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アーヴィン・オルホフ侯爵にゃん

 ○プリンキピウム ホテル レストラン


「こちらが当ホテルのオーナーのマコトです」

 コレットがオレを侯爵様に紹介してくれる。

「マコト・アマノにゃん」

 侯爵様一行とデリックのおっちゃん一家が二つのテーブルに別れて座ってる、

「アーヴィン・オルホフである、実に美味い料理であった、礼を言うぞ」

 アーヴィン・オルホフ侯爵は、思わず吹き出しそうになるぐらいデリックのおっちゃんにそっくりだった。

 しかも身体はもっとデカい。貴族年鑑によれば今年で六〇歳だが魔力が強いせいか四〇代でも通じそうな若々さだ。

「お褒めいただき光栄にゃん」

「吾輩と騎士ふたり、今日から数日世話になる。堅苦しいサービスは苦手ゆえ、なしで構わぬ」

「にゃあ、お気遣い感謝にゃん」

 騎士は侯爵の左右に着席してる。

 守護騎士のデータは、到着まえにデリックのおっちゃんの奥さんカトリーナから聞き出している。

 顔立ちがカトリーナに似てる黒髪ロングのスレンダーな娘が、妹のキャサリン・マクダニエルか。二二歳でカトリーナの実家のマクダニエル家の三女だそうだ。

 騎士というより魔法使いといっていいぐらいの魔力を感じる。たぶん魔法騎士で間違いない。

 もう一人の金髪ショートでソバカスがあって背はそれほど高くない娘が、エラ・オーツだな。見た目は女子高生ぐらいだが、二〇歳で剣は達人級で王都の大商会の娘らしい。こちらも魔法はそこそこ使えそうだ。

 オルホフ侯爵一行の三人は戦闘服に少しの装飾が施された服装で鎧は装着していない。その代わり強力な防御結界で守られていた。

「大公国でのマコトの活躍も聞いておるぞ、しかもこのような可愛い姿の少女とは二重の驚きであるな」

「にゃあ、たまたま聖魔法が使えるから上手くいっただけにゃん」

「他にもデリックからもいろいろ聞いておるぞ」

 オルホフ侯爵はニヤリとする。

 デリックのおっちゃんは苦笑いを浮かべた。父親のオルホフ侯爵に無理矢理聞き出されたのだろう。

「にゃあ、オレのことは内密にお願いするにゃん」

「では、マコトは我輩の嫁としよう」

「にゃ?」

「お、親父!?」

「冗談だ、しかしマコトの力、いずれ我が一族に迎えたいものだ」

「お待ち下さい、アーヴィン様!」

 キャサリンが立ち上がった。

 そしてオレの前に来る。

「ネコちゃんは、私がいただきます!」

 抱き上げられて頬ずりされた。

「にゃ!?」

「マコトのおなかは、あたしのものだから譲れないよ!」

 いつの間にかセーラー服に潜り込んでいたリーリが胸元から出て来てオレのおなかの所有権を主張した。

「「「妖精さん!?」」」

「あたしはリーリだよ!」

「にゃあ、リーリはオレの友だちにゃん」

「ほぉ、妖精とは珍しい、王都でも見かけるのは稀な存在である」

 妖精は王都でも珍しいのか。

「幸運を運んでくれると側に置きたがる貴族は多いですが、妖精さんを自由にできる人間はいませんから」

 エラは情報通らしい。大商会の娘だけはあるにゃん。逆にオレの情報も商会筋に大流出しそうだ。


「ごめんなさいネコちゃん、キャサリンは可愛いモノを前にすると自分を抑えられなくなっちゃうの」

 姉のカトリーナが説明してくれる。

「それは大変にゃんね」

 レストランからラウンジに席を移したが、いまだキャサリンに抱っこされたまま頭を撫でられてる。

 美人に抱っこされるのはそう悪くないが、性的なリビドーが皆無なのは喜ぶべきか悲しむべきか?

 リーリはオレのおなかよりもいまはチョコパフェに夢中だ。

 既にオルホフ侯爵ともうひとりの騎士エラは部屋に案内してある。

 侯爵は、明日の朝から狩りをするそうだ。

「マコト、さっき鏡面サソリの売上金が届いた、まずは明細だ」

 本来ならオレが取りに行くところなのだが、義妹が離さないのでデリックのおっちゃんがわざわざ持ってきてくれた。

 明細には査定内容と買い取り金額が書かれている。

「にゃあ、一匹が大金貨五〇〇枚もするにゃんね」

「一割は冒険者ギルドに収めてもらうから、マコトの取り分は二匹分で大金貨九〇〇枚になる」

 床にドサドサと革袋が幾つも積まれる。

「確認してもらえるか?」

「にゃあ、承知したにゃん」

 革袋ごと金貨を分解して格納空間に入れる。

「間違いないにゃん」

「これで鏡面サソリの取引は終了だ」

「にゃあ」

「ネコちゃんは、間違いなくプリンキピウムの冒険者ギルドで売上げトップね」

「違うぞカトリーナ、マコトは今回の金が入る前から売上は断然トップ(ダントツ)だ。資産で言ったらアルボラの領主様並だぞ」

「ええっ!」

「魔石を売ったからだね」

 リーリがチョコまみれの顔を上げる。

「にゃあ、アレは儲かったにゃん」

「スゴいのね、ますますバートのお嫁さんに欲しくなっちゃったわ」

「あい!」

 バートが乗り気だ。

「姉さん、ネコちゃんはあげませんよ」

 キャサリンがギュッとオレを抱き締める。

「あなたもそろそろ結婚して自分の可愛い赤ちゃんを産んだ方がいいんじゃない?」

「姉さん、私は自分より弱い男は願い下げです」

 魔法剣士のキャサリンより強い男か、いても少数だろう。

「マコトは強いけど残念ながら女の子だからな」

「にゃあ、六歳の女子にゃん」

「お義兄様、もしかしてネコちゃんは私よりも強いのですか?」

「間違いなく強い。親父といい勝負だ。それだって魔法を使われたらマコトの圧勝だろう」

「そんなに?」

「にゃあ、残念ながらお婿さんにはなれないにゃん」

「ネコちゃんはスゴいのね、こんなに可愛いのに私より強いなんて」

「それほどでもないにゃん」

「決めました。ネコちゃんを私の妹にします!」

「あら、それはいいわね」

 姉妹が盛り上がる。

「にゃあ、オレはそろそろ仕事に戻るから失礼するにゃん、キャサリンの部屋はいまシャンテルが案内するにゃん」

「ご案内いたします」

 ちっちゃなドアマンのシャンテルが緊張した面持ちでお辞儀をした。

「か、かわいい」

「シャンテルはオレと違ってお触り禁止にゃん」

「うっ」

「にゃあ、では後は頼んだにゃん」

 ニュルッとキャサリンの腕から抜け出たオレは、手を振ってフロントのカウンターの奥に引っ込んだ。

「またね!」

 リーリも手を振ってオレの頭に飛び乗った。



 ○プリンキピウム ホテル 金庫室


 金庫室に入ったオレたちは、溜め込んだ金貨や地金を仕舞った。

 金は貯まる一方だが、いまのところ現金が必要なのは、皆んなのお給料と孤児院から買ってるチーズ代ぐらいだ。

 冒険者ギルドに支払うプリンキピウムを管理する委託料にしたって魔石の売上から一〇年分を先に相殺することになっているからここの金貨は一枚も消費されない。

 まさか、お金の使い所がなくて困ることになろうとは思わなかった。



 ○プリンキピウム ホテル 厨房


 贅沢な悩みはいったん置いといて、オレはそのままリーリを連れて厨房に入った。

「何をするの?」

「冷たいお菓子を作る魔導具をここに置くにゃん」

「美味しいの!?」

「食べてみればわかるにゃん」

 オレは厨房の隅っこにその魔導具を設置した。

「これにゃん」

 今回、オレが開発したのはソフトクリームメーカーだ。アイスクリームは早い時期から作り出していたが、ソフトクリームの存在を失念していた。

 コーンの製造機の魔導具も隣に置く。ソフトクリームのキモである巻き巻きはゴーレムにやってもらう。

 オレだとスイッチに手が届かないにゃん。

「食べてみるにゃん」

「どれどれ」

 リーリは魔法でソフトクリームを器用に動かしながらペロっと舐めた。


「お、お、おおお美味しいいいいいいい!!!」


 リーリが吠えた。

「美味しい! マコトこれ美味しすぎるよ!」

 取り乱す妖精。

「にゃあ、これが冷たいお菓子ソフトクリームにゃん」

「うん、たしかにソフトでクリーミーだよ!」

 リーリが大騒ぎしたのでアトリー三姉妹がこっちにきた。

「ネコちゃんたち、どうしたの?」

 六歳児の勘では、たぶんアニタ。

「リーリに試食して貰ったにゃん」

「妖精さんは、なにを食べたの?」

 たぶんアンナ。

「ソフトクリームだよ! 冷たくて最高のお菓子だよ!」

 リーリは興奮を隠さない。

「ネコちゃん、あたしにも味見をさせて」

 たぶんアネリだ。

「にゃあ、いいにゃんよ」

 アトリー三姉妹の分もゴーレムに巻き巻きさせた。


「「「美味しい!」」」


「なにこれ、口の中で溶けるよ」

「アイスみたいだけど違ってる」

「うん、これは違う食べ物だよ」

 リーリに続いて試食したアトリー三姉妹にも大好評だった。


 支配人のノーラさんや他の従業員たちにも試食させた。いずれもこの柔らかく冷たい口当たりは評判が良かった。

「美味しいです」

「とっても美味しいよ」

 シャンテルとベリルも喜んでくれた。

 特にリーリは最高に気に入ったらしくオレに自分用にソフトクリームメーカーを用意させ、ゴーレムが巻き巻きする横からペロペロしていた。

 妖精の鉄のおなかは壊れないと思うが、魔法牛の濃厚ソフト相手に一般ピーポーはそうはいかないので、おひとり様二個までの制限を申し付けた。



 ○プリンキピウム ホテル アーヴィン・オルホフ侯爵 客室


 お茶の時間。ワゴンを押したゴーレムと一緒にオレは、アーヴィン・オルホフ侯爵の部屋を訪ねた。

 デリックのおっちゃんにリサーチしたところ侯爵様は甘いものもイケるということなので、お茶とソフトクリームを用意している。

「失礼するにゃん、お茶とお菓子をお持ちしたにゃん」

「おお、マコト、手間を掛ける。眺めの良い風呂は最高であったぞ」

「お褒めいただき光栄にゃん」

 オルホフ侯爵はすでに客室露天風呂を堪能したらしくゆったりとした部屋着に着替えも済ませていた。

 客室に専用のゴーレムを二体ほど配置してるので問題はなかったようだ。

 侯爵ともなれば身の回りの世話をする側仕えとかいそうなイメージだが、オルホフ侯爵は違っていた。

 従者である守護騎士たちは両隣の部屋にいるが、護衛はするけど側仕え的な仕事はしないみたいだ。

 一見すると護衛してる感は皆無だが、部屋の周囲には防御結界や探知結界が張り巡らされている。

 さすがに侯爵様の守護騎士だけあって抜かりはないようだ。

 無論プリンキピウムの街でテロ行為などオレが許さないけどな。

 ゴーレムがテーブルにお茶の用意をする。

「マコトも付き合ってはくれぬか?」

「にゃあ」

 オレもテーブルに着いた。

「本日はこの季節にぴったりな冷たいお菓子を用意したにゃん」

 オレの指示で、ゴーレムがワゴンに載った小型のソフトクリームメーカーからおしゃれなカップにソフトクリームを盛り付ける。

「ほぉ、これは乳を使ったお菓子であるな」

 侯爵はテーブルに置かれたカップを手に取りソフトクリームを眺める。

「にゃあ、ヤギじゃなくて魔法牛のミルクが原料のソフトクリームにゃん」

「魔法牛とは、珍しいものを持っているではないか」

「にゃあ、たまたま手に入れたにゃん」

「さて、味は」

 侯爵はソフトクリームをすくったスプーンを口に運んだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 侯爵は突然、雄叫びをあげた。

「みゃ!」

 危なくオレは椅子ごと後ろにひっくり返るところだったぜ。

「アーヴィン様!」

「何ごとです!」

 ドタドタとキャサリンとエラたちが部屋に駆け込んだ。流石に守護騎士は反応が早い。

「おお、すまぬ、あまりのうまさに魂が叫んでしまったわ」

 いまのはほとんど攻撃魔法の域だぞ。

 防御結界の無い普通の人だったら卒倒間違い無しだし、子供だったら命に関わる。いや、マジで。

「アーヴィン様、ネコちゃんが驚いてますよ」

 思わずフレーメン反応が出てしまった。

「にゃあ、ちょっとびっくりしたにゃん」

「おお、これはすまぬことをした」

 大きな身体を屈める。

「にゃあ、オレは大丈夫にゃん」

「マコト、このソフトクリームという菓子は最高であるな」

「にゃあ、気に入ってくれてオレもうれしいにゃん」

「ソフトクリームですね、私も先ほどいただきました。アーヴィン様が叫んでしまう気持ちも良くわかります」

「私もいただきました、とてもおいしかったです」

 キャサリンとエラも気に入ってくれたらしい。

「マコト、おかわりをくれぬか、キャサリンとエラもどうだ?」

「「いただきます」」

「にゃあ、了解にゃん、次は蜂蜜酒入りなんてどうにゃん?」

「おお、相手にとって不足はないぞ!」

「アーヴィン様、吠えるのはなしですよ」

「くれぐれもお願いいたします」

「わかっておる」

 キャサリンとエラたちから釘を刺される侯爵様。守護騎士たちとの気さくなやり取りは好感が持てる。

「キャサリンとエラはどうするにゃん?」

「問題ないわよ」

「蜂蜜酒入りでお願いします」

「承ったにゃん」

 蜂蜜酒のソフトクリームを今度はコーンに入れてゴーレムが巻き巻きした。

「これは持つところまで全部食べられるにゃんよ」

 三人は差し出された蜂蜜酒のソフトクリームをじっくり観察してからペロっと舐めた。


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 部屋の内側をオレの防御結界でくくって置いたのは正解だった。オレは椅子ごとひっくり返ったが風の魔法がクッションに、部屋の被害は軽微だ。

 オレ自身もすぐの魔法で元に戻る。

「「「申し訳ない」です」」

 声をそろえて平謝りする三人。

「にゃあ、オレは大丈夫にゃん」

 他の人間だったら危なかったけどな。

「マコト、蜂蜜酒のソフトクリームは想像を超えた衝撃であったぞ」

 オレはその後が衝撃だった。

「まさか私まで叫んでしまうとは迂闊でした」

「自分の未熟さを思い知りました」

 小さくなるキャサリンとエラ。

「にゃあ、溶けるから反省は後回しにしたほうがいいにゃんよ」

 反省会は後にして三人はソフトクリームに集中する。

 オレも軽く味見をしたが、甘い蜂蜜酒であってもいまの身体にはNGだ。やはり六歳児にアルコールは少量でもダメらしい。


「マコト、我らは明日からプリンキピウムの森に入るのだが、一緒に来てくれぬだろうか? ぜひ道案内を頼みたい」

 ソフトクリームを食べ終え、改めてお茶を出したところで明日の森行きに誘われた。

「にゃあ、侯爵様が狩りをするにゃん?」

「狩りというよりは腕試しである」

「ネコちゃんは、道案内をしてくれれば、後は自分の狩りをしていてもいいわよ」

「森を案内するのは構わないにゃん、ただオレのところにはよく特異種が来るから危ないにゃんよ」

「吾輩がプリンキピウムに来た主な目的は特異種である」

 キャサリンとエラも頷く。

 息子一家に会ったのは特異種狩りのついでなのか?

「にゃあ、特異種を狩るなら森の深いところに入る必要があるにゃん、日帰りはできない距離になるにゃんよ」

 オレはテーブルに地図を広げて指を差した。

「ここまで入れば確実に出遭えるにゃん」

「確かに深い場所であるな」

「二日から三日はみる必要がありますね」

 キャサリンが地図を見て指で距離を測る。

 魔法馬で南下して一日走った辺りだ。徒歩ならそのぐらい掛かる。

 そこまで行かなくてもオレの魔力を使えば特異種をおびき出すことは可能だが、浅い場所への引き寄せは他の冒険者が危険にさらされる迷惑行為だ。

「無論、野営は構わぬ」

「問題ありません、防御結界の刻印もあります」

 エラが加工された魔石を出す。たぶん大公国製。もう製品になって出回ってるとは大公陛下も頑張ってるようだ。

「にゃあ、野営はオレに任せてくれればいいにゃん、それと魔法馬も用意しておくにゃんね」

「そんなに用意して貰って良いのか?」

「にゃあ、プリンキピウムの森はオレの知行地にゃん、初めてのお客様になる侯爵様にはそのぐらいのサービスはさせてもらうにゃん」

「マコト、吾輩のことはアーヴィンと呼んではくれぬか、侯爵と呼ばれると尻がムズムズするのだ」

「にゃあ、アーヴィン様にゃんね」

「お祖父様でも良いぞ」

「にゃあ、それだとデリックのおっちゃんに疑惑の目が向けられるにゃんよ」

「心配要らないわ、もしそれが本当でもお姉様は『良くやった』と仰るわ」

 デリックのおっちゃんの奥様でキャサリンの姉のカトリーナが動いたら、冗談からでもなし崩し的に取り込まれそうだ。

「余計な騒動が起こりそうだから嫌にゃん」

「正解です」

 エラがうなずいた。

「では、明日は頼んだぞマコト」

「にゃあ、お任せにゃん」

「それで最後のもう一本、蜂蜜酒のソフトクリームを貰えぬだろうか?」

「「私にもお願いします」」

「にゃあ、でも叫ぶのはなしにゃんよ」

 流石に三度直撃はキツい。



 ○プリンキピウム ホテル 厨房


 お茶の時間を終えてアーヴィン様の部屋からワゴンを押すゴーレムといっしょに厨房へ戻った。

「お帰り!」

 リーリはそのままオレの胸元に飛び込んだ。

「みゃああああ!」

 ソフトクリームを食べまくった妖精はキンキンに冷えていた。


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