病院暮らし10
連続投稿頑張った!!
なお、頑張ったため、明日は絶対投稿できない模様。
ーーーどうすればいいんだろう。
突然やってきた誠也の、親友の異常な行動に対して。
親友がどう思ってくれているかやきもきしていたのだが(雅良さんが来てくれたことで少しは薄れていたが)、その親友はやってきたと思ったら、完全にフリーズしてしまっている。
ーーーえ、なにこの空気。
誠也のやつは何か言おうとした後に、驚愕で「ええーーー!!」と叫んだので、誠也の言葉を待つ方が良いだろうか?
それとも、ここまで状態が停滞してしまっているのだから、こちらから話しかけていくべきなのだろうか?
うん、こちらから話しかけるのがいいと思う。
「「あのっ…」」
「「あっ…!」」
なんてことだろう。
誠也も、似たような思考になっていたらしく、声をかけようとしたところから、それに対する反応まで見事に被ってしまう。
そのことに、思わず互いに笑みがこぼれる。
「えっと、じゃあ、俺からしゃべってもいいか?」
誠也がそう聞いてくる。
俺は、それにたいしてYESの意を込めて頷く。
誠也は、俺の反応を確認してから喋り出した。
「とりあえず、まずはじめに、お前は奈津希ってことでいいんだよな?」
「ああ。っていうか誠也、その反応ひどくない?
他の人ならともかく、お前は向こうで俺の姿見てるんだから分かるだろ?」
「うるせー。一応確認だよ。
それに、向こうとこっちじゃ、なんか雰囲気とか変わって見えるんだよ。」
「え、まじで?若菜さん、そんなこと一切気にせず、初見で確信を持って反応してたのに。」
「マジマジ。って若菜さんって誰?」
「警察の人。閉じ込められてから、俺を不安にしないようにって、向こうの世界に来てくれたらしい。」
「え、すごいな。
お前が閉じ込められてんだから、自分も閉じ込められるかもって不安で行けないだろ、普通。」
「たしかにすごいけど、お前が言うのかお前が。
俺が閉じ込められてるって知らせたの、お前だろ。」
「俺は一回入ってて、その時ログアウトボタンもあったから大丈夫だと思ったの!
しかも、あの後叔父さんにこってり叱られたし。」
「へー、雅良さんにねー。」
「え、お前叔父さんのこと知ってんの!?」
「知ってるも何も、ついさっきまでここにいたぞ。」
「まじかー。」
真面目な話だったはずが、途中からくだらない話に切り替わる。
そのことで理解する。
やっぱりコイツは誠也だ。
俺の姿が変わっても、接し方も変わらない。
ーーー俺の、親友なんだ。
思わず、口角が上がる。
嬉しい。すごい嬉しい。
俺が目を細め、笑顔になると、何故か誠也は斜め上に目を逸らした。
◆◆◆◆
《誠也side》
やばい。思わず目を逸らしてしまった。
ゆっくりと視線を戻してみると、やはり奈津希の顔はムッとしていた。
「何で目、逸らすんだよ。」
奈津希に糾弾される。
でも、反論することができない。
ーーー突然女になって動揺している奈津希に対して、笑顔に見惚れてしまったなんて、言えるわけがない。
場を沈黙がしばし支配した後、奈津希が「あっ!」と言わんばかりに口を開き、その後ニマニマという効果音が似合うように口角を上げた。
「へー、へー。」
「な、なんだよ。」
意味有りげに『へー』と言ってくる奈津希、それに対して思わず『なんだよ』と聞き返してしまう。
それを聞いて、奈津希は再度口角を上げた後、口を開く。
「いやー、ねー、天下の誠也くんともあろうお人が、俺みたいな中途半端な男とも女とも言えないやつに見惚れるなんてねー。」
心臓がドクンと跳ねる。
ーーーバレてたのか。
バレていたことへの若干の羞恥と焦りにより、ノータイムで言葉を返す。
「しょうがないだろ。女子と一対一で話すなんてこと、滅多にないんだから。」
あ、この言い方まずいかも。
そう思い、焦って奈津希の顔を見るも特に気にした様子はなく、むしろ『しょうがないなぁ。』とでも言いたげにニマニマしていた。
「にしても、誠也お前ウブ過ぎんだろ。
流石に俺みたいな男女に照れるなんてどうかと思うぞ?」
奈津希は両手を腰に当て、やれやれといった態度で口を開く。
それに対して、なんの意識もせず返してしまう。
「だってお前の今の見た目、むっちゃ可愛いんだぞ?何の反応も示すな、なんて無理だよ。」
「えー、会ったこともない赤の他人ならともかく、お前俺と向こうで普通に遊んでたんだぞ?
なんで向こうで平気でこっちだとダメなんだよ?」
「向こうとこっちじゃ、画のクオリティって言えばいいのか?
なんか違うんだよ。
伝わる雰囲気というか、なんというか。」
そう返した途端、奈津希は何か考え込むように黙ってしまった。
◆◆◆◆
《奈津希side》
誠也の返しを聞いて、ふと1つの疑問が頭の中に浮かび上がる。
ーーー何で、俺の姿は、変わってしまった俺の姿は、向こうでのアバターと一緒なんだろう。
黙っていると、誠也は不安に思ったのか声をかけてきた。
「あの、なんかごめんな?
俺、お前のこと、傷つけたかも…?」
「いや、別に傷ついて黙り込んだ訳じゃないから。
ていうか、悪いことした自覚ないなら謝んなよ。」
「それは悪い。」
お人好しの誠也のことだ。
俺が姿が変わった影響で精神が不安定になっているから、自分の不用意な言葉に傷つき、黙りこくってしまったとでも思ったのだろう。
あまりなめないで欲しい。
俺だって、流石にこの姿になってからもうしばらく経っている。
だから、この姿の自分もある程度受け入れられてきているし(受け入れたくはないが)、精神面でも山本先生もお墨付きを与えるほど、安定してきているんだ。
「なら、どうして黙ったんだ?」
誠也は再度口を開き、問いを投げてくる。
俺は、その問いに答えるべく、口を開いた。
「いや、何で俺の姿、向こうの世界の姿と同じなんだろう?と思ってさ。」
俺の言葉に対して、「ああ〜。」と反応を示した後、誠也が口を開く。
「そういえば、なんでなんだろう?」
そう言い、誠也は顎に手を当て、しばらく考えたあと、「ああっ!」と何か思いついたような声を上げた。
「思い出した。奈津希は、手塚の放送って見たか?」
「ああ、見たけど。」
「そこで言ってたけど、アイツ、1番はじめに手がけたのは、アバター構成プログラムって言ってたはずだ。」
「ああー。そういえば、そんなこと言ってた。」
その後に続く、手塚の変態性、アイツの計画の内容があまりに濃かったため、そんなことすっかり忘れていた。
「そこから、なんかわかるんじゃないか?」
「ちょっと考えてみるか。」
今度は2人とも顎に手を当て、しばし考える。
そして、今度は2人同時に「あっ!」と声を上げた。
「あれ?Brave Heart Onlineのアバターって、生体情報を取り込んで、自動で形成されるものだったよな?」
「うん。そのはずだぞ。」
「それで形成されたアバターと、手塚の処置を受けた奈津希の姿が一緒ってことは…。」
ゴクリと息を飲む音が重なる。
記憶を絞り出して、手塚が言った発言を遡ると、手塚は生体情報から、処置を施した後の姿の3DCGを作成することに成功したと言っていた。
そのことが、俺たちの推測をさらに補強する。
「それってつまり…。」
「あのゲームのアバターは全部、生体情報から読み取った、処置を施した後の姿の3DCGってことか?」
俺たちの間に衝撃が走った。
あのゲームのアバターが、処置を施した後の姿の3DCGであれば、それはとんでもないことだからだ。
ーーー思い出してもらおう。あのゲームのアバターは、本来なら苦情がたくさん出るはずの、全自動生成プログラムにより生成されたアバターなのに、顔面偏差値が全て平均以上なので、ほとんど苦情が出なかったとかいう、頭のおかしいものであった筈だ。
それと、処置を施した姿が同じである。
それは、この世のほとんどの人が、奈津希と同じ処置を受ければ、美形になれるということ。
既存の整形方法とは違い、体内に詰め物をしたり、削ったりすることなく、痛みの一切伴わない方法、ということだ。
俺と誠也は、手塚の行動の秘めた可能性、そしてそれがもし国に認められていたら、手塚のやつ美容整形の世界に革新を起こしていた事実に驚き、身体が硬直した。