プロローグ3
「あれ?ログアウトボタンがない?」
反射的に呟く。
呟いた瞬間は無意識ではあったが、時間が経過し、言葉の意味を自覚していくに従って、身体に恐怖が走る。
ーーーゲームを始める前に読んだ記事では、手塚清秀は『Brave Heart Online』は夢の途中でしかないと書かれていた。
また、誠也がゲームを渡すために再度家に来た時に言っていた、手塚清秀のくだらない拘りについても思い出してしまう。
「Brave Heart Onlineの街にはな、何故か宿屋があるんだよ。このゲームはログアウトと共にセーブされて、ロードするとログアウトした場所から始まるんだ。だから宿屋なんていらないはずなんだよ。
ーーーでも、手塚は作った。だから俺思うんだよ。手塚の夢っていうのは『世界を作り出す』ことなんじゃないかって!」
ログアウトボタンが消失していたことで、その夢の発言と誠也の推測が繋がった気がした。
手塚の夢とは世界を作り出すこと、即ち『デスゲーム』を作り出すことではないか。
信じたくない推測に、思わず身体が震えだす。
そんなはずはない。
きっと違うに決まっている。
でも、状況から察するにそれはーーーーーー
「え?でも俺の方はあるぞ。お前の見間違いじゃね?」
え?
「ほら見てみ。」
そう言い誠也は可視モードでメニューを開き、ログアウトボタンの存在を確認させる。
誠也は嘘は言っていないらしく、1番下には《log out》と書かれたボタンが存在していた。
うん、存在しているのだ。
……。
うわぁぁ!!!恥ずかしいぃぃ!!!!
さっきまでの寒気は何処へやら、俺の体は羞恥による熱が駆け巡った。
ただの見間違いなのに、そこから勝手に妄想してビビるとか…!
恥ずかし過ぎんだろっっ!!!
こんなのは、絶対直前にデスゲームものの小説、読んでた所為だ〜、と頭を抱える。
恥ずかし過ぎて手で顔を覆って隠す。
ああ、もう、辛すぎる。
《タカヤ》はそんな俺の様子を見て、ハハッと笑いながら提案をしてきた。
「まあ、取り敢えず可視モードでメニュー開いてみろよ。」
「え?それどうやんの?」
「あーっと、普通にメニューウィンドウ開くのを両手でやってみて。」
「りょーかい。」
言われた通りやると普段と同じメニューが開いた。本当に可視モードなのかと不安に思うも、《タカヤ》が覗き込んでいるので、無事、可視モードで開けているのだろう。
《タカヤ》は確認した上で、
「あ、ほんとだ。こんなバグ本当にあるんだなぁ…。」
そう呟き驚きを表した後、
「じゃあGMに連絡飛ばしとけよ。しゃーないから対応されるまでの間、付き合うからさ。元気出して行こうぜ。」
そう、声をかけてくれる。
アイツなりに俺を励まそうとしてくれているようだ。
いや、先程本気でデスゲームになると勘違いしていたことへの羞恥で、身体中元気だけはあるんだけどね。(ただ羞恥を誤魔化すために身体を動かして発散したいだけ。)
「んじゃ、母さんに事情説明するためにちょっと落ちてくるから。」
そう呟き、誠也はログアウトしていき、誠也のアバターは粒子へと変換された。
◆ ◆ ◆ ◆
その後、戻ってきた《タカヤ》と3時間ほど遊んだ後、ログアウトボタンの有無を再度確認してみる。
まだ、ログアウトボタンは存在していなかった。
「うーん、まだ無いか。となると、今日は徹夜だな。夏休みでよかったな!」
冗談めかして言う。
そんな俺とは違い、今度の《タカヤ》の表情は優れなかった。
深刻な顔つきのまま、顎辺りに手を当て考え込んでいる。
「明らかにおかしい…。もう報告から3時間だぞ?こんな重大なバグ、すぐさま強制ログアウトしなきゃまずい案件だろ。それなのに、まだ何の対応も無いなんて…。」
ブツブツと小声が聞こえてくる。
思わずゲームの中ということも忘れて、「誠也?」と現実の名前で呼んでしまう。
誠也は俺のそんなミスに気づく様子もなく、
「俺の親戚に警察でちょっと偉い立場にいる人がいるから、ちょっと相談してみる!!お前は出来るだけ街の外に出ないようにしててくれ!!」
「え、ちょ待てよ!」
俺の言葉も耳に入っていないのか、静止の言葉にも目もくれず、ログアウトして行った。
誠也のやつのあまり見たことのない切羽詰まった様子。
そんな様子に、俺の考えもあくまでバグであり、そのうち帰ることが出来る、というものから、本当にやばいんじゃないかという危機感を持ったものへと変化して行く。
このバグ、ただのバグじゃないのか?
2つに分けましたが、長さ的には2話と3話で1つです