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 王には国家の為の何より大事な仕事がある。それは署名(しょめい)だ。王の署名があるかどうかが、王国の正式な文章であるかどうかの違いに他ならなかった。例えば、それが私的な手紙であったとしても王の署名が入る手紙は、それなりの威厳や効果を持つことが多かった。ゆえに王の署名を偽造しようとした者の罪は重く、平民であれば裁判をすることなく即時(そくじ)極刑(きょっけい)と決まっていた。王の署名の偽造とはそれほど重大な罪なのだ。


 ユウマは、王の署名が入った偽造文章を作ろうとしていた。


 王の手紙は、手紙を書く専門の秘書がいて、彼等が書いた文章に王が署名をする。署名が終わると文章は封蝋(ふうろう)をされる。封蝋(ふうろう)とは、ロウを手紙に垂らし、そこに印璽(いんじ)と呼ばれる家の紋章をかたどった判子を押すことだ。これは差出人を証明する証になる。そして、中身が開けられていない証にもなる。封蝋で閉じられた封筒は途中で開封すると封蝋部分が砕けるようになっているからだ。

 つまり、署名(しょめい)封蝋(ふうろう)が完璧に偽造できるならば、王になり変わり正式な文章を発給することも可能なのだ。もちろん、後々嘘だとバレるだろう。だが数ヶ月、いや、数週間騙すことが出来たならば、それで十分だとユウマは考えた。

 まず、ユウマは印璽(いんじ)を手に入れる為に王宮に忍び込んだ。ユウマは、頂点まで認知魔法を極めた勇者だ。ゆえに認知魔法の中における最強魔法を使う事もできた。


「存在の消失(アンカウント)


 この魔法は、術者(じゅつしゃ)が相手に事前に呪文かけておけば、街で通り過ぎる認識されずらい看板のように、極端に人から認識されずらくなる魔法だ。この魔法の難易度と消費MPのおかげで一人二人に使用する術者は存在してもフロア全体、街全体にこの呪文をかけることができる術者はこの世界に如月ユウマだけだった。

 ユウマは、この魔法を使い王宮に忍び込むと難なく印璽(いんじ)を手に入れ、それを持ってきた粘土(ねんど)に押しつけた。これが型となる。次に粘土に火を入れ固まらせた後、印璽(いんじ)と同じ成分の金属を流し込み。偽の印璽(いんじ)を完成させた。あとは署名だ。これは簡単だった。王の署名というのは無意味に残る場合が多くある、これは王の威光をありがたがる輩がそれなりに居た事と無関係ではない。ユウマが勤める私塾の学長もその一人で、たいした意味のない王の署名入りの文章を後生(ごしょう)大事(だいじ)に持っていた。ユウマは、それをくすねると王の署名以外の文面を、インクを浮き上がらせるユウマ独自の高難易度魔法によって全て剥がした。これでユウマは本物の王の署名入りの白紙(・・)の文章を手に入れる事に成功した。

 ユウマはこの署名入りの白紙に、まるで王自らが書きなぐったような文章を書いていった。


(けい)が王家転覆の企みに加担しているという告発があった。既にいくつかの文章により動かぬ証拠を掴んでいる。もしも、アルスター公の企みに加担しないのであれば本領(ほんりょう)安堵(あんど)を約束するが、そうではない場合。(けい)の領地を一番最初に潰す』


 ここまで書いてユウマはペンを置いた。


「よし」


 この文章を突きつける相手はすでに決まっている。

 ベントナー伯爵。優柔不断だが大規模な軍事力を持つこの男に《王の文章》を突きつけ、キンタマを縮みあがらせ、反王政派の内部分裂を招いてやるのだ。ベントナー伯爵は反王政派の中核をなす人物の一人だった。

 反王政派は、アルスター公爵を中心とする貴族連合により成り立っている。当初、ジョゼ=アルスター公爵の目算では戦争期間を8カ月、長くて1年と定めていたらしい。国内にしめる反王政派は水面下で結びつき、圧倒的多数をほこっていた。この状況をみてジョゼ=アルスターは王家に簡単に勝てると思いこんだ。だが、いざ戦争を始めてみると、日和見を決め込む貴族が多かった。中でもベントナー伯爵はアルスターに次ぐ戦力を誇りながら、終始黙って戦争の行方を見守っていた。アルスターもベントナーの軍事力を頼む所が多かったので完全に目算は外れたことになる。結果、内乱は8カ月どころか、何年も続く事態になり、果てのない戦乱に怯える時代に突入していった。

 ジョゼ=アルスターは計算高い男である。勝ちが保証されないかぎり、戦争なんて起こす筈がないとユウマは思った。ベントナーほどの軍事力を持つ者が反王政派からハッキリと抜けるなら、そもそも反乱を企てることもないだろう。

 ユウマがそう導いてやるのだ。

 そうして反王政派が大人しくなっている間にジョゼ=アルスター公爵を暗殺する。反王政派は、何もなし得ないうちに大黒柱を失うのだ。貴族連合が一斉に王家に反旗を翻す作戦は、それを導く人物を失い、腰砕けになるに違いない。ユウマはそう読んだ。ユウマは前世を思い出す。

 あの時、拳を振り上げた反王政派の貴族達だって、実はその振り上げた拳を笑って下ろしたかった瞬間があった筈だ。一度戦いがはじまれば、ふりあげた拳は下ろせない。ならば戦いが始まる前に拳をおさめるキッカケを作ってあげればいい。結局、反王政派が王家に戦争を挑もうという姿勢をやめなかぎり、どうしたって内乱は起こるのだ。


 ――内乱の芽を摘んでやる。この俺が!!


 ユウマは出来あがった手紙を懐に入れ。旅立った。私塾には一週間の休職願いを出した。学長はしぶしぶこれを認めた。ユウマほど有能な教師もいなかったからだ。

 ユウマは拳を握り、足を前に進める。やり遂げて見せる。そう思った。


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