病院暮らし9
執筆ペースが上がらない…。
誰か筆が早くなる方法教えて。
あの後、小柳さんと家族を残して他の人たちは帰って行き、残った人たちも俺の病室から出て行った。
ーーーもちろん、誠也をこの病室に呼び出した上で。
心臓がドクンドクンと普段よりも短い周期で鳴っている。
だからといって最近何度もなった恐怖でのそれとは若干違う。いや、恐怖からくる部分ももちろんあるのだろうが、それよりも緊張という意味合いが強い。
誠也とはゲームの中ではあったが、今の姿で会っているし、その状態で普通に遊んでいたので、受け入れてくれるかどうかについては、あまり心配していない。
ただ、会っている。そして、俺の状況を途中までなら知っている。
それによって、状況が伝わらないまま焦らされてる、というのが現在の誠也の状況なのだ。
ーーー気まずい、よな。
果たして誠也は、こんな風に焦らされてる間、どんな状態でいるだろうか?
俺のことを心配して、やきもきしてくれているのだろうか?
それとも、俺のことなんか気にせず、普通に夏休みを満喫しているだろうか?
誠也のことを考えるなら、後者の方が嬉しい。
でも、一切なにも考えてくれない、なんてのは流石に寂しい。あいつ、俺のこと親友って呼んでくれてたんだぜ?
あれ?でも、あいつ、向こうで俺を必ず元に戻すって誓ってくれたよな?だったら、少しは俺のこと、気にしてくれてるよな?
でも、あいつが俺のことを気にし過ぎて、寝不足やらなんやらにはなって欲しくない。
でも、一切気にしないなんてやだ。
ーーーあれ?なんかわけわかんなくなってきた。
そんな時、病室の扉がノックされた。
ビクッッ!!っと身体が驚愕で跳ね上がる。
え?まさか誠也?流石に早過ぎね?
先程、連絡を取ってもらってからはまだ10分程しか経過していない。
仲山総合病院は、大きい病院ということもあってか、市内どこからもアクセスがしやすいように市の中心部に位置している。
それはつまり、俺たちの住んでいる市の西部からは、徒歩で1時間以上、自転車でも最低40分はかかる。
なのに、この早さ。流石に早過ぎる。
ーーーまさか、誠也のやつ親に送ってもらったのか!?
いや、まだ夏休みは序盤も序盤、俺たち学生は休みでも、親御さんはまだ働いているはず。
そんなことは不可能な筈だ。
え、じゃあタクシー!?あいつ、そんな金持ちだっけ?でも、ゲームをゲーム機ごと2つ買うぐらいのお金持ってたな。
思考がぐるぐると空回りをするが、1つのことに気づき、空回りをやめる。
ーーー俺、ノックした人ほっといたままだ!
やばい。流石に病室で、居留守なんて非常識も甚だしい。
先程のノックからは大体20秒ぐらい経っているけれども、まだいるだろうか?
恐る恐る「はーい…。」と声を上げるとその直後、扉は開いた。
そこにいたのは、男性の警察関係者の人だった。
◆◆◆◆
病室に入ってきた男性に対して、自身の想像していた存在でなかったことに、「おお…。」と固まってしまう。
それを見たからか、男性は先に口を開いた。
「えっと、俺は高原雅良っていいます。一応、警視庁で警部をやってる。」
男性、高原警部の名前を聞いて、1つ思い当たることがあり、思わず反射的に声を上げてしまう。
「あれ?誠也と同じ苗字?」
口にしてから「あっ!?」と慌てて左手で口を塞ぐ。そんな俺を見て、高原警部は目を細め、クククッと控えめに笑った。
◆◆◆◆
「え!?じゃあ、高原さんって誠也の叔父さんなんですか!?」
「おう。正確に言うなら、俺は誠也の父親の弟、だな。」
俺は思わず、声を張り上げてしまう。
苗字が一緒だとは思ったけれども、この世に同じ苗字の人など数えられないほどいるのだ、まさか本当に関係者だとは思わなかった。
あれ?っていうことは…。
「誠也が言ってた、警察でちょっと偉い立場にいる親戚ってもしかして…?」
「あいつ、そんなこと言ってたのか…?
多分、俺のことを言ってるんだと思う。うちの親戚で警察関係者なのは俺だけだし、あいつが相談の電話飛ばしてきたのも俺相手だしな。
でも、別に偉くなんかないからな。むしろ、年下に先に上に行かれる体たらくだし。」
俺の想像通りだったようで、高原さんは俺の質問を認めるだけでなく、加えて情報まで教えてくれた。
こちらを子どもだという認識ではなく、同じ目線で、なんというか兄のような目線から話すような態度に親近感が湧き、本当に誠也の叔父さんなんだなと、あいつが信頼を寄せる理由がわかるな、と思う。
にしても…。
「どうして、誠也のこと俺が悩んでいる時に教えてくれなかったんですか?」
これが気になるのだ。
先程聞いたところによると、あの時、高原さんは俺の病室に来る予定ではなかったらしい。
俺の状態に警察で1番に気づいたこともあって、捜査チームの一員ではあったらしいが、下っ端というわけでもなく、若菜さんが俺と信頼関係をある程度作れたことで、現場に、というとおかしいか?、俺と面と向かって接する担当は若菜さんになったので、俺に会いに来る理由はなかった。
それなのに来た理由は、誠也のことに気づけずに進んだ場合に備えて、ということだったらしい。
でも、それなら、あらかじめ若菜さんに伝えておけば、ここに来る必要はなかったんじゃないか?と思うわけなのだ。
俺の質問に対して、高原さんは口を開く。
「あー、なんというか、まず第一に、そういうことは他の人に教えてもらうよりも、自分で気づく方がいいだろ?」
なるほど。
そして、さらに高原さんは続ける。
「あとは誠也の、俺の大事な甥っ子の親友がどんなやつなのか見てみたかったってのもあるかな?」
その言葉に、思わずふふっと笑ってしまう。
こういうところから、本当にあいつの叔父さんなんだな、と伝わってくる。
あれ?大事な甥っ子っていい方…。
「あの、高原さんってご結婚はなさっているんでしょうか…?」
気になったので、つい聞いてしまう。
大事な甥っ子という言い方、母さんの姉、宮原愛莉(未婚)と一緒なのだ。
そこから導き出されるのは…。
「うっ、痛いところをつくなぁ、奈津希くんは。
そういう気にしないところを誠也のやつは気に入ってんのかな?
まあ、その、まだ春は来てないな。」
あっ、やば。
相手を傷つけてしまった。
「すいません、高原さん。
こういうこと聞くの、マナー違反ですよね。」
咄嗟に謝る。
すると、高原さんはそんなこと、気にしないように、「いいよいいよ、大丈夫。むしろ、反省してくれるだけ、奈津希くんは優しいよ。」と言ってくれる。
ーーーそのあとに、小声で呟いていた、「親戚なんて、集まるたびに悪びれもせずに、早く奥さん連れてこい、早く孫の顔を見せろ、兄は早かったのに、なんで弟はこうなるんだ、って言ってくるし…。」の部分は、高原さんの名誉の為にも、俺の胸の内にしまっておこう。
「ああ、そうだ。高原さんなんて、他人行儀な呼び方なんてやめてくれ。雅良でいいから。」
「え、そんな。」
「いいから、いいから。会う人みんなに、威厳ないなって、言われるから、もう呼び捨てに慣れきってるし。」
そこまで言われると、こっちも引き下がりにくくなる。
「それじゃあ、雅良さんって呼ばせてください。」
そっちから提案してきたんだから、『さん』をつけるくらいの抵抗、許してくれ。
「おう!!やっぱり、奈津希くんはいいやつだな。今まで、初対面でなんの躊躇もなく呼び捨てにしてくるやつはいても、OKした後、『さん』なんてつけてくれる人なんていなかったぜ。」
いや、それ俺がいいやつなんじゃないんです。
呼び捨てなんて慣れてないから、躊躇しちゃうだけです。
そう言い返すも、雅良さんはハハッと流していく。
そんな風に楽しく時間を過ごしていると、雅良さんが左手を前に出し、腕時計で時間を確認する。
「あー、そろそろ俺も帰らないとまずいな。
ありがとな、奈津希くん。大変な時期、って言っていいのかは分からんが、つらい時期にこんなおじさんとの会話に付き合ってもらっちゃって。」
「いえ、こちらこそ楽しかったです。
ありがとうございました、たか、雅良さん。」
俺がうっかり高原さんと呼ぼうとしてしまったことに、「ハハッ、いいよゆっくりで。」と返して去って行く。
ーーーなぜか、最後にこちらを見ながら右目でウインクをしながら。
なんでウインクしたんだろう、と思っていると、また扉がノックされた。
なんの躊躇もなく、「はーい。」と迎い入れる。
扉が開かれ、入ってきたのはーーー
「おい奈津希、大丈夫なのか!?
って…、えーーーーー!!!」
ーーー誠也だった。
誠也は、入ってきたと思ったら、驚愕の声を部屋中に響かせた。