病院暮らし15
定番ネタ
エイプリルフールに投稿してるけど、エイプリルフール全く関係ないです。
時は過ぎ去り翌日。
今日は土曜日ということもあり、母さんと亜希の2人が病室へと来ていた。
俺は2人を上半身を起こし、手を挙げながら迎えた。
ーーーあれ?何で土曜日なのに父さんは来ないんだろう?
そんな疑問が浮かんできたが、その疑問はすぐさまは解決するんだが、今はまだ知る由も無い。
2人の方を改めて見ると、母さんが後ろで手を組むように紙袋を持っていることに気がついた。
「あれ?母さん、その紙袋は何?」
母さんは、待ってましたと言わんばかりに口角を上げ、答えてくれる。
「これはね、母さんと亜希から奈津希に、プレゼントを買ってきたの。」
◆◆◆◆
「嫌だ!嫌だ嫌だ絶対嫌だ!!」
思わず大声を上げて抵抗する。
ここが病院だとか、こんな風に抵抗しているところを、誰かに見られたら軽蔑の眼差しを向けられるだとか、普段だったら考えるのかもしれないが、今はそんなこと頭に一切浮かばない。
それほど、全力で2人からの提案を拒絶する。
そんな俺を見て、2人は不満気だ。
「何で!お兄ちゃん!!これは、私とお母さんがお兄ちゃんのことを思って買ってきたんだよ!?
なのに、嫌なんてひどいよ!?」
「せっかく買ってきたんですから、せめて着て欲しいですよ、お母さんだって。」
そんなことは気にしてられない。
そこを譲ってしまったなら、本当の意味で俺という存在が崩れてしまう。
「もう、だからってずっとトランクスを履いていくわけにはいかないでしょ?」
ーーーそう。
2人が買ってきたのは下着である。
男性ものではなく、女性ものの下着。
すっごい具体的に言うならば、ブラジャーとパンツである。
そんなものをつけたら、本当に俺の男としての自意識はどこかへ飛んで行ってしまう。
慌てて逃げたいという気持ちは山々なんだけれども、俺は今ベッドの上に座っている状態だ。
その状態から起き上がって逃走しようにも、そこで捕らえられてしまう。また、仮に今立っていたとしても、俺の身体能力は女子の中でも下から数えた方がいいレベルなのだ。
それはつまり、男だったころは『何であんな遅いんだ?』と思いながら見ていた、体育の授業で長距離を走るとき、前の人と1分近く差をつけられてしまうような子と大差ないと言っていいレベルということなのだ。
母さんはともかく、運動大好きかつ現役テニス部の亜希から逃げられるとは思わない。
だから、こうしてベッドの上で抵抗しているのだ。
そんな俺に対して、2人は不満気だ。
とてもとても不満気だ。
亜希なんか、頰を膨らませて、両手を腰に当てていかにも不満です、と訴えてきている。
「お兄ちゃんは今、女の子なんだよ!?
いつか元に戻るとしても、今は女の子なんだから、郷に入っては郷に従えってすばらしい理論に今こそ従うべきなんだよ!!」
「嫌だつってんだろ!?」
そんな風にぶつかり合う俺たち兄妹、いや今は姉妹という方が正しいか?
「会いにきたんだけど、お前ら何やってんの?
ここ、病院だぞ?」
そんな俺たちは、訪れてきた1人の人物の、その正論でしかない発言により黙ることとなった。
◆◆◆◆
「んで、何でそんなに熱くなってたんだ?
おばさんまで一緒になってさ。」
入ってきた人物、それは誠也である。
誠也は、俺たちを止めることなくむしろ一緒に熱くなりかけていた母さんまでまとめて喝を入れた後、質問を投げてきた。
それに対して、待ってましたと言わんばかりに亜希が立ち上がって発言する。
「あのね、私とお母さん、お兄ちゃんに下着を買ってきたの!」
その発言に、誠也は目線をそらした。
当たり前だ。俺と誠也の立場逆だったとしたら、俺もあのようになってしまうだろう。
誠也は一人っ子だ。
最初は、あいつの両親ももう1人作ろうと思っていたそうなのだが、誠也の子育ての大変な時期を乗り越えた辺りからおじさんの仕事が急に忙しくなり、作る時間がなくなってしまったそうだ。
その後、誠也が俺を家に連れてくることが頻繁に発生し、その後俺の家と家族ぐるみの付き合い(この頃まだおじさんは忙しかったのでおじさんは除く)をするようになって、おばさんは俺や亜希を誠也の兄妹、もう1人の息子と初めての娘のように感じて、もういらないか、という思考になったらしい。
てな訳で、あいつには兄弟はいない。
おばさんもしっかりしているので、兄弟のいないあいつにとって、ブラや女性ものの下着といった異性が身につけるものに触れ合う機会なんぞ存在していなかった。
ーーそれはつまり、誠也にとって女性下着とはR18的な意味のものでしかないのである。
そんな誠也に対して、亜希は追撃をかけていく。
「ねえ、誠也くん、女の子になっちゃってるんだから、つけるべきだよね!
つけないと、胸が垂れてきちゃったりするし!」
「そんなの気にしないから!
それよりも、ブラをつけるっていうことのが、俺の精神を圧迫してきついから!!」
「ねえ!?誠也くん、どう思う!?」
俺が反論するも、亜希は誠也に話し続けることをやめない。そして、亜希は誠也に質問を投げた。
誠也はその質問にたじろぎながらも、一応答えた。
「いや、亜希の言うことも奈津希の言うことも分かるし…、なんとも言えないな。」
誠也はそんな曖昧な返事しかしない。
ーーなんだよ、男なんだから俺の気持ち、分かるだろ?
だったら、俺の味方をしてくれてもいいじゃないか。
そんな風に視線を向けると、誠也は慌てるように目を逸らした。
え、なんで?
そんな俺とは逆に、亜希のやつは何かピーンと来たようで誠也に話しかけていく。
「ねえ、誠也くんって昨日お兄ちゃんの体力テストについて行ったんだよね?」
「あ、ああ、そうだけど…。」
「それなら、誠也くんも私やお母さんに賛成だよね?」
そうやって、誠也に対して賛成しないと言っちゃうよ?と言わんばかりのいやらしい笑みを浮かべている。
何で?今ので何が分かったの?
その答えを、亜希はすぐさま言ってくれた。
ーーー決して聞きたくはなかった言葉を。
「ほら、ブラジャーつけないと、乳首とか透けちゃったりするしね。」
ーーービクンッッ。
誠也の身体が跳ねた。
え、え?え?え?
どういうこと?
そう考えているうちに、1つの結論が、あまり信じたくはない結論が浮かび上がった。
誠也の方を向く。
誠也は目が合うと、ブンッと顔を振りすぐさま目を逸らした。
ーーーもしかして…。
「あの、誠也、もしかして昨日、見えてた?」
誠也は、目を逸らしたまま、顔を真っ赤にさせた。
顔を真っ赤にさせたことだけで、事実かどうかが分かる。
ーーー昨日、俺見えてたんだ。見られてたんだ。
俺も顔を真っ赤にする。
男の時なら見られても気にしなかった。むしろ、柔道なんて、試合中しょっちゅう道着がはだけて、実質上半身裸でやっているようなもんだ。
でも、今は違った。
無茶苦茶恥ずかしくて、身体から火が出るように真っ赤になった。
その後、母さん亜希との協議の結果、少しでも俺のダメージを減らすことも考慮して、つける下着はスポーツブラか、タンクトップにカップが付いているブラトップのどちらかにすることになった。
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