病院暮らし7
2日以内に投稿したく焦ったため、少し中途半端なところで終わってます。
あの後、俺は緊張やら怒りやら呆れやらの連続で心身ともに疲れきっており、なおかつ病院の面会時間も終わりが近づいていたため、父さんたちや若菜さん、小柳さんは退出し、俺はすぐさま夢の世界へと旅立つことになった。
ーーーそう、俺はすぐさま眠りに落ちてしまったのだ。世間では、どんなことになっているかも知らずに。
◆◆◆◆
目を開けると、窓の方から明るい光が目に入ってきた。あまりの眩しさに掛け布団を頭までかぶってゴロゴロと回り、体を丸まらせる。
そんな状態から15分ほど経過し、流石に動き出さないとと、顔を布団から出し、上半身を起き上げる。目が慣れてきたところで、テレビのリモコンを探す。
というのも、家でも目が覚めたら1階のソファへとりあえず移動して、テレビの音を聞きながら目を覚ましていくのが日常だったのだ。これはもはや癖と言っていいだろう。
ようやく、テレビのリモコンを発見し、電源ボタンを押す。画面の左上を見て、ああ今は8時半なんだと知る。
ボケーと、寝ぼけているため頭が回らないでいたのだが、それはテレビが取り上げていた事件で吹っ飛んだ。
『手塚清秀が起こした電子世界への監禁事件、尾倉さんはどう思われますか?』
「は!?」
テレビから聞こえてきた思ってもみなかった言葉が飛んできて驚く。
よくよく考えてみれば当然だ。
あんだけ有名な科学者、発明家があんな前代未聞の事件を起こし、またそれをテレビやネットメディアをハッキングして発表したのだ。
こんな風になっているのは当然って言ったほうがいいだろう。
俺はどんな風になっているんだろうと、不安になりながらもテレビの画面を見つめた。
すると、予想だにしない言葉が聞こえてきた。
『現在、東京ではこの事件の被害者を守るために、性別転換者保護団体が発足した模様です。
中継の中山さーん?』
はい?性別転換者保護団体!?
なにそれ、俺知らないんだけど!?
『はーい。私は西東京市民会館に来ています。ここには、現在1000人もの人たちが集まり、性別転換者保護団体の発足集会を行っています。
少し話を聞いてみたいと思います。』
1000人!?なんで当事者がそんなこと一切知らないのに、そんなに人が集まってんの!?
『この集会を開いた早川道博さんにお話を伺いたいと思います。早川さん、どうしてこの集会を開いたんでしょうか?』
『どうしても何も、あんたらテレビやらマスメディアが信用できんからだわ!手塚っちゅー犯罪者1人に揃いも揃ってハッキングされちょるし、あんたらは三田木原から何も成長しとらんのかんね!
このままじゃ、被害者も不安でおちおち外に出ることも出来んじゃろ!
せやから、ワシらは君を応援しちょる。ワシらが君を守っちゃると訴えるために集まったんじゃ!!』
後ろからよく言った、応援してるよ、テレビは引っ込めといった声が何重も何重も重なり聞こえてくる。
俺は、その光景に心の底からドン引きしていた。
◆◆◆◆
「ええと、政府調べのデータによりますと、性別転換者保護団体への参加者は2376人、自分が手塚の計画の被害者であると役所に電話をしてきた人は計513人、なお実際に調査員がかけてきた人の家に行ってみたところ、その中に実際に被害を受けたものは1人もいなかったそうです。」
小柳さんが、これまでのデータを伝えてくれる。
俺たち、詳しく言えば俺と俺の家族である父さん、母さん、亜希、そして政府からの使者として厚生労働省の一員である小柳さん、警察からは若菜さんと、今回初対面になるぱっと見30代前半に見える男性、そして病院から山村先生と院長である(らしい)高橋秀人先生、ナースの美春さん、そして俺の通っている高校三田西高校から教頭である水島有義先生が俺の病室に集まっていた。
その目的は勿論、手塚清秀によって世間に広められた俺の情報、そこからの世間の反応に対して対策を取るためだ。
「とりあえず、なんで当事者であるはずの俺も知らないうちに、性別転換者保護団体なんてできたんですか?」
俺が問いを投げる。
現在、警察がギリギリ間に合ったお陰で、世間に俺の個人情報は一切流れてないはずだ。
なのに、勝手に性別転換者を、つまりは俺を保護しようとする団体が出来ている。
情報すら出回ってない人を保護しようとしている、そんな訳の分からない状態なのである。
その質問に、小柳さんが答える。
「簡潔に言いますと、市民の暴走状態と言えるでしょう。」
「市民の暴走状態?」
「はい。先日もお話しましたあの事件、三田木原御礼参り事件以来、国民のマスコミ、国への信用がガタ落ちしまして、マスコミは仕事なんてしない。むしろ犯罪者側に情報を行き渡らせる敵になる。なら私たちの身は私たちで守らないと、と国内で国、政府に対する反対運動が起きました。あ、反対運動と言っても新しい国家を作り上げるといったことではなく、政府の影響力が大きいいわゆる『大きな政府』から、政府の影響力が小さい『小さな政府』への転換を要求する運動を指します。
国民投票の結果、反対多数の現状維持に決まりはしましたが、1部の人たちはそこで活動をやめるということをしませんでした。
そんな政府、国を信用していない大人たちが被害者を手塚から、国から守ろうと性別転換者保護団体を作り上げたと思われます。」
そんなことを聞かされても、「おお…」と声が漏れるだけである。
根底に被害者を守ろうという意思があったとしても、つまりは政府への抵抗の手段として都合のいい立場の人間が現れたから利用しよう、ってことなのだ。
絶句するのも当然だろう。
「それでは、国から当事者が困っているからやめてくれ、といった発表をしてはどうでしょうか?」
母さんが対策として意見を出す。
しかし、小柳さんの顔色は芳しくない。
「言ってはなんですが、彼らは自分たちが正しい。自分たちこそ正義だ。という考えのもと、行動を起こしているため、国から発表しても、『国が当事者に言わせているだけだ。』や『国が個人の自由を侵害している。』などと言って更に暴走するのが目に見えています。
その対応は、しないほうがよいでしょう。」
小柳さんの言葉に思わず下を向く。
国から発表してもダメ、というか国の行動自体がダメということなので、うてる手はすごく狭まったと言えるだろう。
「それを踏まえて、私共から提案したいものがあります。そのために、水島さん、高橋院長にも来ていただきました。」
その空気を、小柳さんが吹き飛ばした。
この場の小柳さん、水島先生と病院関係者以外、つまりは俺の家族の視線が小柳さんに集中する。
「あらかじめ確認しておきたいのですが、西山さんが絶対に譲れないものは、家族で一緒に暮らすということで間違いないですか?」
そう、小柳さんが俺たちに投げかける。
俺たちは全員目を見合わせ、アイコンタクトを取った後、口を開く。
「はい。それで間違いないです。」
あの日、証人保護プログラムを受けることを提案された時、俺たちは話し合い決めたのだ。
身の安全を守ることを最優先、そしてその次には家族で一緒に暮らすことを優先するのだと。
そのためには、家族みんなで引っ越しをして、父さんが単身赴任する形になったとしても(父さんはえっ!?という反応を示したが、20年間会えなくなる証人保護プログラムより100倍ましだ、と納得してくれた。)、構わない、と。
そんな俺の言葉を聞き、1度瞬きした後、小柳さんが再度口を開いた。
「それを確認出来て良かった。
それを踏まえて、私共から提案します。」
自分でもあまり気持ちのいい内容を書いてると思えないけど、読むのやめないで。もうすぐそういうところ終わるから…。