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ユウマは額の汗をぬぐった。さぁ~て、開墾だって? 伝説の勇者様に何やらすんだよ。久々にそう言いたい気分だった。
開墾とは……山林を切り開いて農地や宅地,道路,水路などにすること。ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説一部抜粋。
このパパン村に来て既に2日が経っていた。村に残るなら、ということで開墾作業をすることになった。ちなみに、村長の家にしばらく寝泊まりして良いのだが、3週間後までに自分の家を山の中に作れということだった。マジかよ。冷たいな。ちなみに何で山の中かというと、村の平地は村長の土地なのだそうだ。それを村人に分け与えて耕させている。つまり、もう分け与える土地がないのだそうだ。
「だから、お前は山に住め。切り開いた土地はお前の物にしていい。ただし、開墾するまでにお前に恵んでやる食費に関しては、ワシへの借金とする。その借金の返し方については、お前に任せる」
村長はワザと分かりにくく言ってるが、つまり開墾しても、その土地は借金のカタとして(村長に)とられる……、という話のようだ。搾取する側とされる側の構図にこの伝説の勇者様を嵌めこみたいらしい。ふふふ。常人なら開墾するのに数年がかりで、借金だらけになり、自分が汗水たらして開墾した土地をただ同然で引き渡すのだろうけど。この伝説の勇者様を舐めるなよ? 一瞬で終わらせてやるぜ。
ユウマは村長宅で飯を食べると、自分の開墾を進めている場所に戻ってゆく。今日は暑く乾いた日だった。こんな日を待っていた。開墾場所に戻るとユウマは魔法を唱えた。
「千里眼」
この魔法は離れた場所でも自由自在に探索する魔法で、ユウマはこの魔法を使い、村人の様子を監視していた。絶対にこれからやることが見つかってはならないのだ。
「強炎呪文」
ユウマの掌から物凄い火力の炎が飛び出す。その火力は並大抵ではなく、木を一瞬で消し飛ばしていった。木の原型はあとかたも無く消え、パラパラと灰が空中に浮かんだ。ユウマは、木の根っこも念入りに燃やした。
手を握り、炎を止めた。
ユウマは、あっという間に20m四方の木のない土地を作りだした。次にこの大地に水をかけ、土の温度を下げる。
「水呪文」
炎の熱に犯された大地は、湯気を上げ、熱を冷ましていった。
「よし」
時間にして30分程度だった。それで20m×20mの土地が手に入ったのだ。坪計算だと……わかんねーな……。とりあえず小さいプレハブ小屋を建てることがやっとって感じかな。
「じゃあ、次は小さいログハウスでも建てるか」
ユウマはまた魔法を唱えた。
「斬風呪文」
すると、ユウマの手から刃のように鋭い空気が飛び出した。空気はどんどんと木を切り倒してゆく。この切り倒した木々を斬風呪文で更にカッティングしてゆく。で、それを持ちあげ、組み立ててみた。カットされた木がユウマの背丈の2倍近くまで積み上がった時点でユウマは手を止めた。
「ちょっと縦長な気がするけど……。まぁいっか」
今のところ、窓もドアも無い、ただキッチリと四方に木を敷き詰めただけの物だ。ユウマは空間魔法を使い、そこからアイテムを取り出す。ユウマが昨日、数キロ先の街市場で有り金はたいて買ったドアと蝶つがいなどだ。これをログハウスに設置する。そして、釘をログハウス全体にうちつけた。その工程が全て終わると、ユウマは敷き詰められた木をくり抜くようにログハウスの内部をカッティングしてゆく。
「うん。こんなもんだろ」
ログハウスが完成した。小さいが3度目の人生初の我が家だ。
ユウマはドアからログハウスの中に入り、真っ暗なログハウスの中で大の字になった。この世界に来てからはじめてこんなに思い切り寝転がった。
ユウマはふとあることが気になりステータスを呼びだす。
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名前:如月ユウマ
ステータス:異常なし
性別:男
称号:伝説の勇者
職業:聖騎士
レベル:92
魔法:強化魔法10、精霊魔法10、空間魔法9、補助魔法10、認知魔法MAX
スキル:遠投
ユニークスキル:因果律の除去
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「このユニークスキル……、因果律の除去って何なんだ?」
ユウマは説明の項目に移る。説明文にはこう書いてあった。
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ユニークスキル:因果律の除去
因果律の除去とは、現在ある何らかの因果関係をもたらす関係ごと除去するスキルの名称。このスキルによって何かを除去すると、それと因果関係を持つ全てが消失する。除去する対象はどんな対象でも良い。ちなみに因果性とは全ての出来事に何らかの原因があると考える理屈である。こちらでは把握しきれていないスキルなので、因果律の除去を使用した際に起こった事例のみを記す。Aが石に躓き転んだ。このAが転んだ事を因果律の除去によって無かった事にした。すると、石も消えたが、Aも消え、その親も消えた。更にいくつかの街も消失した。このスキルは事前にどの程度まで範囲が及ぶか分からないスキルであり、時間軸ごと消滅する危険をはらむ。尚、使用は生涯に1度だけに限られる。
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「ふむ……。よく分からん。なんかちょっと危なすぎねーか? しかも、1回しか使えねーし」
ユウマは舌打ちをしながらステータス画面を閉じた。これ以上見ても分かりそうになかった。なので、とりあえず今日はここで寝る事にした。
はじめて寝る我が家は最高に気持ち良かった。