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 豪華な装飾品が並ぶヨブ=ベントナー伯爵の住まいはベントナー城の一室にあった。そして、ヨブ=ベントナーの腹心、ラミアス=ジルの住まいもここにあった。

 王の密使と名乗る男がベントナー城を訪れたのは、夜も深くなった頃だった。

 ヨブ=ベントナーが椅子に深く腰掛けていると、横に立つラミアスが聞いてきた。


「どうしますか?」


 ヨブ=ベントナー伯爵は何も言わなかった。こういう時は決まってラミアスに面倒事を押しつける合図のようなものだった。王の使者を名乗る以上会わなければ王への礼を失する。しかし、何処の馬の骨か分からぬ密使などにワザワザ会いたくない。そんな、心理が働いた。その意図を察したようにラミアスが部屋を出ていく。だが、しばらく経つと血相をかえてベントナーの部屋に戻ってきた。ラミアスは息を切らしていた。


「どうしたラミアス」

「ベントナー様! これを!」


 ラミアスが持っていたのは密使が持ってきたらしい手紙だった。ヨブ=ベントナーは、それを手に取り見た。心臓が止まるかと思った。



(けい)が王家転覆の企みに加担しているという告発があった。既にいくつかの文章により動かぬ証拠を掴んでいる。もしも、アルスター卿の企みに加担しないのであれば本領(ほんりょう)安堵(あんど)を約束するが、そうではない場合。(けい)の領地を一番最初に潰す』


 ベントナーは自分が青くなっていくのが分かった。


「なぜジーク王が知っている?」

「分かりません。誰かが裏切ったのかもしれません」


 ベントナーは首を左右に振った。


「そんなことはどうでもいい! これからどうするかだ!」

「はい……」


 そう言ったままラミアスは黙ってしまった。


 ――ええい! 役立たずめ! ……ん?


 ここでベントナーの頭に疑問が湧きあがる。何故ジーク王はこのような大事をこんな男に託したのか。密使の名前は“《イーサン》と名乗る聞いた事も無いような男だった。普通は素姓の確かな者がこのような話を持ってくるのではないか? と思った。

 ベントナーは書状を広げて、次にラミアスに尋ねた。


封蝋(ふうろう)はどうであった? トレディア王家の模様だったか?」

「偽造であるとおっしゃりたいのですか? 封蝋(ふうろう)は以前捺されたことのある王家の封蝋(ふうろう)と何度も見比べましたが、間違いありませんでした」

「では署名はどうだ? ワシにはジーク王の署名に見えるが、違うかもしれん。確か王の署名の入ったものが何かあった筈だ」

「あ、少しお待ちください!」

 ラミアスはそう言うと席を外し、手に一通の書状を携えて戻ってきた。

「これにございます。以前一ヶ月間の禁酒令を出した時のジーク王の署名です」


 ベントナーはそれをラミアスの手からもぎ取ると、両方の署名を見比べた。全く同じ署名にしか見えなかった。ロウソクに近づけ再度見比べた。本物だ、そう思った。むしろこれを偽物と断じる事の方が無理があった。署名(しょめい)封蝋(ふうろう)が間違いなければ正式な文章。これはこの世界における常識的な知識だった。密使は本物。そう、断定せざる得なかった。


「よし、その男に会おう」


 ベントナー伯爵はそういうと、男の待つ城の広間にラミアスと向かった。ベントナーが姿を現すと、イーサンは膝を折り、頭を下げた。ベントナーは広間に用意された豪華な椅子に腰をかけた。


「陛下からの手紙を読んだ。陛下は何かを勘違いしておいでだ」

「ベントナー(きょう)、私は返事を預かるように陛下から言われております。今の返事が、本当に陛下への返事でよろしいのですね?」


 このイーサンの態度に思わずラミアスが噛みついた。


「イーサンとやら! 無礼であろう!」


 イーサンはこれを無視して喋りつづけた。


「陛下はこうおしゃっていました。アルスター公の企みに加担しないのであれば、身の証をたてよと。今回、私にソレが渡された場合にのみ。陛下は許すとおっしゃっていました」


 青い顔をしたベントナーは聞いた。


「ソレとは何か? 人質であるか?」

「絶縁状でございます。アルスター公への」

「なっ」


 ベントナーにはジーク王の考えがすぐに分かった。反王政派の中核を成す自分とアルスターの軍の内、ベントナーの軍が消えることで、アルスター公爵を中心とする反王政派に戦争を思いとどませるのだ。少なくとも一度アルスターに絶縁状を送りつけてしまったら、その後の関係修復は難しい。それに関係修復の過程で真実を話そうにも王の一度の脅しに屈した臆病者とのそしりを受けるだろう。どの道、反王政派に甚大な被害を与える事は間違いない。


 ――それに……ジーク王はその後、どうなさるおつもりだろうか?


 ベントナーにはそれが読めなかった。そもそも本当に自分を許すのかさえ分からなかった。だが、この手紙の通りなら、王を裏切れば自分の家は終わりだと思った。ベントナーの領地は王の直轄領からほど近い所にあった。一番最初に潰す。この王の言葉には真実味があった。従うしかない、ベントナーはそう思った。

 結局、ヨブ=ベントナー伯爵はアルスター公爵に対する絶縁状と王家への謝罪の書状の2通をイーサンに渡した。イーサンはそれを携え言った。


「陛下が密使を使わしたのはことを大きくしないためです。公の場にしろ何にしろ。今後この事は例え陛下の御前でも一切口外なさらないようお願いします。あと、アルスター公に絶縁状を突きつけた後は、何があってもアルスター家の使者とお会いにならないように。手紙の交換もです。それが絶縁です。そうして忠誠心を陛下にお見せください」


 ベントナーは何度か細かく頷いた。イーサンは一礼をすると、風のように城から去っていった。その様子を見てベントナーは思った。王家には王直属の暗殺や探索をする部隊があると聞く。恐らくあの人物もその一員だったのだろう。ベントナーは、椅子から立ち上がろうとして気づいた。知らない間に腰をぬかしていたらしい。しばらく椅子の背もたれに寄りかかった。その時、思った。ジーク王とは恐ろしい男だと。


 イーサンは、垂れ(バーナー)解除と叫んだ。高難易度ではあるが、相手が能力表示(ステータス)を認知する魔法を使う危険性があったからだ。そして、自分の能力表示(ステータス)を確認した。元の状態に戻ったかを調べる為だ。


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 名前:如月ユウマ

 ステータス:異常なし

 性別:男

 称号:伝説の勇者

 職業:聖騎士

 レベル:92

 魔法:強化魔法10、精霊魔法10、空間魔法9、補助魔法10、認知魔法MAX

 スキル:遠投

 ユニークスキル:因果律の除去

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「よし」


 イーサン、いや……、如月ユウマは、そういうと手紙を携えアルスター領に向かった。これであの土地に足を踏み入れるのは2度目になる。そう思った。


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