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ゲームをしたら女になった件  作者: シロツミ
現実帰還と身の回り
35/72

電話2

外に出たいという欲求に負け、母さんの制止の声も聞かずに家を飛び出した俺は後悔していた。

誠也の家まであと1kmちょっとのところにある大型スーパーを通って少しショートカットしようと思ったのだが、その判断は大きな間違いであったと今になって分かった。

ーーーすっげえ見られてる。

漫画とかを見ていて『今、視線を感じたような…』というシーンに「そんなんになるわけないじゃん。視線を感じるってエスパーかよ?」とケチをつけていた俺だが、今になってそれは間違いだったと気づいた。

ーーー視線って無茶苦茶感じます。

周りの人が見るのは当然だろう。

俺の今の姿は銀髪、それに自分でいうのもなんだが可愛い女の子なのだ。

目立つし、思いっきり見てくるのは違和感ないだろう。もし、俺が相手の立場だったら、多分見てるし。

以前出かけた時は、亜希や若菜さんと一緒だったというのもあり、意識は2人との会話に集中していたため、多少は感じたものの、気分が悪くなるほどではなかった。

だが、今は前回とは違う。他に集中するものもないので、外から伝わってくる視線というものをどうしても意識してしまう。

ーーーうう、きつい。こんなに見られるのは流石に辛い。

なんとも言えぬ不安と、赤の他人からひたすら見られるという恐怖、そんなものに気持ちが参ってしまったからか、思わず涙が溢れ出しそうになる。

ーーーダメだ。泣いたりなんかしたら、余計に目立つだろ。ここは我慢だ。絶対我慢だ。

首を勢いよく振り、恐怖を吹き飛ばし、必死に前だけを向いて進む。

そんな状況下で、1人の人物が、1人の知り合いが、俺の目に飛び込んできた。


明梨(あかり)おばさん!?」


反射的に声を上げてしまう。

ーーー肩より少し長く伸ばし、ダークブラウンに染められた髪に、誠也の年齢から考えて40は越えているだろうに、未だ30代前半の若々しさを保っている女性。

そう、俺の視界に飛び込んできたのは、俺が目指していた誠也の家の住人かつ、誠也の母親である高原明梨(あかり)さんだった。

声を上げてから、俺は自分の失態に気づく。

ーーー何やってんだ!?明梨おばさん、俺の姿のことなんか知らないはずだろ!!

明梨さんは、小柳さんが証人保護プログラムの部分利用をすると話したあの現場にいなかった。

それはつまり、明梨さんは俺の現状なんか知らないはずなのだ。

やばい、声を上げちゃったから無茶苦茶目立ってるし、おばさんもこっちを何か怪しいものを見るような目で見てくる。

ーーーああ、どうしようどうしようどうしよう。

追い詰められた状況に、頭が情報処理出来ずに思考停止してしまう。

そんな俺に、明梨おばさんは一歩一歩、俺の方へと近づいてきてーーーーー


「あー、奈津希ちゃんね!久しぶりね。いつ以来かしら?」


ーーーーまるで、知り合いのように声をかけてきた。

ーーーえ?なんで?なんで明梨おばさん、俺の名前分かるの?というか、俺の事情知ってんの?

ただでさえ処理出来ていなかった頭に、更に情報が入ってきて、訳わかんなくなってしまう。

そんな俺の様子なんぞ露知らず、明梨おばさんは口を開く。


「今日は何でこっちに…って、誠也に会いにきたのね?あの子、今は家の中にいるから入ってって、入ってって。」


そう言いながら俺の背中を押す明梨おばさん。

俺はそんな状況に困惑して、「え?え?え?え?えーーー!?」と声を上げることしか出来なかった。


◆◆◆◆


「え!?明梨おばさん、俺の事情知ってたんですか!?」


俺は思わず声を上げてしまう。

そんな俺を見て、明梨おばさんは笑わないようにと口を固く結んで耐えようとして、それでも耐えられないと身体を震わせて笑いが漏れていた。


少しして治った後、深呼吸をしてから明梨おばさんは口を開いた。


「それじゃあ、説明しようと思うけど、何から聞きたい?」

「むっ…。」


何から聞くべきだろうか?

そんなに質問も思いつかなかったので、最初に思い浮かんだものを聞こう。


「じゃあ、明梨おばさんはいつから俺の事情を知っていたんですか?」

「うーん、そうだな。いつからって言われると難しいけど、あえて言うなら夏休みに入ってすぐからかな?」


ーーえ!?夏休み入ってすぐ!?

それってつまり、俺が女になってすぐ知ったって言うこと!?

それって下手すりゃ、誠也より知るの早かったんじゃないか!?


「どうしてそんなに早く俺が女になったって知ってたんですか!?」


一切の躊躇なく、質問を投げる。

そんな俺を見て、明梨おばさんは「あちゃー」と声を上げながら、右手の手のひらで顔を隠した。


「やっぱり、この言い方じゃ誤解しちゃうよね…。」

「え?誤解、ですか?」

「そうそう、誤解。でも、奈津希くんも悪いんだよ?微妙な聞き方するから、なんて答えたらいいかこっちも悩んだんだから。」


そう言った後、明梨おばさんは一度腰掛けていたソファから立ち上がり、少し伸びをした後、再度口を開いた。


「今答えたのは、奈津希くんの事情について、奈津希くんがえーと…手塚清秀の計画に巻き込まれたことについていつ気づいたかについて答えたんだ。

だから、いつって表現だと、奈津希くんがゲームに閉じ込められたのを知ったときのことだから、夏休み入ってすぐに気づいたってことなの。」


あー、なるほど。そうだったのか…ーーーーーーって!


「明梨おばさん、俺がゲームに閉じ込められたの、そんなにすぐ知ってたんですか!?」


驚きの声を上げてしまう。

明梨おばさんは少し笑みを見せながら、答えてくれた。


「えっと、奈津希くんはゲームに閉じ込められたって、どうやって知ったか覚えてる?」

「え、あ、はい。それは誠也から聞きました。」

「実は、それが問題だったのよ。」

「え?…どういうことです?」

「誠也が奈津希くんに閉じ込められたという情報を伝えられたということ、それはつまり誠也は閉じ込められるかもしれない危険な状況だって分かった上で、ゲームの中に再ログインしたってことなの。

それで、私も一緒に怒られてね?そこで、奈津希くんの状況を知ったの。

それ以降は義兄(おにい)さんに、高原雅良って覚えてるかな?病院で会ったらしいんだけど。その義兄さんにちょくちょく教えてもらって、奈津希くんの状況を知っていったんだ。」


ーー予想外の事実に驚きを隠せない。

あいつ、そんな無茶してたのか。

あの時点では、手塚の計画の全貌は分かっていなかったから、再度ログインしたら自分も閉じ込められるんじゃないかと、不安だったはずだ。

なのに伝えに来てくれたことに感謝しつつも、何でそんな無茶したんだという思いも湧いてくる。


「現実だと、そんなことになってたんですね…。」


そんな感嘆の声を上げた後、俺は明梨おばさんに「教えてくださり、ありがとうございます。」と言った。

すると、明梨おばさんから、予想外の言葉が返ってきた。


「いいの、いいの。むしろ、私としても奈津希くんにこのことを知って欲しかったから。」

「え、なんでですか?」


反射的に聞き返すと、明梨おばさんは先程よりもトーンを少し下げて話し出した。


「いや、私から奈津希くんに、誠也のことで頼みたいことがあってね。その頼み事を頼むために、とりあえず聞いておいて貰わないといけないからね。」

「頼み事…、ですか?

誠也に何かあったんですか?」

「うん。本当は喜ぶべきことなのかもなんだけど、流石に度が過ぎて心配になっちゃってね…。」


ーーえ?喜ぶべきことなのに、度が過ぎて心配になること?


「一体、誠也に何があったんですか?」


そう聞くと、明梨おばさんは首を少し傾けながら答えてくれた。


「あの子、最近家だと勉強しかしてないのよ。」

「えっ…。」


ーーーあの誠也が勉強しかしてない?

はっきり言って、俺の知っている誠也が毎日勉強するなんてありえない。

性格という意味でもそうであるし、成績という意味でもテスト勉強さえしておけば全教科8〜9割取れるから必要ないはずだ。

ーーーそんな誠也が、最近家では勉強しかしてないなんてどういうことだ。

思わず何でそうなったのか聞き返す。

すると、返ってきた言葉は、俺が一切考えてない言葉だった。


「ーーー奈津希くんを女にしたのは、自分が原因だって言ってて…。」


明梨おばさんも少し言いにくそうに呟いた言葉は、俺に重く重くのしかかった。

ーーー正直、誠也の言葉なんて覚えてはいたが、もう自分の中では存在しないようなものだった。

ゲームの世界に閉じ込められていた時は、誠也の言葉は俺にとって大きな支えであったが、こっちに戻ってきてからは然程気にしていなかった。

小柳さんと話して、国が、厚生労働省が俺のことをしっかりサポートしてくれると知って、心底安心したために、誠也の言葉への依存は減っていった。

そんな、自分自身にとってはあまり大きくなかったものが、誠也には重く重くのしかかってしまっていた。

俺の存在が、誠也に重い責任を背負わせてしまった。

その事実が、俺を深く深く傷つけた。


「それで、俺は何をすればいいんでしょうか?」


俺は下を見ながら、そう言った。

俺の中で、もう覚悟は決まっている。もう誠也と接するのはやめてくれとか、何を言われたとしても、言われたことを実行しよう、と。

ーー俺と離れて、誠也が前までの生活を送れるなら、それでいい。

明梨おばさんから返ってきた言葉は、そんな風に俺が予想していたものとはまるいっきり違っていた。


「だから、もっとたくさんあの子と遊んでくれないかしら?」

「えっ…。」


思わず絶句した。

脳が再び思考し始めると、すぐに俺は口を開き質問した。


「それで、それでいいんですか?

あいつが今、勉強しかしてないのは俺が原因なんですよ。このまま一緒に遊んでいたら、その度にあいつは、誠也は責任を感じて、もっと勉強しかしなくなって、最後には倒れちゃうかもしれないんですよ!」


ーーーああ、俺何言ってんだろ。

それは俺を苦しめる言葉だろうに。

あいつと一緒にいたいかと聞かれたら、いたいと答えるに決まっている。

ーーでも、一緒にいることが、あいつを傷つけるなら、俺はあいつと一緒にいない方がいい。

そう思い、明梨おばさんの方をまっすぐ見据えて待っていると、明梨おばさんは優しく微笑みながら口を開いた。


「ーーたくさん遊んでちょうだい。

責任を感じてるのかもしれないけど、それでもあの子1番いい顔してるのがあなたと会ったり、あなたと遊んだりした後なのよ。

何かあったの?って聞けば、楽しそうにその日あったことを話してくれるの。

ーーー確かに、あなたは誠也を苦しめているのかもしれない。

でも、それと同時にあなたは誠也の支えにもなっているの。

たくさん遊んで、一緒にいる時間を増やして、勉強をやる時間を減らしてくれない?

ーーそれが、今の誠也にとって1番良い選択だと思うから。」


明梨おばさんは、俺の気分を少しでも良くするためにか、「でも、あんまり遊びすぎないでくれると嬉しいな。せっかく勉強やるようになったんだから、今のを維持しろとまでは言わないけど、多少は勉強して欲しいから。」とジョークを言ってくれ、俺に気をつかってくれたものと分かっているのだが、やはり笑ってしまった。


この後、俺は誠也とあって事情を説明して、連絡先を交換した後、バイバイと手を振りながら高原邸を後にした。

ーーーこの日以来、自分も少し責任を感じて、自習時間が少し増え、その結果、誠也と遊ぶ回数も増えたが、学校でどこやってるか教えてもらうという建前で、一緒に勉強することも増えた。


ーーあれ?これって本末転倒じゃないか?

そう思って、明梨おばさんに電話で確認してみたところ、俺と遊ぶ回数が増えたことで、明梨おばさんと誠也の会話の時間が増えたため、勉強時間は減少しているらしかった。

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