表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私が私であることに気づく前と後の話

作者: euReka

 むかしむかし、あるところに柔らかい感じのものがありました。

 それを見つけたとき、自分が誰だったのかは覚えていないのですが、冷たい雨が降っていたことはよく覚えています。

 もしかしたら、柔らかい感じのものはそこで誰かを待っていたのかもしれません。

 しかし、このままだと雨で溶けてしまいそうだったので、私はその柔らかい感じのものをそっと自分のポケットに入れました。

 

 私が私であることに気づいたとき、柔らかい感じのものはすでに消えていました。

 ポケットには大きな穴が空いていたので、きっとそこからこぼれ落ちたのでしょう。

 穴が空いた理由として思い当たるのは、むかし、トゲトゲした人とすれ違ったとき、そのトゲトゲに何かを引っかけてしまった出来事です。

 トゲトゲした人は、色んなものを引っかけたり傷つけたりしながらさまよっていたので、街中が戦場のように荒れてしまいました。

 しかし、あらかた街が壊れた頃にはトゲトゲは抜け落ち、当のトゲトゲした人は普通の人になってどこかへ消えました。

 私は抜け落ちたトゲの一つを持っているのですが、よく見るとそのトゲの表面もかなり傷がついています。

 傷の数を数えると1111本あったので、そのとき私の誕生日も11月11日に決めたという経緯がありますし、私が私であることに気づいたのもそのときでした。


 かつてのトゲトゲした人からは、ずいぶん後になって電子メールが届きました。

 メールには、あの頃は色んなものを傷つけてしまい大変すまない、といった内容のことが書いてありました。

 そこで私は返信して、柔らかい感じのものについて知っていることはないか尋ねてみたのです。

 すると彼は、あなたの言っているものと関係があるか分からないが、自分も柔らかい感じのものを持っていると返してきました。

 しかしその柔らかい感じのものは、自分にとてもなついているし、自分がいなくなると寂しがると思う、だから、たとえあなたのものであっても返すのは難しいと。


 私は、かつてのトゲトゲした人の電子メールを読んだあと、一晩中、自分が持っているトゲを眺めました。

 すると夜明け頃、トゲの表面に刻まれた一本の傷から何かの芽が生えていることに気づいたのです。

 芽はおはようございますと言うと、歩き出してラジオ体操を始めました。

 あと1110本も傷があるので、全部芽が生えたらみんなで学校や村をつくろうと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] よく分からないです。でも何故か惹き込まれました。トゲの傷がラジオ体操をし始めた辺りが好きです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ