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如月ユウマは目を開いた。
見渡す限りの白い空間。そこにポツンと一人ピンク色の髪の女の子が椅子に座りこちらを眺めていた。その髪と顔……、それにこの白い空間には見覚えがあった。
ユウマは口を開く。
「あー、えぇ……っと……。前……たしか会ったことあるよね? ここで」
『覚えてくれていましたか、如月ユウマさん』
「じゃあ、俺は死んだのか?」
『まぁ、そうですね……』
ユウマは顎に手をあてた。
「え~っと……。俺は確か……」
『はい、救国の英雄として御活躍なさってましたよね。召喚者の求めに応じて』
ユウマは段々と思いだしてきた。現実世界で死に、死が条件である召喚術で異世界に召喚された。そこで努力に努力を重ね、並居る魔王軍を打ち倒し《英雄》となった。だが、本当に大変だったのは英雄となってからだった。ユウマを担ぐ勢力が王家の転覆を狙い、それに巻き込まれ……。ゴクリ。
『どうやら思い出したみたいですね。国は分裂し、血で血を洗う時代に突入していきました。全く人間の欲とは恐ろしいものです』
「……どうして俺はここにいるんだ? 死んだら必ずここに呼ばれるものなのか?」
『いえいえ、そういうわけではないです。召喚の誘いがあったからです』
「……何の目的で?」
『以前と同じ魔王軍と戦ってほしいという依頼ですね。だだ、多少事情が複雑といいますか……、あなたが一度目に召喚された人々に再び召喚されることになります』
ユウマは首をひねった。ユウマ達を召喚した大神官アルドロは、反王政派の最初のターゲットになった人物で、もう生きてはいないはずなのだが……。それに残党は残ってるかもしれないが、魔王はユウマが葬ったハズだ。なので、魔王軍と戦ってほしいという依頼も……どこかおかしい。
「なにそれ、本当にその依頼で合ってるの? だって俺が魔王倒しちゃったぜ?」
『あの~、え~っと、説明が面倒ですね』
「お前の唯一の仕事じゃないのか?」
『まぁ、そうなのですが……。あ、そうそう、今度はどんな人生を送りたいですか?』
「え? そうだな、今度はひっそりと暮らしたいかな……。そういや、記憶がハッキリしてないんだが……。前回、俺は召喚されてから何年ぐらい異世界で生きることができたんだ? いや何年後に死んだかと言った方が分かりやすいかな」
ユウマの声を聞き、頷いたピンクの髪の少女は、膝の上に置いてある本を開け、ページをめくってゆく。パララララ、ページをめくる音がユウマの耳に聞こえた。
『え~っとですね……、ちょっと待って下さい。…………4年ですね』
「4年!? そんな短かったっけ!?」
『はい、最初の2年で魔王ダビドを倒し、翌年には乱世に突入しました』
「うわぁ~、そんなダッシュな展開だったっけ?」
『ユウマさんは何と言いますか……、こう勢力から勢力に、まるで渡り鳥のように飛び回ってましたよね~。え~、あ~っと、ホラ! 三国志の呂布みたいな感じで。んふっ』
「あ、何笑ってんだテメーは」
このユウマの反応がおかしいらしく、少女は本を両手で掴み、それを太ももにバシバシと叩きつけた。
『だってあんまりにもコロコロ裏切るもんだから、最後には味方にまで裏切られて掴まり処刑されちゃったじゃないですか! あの顔~っ(笑) ブルータス……お前もかっ!! みたいな!!』
「なんか、今、すっげーカチンと来たんだけど。俺だって頑張ってたんだよ! 結構良い条件の提示してくれる人もいたしさ。勇者だ英雄だって崇められりゃ、その気になっちゃうだろ普通!!」
『ユウマさんのは、流石に節操がなさすぎたという事でしょうね。あ、そろそろですね。では3度目の人生頑張ってください。あ、そうだそうだ。肝心なこと忘れてました。あなたが2度目の召喚だということは周囲の人には絶対にバレないで下さいね! バレたら死ぬんで! というか魂が消滅しちゃうんで』
「はい? え? バレたら死ぬ? え? 魂が消滅する? 言ってる意味がよく分からんのだけど」
ガチャン。
その時、ユウマの足下に穴が空き、ユウマはその穴に落ちて行く。視界に見えるピンクの少女の姿が急速に小さくなってゆく。少女の叫び声が聞こえた。
『じゃあ、改めて3度目の人生がんばってくださーーーーい!!』
「いやいや! バレたら死ぬって何? っていうか何も肝心なこと聞いてないんだけど! おーい! おーーーーい!!」
懸命に叫んだが、聞えているのかいないのか……。落下してゆくユウマの視界は段々と暗くなる。そういえば前回の召喚の時もそうだった。
こうして如月ユウマの3度目の人生がはじまった。