新居
ギリギリ間に合った…。
とても難産だったので所々あれ?と思うところもあるかもですが、これから修正していくので大目に見てください。
病院を出た後、俺たちは父さんの車に乗り込み、新居へと向かった。
新しい家、というワードに思わず胸が高鳴る。
もちろん、書類上では俺も新居について知ってはいるが、やっぱり書類で見るのと実際に見るのとでは伝わってくるものが違う。
やっぱりワクワクしてしまう。
「誠也くんはこっちの方に来たことはある?」
「あ、はい。映画館とかよく行くボウリング場とかはこっちの方にあるんで。」
「そうなの?それじゃあ、次うちに来るときは1人でも来れるわね。」
母さんが声に出して確認したのを聞き、改めて俺も安心する。
誠也と遊べなければ、この1ヶ月ちょっと、俺は無茶苦茶暇なのだ。
確かに今日俺は仲山総合病院を退院したが、だからといって外に出て遊びまくる、なんてわけにはいかない。
俺が高校に通うために、厚生労働省がつけた女の姿の俺設定は、生まれつき身体が弱く、最近になってやっと健康になり、そのために高校に編入する羽目になったというものだ。
なのに、退院した途端普通に外で遊び出したなんてことになったら、設定と明らかに矛盾してしまうからだ。
だから誠也が家に来てくれなければ、俺は1ヶ月長をただただ呆けていることになっているだろう。
「誠也、今日はこのまま俺ん家で遊んで行くの?」
「いや、流石に遠慮しとくよ。
お前、新しい家に始めて行くんだから、色々確認したいこともあるだろうし、荷物も自分で整理したいだろ?
遊びには、また今度来るよ。」
「いや、荷物の整理は、お前が帰ったらやるからいいよ。夏休みももう少ないんだから、出来る限り遊びたいし。
家の中の確認、お前も一緒にやろうぜ。
ほら、童心に返って探検するような気分でさ。」
俺の言葉に負けたのか、誠也は母さんの方を向き、「ってことなんですが、大丈夫ですか?」と確認を取った。母さんももちろんOKサインを出し、誠也はこのまま、俺の家で遊んで行くことになった。
そのことで、俺のテンションが上がる。
ーーー病院でも会っていたし、多少は遊んでもいたのだが、やっぱりそれはお見舞いに来てくれる、という要素が入っているために、どこか対等でないような感覚で、一緒に遊んでいるのではなく、誠也が俺と遊んでくれている、ような錯覚に陥ってしまっていた。
ーーーでも、今日からは違うんだ。
だから、早く遊びたい。早く遊びたい。
そう感情がどんどん溢れ出てしまう。
テンションを上げた俺を乗せたまま、車は新居へ向けて走っている。
◆◆◆◆
「「おぉ、すっげぇ…。」」
思わず俺と誠也の声が被った。
そんな俺たちを見て、なぜか亜希がふふんと腰に手を当て胸を張っていた。
ーーーなんでお前が偉そうにしてんだよ。お前、金なんか一銭すら出してないだろ。
普段ならそう思っていただろうが、今回は違った。その理由は単純で、俺たちが住むことになるマンションがあまりにも凄かったからに他ならない。
ーーー10階建の大型ファミリー向けマンション。
資料でここまでは知っていたので、大きさにはさほど驚きはない。
ただ、マンションから伝わってくる高級感、このマンション入ろうと思ったら高いぞ〜といったような感覚と、見た目の綺麗さ、これ築5年以内だろというくらいに綺麗な見た目に思わず感嘆の息をこぼしてしまう。
「お兄ちゃんに誠也くん、ボーッとしてちゃダメだよ?私たちの家5階だから、上に行くよ。」
「「お、おう。」」
亜希に声をかけられて、やっと俺たちは反応し、慌ててエレベーターに乗り込んだ。
◆◆◆◆
「「おお…。」」
これまた、俺と誠也の声が重なった。
それは、部屋の広さに感嘆したことによって生まれたものだった。
茶色と白からなる暖かい印象を与えてくれる広い玄関、そこからはリビングが覗けて、そのリビングも以前のものともあまり変わらない大きさである。
また、廊下から確認出来るだけでも部屋が3つもある。
ーーーこれが、一軒家の間取りではなくマンションの一部屋のそれなのだ。
正直、間取りは見ていても『どうせマンションだから狭いんだろうなぁ』という先入観があった俺からすれば、この事実は驚かざるを得なかった。
父さん母さん亜希の3人は、口角を上げながら俺たちを、微笑ましそうに見ていた。
ーーー俺たちは恥ずかしくなってしまい、明後日の方向を向いた。
◆◆◆◆
しばらくしてから俺たちは、少し遅めの昼食を家でとりながら話し合っていた。
今もこの場には、家族だけでなく誠也のやつもいる。
誠也も最初はご飯までご馳走になるのは、と遠慮していたのだが、「いいよいいよ、気にしないで。
最近みんなあんまり食べてくれないから、誠也くんの分まで作らないと、私もなんかご飯を作った気にならないし。
遠慮するより、いっぱい食べてくれた方が嬉しいわ。」という母さんの言葉に折れ、こうして食卓を囲んでいる。
「この家本当に広いけど、お金の方は大丈夫なの?」
こうして心配するのも、家具やなんかが以前の家とも大きく変わっていたからだ。
それはつまり、新しく買ったということを意味する。
病院で引っ越しにかかる費用が不安になって確認を取るような家計の我が家なのだ。
こんなに家具も買い揃えてて大丈夫なのか、とつい心配してしまう。
「大丈夫よ。家具やなんかは父さん母さんのお小遣いから出したから。
引っ越し代の方は、国が想像以上に出してくれたから少し資金が余ったくらいだし。
まあ、今後も買わなきゃいけないものは多いだろうから、そのお金はまだ手をつけれないけど。」
「あー、良かった。この引っ越しの原因は俺だから、お金足りなくなってたらどうしようかと思っちゃったよ。」
「もー、奈津希が今1番大変なんだから、そんなこと考えなくて良いわよ?
逆に聞くけど、『奈津希のせいでお金が吹っ飛んでったから返して』って言われたら、どうするつもりだったの?」
「いやぁ、バイトでもして引っ越し代ぐらいは返そうかな?とは思ってたけど…。」
そう言い返すと、母さんの目が急に冷めた。
いや、冷めたという表現は正しくないか。
明るいそれから、酷く真剣なそれへと切り替わった。
「奈津希、さっきも言ったけど今1番大変なのはあなたなのよ?
それに、あなたは自分がどんな姿なのか理解出来てる?」
「どんな姿って…、銀髪の女の子だけど。」
「たしかにそうだけど、そこに『可愛い』て単語がつくのよ。
親バカみたいであんまり言いたくないし、あなたも言われてて気持ちよくはないと思うけど、今のあなたの姿はとても可愛いの。
それが、お母さんは1番怖いの。」
「怖いって…、何で?」
「可愛いってことは、変質者やナンパなんかにも狙われやすくなるからよ。
奈津希、もし変質者に襲われたらどうする?」
「どうするって…、母さん、俺柔道黒帯だよ。
変質者の1人や2人、普通にーーー」
そこまで言って気づいた。
今の俺は、身体能力が以前と比べようがないほどに落ちている。
以前なら大の男の1人や2人、簡単に相手に出来たが、今ならどうだろうか?
ーーー普通にやられてしまうだろう。
「奈津希も、以前の身体との違いは分かってきていると思う。
でも、反射的に判断出来るほど、理解は出来てない。
それによる判断ミス1つで、今の奈津希はすぐにやられちゃう。
それが怖いのよ。
バイトなんかをするってなったら、奈津希は今高校生なんだから、夜遅くまでやるしかない。
だから、今の身体ともしっかり向き合って発言して。」
「ご、ごめんなさい。」
自身の自身への理解の甘さを改めて感じ、母さんに対して少し申し訳なく感じる。
母さんは、不安によって思考が悪循環してしまったらしくて、口元を抑えて右往左往している。
「ああ、なんかこんな話ししてたら、奈津希を1人で学校に行かせるの、怖くなっちゃったわ。
かといって、毎日学校まで送るなんてこと出来ないし…、あ!誠也くん、奈津希が学校に通うようになったら、毎日奈津希と一緒に登校してくれない!?」
「えっ!?はい、大丈夫ですけど。」
登校なんて、まだ1ヶ月以上先のことなのに、母さんは不安になってしまったらしく、誠也に一緒に登校するように頼み込んだ。
まあ、誠也と一緒にいるの楽しいし、毎日それでも別にーーーーー
そこまで考えたところで、1つの可能性が見えた。
「ーーっ反対反対反対!!
学校ぐらい俺1人で行けるから!!」
思わず、一人称を直すことなく発言する。
母さんは、俺の一人称なんか気にした様子もなく、普通に返してきた。
「何で反対なの?奈津希。
それだけ全力で反対するんだから、もちろん理由があるのよね?」
「それは…ーーーーー。」
口を開けたまま、続く言葉が紡げない。
その理由は、反対理由がとても言いにくい言葉だったからだ。
ーーーだって、今の俺の姿は女の子なんだ。
誠也と一緒に登校なんかしたら、カップルみたいに見られるに決まってる。
「言えないんだったら、大した理由じゃないわよね?だったら、2人で登校して貰うわよ?」
「はい…。」
結局、理由を言うことは出来ず、1ヶ月と少し後、俺と誠也は一緒に学校に通うこととなった。
「…。」
「あれ?誠也くんどうしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです。」
◆◆◆◆
それから4時間ほど遊んで、時刻は18時を回った頃誠也は家に帰ると言い、俺はそれを見送りに下までついていった。
ーーー場が静まっている。
俺と誠也の2人で、ここまで場が静まることは珍しいため、どこか居心地が悪かった。
「ーーーあのさ、そんなに嫌だったのか?
俺と一緒に登校するの。」
「えっ。」
誠也がこっちを見ながら口を開いた。
その内容に思わず、固まってしまう。
誠也はとても真剣に、こちらを見ていた。
ーーーそれもそうだと気づいた。
俺は男なんだから、誠也とカップルみたいに見られる行動は避けたいし、誠也にも迷惑だろうという意思で嫌だと発言したが、誠也からしたら俺は男のまんまの感覚なのだ。
仲のいい男友達、親友が自分と一緒に学校へ通うことを全力で嫌がっていた。
これは、誠也としては不安しかないだろう。
思わず「ああ!」と声を出して、自分ってバカだなと思う。
「いやさ、俺の今の身体、女の子じゃん?
だから、お前と一緒に登校したら、カップルみたいに見られて、弄られるかな?と思っちゃって。
それが嫌なだけで、元の姿だったら全然平気だし、むしろこっちから頼みたいぐらいだから。」
俺のセリフに安心したのか、誠也はそっと胸を撫で下ろした後、「それなら良かった。じゃあ、また遊びに来るから、また連絡するな。」と言って去っていった。
ーーーああ、気づけて良かった。
誠也とずっと親友でいたいから、今日のことで俺たちの間に溝ができることにならなかったことに安堵し、俺は自宅へと戻っていった。
ーーーあれ?誠也も母さんも一緒に登校することなんて、カップルみたいに見られるかもなんて意識してなかったよな?
あれ?それってつまり、俺だけが誠也のことを異性として見始めちゃってるってこと!?
そこまで、精神女性側に引っ張られてるの!?
この事実に気づき、ショックを受けるのはもう少し後のことだ。
祝!10万文字突破!!
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