病院暮らし16
1話を2分割したので短め。
よって、次も短めです。
ーーー気まずい。
部屋の中に、なんとも言えない空気が流れる。
間違いなく、先程の一件のせいだ。
どんな下着を付けるかの相談と、初めてそれを付けるのは、誠也のやつがトイレに行っている間に済ませた。
本当にトイレだったのか、居づらい空気に耐えられなくなってとりあえず散歩でもしてきたのかは分からないが、ともかく誠也が部屋にいない間に済ませた。
付けたばかりで、まだ違和感のある時に誠也は戻ってきた。
それが原因、いやその後の誠也の行為が原因か。
ーーー誠也は、俺の胸元に目をやったのだ。
先程まで、付けた付けないのやり取りをしていたので、気になるのは分かる。
でも、実際に見てくるなんて異常だろ!
ーーーあれ?なんでこんなに俺、切れてんだ?
そもそも、なんで俺、こんなに恥ずかしがってんだ?
局部(部位の名前を出すのは恥ずかしいので誤魔化した。)を見られるなんて、男だったときはしょっちゅうだった。
なのに見られて恥ずかしがるなんて、何でだ?
ま、まさか!
ーーー俺の精神が、この身体に引っ張られてるんじゃないか!?
この思考に陥った時、俺は非常に恐怖を覚えた。
ーーこんな風に身体に精神が引っ張られていったら、最終的に本当に女の子に、俺が俺じゃなくなってしまうんじゃないか?
もしそうなってしまうならば、早く、早く元に戻らなければ。
でも、すぐに元に戻れないなんて事は、俺自身が理解している。
ならせめて、この姿のまま、精神の性転換現象を少しでも遅らせるしかない。
その為には、やはり服装を変えるのがベストだろう。
人間にとって必要な要素、衣食住のうち、性別と深く関わりがあるのは、やはり衣だろう。
服装を元に戻せば、僅かかもしれないが、男の頃の状態を思い出し、精神まで女になることを遅らせられるかもしれない。
そう思いつくと、俺は母さんたちが持ってきた紙袋を取り出す。
誠也が、俺の突然の行動に驚いているが、そんなことは気にしない。
俺は紙袋の中を確認し、男物のみを取り出そうとし、ーーーーーとても凹んだ。
紙袋の中に、男物の服はなかったのだ。
ある意味当たり前かもしれない。
母さんと亜希の2人は、郷に入っては郷に従えの精神で、俺に女性物下着を勧めてきたのだ。
そこから推測すれば、入っているのは女物だろう。
くそ、何でだよ!
思わず紙袋を床へ投げたところで、俺はあることを閃く。
ーーー俺は男だ。
ーーーなら、女物の服を着たら、違和感を覚えて、逆に男の頃の意識を深く意識できて、進行を抑えることが出来るんじゃないか?
よし、そうとなれば女物の服を着よう!
そう心に決め、再度紙袋を持つ。
着替えようと紙袋を太ももの上へと移動させた瞬間、誠也が目に入った。
誠也は紙袋の中に何が入っているか分かっていないので、キョトンとしている。
こうなったら、アイツに直接言わないと伝わらないだろう。
でも、そのまま伝えるのも何だかなぁ…。
ーーーそうだ。どうせなら、アイツも驚かせてみるか。
「誠也、ちょっとだけ席外してもらえるか?5分でいいから。」
「え、誰か来る予定でもあるのか?
だったら俺帰るけど。」
いや、帰られたら困る。
お前を驚かせる為に出て行ってもらうのに、帰られたら驚かせられないじゃないか。
「いや、そういう訳じゃないから。帰らなくていいから。とにかく5分後に戻ってきて。」
俺のゴリ押しに、誠也も納得はしていなさそうだが、「分かった。」と言い出て行った。
◆◆◆◆
コンコン
誠也が部屋をノックする音が聞こえる。
それに対して「はーい。」と返事をする。
それにより、誠也が部屋に入ってくる。
「おい、戻ってきたけど…って、ええ!?」
ふふ、誠也のやつが驚いてる。
「お前、服着替えたのか!?」
その言葉を待ってました、と言わんばかりに俺はベッドを飛び出して、くるりと回る。
それに従って、スカートがひらりと広がった。
ーーー俺の今の格好は薄いピンク色のワンピース(ミニじゃなくてひざ下まであるロング)に、その上から白のカーディガンを羽織ってる。
いかにも女の子女の子しているかつ、病人らしさ、病弱な女の子という設定までしっかりと守った格好である。(ロングスカートが病弱な女の子ってイメージは創作作品からの想像だから、合っているか知らない。)
スカートをひらひらさせながら、どこか自慢気な俺に対して、誠也のやつはただただ驚いて、思ったことをそのまま口に出すように呟いた。
「おお、お前、スカート履いてんだな。」
「何だよ、その反応?何か他に言うことあるだろ?」
そう、誠也を驚かすという邪念こそ入ったものの、今回の目的は男である俺が、女物の服を着ることで違和感を覚えることが目的である。
自分では、もちろん違和感バリバリである。
その上で、他者からさらに指摘して貰えれば、効果は凄まじいものとなるだろう。
誠也の、「違和感あるな。」という発言を期待して、問いを投げたのだが、返ってきたのは想像していなかった言葉だった。
「ああ、そうだな。その服似合ってるな。」
俺に対する、似合っているという褒め言葉。
ーー誠也が、当たり前のように口にした言葉。
そりゃ当然だ。俺は素で忘れていたが、今の俺の姿は美少女なのだ。
そんな見かけだけ美少女が、おめかしをして待っているのだ。教育ママのおばさんに育てられた誠也が、俺を似合っていると褒めるのは、当然であろう。
それでも、俺は違うはずだ。
男が、精神だけとはいえ男が女物の服を着て、似合っていると言われたのだ。
こんなのは当然、怒る案件であるはずだ。
怒って当然なはずだ。
だが、何故だかこの時の俺の反応は違った。
「えへへ、そうか?」
本来の目的、女物への違和感で男だということを意識するという目的なんか素で忘れて、普通に喜んでしまっていた。
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