再会しました
「き……君は……?」
俺は、突然声をかけられ、驚きを隠せないでいた。もちろん、驚いたのはそのせいだけではない。そこには、二子石学園の制服を着た、女の子だった。茶色のブレザーに、グレーのチェック柄スカート。白いシャツの上からつけている赤いリボンが、制服の可愛らしさを際立てていた。
「蒼くん、だよね? え……人違い……? そんなはずは……」
なんか1人で話を進めているんだが……。あっけに取られていると、女の子は俺に近付いて、俺のことを見上げてきた。ふむ、俺の身長が170だから、150くらいかな?なんて考えていたら、フワッと甘い香りがした。恐らく車が通ったことによって、空気が動いたからだろう。スカートもハタハタと……。
「ねぇ聞いてる?……もしかして、本当に人違い……?」
不安そうな顔をしながら、俺の顔を見上げている。距離が近いせいか、女の子の息づかいが感じられた。さすがに気まずくなってしまい、一歩下がり離れた。
女の子は、ハッとした顔をしたかと思うと、今度はむすっとした顔になった。
表情がコロコロ変わるなぁ。
「もー!絶対、蒼くんじゃん! そのストラップ、私があげたやつだし! 考えてることが全部顔に出てるよ!」
「えっ!?マジで!?無表情をつらぬいたはずなんだけどなぁ……」
「全然出来てないよ!今だって、半笑いだし!」
自分の顔をさわって表情の確認をしていると、一気に距離を詰められ、グーで俺の胸の辺りを押してきた。グイグイ押してくるものだから、2、3歩下がって痛みをやわらげてみる。
どうやら笑いをこらえられてなかったみたいだ。これじゃポーカーとか、ババ抜きやったら勝てないな。
「ま、何にしても……。久しぶりだな。元気してたか?」
「もちろん!といっても、昨年の夏に会ってるから、1年も経ってないけどね〜」
「だな。紅音も特に成長してないこともよくわかった」
「もー!すぐそうやって言うんだから!」
口ではそう言っているが、すでにその表情は笑顔に変わっている。
知らないふりをしていたが、金石 紅音との付き合いは長い。幼稚園から、小学校、中学校と一緒で、よく遊びにも出かけていた。ただ、最後に夏休みに遊んでからは会うこともなく、高校受験になったので、まさか同じ高校になるとは思ってもいなかった。
「蒼くんもここに来た、ということは、高校も一緒なんだね♪」
「え?違うよ?」
「えっ!?じゃぁなんでここにいるの!?」
「そりゃ、高校に入学するからに決まってるだろ?」
「む〜〜 〜!!またそうやって〜〜〜!!」
と、こんな感じで、イジると面白いので、よく遊ばせてもらっている。ちなみに、この島の高校に通う時点で、二子石学園になる。1つしかないから、そうなるんだけどね。付属の中学校もあるのだが、今は気にしないでおこう。
「ところで、これからどうするの?私は寮に戻るところなんだけど……」
「俺もフェアにナビしてもらってたところ。このナビってみんないるのか?」
俺たちの様子を見ていたフェアを指差し、疑問に思っていたことを聞いてみた。
恐らく全てのユーザーにいるとは思うんだけど、紅音はそれらしきナビは見えないからな。
「もちろんいるよ。けど、今はお使いをお願いしてるところ。蒼くん、色んな機能があるから聞くといいよ♪」
「寮に着いたら色々聞くつもりだったんだけど……。紅音に聞いたらダメなのか?」
俺の突然の申し出にビックリしたのか、買い物袋を落とした。
そんなビックリするようなこと聞いてないんだけどなぁ……。紅音の顔、なんかわからんが赤くなってるし。
「えっ!?そりゃ、私が教えてもいいんだけど!でも、どこで?」
「どっか喫茶店にでも入るか。……フェア、行き先変更。どこか気軽に話が出来る喫茶店に行きたいんだが、いいとこあるか?」
フェアは、えっへん!と言っているかのごとく、胸を張っている。
なかなか面白い反応するんだな。こんなんじゃ飽きることもなさそうだ。
「了解!じゃぁ、行き先変更するね♪デートにもってこいの喫茶店に♪」
「「ちょっ!?デートじゃない!!」」
いやいや、紅音とデートとか考えたことないし!デートなんてしたことないから、単語として出てきただけでドキドキするわ!
紅音もワタワタしてるし。落とした買い物袋がそっちのけだし。踏みそうになってるし!
「あははっ!2人とも面白い反応するね♪ では、ごあんなーい♪」
フェアは、くるくる回りながら笑うと、俺たちをこっちこっちしながら呼んだ。紅音は、ワタワタしたまま、その場から動かない。少し冷静になった俺は、紅音の落とした買い物袋を拾った。紅音は、そこでようやく我にかえったようだ。
「蒼くん、いいよ!私のなんだから!」
「ん?気にするな。それなりに重いし、荷物そんなないから持ってやるよ」
「う……うん。それじゃ、お言葉に甘えて……。ありがとね」
俺がフェアに近付いていたので、少し離れていた紅音だったが、小走りに近寄り横に並んだ。フェアは、俺たちの様子を伺っていたが、すぐに喫茶店に向けてゆっくりと飛びはじめた。
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「いらっしゃいませ。何名さまですか?」
「2人です」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
喫茶店へと着いた俺たちをウェイトレスさんが案内をしてくれた。店内は落ち着いた雰囲気のある、どこか大人っぽい感じで、高校生になりたての俺たちでは、分不相応かとも思ったが、よく見てみると制服を着た高校生や、中学生もいる。席も7割ほど埋まっており、夕方とはいえそこそこ人気なのがうかがえる。ウェイトレスさんがメイドっぽい格好をしており、なかなか可愛らしい。よく見るとウェイターさんもいて、スーツっぽい感じでこれまたカッコいい。
人気の理由はこういうところなのかもしれないな。
俺たちは、たまたま空いたのであろう、窓ぎわの席に案内された。
「それでは、ご注文が決まりましたら、オーダーをお願いします」
そう言ってペコリとお辞儀をしたウェイトレスさんは、裏へとさがっていった。
メニューを見ようと思ったが、それらしきものはどこにも見当たらない。キョロキョロしていると、向かいに座った紅音がクスっと笑った。
「メニューはここにマークがあるでしょ?そこをジッと見ると出てくるよ」
そう言って、テーブルの上を指差した。指差したところをよく見ると、猫のマークが描いてある。恐らく、この喫茶店のロゴなんだろう。『Lazy Cats』って、喫茶店の名前書いてあるし。
そんなことを思いながら見ているとメニューが浮かび上がってきた。そこには、喫茶店らしく、ドリンクメニューから、スパゲティみたいな軽食。はたまた、ガッツリ系のステーキやら、デザート欄にはパフェなんかがある。
俺はアイスコーヒーの横に出ている+(プラス)ボタンを押した。すると、0から1に変わり、右下には350円と金額が表示された。金額の上にある、注文ボタンを押し、確認メニューが表示されたので、OKボタンを押した。『ご注文ありがとうございます。少々お待ちください』と表示され、メニューを閉じた。
「そういえば、これって相手におごろうと思った時は、どうしたらいいんだ?」
「そういう時は一緒に注文したら大丈夫だよ♪ もしかしておごってくれるの?」
「ま、再会祝いかな。MRSのこと教えてもらうし、前払いだな」
「ありがと♪ じゃ、デラックスパフェお願い♪」
「へいへい……」
メニューをもう一度開き、デザート欄を選んだ。そこから、デラックスパフェを探して……。等身大のメニューが表示された。さっきのコーヒーも等身大だったから、恐らくこれも……。
うん、これ、見てるだけでお腹いっぱいだわ……。
「注文しといたぞ……」
「ありがと♪ 楽しみ〜♪」
ウキウキの紅音は、満面の笑みを浮かべている。待ちきれない小学生みたいに、横揺れしちゃってるし。と思っていたら、突然マジメな顔になった。なんだ?
「ねぇ、蒼くん。MRSってバトルがあるの、知ってる?」
「バトル? それって、リアルで殴り合ったりするってことか?」
「そうじゃないの。MRSで武器や防具を手に入れて、それを使って戦うの。だから、実際の体に危害が及ぶわけじゃないから、怪我の心配はないの……。でも……」
ガタッ!!
紅音が、突然立ち上がり、店内を見回し始めた。数人の客がこちらを見ていたが、またすぐに会話に戻っている。唐突すぎてわけがわからない俺も、店内の様子を伺っていたが、2人組がこちらに近付いてきた。
「ねぇ、バトルしましょう? 断る理由、ないわよね?」