んでみたり、リボンの位置を確認したりするもののやっぱり落ち着かない。
そんな俺を見兼ねてか、誠也は少し笑顔も見せながらこう言ってきた。
「大丈夫だよ。どこからどう見ても、可愛い女子高生にしか見えねーよ。」
ーーーこれは誠也のやつ、無意識に言っているのだろうか?
『可愛い』なんて、なかなか付き合ってもない女子に対して言うもんじゃないだろ。
そんな思考から、誠也が複数の女子に詰め寄られてる様子が浮かび上がってきて、思わず顔がにやけてしまう。
そんなにやけ顔を隠すために、誠也から目を背けて、「ほら、もうそろそろやばいから出るぞ?」と声をかけ、学ランの腕の部分を掴み引っ張った。
てっきり誠也から「おう。」といったような肯定を示す返事が思っていたのだが、誠也からそのような反応は見られなかった。
その場に立ち止まっていたために、俺の指と指の間から掴んでいた学ランの袖がこぼれ落ちた。
「お前、制服ばっかり気にしてるけど、あっちの方は大丈夫なのか?」
誠也のあっちという言葉に、少し頭を悩ませるも、そんなに考えないうちに答えの見当がついた。
「勿論、大丈夫に決まってるだろ!」
俺は口元に笑みを浮かべながら腕を伸ばし、手のひらをぐっと握り込み、サムズアップをしながら答えた。
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