病室暮らし12
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「「設定??」」
俺と誠也の声が重なる。
え?なんで必要なの?
そんな俺の疑問に答えるべく、小柳さんが口を開いた。
「はい。現状の計画では、奈津希さんには『病弱で学校にすら通えなかったが、奇跡的に回復した。』という設定で、学校に復学、関係者以外から見たら転入してもらう予定になっています。」
そこまで聞いて、誠也がニヤニヤしながらこっちを見てくる。大方、運動大好きでインドアよりも圧倒的にアウトドア派の俺が病弱という設定なのが違和感ある、とでも言いたいのだろう。
俺だっておかしいとは思うから!
そんな俺たちのやり取りに気づいていないのか、小柳さんは話し続ける。
「そこで問題なのですが、誠也さんと奈津希さんを結びつける接点が何もないのです。」
そう言われてハッとする。
病弱な俺と、五体満足な誠也、どこにも2人が会うはずの要素が存在しない。
なのに、俺たちが仲良くしているだなんて違和感しかないはずだ。
学校に通い出した場合、仲良くしているところを見られたら必ず問われるであろう。
『お前ら、いつの間に仲良くなったの?』と。
深呼吸をして、誠也とアイコンタクト、そのあと小柳さんに目を向ける。
「小柳さんは、厚生労働省はどのような設定を考えているのでしょうか?」
そんな言葉に対して、小柳さんはどこかやりづらそうに口を開いた。
「はい。厚生労働省が考えた設定は、まず誠也さんが空き地で野球、もしくはサッカーをしています。」
ふむ。
「そして、そのボールが病院の、奈津希さんの病室の窓に当たり、窓ガラスを割って入っていきます。」
うんうん……え?
「そして、謝りに来た誠也さんと奈津希さんが出会い、そこから意気投合し仲良くなる、という設定なんですが…。」
「「いや、流石におかしいでしょ!?」」
俺と誠也のツッコミが重なる。
「まず、この病院の近くに野球やサッカーをできる公園なんかないです!」
「それに、その設定、ドラマやアニメで散々やり尽くした設定にも程がありますよ!」
そんな風にツッコむと、小柳さんはわかっていた、と言わんばかりの苦笑いをしながら答えてくれる。
「お恥ずかしながら、ウチのお上は頭が固く、こんな意見しか出せないのです。
なんとか、こちら側の納得が得られなかった場合は、こちらで協議したものにするという条件にまとめることは出来ましたので、アイディアを出していただけると嬉しいです。」
何故だろう。この時の小柳さんの様子からは、上司からの圧力と下からの要求に苦しむ、中間管理職の苦悩が感じられた。
ーーーまあ、この場合、下というのは俺たちが該当するんだが。
さっきの発言から上司への文句でどこか遠いところを見ている小柳さんから目を背け、他の人に向け声を上げる。
「そういうわけらしいけど、何か良いアイディアある?」
そう聞くと、亜希が目を輝かせ、「はいはいはーい!」と手を上げた。
ーーーまずい。こういう時の亜希は絶対に変なことを言い出す。
でも、ここまで主張しているのに意見を求めないなんてことは出来ない。
「あ、亜希。どんな意見か言ってみて?」
「あのね、私ね、お兄ちゃんと誠也くんが、実は恋人同士だってことにすれば「「却下!!」」
むー…、まだ言い切ってもないのに!」
亜希が意見を言い切る前に、俺と誠也から否定の言葉が飛んだ。
「亜希、お前は恋愛脳すぎるんだよ。
俺が誠也とそういう関係ってことにするには、俺が女の子らしく振る舞わなきゃいけないだろうが。」
「それに、その設定だとしても、『どうやって出会ったのか』が『どんな風に付き合い出したのか?』に変わるだけだろ。」
俺と誠也から連続で飛んでくる否定に、亜希はムーと頬を膨らませて拗ねた。
そんな亜希に、意外なところから助けが飛んだ。
ーーー小柳さんだ。
「あ、でも奈津希さんには女の子として振る舞って貰わないとダメですよ。」
「は!?なんでですか!?」
「いや、この計画の根幹として、それは絶対に外せないところですよ。
まずこの計画は、9月末まで奈津希さんが元に戻れなかったという場合を想定して練っております。
最悪、学校に通わなくても良いですが、奈津希さんの今後の人生を考えた場合、高校中退という学歴は非常に重く響きます。
そのことを考慮し、かつ奈津希さんの精神を安定させるために、家族や限られますが状況を理解した友人と一緒に生活を送るために、誠也さんの通う三田西高校に通う、というのを本筋としています。
また、高校に通うということは、周囲に奈津希さんの秘密がバレる可能性を高めることになります。
バレないためにも、奈津希さんには普通の女の子として振る舞ってもらう必要があります。」
おぇっ…、と身体が拒絶反応を示す。
ーーー過去が、男なのに女の子みたいな名前といじられた過去が思い出される。
女の子のフリをすることは受け入れがたいことだが、こればっかりは受け入れるしかない。
そんな覚悟を決めている最中、ふと亜希が視界に入る。
ーーー亜希は目を輝かせていた。
くそっ。亜希のやつ、俺が女の子として振る舞わないといけないということを盾にして、フリフリの服でも着させる気だな!
亜希には注意しないと…、って。
「設定、どうしよう?」
場を沈黙が支配する。
ぶっちゃけ俺たちとしては、厚生労働省から良いアイディアを出してくれると思っていたので、アイディアは出てこない。
そんな中、ただ1人、この会話に入っていなかった人が声を上げた。
ーーー父さんだった。
「おお、このマンション、誠也くん家のすぐ側じゃないか。」
え?と慌てて地図を確認する。
父さんの言った通り、マンションの位置は誠也の家の近くだった。
父さんは言葉を続ける。
「この距離なら、自宅療養していた奈津希が調子良いからと散歩に出かけたものの、途中で体調が悪くなってしまい道端に座っていたところを、誠也くんが助けた、なんかで良いんじゃないか?」
この場の全員が目を合わせる。
その意見は、父さんのものと思えないくらいマトモだった。
「貴明さんの意見でよろしいでしょうか?」
小柳さんが代表して声を上げる。
みんな、うんうんと頭を下げる。
ーーー全員異論はないようだ。
「では、これを中心として、再度こちらで協議したものを後日、提案させていただきたいと思います。
本日はありがとうございました。
失礼致します。」
小柳さんはそう言うと、足早に去っていった。
それを見て、今日はもう帰るかと、今日の集まり?は解散となった。
◆◆◆◆
そうして、ここからは誰もいなくなった。
俺の病室は、時間の経過で沈んだ夕日によってオレンジ色に染められている。
ーーーどこか、寂しいな。
こちらに戻ってきてから、1人きりになったのは今が初めてだ。
どこか落ち着かず、ムズムズとベッドの上で動いてしまう。
ナースコールをすれば、美春さんが飛んできてくれるんだろうが、ただでさえ迷惑をかけている身分なのだ。そんなことはできない、というかその行為自体非常識だろう。
あー、暇だ。
暇だ暇だ暇だ。
身体を少しでも動かしていないと落ち着かない。
駄々をこねる小学生のように、両足をバタバタさせる。
そんな時、病室の扉がノックされた。
ビクッッッ!!
心臓が飛び跳ねる。
慌てて足の動きを止め、上半身を起こす。
その後で、『はーい。』と声を上げた。
ーーーって。
「なんだ、誠也かよ。どうしたんだ?」
「俺で悪かったな。」
それは、なぜか戻ってきた誠也であった。
◆◆◆◆
「んで、なんでお前戻ってきたんだよ。」
誠也に問いを投げる。
誠也はそれに対し、視線を横に逸らし、頰の辺りをポリポリと掻きながら言った。
「いや、改めてお前に言っておこうと思うってさ。」
「何をだよ。」
少しヘラヘラとしながら返す。
ーーーやっぱり、コイツとだと安心出来る。
そんな風に和んでいる俺とは違い、誠也はどこか居心地の悪そうな感じである。
そんなに言いにくいことなのか?
少しばかりそのまま時間が経過した後、誠也が口を開いた。
「いや、前にも言ったことを繰り返すだけだよ。
繰り返すことで、俺自身再度自覚することができるし。」
そこで一度言葉を切り、再度続けた。
ーーその言葉に、俺は胸を打たれた。
「ーーー例え、お前の周りに味方がいなくなったとしても、絶対、俺がお前を元に戻してやるから。
ゲームから出て元に戻るための行為が変わった今でも、これは絶対曲げないから。」
誠也はそう言うと、恥ずかしくなったのか、「あ、そろそろ俺も帰るな。じゃあな。」と足早に帰っていった。
それに対して手を振った後、俺は掛け布団を被り、ベッドに丸まった。
ーーー嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。
アイツが、誠也のヤツが約束を忘れていないでくれて嬉しい。
一応、戻ってきてくれたからといって、そこで約束を終わったことにしないでいてくれて嬉しい。
アイツが、俺の知っているアイツのままでいてくれたことが嬉しい。
胸の奥から、喜びが溢れ出してくる。
さっきの比ではないくらい、身体をバタバタと動かし、身悶えする。
そんな様子を誰かに見られていないだろうか?なんて考えることもせず、悶え続けた後、俺はそのまま目を閉じて、いつのまにか寝てしまっていた。
色々、今後の伏線(というよりもフラグ?)を撒きながらも、楽しく書けた回でした。