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Mixed Reality Tale  作者: 紺野トーリ
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はじめました

「それでは手続きをしますので、こちらで認証をしてください」

「あ、はい」


俺は、携帯のショップ的なところで、テーブルの上に置いてある、認証機に手をかざした。

手のひらをかざして、手に流れている静脈をみることで、個人を特定する機械のようだ。

事務のお姉さんが、ニコニコしながらこっちを見ているんだけど、なんだか恥ずかしいなこれ……。

おっ、情報が出て来たようで、お姉さんが何やら操作してる。早いな、10秒もたってないぞ。


玉井たまい そうさんですね。2020年9月28日生まれ。こちらで間違い無いでしょうか?」

「あ、はい、間違いないです」


そう言って、俺にタブレット端末に表示されたデータを見せてくれた。さすがハイテクの極みだな。事前に登録した住所やら、電話番号やらが全部出て来たよ。

げ、身長とか体重まで出てる。全部データとして記録されているのか。恐れ入りました……。

そんな驚いている俺を見て、微笑んでいる。


「ふふっ、みんな最初はビックリした顔をされるんですよね。でも、すぐに慣れますから♪」

「だといいんですけど……」

「大丈夫ですよ。さて、いくつか説明をしますね。とその前に、まずは、こちらを付けていただきます」


そう言って、Bluetoothイヤホンみたいなものが差し出された。『Smile Seed』と書かれているから、このイヤホンの名前なんだろう。耳に引っ掛けるタイプで、イヤホン部分を左耳に入れ、落下防止のフックみたいなのを耳に引っ掛ける。両耳に付けることも出来そうだが、お姉さんは片耳だけ入れて首の後ろに回しているので、俺も同じようにした。試しに頭を横にしたり、振ったりしても落ちないので、恐らくこれで大丈夫だろう。


「取り付けも大丈夫そうですね。それでは、左手を耳の高さくらいまで上げて、下にスッとなぞるようにしてみて下さい」

「左手を上げて、スッと……なんだ!?メニュー画面みたいなのが出てきた!」


言われるがままにやってみると、まるで某VRゲームのようなメニュー画面が視界の左側に出てきた。

目線を向けると、メニューが選択されるのか、四角い枠が表示される。


「あら、お上手ですね。なかなか上手くできないんですよ?」

「そうなんですか?それはそれとして、ここからどうしたらいいんですか?」

「メニューが表示されたのであれば大丈夫です!これで、初期登録は完了です。それでは、説明に入らさせていただきますね」


そう言って、お姉さんは説明をしてくれた。


「VR、ARって聞いたことはあると思いますが、今この二子石ふたごいし島で運用されているのがMRです。MRというのはMixedミックスド Realityリアリティと言って、日本語では「複合現実」と呼ばれています。

MRはCGなどで作られた仮想世界と現実世界の情報を組み合わせて、仮想世界と現実世界を融合させる技術のことなんです。簡単に言うとVRとARの上位版のようなものですね」

「VRは仮想世界だから、現実では何も起きないし、ARは、現実世界に投影しているだけで、実態がないので、近づいて触ることが出来ない。MRは、現実世界に仮想世界を重ね合わせている、といった感じですか?」

「そうです。今、玉井さんが見ているものは、すべて現実に存在するものなのですが、見ているのはデジタル画像なんですよ。目の前にあるものを、カメラを通して見ているといった感じで捉えていただければ大丈夫です」


他にも、色々なことを教えてくれた。

メニューなどの詳しいことは、ヘルプ機能を使用するのが一番簡単なこと。

充電は、太陽光パネルが付いているので、家電みたいに充電しなくても良いこと。

万が一故障した場合、システム管理されているので、すぐに対応してくれること。


「なるべく外さないことをオススメします。といっても、外すことなんてお風呂以外はないんですけどね」

「お風呂……ですか?」

「完全防水なので、壊れることはないですが、洗うときに困るんですよね……」


そう言って、お姉さんは耳にかかった髪を上げた。ピシッと決まったスーツ姿とは対照的に、サラサラ〜って音が聞こえてきそうだ。

あ、柑橘系のいい匂いがする……。シャンプーの香りなのかな……。

そういえば、お風呂では外すって言ってたな……。髪をおろした後は……


「あ、今変なこと考えてたでしょ?」

「えっ!?いや、そんなことはないですよ!!」

「ホントに〜??」

「ほ、ホントですよ!」

「あははっ♪そういう事にしといてあげますね♪」


可愛らしく笑った姿に、ドキっとした。なんだろう、年上のお姉さんって感じがしていたのに、こんな一面があるなんて、不意打ちもいいところだ。


しっかし、お風呂に入ったことを想像してしまったのが、顔に出てしまっていたらしい。

昔から顔に出るって言われてるんだけど、こればっかりは鏡を見ているわけじゃないのでわからん!


「これで説明は以上になります。何か他に聞きたいことはありますか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


そう言って、ボディバッグを肩にかけ立ち上がり、受付を後にした。



「さて、これから寮に行かないといけないんだろうけど……」

とりあえず出てきたものの、どこに何があるのかさっぱりわからん。ナビなんかも全部あるみたいだし、メニューを開いてみるか……。えっと、ナビは……。あ、これかな?


「私に何か用ですか?」

「ぬぉっ!?なんだ!?」

突然、声をかけられてビックリしてしまった。なんだか、小さな妖精みたいなのがフワフワ浮いてる。これが話しかけてきたのかな?


「なんだ!とはなんですか!私は、このMixedミックスド Realityリアリティ Systemシステムの『ナビゲーション』を担当しているフェアリーです!」

「な、なるほど……。この『ナビ』は『ナビゲーション』のことだったのか」

もっとわかりやすい表記にしろよ開発者!


「ところで、フェアリーってのは、名前?」

「そうです。私のことはフェアリーでも、フェアりんでも、呼びやすいように呼んでください♪」

可愛らしくウインクして、ポーズをとっている。モデルのようなポージングをしてはいるが、ちっちゃいのでさまになってない。ま、可愛らしくはあるが。


「んじゃ、フェアにするか。フェアは、ナビゲーションが出来るんだよな?何でも出来るのか?」

「MRSに搭載されている事でしたら、何でも出来ますよ!ヘルプ機能にオート操作が付いている、と考えてもらうとわかりやすいかもしれません」

「そういうことなら、俺がこれから住む寮までナビしてくれるか?道がさっぱりわからん!」

「わかりました!それでは案内しますので、私についてきてください!」

フェアは満面の笑みで、クルリとバク宙をしてみせた。重力がないっていいな……。



大きなビルが立ち並ぶ大通りを、歩いて進む。道路には、多くの車が走っているのだが、渋滞している様子はない。二子石島では、すべての車に自動運転機能が付いているらしく、信号も見当たらない。道路の上には、モノレールが走っており、島全体が活気付いている。

同じように歩いている人も、みんなSmileSeedを付けている。それもそうか。この島にいる人はつけることが義務付けられているからな。しゃべりながら歩いている人、操作をしながら歩いている人、何やら難しい顔をしている人……。なんでも出来そうだもんな、これ。


考え事をしている間にも、フェアは少し前方を飛んで……といっても、実体があるわけじゃないから、実際に飛んでるわけではないんだが……ナビをしてくれている。少しずつ、大きな建物が見えてきた。恐らくあれが、これから通うことになる学校なんだろう。ということは、寮も近いということかな。


「そろそろ着くよー。あれが……「えっ!?そうくん!?」


フェアの声にかぶせるように、声が聞こえてきた。声のした方を向くと、そこには同い年くらいの女の子が、口に手を当て、目を見開いて驚いている。恐らく学園の生徒なのだろう。制服を着ており、どこか買い物に行ったのか、袋をげて立ち尽くしていた。

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