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 沢山のロウソクが灯され光に包まれた壇上にはアイリス=アルスターが立っていた。既に日は落ちかけ、オレンジ色に空が染まっていた。アイリスは喋り始めた。


「え~、ゴホン。今日は貴族代表としてここに登壇することになりました。アイリス=アルスターです。まだ、若輩者ですが皆さんよろしくお願いします」


 宮殿の庭全体が拍手に包まれた。アイリスの前には声音拡張魔法具と呼ばれる物が置いてあり、この前で喋ることで会場全体に声が響くようになっていた。なので、大声を張り上げなくても大丈夫だった。アイリスが口を開けた。


「実はこの場で何を喋ろうか……、ずっと迷っていました。このスピーチをやると決まったのがなにせ2週間前でしたので。……ずっと、迷っていたんです。何から話せばいいのか……。よくよく考えると皆さん私のお父様に会ったことがあっても私ははじめてですよね。ということで、まず私の自己紹介をしたいと思います。私の名はアイリス=アルスター。ジョゼ=アルスターの一人娘です。きっと名前なら知ってる人は多いでしょうね、だってちまたの卑猥(ひわい)な新聞は私だけを取材対象にしてる所もあるらしいから。きっと安い新聞会社ね。すぐに潰れてくれるとありがたいのだけど」


 ここで会場に笑いが起きた。アイリスは気持ちよさそうに喋る。


「まぁそんな願望はさておき、私の偉大なお父様……、ジョゼは殺されました。知ってる人は多いですわよね。で、私が跡を継ぎました。アルスターはもう私一人しか残っていないのです。猫のオットーの世話しかしたことのない私が、いきなり7つの土地と爵位を持つ事になったわ。変ですわよね。それともよくあることなのかしら? 私には分からないけど……。ああ、そう実はお父様が暗殺された時に暗殺者を撃退してくれたのもさきほどまで皆の前で喋っていた彼なの。英雄・相川京太!」


 京太に向かって拍手が飛ぶ。アイリスは京太に向けて手招きした。


「京太! こっちに上がって来て」


 京太はいやいや、と言うがアイリスが強引に登壇させ自分の横に並ばせた。


「俺はさっき喋ったばっかりですよレディ」

「いいの、これが私なりの方法よ」

「全く、むちゃくちゃな公爵様だ。ねぇ皆さん? そう思いません?」


 ここで再び会場が笑った。京太は抜群に受けが良い。


「そうだ。京太、聞きたい事があるの」

「なんです?」

「強敵と対峙し続け、あなたは生き延びてきたわ。何度も魔物にやられそうになったはずよ」

「ええ、まぁそうですね」

「どうやって生き延びてきたの? 秘訣を教えてちょうだい!」

「あれ? ここって勇者への祝辞を述べる場ですよね?」

「いいから早く!」


 この夫婦漫才のようなノリに会場は暖かい空気に包まれた。所々で笑いがおきた。京太は渋い顔を作りながら声音拡張魔法具に顔を近づけた。


「やはり、油断しない事でしょうね。奴等は魔物です。いつ何時(なんどき)襲ってくるか分からない。常に気を張り、構えてなきゃならない。これですね。これが生き延びた秘訣です。別に特別なことがあったからじゃありません。常に用心を怠らなかっただけです」

「素晴らしいわ! 皆、英雄・相川京太に拍手を!」


 ここでまた会場から拍手が起きた。


「京太! 御褒美よ!」


 そう言ってアイリスは京太の頬にキスをした。笑いと共に持てはやす声が会場に響いた。京太は満足げな表情を作った。アイリスは声音拡張魔法具に顔を近づけた。


「今日、ずっと考えていた事。それは、勇者達を褒めたたえる事よ。ジーク王陛下を頂点とする私達トレディア王国の誇りは貴方達だといいたいの。それで私は考えたわ」


 アイリスは、声音拡張魔法具を抱えたまま走り始めた。


「私は全員とハイタッチするわ!」


 貴族は皆、正気か? という目でアイリスを見た。アイリスは笑った。勇者達はまるでサッカーWカップで日本代表が勝利した時のようにアイリスとハイタッチを繰り返した。1分程度でハイタッチは終わった。アイリスは壇上に戻って来た。


「はぁ、はぁ。結構面白かったわねハイタッチ……。え~最初はここで終わりにしようかと思っていたけど……、そうね。この際だから言うわ。実は私には一人だけ憎むべき勇者がいるの……。あ、もちろんあなた達の中にはいないわよ。新聞でその名を知ってる人はいるでしょうけどね。“如月ユウマ”私の人生を大きく変えた男よ。皆はこう思ってるんじゃないかしら? ああ、そいつなら知ってるわ。偉大なるジョゼ=アルスター公爵を殺した男でしょ? ってね」


 アイリスは(あご)を何度が細かく動かした。


「ええ、その通りよ。私の大事な大事なお父様を殺した男。でも、ここからは皆さんが知らない話……。私はその男を前から知ってたの……。少し昔話をさせて。私がアルスター領内で身分を偽って平民として生活していた時期があったの。当時の私は城の中から出る事のできない身分を疎ましく思っていて……、で、お父様に何度も交渉したわ。この生活に耐えられない、一度でいいから平民として暮らしてみたいって。お父様は私のこの奔放(ほんぽう)な要求に頭を抱えたでしょうね。でも、結局折れて下さった。領内の目の届くところであれば、暮らしてもいいとおっしゃって下さったの。だから、小さな村で警備の仕事を始めたわ。腕には自信があったから。アルスターの黒剣騎士団筆頭騎士から直接手ほどきを受けて育ってきたわけだし、農作業で育った男相手には負けない自信があったわ。そうして、村で暮らしはじめて3ヶ月が経ったくらいの頃に……、あの男……、如月ユウマが現れた。何でも出来る男。嫌な奴だったわ。でも気になってた。よく分からないけど、ユウマのことを考えるだけでドキドキしてる自分がいたの。そんなある日、村に魔物が入り込んできたの、私は殺される寸前だった。でもユウマが助けてくれたの……。私は思ったわ。私の運命の人がついに現れたって。ああ、だからこんなにドキドキしてたのかぁ……、白馬の王子ってこういう人をいうのかぁ……そう思ったわ。納得したというか。運命を感じたの。でも、もっと運命を感じたのはお父様を殺されてからよ。ユウマは本当に訳の分からない理由で風の様にやって来てお父様を殺したわ。許せなかった……。とても許せる事じゃなかったわ。私は嬉しかったのに……、ユウマが帰って来て本当に嬉しかったのに。結婚するつもりだったの……お父様を殺した賊と……、笑っちゃうでしょ? でも私はその日からユウマの為だけに生きたわ。寝ても覚めてもユウマの事が頭にチラついて離れられないの……、ずっと……ずっとよ。今だってそう……。私、思ったわ……、これは逃れられない運命なんだって……。憎しみも愛も……全てあの人との(きずな)なんだって……。私は運命を受け入れたの。私はユウマと結婚することにしたわ。ただし、殺してから。ユウマを殺し、首を取り、その首を毎日愛するの。何十回もキスしてあげるわ。青白い唇に、腐りかけた頬に、()しみない愛を注ぐわ。だって生きたままだと許せないじゃない? お父様を殺した仇をとらないと……、でもユウマは運命の人。私はユウマ以外と添い遂げる気はないわ。なら私は死体を愛するしかないじゃない? …………でも、まずはユウマを見つけないとダメ。そこで私は考えたの。ああ、アルスター領内しか探せないから見つからないんじゃないかって。もしも、この国そのものが全て私の物になれば、ユウマは見つかるじゃないかって」

 

 席に座る王をはじめとする貴族達は口をあんぐりあけたまま、アイリスを見た。全員アイリスの言っていることの意味が分からなかった。ゆえにアイリスの口から発した言葉も当然現実感があるような言葉に聞えなかった。


「この国の土地は、ほとんどが爵位を持つ貴族がもっているわ。王も含めてね。この人達が全員いなくなれば、ひょっとして全部の土地が手に入るじゃないかって思ったの。ふふふ。その為には貴族が一同に会するこの機会は私にとって重要だったわ。ここで皆を消すしかない……、そう思ったわ。そうそう京太?」


 アイリスに呼ばれ、京太は口を開けながら引きつった顔でアイリスを見た。アイリスが京太に語りかけた。


「……例えばだけど、相手を一撃で殺す魔法とかってあるのかしら?」

「何言ってやがるこのイカレ女――」

暗黒死亡精神呪文(デスウェルタス)よ。知ってて聞いたの。でも、通常は無理よね。だって、相手の肉体に直接触って魔力を送りこまなきゃならないし。もしも、触っている間に警戒心をほんの少しでも相手が感じている場合は無効化される暗黒魔法だし……。そう言う意味で条件が非常に厳しい魔法よね。更に魔法自体も暗黒魔法を最高まで極めた術者にしか使えないし。本当に……ふふふ。使う術者は限られるし、条件が厳しいし、本当に使えない魔法よね」

「……」

「そこでまた京太に聞きたいの。……あなたが考える、生き延びる秘訣って何だっけ?」


 数秒の沈黙の後に、京太は導かれるように答えた。


「…………油断しないこと」


 アイリスは小さく頷いた。京太は吸い込まれるようにアイリスの瞳を凝視していた。そして、その質問の意味を理解すると、顔をクシャクシャにしながら京太は腰から剣を抜き、アイリスに斬りつけようとした。

 アイリスの口が動く。


「正解よ」


 京太の目は大きく見開かれた。

 次の瞬間、京太の肉体は爆音と共に内側から弾け飛んだ。血と内臓があたりに飛び散った。この瞬間、会場にいた勇者達は動き始めていた。剣をとり前進する者、魔法を唱えようとする者、槍をとり串刺しにしようとする者。その全てがアイリスの命を狙っていた。

 アイリスは指を鳴らした。すると、断末魔(だんまつま)と爆発音が合唱するように溶け合い、武器を手にとる勇者達の肉体が、まるで風船が膨らんで破裂するように木端微塵に破裂した。血と肉が会場に降り注いだ。貴族達は“勇者達”のシャワーを浴び、全身を赤く染めた。宮殿の庭は一瞬にして地獄と化した。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 ムンクの叫びを想像させるような恐怖に荒れ狂った“叫び”が宮殿の庭でハーモニーを奏でた。そんな中でもよく聞こえるようにアイリスは声音拡張魔法具を口に触れながら喋った。妖しさと力強いが混ざった不思議な声だった。


「魔王は京太が殺したわ。3代目の魔王、ダビド=ストナーをね。そして、その力は4代目に受け継がれた。4代目魔王である、このアイリス=アルスターにね」


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