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王都の石畳には数日前の号外がクシャクシャになりながら捨ててあった。エドガーはそのクシャクシャになった号外を拾おうとするが、不意に風が吹き、飛ばされていった。エドガーはそれを目で追った。目で追った先には沢山の人だかりが出来ていた。露店が多くなった、そして何よりも楽しそうな顔をする人々が増えた、そう思った。
相川京太が魔王を倒したという一報以来、王都の大通りはこの世の春を謳歌するように人が溢れていた。彼等は言う、人と魔は1000年戦い続けてきたと。エドガーは前世を思いだした。これと全く同じ光景を見た気がした。魔を倒し、人の喜びが溢れる様を。その時思った、自分は偉大な事を成し遂げた男なのだ……と。振り返ると、あの時が前世での絶頂の時だった。
だが、前世と違い、このあと内乱は起こらない。たぶん、としかまだ言えないが、首謀者を殺したのだ。反王政派はまとまっていない筈である。それに、ジョゼ=アルスターを除けば、強力な指導力を発揮する人間はもういなかった。ふと思った、今回一番得をしたのは誰なのか……、と。
――……ジーク王か、京太かな。……やっぱり京太だな。
「んっふふ」
エドガーは自嘲気味に笑った。漁夫の利という奴である。京太に良い思いさせるのはちょっと癪に障るが……、まぁそれもいいやと思った。今回魔王を倒したのは間違いなくアイツなのだから。自分と言えば……、当初にそうしようと思っていた通りにこの世界で力を見せる事なく平凡に暮らしている、それでいいと思った。エドガーは手に持っていたバーガーを急いで食べる。そろそろ昼休みは終わりだ。
「おっちゃん御馳走さん!」
「あいよ! エドガー先生いつも贔屓にありがとよ! 生徒もここに連れてきてくれよな!」
芋づる式に金を引き出すつもりか? エドガーはそんな事を思いながら席を立ち、私塾に戻ってゆく。今日は精霊魔法を重点的に教える日だった。途中、お腹を痛そうに抱える生徒を見つけた。
「どうした? 大丈夫か?」
「エドガー先生! ダメだ……なんかお腹が痛くてさ……。今日は授業やすむよボク……」
「そっか……、そうしろ」
「だって勇者京太の凱旋パレードは生で見なくっちゃ。その為にも今はちゃんと休まないと!」
生徒の本音を聞いた気がした。こいつは別に腹が痛いから休むんじゃなくて、京太の凱旋パレードを生で見たくて体調を整えたいから休むのだそうだ。エドガーはかつて当事者だったのでよく分かっているが、パレードなど3週間以上も先である。まず、今回のパレードには公・侯・伯・子・男の爵位を持つ全ての貴族が呼ばれ、まるで民族大移動のようにこの王都に押し寄せることになっていた。王都は彼等の親族や家来で溢れた。そういえば、王都の外にもテントを張って寝泊まりする連中がいたっけ。
「お前、何て名前だっけ?」
「カルロだよ! 生徒の名前忘れる? 普通」
「……カルロよく聞け、パレードはまだまだ先だ。あと3週間以上はあとだ」
「え~~、でも王様が早くやりたいって言ってたじゃん!」
「うん。でも3週間以上あとなんだ。ホラ貴族の皆さま方が集まって盛大にやるからさ。これでも彼等の中では最速のスピードなのさ」
「え~~。3週間なんて遅すぎる……。はぁ、まぁいいや。ボクは割と好きな物は後に食べる方だし、我慢できないわけでもない」
どういう理屈かは分からないが、カルロはそういうと腹から手を放し、それでも今日は休む、とだけ言い残し、自宅へ帰っていった。エドガーは、それを見送ったあと私塾に戻り授業を再開した。授業中ずっと考えていた、公・侯・伯・子・男の爵位を持つ全ての貴族が集まるなら、アイリスもその中にいるのだろう、と。怖かった。しかし、ひと目だけでも見たかった。エドガーは、自分のこの感情が一体どんな感情なのかよく分からなかった。よく分からない感情に身をゆだねるのは止めようと思った。とりあえず、分かっている事は、如月ユウマを知る人物が最低二人はこの王都に現れるということだけだった。
ここでヘマなんてしてはいけない。
エドガーのまま一生暮らす為にも、このパレードまでの期間とパレードの最中は一層用心しようと思った。
そして、パレードの朝がやってきた。




