病院暮らし5
きりが良かったので短め
画面に映った男は、ゆっくりとその口を開いた。
「やあ。皆さん、こんにちは。私は手塚清秀だ。」
短いかつ単純な自己紹介。
それが、俺たちの身体を硬直させる。
そう、手塚清秀は、現在警察に追われているはずなのだ。つい先日までプレイしていたゲームが、人を閉じ込める、精神だけという限定的な誘拐に使われていたと知ったら、人々は混乱する。
そのために、警察が手塚清秀を追っていることは、世間には秘密にしているらしい。
ーーーでも、流石にこれはありえない。
テレビに出るということは、テレビ局の協力が必要だろう。
かと言って、警察がテレビ局に情報を公開しないよう圧力をかけてないなんて考えられない。
そんな俺の思考に対する回答を、手塚はすぐさま答えてくれた。
「テレビのチャンネルを変えてないのに突然番組が変わった、クリックしてもいない動画が勝手に再生された、なんて驚いている人もいるかもしれないが、理由は簡単だ。
ーーー私が日本のテレビ局、主要動画配信サービスをハッキングした、それだけだ。
ああ、テレビ局の方々、強制的に放送を止めようとしないでくれ給え。
そうした場合、放送を行っている機材にウイルスを流し、機材を使えないようにするプログラムを起動させる。悪く思わないでくれ。」
ただ淡々と、当然のこと、当たり前のことと言わんばかりに飛び出す言葉。
その言葉の異常さで、改めて手塚清秀は天才だと、化け物だと、異常であると認識させられる。
「今回、私がこのような行動をとったのは、現在私は警察に追われているからだ。
私のような運動不足が、警察から逃げられるはずもないと踏んで、何重もロックをかけて籠城をしていたが、警察の奴ら、物理的に扉、壁を破壊して侵入してきた。
しかも、私がハッキングのできない、チェーンソーなどを用いてだ。
このままでは、私は捕まってしまう。
その前に、つい最近叶った私の夢について説明したく、このような行動をとった。」
あくまでも私は悪くない、悪いのは警察だ。と言わんばかりの傲慢な発言。まさしくこれが、手塚清秀という男の本質なのだろう。
ーーー誰にも頼らない。
ーーー誰にも知らせない。
ーーー自分だけでやる。
物作りにおいて、異常でしかないそんな行動をとり続け、ハード制作において必要であった人体実験は、自分を実験台にして行う。
倫理観の狂った、自分すらも厭わない、倫理観の崩れた天才。
それが、それこそが手塚清秀という男なのだろう。
そんな天才は、口を閉ざすことなく続ける。
「さて、私の夢についての話だが、まず最初に1つの説を否定させてもらう。
私の夢が、新たな世界の想像ではないか?という説だ。先日、エゴサーチをしてみた所、1番主要な説として紹介されていたが、それは違う。
確かに私は、あの世界をノリノリで作った。
しかし、あれは本当の目的への手段なのだ。
ーーー例えるなら、空腹で、天ぷらを作ろうと思ったとする。作り始めたら興が乗って、もっともっと揚げたくなった。しかし、食材はもうない。
そんな時に、魚の骨で骨せんべいを作る。
そういったものだ。」
…た、例えが伝わってこない!
確かに骨せんべいおいしいけど、興が乗って作るものか?せっかくあるんだし、おやつにもなるからついでに作っちゃおって感覚だろ。
そんな、どこかほのぼのとした思考になる。
しかし、それは次の言葉で吹っ飛んだ。
「君たちは疑問に思ったことは無かっただろうか?全自動で構成されるアバターなんて、非効率的過ぎる、と。」
あ、と思わず声が漏れる。
確かにおかしい、アバターを全自動で構成するなんて。
普通のゲームでは、プレイヤーにアバターのパーツを配布し、プレイヤーが、プレイヤーの好みに合わせてアバターを作る、それが一般的な仕様である。ましてや、Brave Heart Onlineは1人当たり1アカウントしか用いることができないゲームである。コンピューターに任せて、クレームが舞うなんて容易に想像できる。
ーーーーそれぞれに文句があれば、だが。
そう、このゲームではアバターに対する不満というものがほとんどないのだ。
ほとんど、と言ったのもほんの僅か、クレーマー体質の人がブツブツ言っているぐらいで、他の人は驚きこそあれど別に不満を持つことなくプレイしている。
ーーーそれは、はっきり言って異常である。
「この手法は、この業界で邪道中の邪道、はっきり言ってバカしか進まない道と言っても過言ではないだろう。
ーーーだが、私はあえてその道を選んだ。
理由は単純だ。私の夢は、その中にあったからだ。」
胸がどきりとした。
俺のこの異常は、正しく身体に、アバターに関連しているものだ。
ーーー手塚の意図が、手塚が俺をこんな状態にした意図が分かる。
心臓がドクンドクンとテンポを増す。
「ゲームは、Brave Heart Onlineはついでだと、骨せんべいのようなものだと言ったが、その訳もここにある。
ーーー私は、1番最初にこのアバター構成機能を作った。それは、数多くの人にプレイしてもらうことで、数少ない私の理想とする者を探し出すためだ。
私の理想、それを理解してもらうためには、1つのワードを知っていてもらう必要がある。
ーーーー君たちは、TSというものを知っているか?」