病室暮らし11
今更な気がしますが、再三誤字報告をしていただいてくれてる方、本当にありがとうございます。
自分でも見直しはしてるはずなんですが、気づいてないところが多く、とても助かっています。
《誠也side》
手塚の俺たちの想像を超えるしたことの大きさ、もちろんアイツが天才だってことは重々承知ではあったのだが、それでも理解しきれていなかったアイツのやることのスケールの大きさに驚愕し、2人揃って固まっていると、部屋の外からノックされた音がした。
奈津希の方を見る。
俺の視線の意味を分かったのか、奈津希はコクンと頷き、「はーい。」と声を上げた。
人が入って来るのだから寄らなければと、反対側へと回り込み、その上で誰が来たのかと顔を上げ、確認する。
現れたのは、俺の想像だにしないーーいや、普段だったのであれば想像できただろう。ただ、今回は手塚の件で頭がいっぱいだったがために、考えることができなかったーー人物だった。
そう、それはーーーーー
「父さん!母さん!え、亜希まで!?」
ーー奈津希の両親、貴明おじさんと亜里沙おばさん、そして妹である亜希だった。
◆◆◆◆
「なんでおじさんたち、来てたんなら入ってこなかったんですか?入って来れば良かったのに。」
3人に声をかける。
俺の質問に対して貴明おじさんが答えてくれる。
「いやね、昔から知り合ってる2人なんだから、最初は2人きりにした方が良いかな?って思ってね。」
「いや、それでも喧嘩とかになってたらどうしたんですか!?」
「いや、大丈夫だよ。」
貴明おじさんは俺の問いに落ち着いて返して来る。
「僕たちは奈津希だけじゃなく、誠也のこともちっちゃい頃から知ってるんだからな。
お前のことも信用してるんだからな。」
おじさんの言葉が胸に突き刺さる。
ーーー初めて会ったのは、小学校1年の頃だっただろうか?
小学校に入ったばかりであった頃、俺たちは仲良くなった。理由は、ただ単純に苗字の頭文字が『た』と『に』で、上手い具合に隣同士の席になったというものではある。
引っ込み思案だった奈津希と、正しくわんぱく坊主であちらこちらへ走り回ってばかりだった俺とは、今思えばまるで噛み合わないのではと思ったりもするが、奇跡か何か起こったのか、上手い具合に噛み合い、俺たちは仲良くなった。
そんなある日、とある事件が起こった。
まあ事件といっても強盗や殺人のようなニュースになるようなものではない。
子供が夜10時を回っても帰ってこないという、まあまあたまにあるものであった。
ーーーその、帰ってこない子供というのは、俺と奈津希のことなんだが。
帰って来なかった理由は、これまた単純、迷子になったからだ。
俺たちの住んでいる三田木原市は30年ほど前に三田市と木原市が合併して出来た市だ。その名残で中学、高校などの学校の名前には未だそれぞれに東西南北がついたものが残っている。(俺が通っている三田西高校がその例の1つである。)
そんな風に合併したばかりだからなのか、この市は田舎と都会の混ざり合った不思議な構図となっている。
中央から北には、都会(といってもそこそこの大きさの地方都市くらいのレベルなのだが)のように施設は充実している。
しかし、南下していくとそのレベルはどんどん下がっていき、終いには周りには畑しか見えなくなる。(そんな農業は国内でも数少ない、黒字になっている地域らしいが田舎なものは田舎だ。)
そんな三田木原市に、わんぱく坊主だった俺がワクワクしないわけがなく、引っ込み思案な奈津希の腕を引いて、しょっちゅう冒険、探検へと赴いていた。
毎日のように探検へと出かけ、夕方には帰ってくる、そんな毎日だった。
だが、この日は違ったのだ。
探検ということは危険な所、林や丘なんかの視界の悪い所に行くということなので、迷子になりやすい。
今を思えば、その日まで迷子にならなかったことが奇跡なのだろう。
当然の如く、俺たちは迷子になった。
夜になることで、どんどん暗さは増し、視界はどんどん悪くなる。
そんな状態で、奈津希はぬかるんだところで足を滑らしてしまい、そのまま林の中へと突っ込んでしまう。
確認してみると、右膝から大量に出血しており、その時の奈津希の小さな身体では、とても歩き出せなくなっていた。
そこから、俺が奈津希を背負って歩き、午後9時を回った頃に、やっとわかる道へと出て、その1時間後に奈津希の家に着くことができた。
ーーー初めて顔を合わせた奈津希の両親、こんな時間になるまで帰って来なかったから、怒号が飛んでくるかもしれない。
子供の頃の俺にとって、門限を守ることは絶対に守らなければならないことで、破ってしまった時はとんでもなく怒られることが常だった。
そんな俺は、間違いなく怒られると思い目を瞑る。
ーーー飛んできたのは、予想外のものだった。
頭に手を当て、ガシガシと撫でてくれる貴明おじさん。
「背負って歩くなんて大変だったでしょ?
うちの子をここまで運んでくれて、ありがとう。」と、声をかけてくれる亜里沙おばさん。
ーーー温かく、優しく包んでくれる。
それで、思わず我慢してきたものが溢れ出し、俺は大泣きしてしまった。
奈津希の怪我も、そこまで酷いわけではなく、2人とも無事に帰ってくることができた。
ーーーまあ、この後俺は、実の両親に無茶苦茶怒られるんだけど。
そんなことを挟み、後日母さんと一緒に謝りに奈津希の家に行き、そこから俺と奈津希の家族ぐるみの付き合いは始まることとなった。
そこからしばらくの間、俺たちが遊ぶときには亜里沙おばさんか母さんのどちらかが監視役としてついてくることとなり、そんなことを繰り返していくうちに家族同士も仲良くなり、どちらかの家にご飯を食べに行く、なんてことも増えた。
そういうわけで、俺と奈津希の家族とは、13、14年の付き合いなのだ。
そんな貴明おじさんが俺を信頼してくれる。
そのことに、胸を打たれた。
そんな俺の気分は次に現れた人に一掃されたが。
「まあ、お前がもし奈津希くんに殴りかかってたりしたら、逆に俺がお前を殴り倒してたけどな。」
「はぁ!?って、叔父さん!?」
「雅良さん!!」
「よ。さっきぶり、奈津希くん。」
現れたのは、俺の叔父さん、高原雅良だった。
そこで止まらず、さらに人が入ってくる。
「奈津希くん…、友達に、親友に受け入れて貰えて良かったね…。」
「若菜さん!?」
「若菜さんって…、警察の人か!」
どんどんと人が入ってきて、病室の中は人間でぎゅうぎゅう詰めになっていた。
◆◆◆◆
《奈津希side》
「それで、何でこんなに関係者集まったんですか?お邪魔なら、俺お暇しましょうか?」
誠也が声を上げる。
まあ、それは当然かと思う。
誠也の方は知らない、かつ俺は知っている事件関係者の人たちが集まっているんだ。
自分は邪魔じゃないか、と思うことは普通だと思う。
そんな誠也に対して、ある人が答えた。
「いえ、むしろ高原さん、いや誠也さんに伝えたいことがあったので、ここにいていただきたいです。」
「えっと、あなたは?」
「紹介が遅れました。私、厚生労働省に勤めております、小柳達也と申します。」
「は、はぁ。ご丁寧にどうも。」
声をかけた小柳さんに対して、誠也がどこかぎこちなく返す。
それを見て、少しにやりと笑ってしまう。
誠也のやつのコミュニケーション能力は高い。
しかし、誠也のその能力は、同学年、同年代を相手にする場合にのみ発揮されるのだ。
相手が年上の場合、その能力は圧倒的なまでに制限される。
というのも、アイツは同年代の空気に合わせることに特化しているからだ。
別に、本人が常に明るい(今時はパリピっていうのかな?知らんけど)訳ではない。
ただ、文化祭などの盛り上がる場面では、中心となって活躍する、そんな人材なのだ。
盛り上がる、っていったら年上も、この場合は先生方も喜ぶんじゃないかと思うが、そうではない。
ーーー誠也は、大人が少し苦手なため、大人の言うことより同年代の言うことを尊重してしまうのだ。
いわゆるやっちゃいけないこと、『あれやってみね?』と提案された、ルールを破るか破らないかのギリギリのラインの発言を普通にOKしてしまう。
今のところ、大きな失敗、やらかしはないが、明らかに先生方からは目をつけられ始めていることは確かであろう。
ーーー色々と脱線しつつあるが、俺が言いたいのは、対大人のコミュニケーション能力に関しては、誠也よりも俺の方が上ということだ。
数少ない俺がアイツに勝てているところ、アイツのドギマギしている姿に思わず笑みを漏らしてしまう。
そんなことは露知らず、2人の会話は続く。
「えっと、小柳さん?ですか?
お偉いさんが私のようなものにどんな御用なのでしょうか?」
ふふふ、誠也のやつ緊張してる、緊張してる。
他人事でニヤニヤしながら見つめる。
「はい。奈津希さんのこれからに関して、ご相談をしたい次第であります。」
「奈津希のこれから?ですか?」
「はい。奈津希のこれからなのですが、奈津希さんにはこれから証人保護プログラムを受けていただきたいと思っております。」
「証人保護プログラム?ですか…?」
「はい。分かりやすく説明しますと、奈津希さんの身分を他人のものへと変えることで、犯人である手塚清秀や性別転換者保護団体なんかから隠れる、という目的です。」
「え?身分変える?大丈夫なんですか?」
そこから、誠也への事情説明が始まった。
◆◆◆◆
「ほー、じゃあ奈津希とは、身分変えた後も、別れないで済むんですね。」
誠也に大体の説明が終わった。
その感想としてか、誠也が言葉を漏らす。
その言葉が、嬉しくてたまらない。
ーーーちっちゃい頃からの友達が、親友が俺と別れることを惜しく思ってくれている。
そのことが嬉しくてたまらない。
さっきの比ではないくらい、口角が上がってしまう。
誠也は、俺がそんな状態になっていることに気づかず、小柳さんと話し続けている。
ーーーやばい。気づかれる前に、なんとか口角を元に戻さないと。
そう、必死になっていると、俺の口角の上がり具合なんて吹き飛ばすような内容を、小柳さんが口にした。
「まさにそのことなんです。
こちらとしましても、奈津希さんの心の安定のためにも、高原さん、誠也さんにはこのまま友人でいて欲しいんです。
そのために『設定』を考えて欲しいのです。」
「「設定?」」
奈津希は若者のはずなのに、若者の話題についていけない系若者。