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プロローグ1

嗚呼、なぜこんなことになってしまったんだろう。

西山奈津希(にしやまなつき)は、思わず天井を見上げ目を細める。

視界を半分ほど塞ぐ前髪の存在を確認し、再度思う。

ーーー嗚呼、なぜこんなことになったんだ、と。







俺、西山奈津希は自宅の自室にいる。

その理由は単純、夏休みの初日である今日、親友である高原誠也(たかはらせいや)が家にやって来ているからだ。

高校生になってはじめての夏休み、全力で満喫するために、最大の敵である宿題を片付けようと俺の家に集まったのだ。

とはいっても、今勉強しているのは誠也だけで、俺は小説を読んでいる。

なぜやっていないのか、と問われればその答えは簡単である。

ーーー俺は一夜漬けでの暗記は一切受け付けない、受け付けられないからである。


いや、少し訂正するとその後1日2日なら多少は記憶は存在している。だが、1週間経てばほとんど覚えていない、忘れてしまっているのだ。


中学までは「別にそれでいいや。」と最初の1週間で全て終わらして夏休みを満喫していたのだが、高校受験の時、派手に痛い目を見てしまった。

それのお陰で高校入学から心を入れ替え、毎日コツコツじっくり勉強し始めた結果、学年30番以内に入ることが出来、夏休みもコツコツ勉強しようという気持ちに完全に切り替わった。


逆に誠也は凄まじい記憶力を持ち、1度頭に入れたらそう簡単には忘れないので一夜漬け、宿題処理を続けている。

ーーーこいつが学年10番から出たことないのがすこし恨めしい。


あ、ちなみに俺は男である。

男なのに『奈津希(なつき)』なんて、どちらかというと女に使われる漢字を用いられているかというとそれは俺が生まれてくる前に遡る。

…って名付けの理由なんて大抵そこまで遡るか。


まあ、そんな思考は置いておいて話を戻すとすると、俺の名前、『なつき』というのは両親が俺を妊娠したことが分かった後、すぐに決められた。そんな早い時期だと、赤ん坊の性別も分かっていない。だから、男女どちらが生まれてきても使えるよう、『なつき』と名付けたそうだ。

というのも、もともとの俺の出産予定日は8月の中旬だったので男だったら『夏樹』、女だったら『奈津希』にしようとしていたらしい。


だが、出産はずれにずれ込んで、なんと9月中旬に俺は生まれることとなった。

9月中旬なのに、夏というのはおかしいんじゃ?と両親は慌てて別の名前にしようとしたらしいのだが、妊娠発覚直後にすぐ決めて、それ以来子供の名前の候補なんて考えもしていなかった2人にいい候補が出てくるはずもなく、出生届の提出期限が迫る中、『奈津希』でもいいんじゃないか?となり(両親ともだいぶ思考が麻痺していたようだ)、俺の漢字は『奈津希』となった。


まあ、実際にはそんなことはなく、小中と名前のことでいじられることはあったのだが。



少しばかり嫌な過去を思い出すも、せっかく小説を読んでるんだから楽しもうと首を左右に振り切り替え、読み進めた。


一冊読み終わり、ふと窓の外を見ると太陽は高々と登っており、もう12時ぐらいかと気づいた時、そちらもある程度切りがついたのか、誠也がこちらを向いて話しかけて来た。



「なあ奈津希、Brave Heart Onlineってゲームがあんだけどさ、やんない?」


Brave Heart Online?


「Brave Heart Online?なんだそれ?」


突然ゲームのタイトルだけ切り出されたって分からない。当然の如く質問を返すと、誠也は待ってましたとばかりにゲーム専門誌をカバンから取り出し、差し出して来た。




◆ ◆ ◆ ◆



ーーーBrave Heart Online

それは、世界唯一のフルダイブ型VRMMORPGである。

脳に直接アプローチすることに対する倫理観的問題も邪魔して、向こう30年は不可能と思われていたフルダイブ型VRMMOというジャンル、それを作り上げたのはただ1人の天才の夢だった。



彼が昔読んだ1つの小説、1つの物語が天才に夢を作り、天才の諦めない心がこのジャンルを作り上げた。


そんな過程があり作られたこのゲーム、それは今世界中で大ヒットしている。最初こそフルダイブという点で不安があったのか売り上げは伸び悩んだが、使用者が無事であることとその感想がとても良かったことで爆発するように売れ、なんの実績もない会社が作ったゲームが、1年の売り上げでトップになるという偉業を成し遂げた。


開発者ーー天才、手塚清秀(てづかせいしゅう)はこう語る。

「確かに、1年間のゲームの売り上げという点ではNo. 1になったかもしれません。でも、それがゴールではないんです。このゲームは、もともと僕の夢の実現の為に作り上げたものなんです。

その夢にはまだ、辿り着けてないですから。」


ーーー天才が語る夢

彼はその夢の内容を、未だ誰1人として語ったことはない。

ならば、私たちは彼が見せてくれるその夢の姿を見る時を楽しみに待つとしよう。



◆ ◆ ◆ ◆



「いやさぁ、ワクワクするし面白そうだけどさ?デスゲームものの小説読んでた人にフルダイブ型のゲーム、その場で進める?」


そう、さっきまで俺が読んでた小説はデスゲームもの、ゲームの世界に閉じ込められ、ゲームオーバー=死となった世界での主人公や仲間たちの奮闘を描いた作品なのである。

流石に薦めるタイミング悪すぎない?と文句を言うも、「こんなタイミングでデスゲームもの読んでるお前が悪い!!」と返されてしまった。

解せぬ。



「俺もやってんだけどさ、むっっちゃ面白いから!!お前、柔道やってて体動かすの得意だし、旅行好きだし絶対ハマるって!!」


誠也はそう言うと、身体を目一杯使いその面白さを表現しようとした。

俺とコイツはゲームや漫画の趣味がめちゃくちゃ合う。まあ、じゃなかったら親友なんてやれないと思うが。

ーーーちなみに、この旅行好きというのは無計画に好奇心で自転車をてきとうな方向に走らせるだけの0円旅行のことを指す。

バイトしてない高校生に旅行に行く金なんかないのだ。



「お前がそこまで言うんだったら…、うんやってみるか。」


「おお!そう言ってくれると思っていたぜ、親友!!実はこのゲーム、自分で買ったのと親が買ってくれたの、ダブってて困ってたんだよ。半額で譲ってやるから、ちょっと待ってろ!持ってくる!」


そんなとこだと思った(笑)

コイツはアホなことに何を買ったか気にせず買い物をするため、同じゲーム漫画を2個3個と持っていることが度々ある。

でもまあ、定価で買わせるんじゃなく、半額まで削ってくれるって事は、さっき言っていた面白いっていうのも本当のことなんだろう。

俺はほんの少しだけ、期待に胸を高鳴らせた。





◆ ◆ ◆ ◆




「じゃあ、登録終わったら『転移の泉』ってところに強制的に案内されるからその中に入ってくれ。そうするとどこの街でも自由に移動できるから、イーストタウンを選んで、そこで待っててくれ。すぐ合流するから!」


ゲームを渡し終え早口でそう言ったら、誠也は再度我が家を飛び出して行った。…元気だな。

俺なんかよりあいつの方が数倍元気じゃないかと思いながらも、頭部にゲーム機をセットし起動する。


ーーBrave Heart Onlineへようこそ

名前を登録してください。


髪色がピンクのお姉さんが出てきて、そう言った。

まあ、名前は既に決めているので躊躇なく《マナツ》と打ち込む。

《マナツ》というのは他のゲームでも使っているネームだ。自分の名前を弄っただけのものでもあるし、そこそこ気に入っている。

そんなこんなしていると、身体が急に光り出した。びっくりしていると、そのすぐ後に

ーーアバターの構成を開始します。

とアナウンスが入り、ほっとした。


また少し経つと、

ーーアバターの構成が完了しました。

とアナウンスが入った。


すぐにゲームを始めようとするも、まだお姉さんは居続けている。まだ何かイベントがあるのか?と思い待つ。すると、

ーーー《マナツ》さんですね。

《マナツ》さん、是非この世界を楽しんでいってください。


それだけ言い、お姉さんは消えていった。

このイベント何か意味あるのかな?

お姉さんが消えると、真っ白だった周りは自然に覆われていき、妖精の飛び交う泉だけが現れた。

恐らく、これが誠也の言っていた『転移の泉』というやつなのだろう。

とりあえず、あいつと合流しなければ何も始まらない。

水着でもないのに水の中に入るのは乗り気ではないが、それ以外にどうすればいいか分からないので入るしかない。

俺は心を決め、泉に入ろうとした。



その瞬間、思わず動きが止まった。


ーーーBrave Heart Online、このゲームは完全自動で構成されるアバターを用いている。勿論、使用者から不満が挙がらないために、全てのアバターが標準以上の容姿となっている。

また、ゲーム機が初使用時に生体情報を読み取り、複数アカウントは不可能の仕様となっている。


ーーさて、なんでこんな事を改めて確認したのかというと、こういう事態だからだ。


胸元あたりまで伸びた銀色の髪、長い睫毛に大きいかつ優しい印象を与える目、現実とは比べようもない程小さい輪郭。

ーーーうむ、総合すると可愛らしい『女の子』の顔である。


「お、女ーーー!!??」



俺は女のアバターが当たってしまった。

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