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ゲームをしたら女になった件  作者: シロツミ
現実帰還と身の回り
34/72

電話1

「お兄ちゃん、本当に大丈夫だよね!?」


亜希が玄関で、俺の心配をしてくる。

それに対して俺は、「大丈夫」と返すのだが、亜希の様子は変わらない。


「本当に、本当に大丈夫!?」

「だから、大丈夫だって!」


あまりにも何度も繰り返してしまうので、思わず強めに返してしまう。

今日は9月1日、俺はまだだが、誠也や亜希にとっては今日から学校に行く日々が再開するのだ。

親は両方働きに行っているからいないため、今日から俺は家に1人でいることになる。

そんな俺を心配しているのか、亜希は何度も何度も繰り返し、大丈夫かと確認してくるのだ。


「もう、大丈夫だって。お前もそろそろ出ないとまずいだろ?早く行けよ。」

「でも…。」

「俺を心配し過ぎてお前が遅刻するなんて本末転倒だろ。それに、お前は今日から新しい学校に通うんだぞ?なのに遅刻なんてしてみろ、先生に目、つけられるぞ?」

「うぅ…。」


俺の言葉に亜希は渋々扉に手をかけた。


「何かあったらすぐ連絡してね!

いつでも飛んで来るから!」

「これから通う中学、ケータイ使用どころか持ち込みも禁止だろ?大人しく勉強してこい!」


そんなやり取りを経て、やっと亜希は家を出て行った。





亜希が家を出て1分、『忘れ物したから戻ってきた!』と帰ってくる可能性ももうないだろう。

ーーーうっしゃああああ!!

俺は思わず心の中で叫んだ。

ーーーこれで1人だ!自由だ!!

そう、今この家には俺1人、夏休み途中から長らくなかった1人だけの時間というものを俺は今手にしているのだ!

ゲームの中での1人の時間なんていうのは、不安で遊ぶなんてこと考えられなかったし、入院中はやれることが限られすぎていて、とても心の底からリラックス出来たとは言えなかった。

それはつまり、ひと月近く、自分だけの時間というものを制限されられていたということなのだ。

そんな状態から、やっと解放された俺を止められるものはいない。

ーーーうおっしゃあ!!今日はゲームしまくるぞ!!

俺は雄叫びを上げながら、テレビの前へと足を運んだ。


◆◆◆◆


ゲームをし始めて1時間が経った頃、スマホが振動した。

開いて確認してみると、柔道部の仲間であった秋山翔平(あきやましょうへい)からメッセージが飛んで来ていた。

『お前、オーストラリアになんか行ってたんだな!だから練習来てなかったのか!

教えてくれたっていいじゃんか!』

以前と全く変わらない翔平の反応に、なんだか胸が暖かくなる。

設定を思い出しながら、矛盾がないように返信しようとしてーーーーふと、手が止まった。

ーーーあれ?これ送っていいのか?というか、このスマホ、使い続けていいのか?

これから1カ月経てば、俺は翔平と同じ学校へ通い始めることになる。

それはつまり、このスマホを使い続けていたら1カ月後に初めて会ったはずの翔平の連絡先をすでに持っているというおかしな状況になってしまうということだ。

それに、俺はオーストラリアの時間について、というか日本との時差についても知らない。それはネットでどうにかなるとしても、オーストラリアの学校の授業開始時間なんて知る由も無い。

下手に返信しては、ボロが出てしまうと思い、俺は厚生労働省に勤めている小柳さんへの電話を選択した。


かけてみると数回のコールの後、声が聞こえてきた。

『もしもし、小柳です。』

「あ、もしもし。お世話になっています、西山奈津希です。」


それに合わせて俺も名前を名乗る。

俺が名乗ると、誰か分かり緊張が解けたのか、少し硬さの取れた言葉で小柳さんが話しかけてきた。


『ああ、奈津希さん。お久しぶりです。

お身体の具合はどうですか?』

「そっちはもう、全然大丈夫です。」

『そうですか、それは良かったです。

ところで、今日はどのような要件でお電話くださったんでしょうか?』

「あ、実はーーーーーーーー」


俺は内容を伝えるべく、口を開いた。


◆◆◆◆


『なるほど、男性としての奈津希さんの携帯電話の取り扱いですか。

大事になる前にご相談いただけて良かったです。

その携帯電話ですが、とりあえずは現状のまま使っていただいて良いですが、ご友人との連絡は夜の場合は少し間を空けて…、眠って朝起きてから連絡してください。日本とオーストラリアの時差は1時間日本の方が遅いのでそれくらいの心がけで大丈夫だと思います。

オーストラリアの情報については、大使館の職員に依頼して風景を毎日2、3枚撮って送らせますのでそれを活用してください。』

「あ、はい。何から何までありがとうございます。」

『いえいえ、仕事なんで全然大丈夫ですよ。

続けて、奈津希さんの女性としての携帯電話について入っていきたいのですが、大丈夫ですか?』

「はい。大丈夫です。」

『奈津希さんの携帯電話なんですが、その料金もやはり全額とはいきませんが一部支給することはできると思います。

また、まだ奈津希さんの戸籍の書き換えが済んでおりませんので、買いに行く際には私もご同行させていただきます。

出来るだけ早く携帯の準備をして欲しいのですが、いつ頃なら大丈夫でしょうか?』


どうだろうかと考えていると、今朝母さんが言っていたことを思い出した。

「最近、うちの会社暇だから今日は半日で帰ってくるからね。」

元々、亜希が出て行ったらすぐゲームを始めた理由の1つがこれだったのに何で忘れてたんだ俺?と自己嫌悪が入るものの、電話中だということを思い出し、慌てて口を開く。


「あの、突然なんですが今日の昼からって大丈夫でしょうか?」

『え?今日、ですか?』

「はい。今日、母が昼には帰ってくるそうなのでできないかなぁ、って思いまして。」

『はぁ…。』


小柳さんがしばし沈黙する。

うち、親2人とも働いてるから今日逃しちゃうと週末まで買えないという事実から、前回スマホを買った時に無茶苦茶混んでいたのを思い出して、何とかならないかと祈る。

そんなこんなしていると、小柳さんの声が電話から聞こえてきた。


『なんとか今日で大丈夫です。

私事で申し訳ないのですが、あまり時間が取れないので、携帯電話販売会社の(かた)に最寄りの店舗から西山さん宅に訪問していただき、西山さん宅で手続きしたいのですが、それでよろしいですか?』


おお、それだと母さんに伝えてから出発するまでのタイムラグも無くなるし、こっちとしても有難い。


「はい、わかりました。それでお願いします。」

『ありがとうございます。

それでは、本日の13時半で取り付けますので、よろしくお願いします。』


小柳さんに返事をして、そこで電話は終わった。


◆◆◆◆


母さんが帰ってきてから事情を説明して、色々ありながらも俺は2台目のスマートフォンを手に入れた。

それまでに、母さんから「突然そんな約束取り付けないでよ!お母さんにもし予定があったらどうするつもりだったの!今日はたまたま予定はなかったけど、携帯を買うならお金もおろしてこなきゃいけないし…、もうこんなこと二度とやらないでね!!」とお小言を言われたり、電話会社の人は2人で訪問してきたのだが、そのうちの1人が小柳さんと名刺を交換しているのを覗くと、俺たちが住む地域でトップクラスのお偉いさんだったことに驚いたりもしたが、まあ省略しても構わないだろう(勿論、俺の胸の中に反省として留めておくが)。

とりあえずスマホに普段使っているゲームやらアプリやらを入れて、そのままソファにダイブし、腕をスマホを持ったまま真上に上げ、眺める。

ーーーああ、新しいスマホだ。

別に元々のスマホと機能自体は大差ないはずなのに、新しいというだけでなんか嬉しくなる。

そうやって眺めていても仕方がない。

俺がスマホを新しくしたことを誠也に伝えようと、男用の俺のスマホでメッセージを送ろうとしてーーーーー途中でやめた。

ーーあれ?これまずくね?と思ったからだ。

俺は誠也の帰宅事情(帰り方とか誰と一緒に帰るかって帰宅事情って表現でいいのかな?)を知らない。

仲は良かったけれど、高校に入ってからは俺は柔道部に行ってばかりだったので、一緒に帰ったことはなかったからだ。

もし、誠也が誰か俺の知り合いと一緒に帰っていたとしたら、今メッセージを送るのはまずいだろう。

『女用にスマホ買ったからそっちでも友達登録しておいて』なんていうメッセージを見られたら、俺が女になっているとバレてしまう。

「あー、どうすりゃいいんだ。」とソファに再度ゴローンと転がったところで、妙案が俺の頭に浮かんだ。

ーーー直接会いに行って交換すれば良いんだ。

今は9月1日で、学校に通い出す、つまりは俺が自由に外に出て良いと許可が出るのは10月に入ってからだ。それはつまり、俺は1カ月以上、ほとんどの時間を家の中で過ごさなければならないということだ。

出かけられるのは、亜希や誠也と一緒に遊べる週末の多くて4回だけなのだ。

都合の良い言い訳がある今、出かけないなんて勿体なさすぎる。

上半身を起こし母さんの状態を確認する。

今は畳の部屋でしまった洗濯物を畳んでいるようだ。

ーーー今がチャンスだ。


「母さん、俺、誠也ん()行って、誠也とこっちの携帯で連絡先交換してくる!」

「え、何って?ちょっと、待ちなさい奈津希!」


母さんの制止の声を無視して、俺は家を飛び出して行った。

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