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ゲームをしたら女になった件  作者: シロツミ
現実帰還と身の回り
21/72

病院暮らし14

この作品で最長の話になります。


それと、一部補足です。

今作は、仮想の県を舞台としています。

なので、県庁所在地、地方中枢都市などの言葉が出てきていますが、存在しない市です。

ーーーーーえ?

驚愕により身体がフリーズする。

何で、何で投げれないんだ?

前の身体ではもちろん、この身体になってからも人を投げたことはある。

なのに、何で?

脳の、思考の理解が追いつかない。


「おい、大丈夫か!?奈津希!?」


何か雑音が聞こえるが、何を言っているか理解できない。

俺はそのまま固まったままで、そのあと性転換の悪影響で身体が動かなくなったんじゃないかと慌てて誠也がナースコールをしたことでやってきた美春さんによって俺は病室へと運ばれた。


◆◆◆◆


「奈津希さん、本当に大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですって。」


美春さんが確認を取る。

俺は、投げられなかったショックで身体がフリーズしてしまっていたらしい。

しばらく時間が経った今は、普通に大丈夫なんだが、美春さんと誠也の2人は未だ信じてくれず、大丈夫かどうかの確認もこれで計3回目だ。


「むー、身体も正常に動くようですし、目もはっきり見れているようなので、本当に大丈夫なんでしょうけど…、無理があったら言ってくださいね。

この後、また身体を動かすことになるんですから。」

「本当に大丈夫ですって。」


また身体を動かすというのも、この会話が行われているのは覆面パトカーの中である。

何で覆面パトカーなんかに入っているの?覆面パトカーで移動なんかしているの?というのも、山村先生から体力テストをしてこいというお達しがあったからだ。


「先程の症状は、脳が身体の変化を拒絶したことによって発生したのかもしれません。

なので、出来るだけ早く症状の把握をしたいのです。」


症状の把握もしたい、でも俺が人目につくわけにもいかない。

そんな状態を解決に導いたのが、警察の協力、そして覆面パトカーなのだ。

救急車じゃ目立つ。パトカーでも目立つ。

普通の車じゃ窓から見られる。

そんな状態を解決に導く覆面パトカー。

外から目立たず、中も見られない。

まさしく、この状況に適している車と言えるだろう。

そんな覆面パトカーで、俺たちが運ばれて行くのは、日本という国でも10本の指に入る大きさの大型運動施設、うちの県の県庁所在地でかつ、地方中枢都市である山原市にある山原スポーツセンターだ。

そんなすごい施設を、俺のためだけに貸し切りにする、というのだ。国家権力マジ半端ねえ。

ーーーまあ、貸し切りにできたのは、今日使用予定がなかったからっていうのが大きいんだが。


「本当に、無理だけはすんなよ。

症状の把握のために、お前が倒れちゃ本末転倒だかんな?」


そうやって言ってくるのは誠也だ。


「大丈夫だって。

さっきは新しい身体に慣れてなくて、うっかり倒れこんじゃっただけだよ。」


そう言うも、まだ誠也のやつは心配そうに見つめてくる。

ーーー心配性なやつめ。

そんな空気のまま、俺たちは山原スポーツセンターへと向かった。



◆◆◆◆


そうしているうちに、山原スポーツセンターへと到着した。

少しでも公共の場にいる時間を少なくするために、そそくさと中へと移動をした。


「それじゃあ、これに着替えてからロビーに来てね。」


美春さんが服を渡して、去って行く。

渡されたのは、女性用の吸湿速乾のTシャツに、半ズボンーーーーいや、これ下手すると女性用じゃなくて女児用なんじゃないか?ーーだ。

女性用の服を貰ったことで、より女になったと実感して多少凹むが、スポーツブランドが出した服であるこの服はあまり男性用のそれとデザインの差はないので、若干元気を取り戻す。

覚悟を決めて、俺は着替えを始めた。



◆◆◆◆


「美春さーん?準備できましたよ。」


そう声を出しながら出て行く。

美春さんは、既に待っていたのだが、誠也の姿がない。

ーーーあれ?どこいったんだ?


「あの、美春さん。誠也ってどこいったんですか?」


そんな俺の問いに対し、美春さんは快く答えてくれる。


「ああ、誠也くん?

誠也くんには、今道具を取りに行ってもらってるところだよ。

いや〜、誠也くんってばできる男だね〜。

体力テストに使う道具って意外に重たいもの多いでしょ?

長座体前屈のやつなんか無駄に大きいし、握力計もなんかこんなに大きい必要ある?ってくらい大きかったりするし。

誠也くんったら、それを見たらすぐさま『俺運ぶんで、美春さんは奈津希の迎え行ってやっててください。』ってノータイムで答えるのよ?

最近の子、っていうか高校生とは思えないよ。」


そう、誠也のやつはそういう行為をノータイムでできる、やれる男なのだ。

異性に好かれたくてそれをやっているというわけでもなくそれをやれる男、それが誠也なのである。

以前、俺と誠也の仲が少しばかり冷えていた頃、そういうことをやっているのを見かけて、『そういうできる男アピールして、そんなに彼女欲しいの?』と少し冷たく言い放ったところ、『やっぱ、そう思われるよなぁ…。』と諦めの声が返ってきて心底驚いたものだ。

というのも、誠也のやつもやりたくてやっているわけではなく、無意識でやってしまっているというのだ。

誠也の母親は、いわゆる教育ママで、幼い頃から仕草や食事などの作法なんかを厳しく躾けられてきたらしい。

レディファーストと言えるような行為も、その時躾けられたらしく、無意識にやっちゃうんだ、と言っていた。

そんな俺が知ることがなかった家族だけの時間の様子に同情し、次の日から普通に接し出したのをすごく覚えている。


「美春さーん?道具持ってくる場所って、ここでいいんですか?」


そんなことを考えていると、本人がやってきた。

片手で1つ、スーパーの買い物カゴのようなカゴを抱え、もう片方の手と身体で挟み込むように同じようなカゴをもう1つ持っていた。


「別の場所だけど…、まあいいわ。

1つこっちにちょうだい。

一緒に、話しながら移動しましょ?」


美春さんのそんな提案を、誠也はなんとはねのけた。


「いや、いいですよ。

これくらい、俺1人で大丈夫ですよ。」

「え、でも…。」


美春さんは、申し訳なさそうに追いすがるも、誠也は再度、今度はフォローも加えて跳ね除ける。


「大丈夫ですって。

俺なんかよりも、奈津希のやつに注意向けてやってください。

こいつ、今の身体にまだ慣れてないみたいなんで、ただ歩いているだけでも転ぶかもしれないんで。」

「なんだと!?」

「本当のことだろうが。

さっきお前が倒れた時、俺がどんだけ心配したか分かってんのか?」


うぐっ!そう言われると強く出ることができない。

俺は悶々としながら、2人の後を追った。



◆◆◆◆


到着したのは室内運動場、バスケやらバレーやらの試合が行われる施設だ。

ここに来たのは、反復横跳びや長座体前屈、上体起こしなんかがここ一箇所でまとめてできるからだ。

大きく深呼吸をする。

ーーーせっかく思いっきり運動できるんだから、思いっきり楽しもう。

そう心を決め、屈伸をし、身体を準備させる。


「それじゃあ、まずは握力から測っていこう。」

「はい。」


美春さんの声を聞いて、誠也が握力計をカゴから取り出してこちら差し出してきたので、それを受け取る。

ーーーよし、やるぞ。

両手を下ろし、『気をつけ』のような姿勢をしながら握力計を持ち、肘を曲げないように力を入れる。

力を出し切った後、握力計を胸元辺りに持ってきて数字を確認した。

えっーーーーー。

身体が硬直する。

俺の持つ握力計、そこには信じられない数字が表示されていた。

ーーー17.8kg

小学校の頃しかとったことのないような数字だった。


◆◆◆◆


3時間かけて、全ての結果が出揃った。

ーーー握力 17.8kg

ーーー上体起こし 23回

ーーー長座体前屈 38.6cm

ーーーシャトルラン 32回

ーーー反復横跳び 45回

ーーー50m走 9秒87

ーーー立ち幅跳び 122.3cm

ーーーソフトボール投げ 15m


まるで、小学生のような記録。

俺は、ここで改めて本当に身体が変わってしまったんだと実感した。

ーーー向こうの世界では、この変わってしまった身体でも、自分より大きい人や人型モンスターなんかも投げることができた。

あくまでも、向こうの世界の、ゲームシステムのお陰である。

Brave Heart Onlineはプレイヤーごとの差を少しでも小さくするため、パワー、スピードなどといったステータスをレベルごとに一定としていたはずだ。

それはつまり、レベルが同じならば、男性でも女性でも、大人でも子供でも、鍛えている人でも病弱な人でも同じ力を発揮できるということだ。

それによって、俺は勘違いしていた。

ーーー姿は変わっても、能力は、パワーは、そんなに変わっていないって。


そんなのは嘘だ。

俺は、今の俺の身体の状態を知っているはずだ。

ーーー軽すぎる身体

筋肉というのは脂肪よりも重たい。

なので、鍛えている人の身体は体重で聞くと、その身長にしては重くね?と思うことが多い。

そんなのは、柔道部だった、階級のあるスポーツをしていた自分が1番分かっているはずだ。


こんな軽すぎる身体ということは、力も下がっている。

以前の、男性だったときの自分どころか、同じ身長の女性と比べたとしても、俺の方が劣っているだろう。


その事実は、俺のアイデンティティを崩壊させる。

中学からやっていた柔道、それで県で上位にまで成長できたことは、俺の誇りだった。

一対一で相対して、そんな相手を投げる。

それは、俺の人生の中で何物にも代えられない快感だった。

今はどうだろう。

ーーーこんな小柄で細身の身体で、人を投げるなんてできっこない。


俺は、見えない壁に激突した。



◆◆◆◆


体力テストを終え、俺たちは病室へと帰ってきた。

しばらくの間、俺の様子を伺ってか沈黙していたが、山村先生がやってきてその状況は変化した。

なぜなら、山村先生は体力テストの結果を踏まえて、俺の身体に起こっている異常について説明にきたからだ。


「推論ではありますが、複数の医師による見解が纏まりましたので、説明しに伺った次第です。

説明に伺った、とは言いましたが、先程申し上げたのはあくまでもこちら側の事情です。

奈津希さんが聞きたくない、ということならばこのまま引き下がりますが、どうですか?」


山村先生の発言に対して頷く。

もう、以前との違いは、男の時との違いもゲームの中の時との違いも自覚してしまった。

ここまで自覚してしまったのだから、もうその理由まで知りたい。

そういう思いで山村先生を見つめる。

それを確認した上で、山村先生は再度話し出す。


「ここまで筋力、身体能力が落ちているのは、性転換の影響と、性転換前の身体の状態が影響していると思われます。」

「前の状態、ですか?」

「はい。手塚の残した研究データと、逮捕直前に配信していた時の発言から示し合わせるに、手塚の性転換技術、正確に言えば姿を変える技術は、生体情報を読み込んだ上で行っています。」

「はい。」

「では、その生体情報が間違っているとしたら、どうなるでしょうか?」

「はい?」


生体情報の誤り、山村先生のその発言で身体計測の時の美春さんの発言を思い出す。


『もしかしたら今の身体にも過去の状態が反映されてるのかも!

それなら奈津希さん、1週間ずっと点滴の栄養だけで生活してたらから、おかしくないと思うよ。』


もしかして…。


「奈津希さんは、ゲームの世界に閉じ込められてから5日後に、性転換しながら現実に帰ってきました。その5日間にも、奈津希さんの身体は当然変化しています。

帰ってくるまでの5日間、奈津希さんは食事を取らず、点滴だけで栄養を補給していました。

そんな状態では、胃は小さくなっていき、脂肪はどんどん燃えていきます。

また、運動することもないので、筋肉も落ちていきます。

ーーーつまりは、通常の奈津希さんの身体よりも、様々な能力が劣った状態と言えます。

それが現在の、性転換後の奈津希さんの状態にも影響していると考えられます。」

「影響ですか?」

「はい。平行に右下がりの2本の直線をイメージしていただけると、分かりやすいと思います。

手塚は、奈津希さんのゲームをする前の状態を基本として、普通の体型、筋力の女の子にする予定だったのだと思われます。

しかし、施術を始める頃には、奈津希さんの身体は元の状態より痩せ細り、筋力も落ちています。

その状態から同じように筋力、胃の大きさなども下がるようならば、標準の体型、食欲、筋力の女の子よりも低いそれを持つ身体になると思われます。

今の奈津希さんの身体は、まさしくそんな状態ではないのかと思われます。」


ーーーああ、そうなのか。

身体に衝撃が走る。

だからといって、今までと同じ反応をするということではなかった。

今までは、言われた情報が理解出来ず、拒絶していたのだが、今回は違う。情報が身体に染み込むように、ああ、その通りだな、と自然に理解していった。



小柳さんは、俺のこの姿の身分を病弱で、ずっと入院していた女の子にしようと言ってきた。

その設定は、設定ではなくほとんど事実になってしまった。

今日俺は、改めて貧弱な女の子に、精神以外は全て貧弱な女の子になってしまったと理解した。



◆◆◆◆


説明した後、北村先生と美春さんは部屋を出ていき、俺と誠也の2人きりになった。

ーーーあんな事実を聞かされて、誠也のやつはどう思っているだろうか?

2人きりになってしまったことで、そんな風に強く、強く思ってしまい不安になっていく。

誠也は、そんな俺の心配なんか知らないように、普通に話しかけてきた。


「そういえば、奈津希、お前ってもうすぐ退院できるんだよな?

退院したら、俺ん()に遊びに来いよ。

お前、スマブラ好きだったろ?あれやろうぜ。

前やった時は、お前に負けちまったからな。

今度は負けねえぞ。」


普通に話しかけてきたことに動揺しつつも、「おう…。」と返す。

その後も誠也は、普通に話しかけてくる。

そんな様子が、どこか無理しているように感じられてしまう。


「もういいよ。無理に俺になんか付き合わなくて。」


無意識に言ってしまう。

誠也は『えっ。』と言わんばかりに目を見開く。

口から出てしまったことを後悔する。

誠也は、俺のことを思って無理してくれただろうに、それを否定してしまうなんて。

下を向き、顔を合わせないようにする。

あんなことをしてしまって、誠也はどう思うだろう。当然、怒るはずだ。

誠也の反応をビクビクしながら待つ。

返ってきたのは、予想外のものだった。


バシンッ!!


「痛っ!」


飛んできたのは、なんとデコピンだった。

何!?と驚愕して顔を上げると、今度は誠也の右手が俺の頭に添えられ、そのまま撫で始めた。

その状態を維持したまま、誠也は口を開く。


「何言ってんだ?

俺はお前だから付き合うし、遊びに誘ってんだぞ?

探検して帰れなくて怒られた時も、お前は俺を庇ってくれようとしたよな?

それと、なんにも変わんねえよ。

それに、むしろお前が俺に付き合ってくれよ?」

「え?」

「約束しただろ?俺がお前を元に戻すんだ。

そのために、お前が俺の無理に付き合って貰わないと困るからな?」


ニカっと笑いながら、誠也はそう言う。

その発言、その動作の1つ1つで誠也が心のそこからそう思っているんだと伝わってくる。

俺も笑顔で「おう!」と返事をした。

ーーーその時、少しだけ、目がウルウルしていたのは内緒だ。



この時点では自覚はなかったが、後から考えればこの時がそうだったのだろう。

ーーー俺が、誠也に恋い焦がれ始めたのは。


奈津希は誠也に惚れ始めたと書きましたが、まだいわゆる好きな娘をいじめる小学生男子のような、自分が相手を好きと言うことに自覚していない状態です。

なので、結局2人の関係性はまだ、全くもって変わりません。

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