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プロローグ

本作は去年の電撃大賞3次落選作品です。

 雲ひとつない晴天の空、太陽の光が如月ユウマの体を照らした。そのカラッと乾いた日の光は、人々に生命の力を与える様に降り注いでいた。だが、皮肉にも如月ユウマのみがこの力を全く感じなかった。目はくぼみ、唇はカサカサに乾き、顔は肌色というよりは土色みたいな顔色をしていた。ユウマの視線の先には沢山の群衆がいた。群衆は生き生きと目を輝かせていた。この群衆はあるショーを目撃しにこの広場に集まっていた。皆の熱気がこちらまで伝わってきた。ユウマは自嘲気味に笑った。


「クソッタレ共め」


 ユウマはそう言うと、鎖に繋がれた足のくるぶしのあたりをすり合わせた。痒かったのだ。すると、ユウマの両脇に居た2人の大男が小さく「行くぞ」と言い、ユウマの両脇を抱え歩きはじめた。ユウマは引きずられるように群衆の前に姿を現した。


――こりゃロズウェル事件の宇宙人のようだな。


ユウマはまた自嘲気味に笑った。笑うことこそが最早唯一ユウマに許された反抗行為なのだ。所々から声が聞えた。


「おい見ろよ。アレが英雄・如月ユウマらしいぞ」

「ああ、あの黒い髪の奴か……」

「死ね! 最悪の勇者が! お前がやってきたことの報いだ!」


 ユウマに向かって汚い罵声と石が飛ぶ。ユウマはその中を大男二人に引きずられながら進んだ。ユウマの通ったあとは黄色い砂ぼこりが舞った。やがてユウマは石で出来た簡素な処刑台の上に頭を押しつけられ突っ伏した格好になった。群衆は静かになった。ショーに集中し始めたのだ。ユウマは最後の力を使い、体を起こそうとするが、すぐに片方の大男に頭を抑えつけられた。


 ――クソッ!


 大男の後ろに老齢の男がおり、その男がユウマの罪状を読み上げた。

(なんじ)、王家の騎士でありながら王家にとって代わらんとした逆賊であり、また同じく逆賊であるアルスター公さえも裏切った卑劣な男である。また無意味に戦火を広げ人々を数多く殺した悪魔であり、元英雄の地位と名声によって世を乱した詐欺師でもある。これを更生させる道は現世にはありえず神におすがりするしか無く、よって……(なんじ)、如月ユウマを死罪とし、大いなる父の力の借り魂の救済をはかることにする」


 群衆から歓声が一気に上がった。ユウマはありったけの声で叫んだ。



「魔王を倒したのは俺だ!! ちょっとぐらい感謝しろよお前等!!」



 言葉がむなしく響いた。たった2年前のことなのに遥か遠い昔の様だ。その後に起こった内乱が人々から人間らしさを奪った。内乱は今も続いている、いつ終わるともしれない地獄絵図、人々はその元凶を憎んだ。如月ユウマを憎んだ。

 老齢の男が短く「やれ」といった。2人の大男のうち片方の大男がユウマの頭と体を押さえつけ、もう片方が斧を振りかぶった。このクソッタレ異世界の連中は裁判も行わずに罪状を決め、挙句その数秒後に刑を執行しようとするらしい。クソッタレ蛮族共め!


 ――俺は何でこんなことになったんだ!? 勝手に召喚され、命令通り魔王を倒しただけだ。アルスター公爵の……ジョゼ=アルスター公爵の誘いに乗らなければよかったのか? くそっ! 何で……。俺はただ……、新しいこの異世界で新たな人生を――


斧が振り下ろされた。


 如月ユウマの首が胴体から離れ、台座から転げ落ちた。首は群衆の中に転がり、気味悪がった人々がユウマの首を蹴った。老齢の男はその光景を満足そうに眺めた後に大男に言って首をとりに行かせた。

首はやがて王宮の城門にぶらさげられ、腐ってただれ落ちるまでそのままにされた。



 これが如月ユウマの二度目の人生の終わりだった。一度目は現実世界で死に、二度目は異世界で死んだ。


 物語はここからはじまる。


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