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プリンキピウムに戻ったにゃん

 ○プリンキピウム 西門


「おう、お帰り! ギリギリ間に合ったな」

 門番の守備隊の兄ちゃんが迎えてくれる。

「にゃあ、ただいまにゃん」

 ギルドカードを見せる。

「成果はどうだった?」

「まあまあにゃん」

「馬に乗っての狩りか、俺もやってみたいね」

「ヤメとけ、軍人さんぐらいの馬じゃなきゃ森は無理だ」

 年かさの守備隊員は流石に良くわかっていた。

「それは言えるのです、このレベルじゃないと死ぬのです」

「じゃあ、俺には無理か」

「地道が一番だよ」

 若者の肩を優しく叩くおっちゃん。貴族はまだ見てないので分からないが庶民は気のいい人が多いみたいだ。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド 買い取りカウンター


 ギルドの買い取りカウンターに今日の獲物の買い取りをお願いする。

「にゃあ、獲物を持って来たにゃん」

「出してくれ」

 カウンターでは、今日も枯れた兄ちゃんことザック・リンフットが対応してくれる。

「デカいにゃんよ」

「だったらこっちで頼む」

 別棟のだだっ広い魚市場みたいな場所に案内された。

「ここなら大丈夫だろう?」

「にゃあ、たぶん大丈夫にゃん」

「たぶん?」

 首を傾げたザックの前にまずは三人の共同作業で狩ったデカいイノシシから出した。

「大物な上にいい状態だな、肉も毛皮も特上だ……って、これを格納空間に入れて来たか?」

「そうなのです」

「解体もマコトが魔法でやってくれたんだよ」

 キャリーとベルが解説してくれる。

「魔法で解体とは珍しいな」

「たぶん、マコトしかやらないのです」

「だろうな」

 イノシシは一頭で金貨三枚になった。

「次はキャリーとベルの獲物にゃん」

 これは数が多い。

「おお、かなり有るな、って、マコト、おまえの格納空間は何処まで入るんだ?」

「にゃあ、オレも知らないにゃん」

「そいつはスケールがデカいな」

「オレのことはいいから査定にゃん」

「おお、そうだった、おい、おまえら手を貸せ!」

 ザックは後輩の職員をふたり呼び寄せた。

 二〇分ほど掛けて合計金額を出してくれる。

 合計金貨五枚ちょっとの売上だ。

「「やった!」のです」

 ふたりは大喜び。

「すげーな、一日でこんなに狩ったのかよ」

 ザックが目を剥いた。

「まだあるにゃん」

「「「まだあるって?」」」

 ザックたちが声を揃えて復唱する。

「にゃあ、この辺りを占領するけどいいにゃん?」

「お、おお、いいぞ」

 場所を確保したオレは獲物を取り出す。

「まずは細かいのからにゃん」

 大小雑多なのを出す。

「おい、トラやオオカミは細かいとは言わないぞ」

「にゃあ、大きいのは別にあるにゃん、出すにゃん、まずは一頭目にゃん」

 サイの特異種を出した。

「一頭目って何頭居るんだ? って、これ特異種だろ!」

「にゃあ、そうにゃんよ、サイは全部で四頭にゃん」

「サイの特異種が四頭だと!? おい、ギルマスを呼んでくれ!」

 ザックの声に後輩の職員が走った。逆に見物に来る職員や冒険者がいる。


「にゃあ、騒がしくなったにゃんね」

「特異種だから仕方ないのです」

「そうだね、特異種が四頭だからね」

 ギルマスのデリックのおっちゃんがやって来た。

「マコトが何をやらかしたって?」

 いきなり失礼な事を言ってる。

「何もやらかしてないにゃん」

「サイか? こいつは随分デカいな、まさかアレか?」

「アレです、特異種です、間違い有りません」

「マコトが四頭を全部狩ったのか?」

「にゃあ、そうにゃん」

「こんな街の近くで特異種か、被害が出ずに済んだのは幸いだな、俺も確認したから討伐の報奨金も出してやれ」

「わかりました」


 そんなわけでサイは報奨金も含めて一頭あたり金貨八枚の売上になった。

 他の獲物も合わせて合計金貨三八枚。

 小金持ちになったにゃん。



 ○プリンキピウム 子ブタ亭 客室


「「「乾杯!」」」


「マコトのおかげで思っていた以上に儲かったよ」

「ちょっと、有り得ない金額なのです」

「にゃあ、ふたりの実力が有ったからの結果にゃん、これはお世辞じゃないにゃん」

 オレたちはキャリーとベルの部屋で祝杯を上げる。

 酒じゃ無くてジュースでの祝杯だ。

「しかも魔法馬まで貰っちゃったし、ご飯はおいしいし」

「ただのサンドイッチにゃん」

「このサンドイッチだけでも十分に一財産作れるのです」

「直ぐに真似されて終わりにゃん」

 宿の昨日と同じメニューの夕食はパスした。

 素敵な家庭の味でもオレには無理だ。

 だからオレが作ることにした。

 格納空間で。

「これだけお金が貯まったら、新しい銃が買えそうだよ」

「直ぐに使っちゃうにゃん?」

「キャリーは刹那を生きる女なのです」

「クレア姉に安く譲って貰ったけど、おんぼろの銃だからね」

「おんぼろでも持ってるだけマシなのです」

「貰い物なら売らずに大事に取って置くのがいいにゃん」

「うん、流石に下取りには出せないよね」

「銃ならオレが作ってやるにゃん」

「本当に?」

「にゃあ、ベルにも作ってやるにゃん」

「ありがたい申し出なのです、でも、私は魔法に魔力を使うので、銃は宝の持ち腐れなのです」

 キャリーが持つライフルは、自分の魔力を弾に変換して撃ち出すタイプだ。

 こちらではそれが普通らしい。

 だから自分の魔力が尽きると昨日みたいに弾切れを起こす。

 オレは今日作った銃を再生する。

「これは自分の魔力を使わないタイプの銃にゃん、エーテルをそのまま弾にするからいくら撃っても平気にゃん」

「へえ、スゴいね」

 オレから銃を受け取ったキャリーはしげしげと眺める。

「アーティファクトの領域に足を踏み入れてる気がするのです」

 ベルも横から覗き込む。

「私にはちっちゃいかな」

「オレ専用だからにゃん、キャリーとベルに作る銃は普通の大きさにするにゃん」

「ベルには大きくない?」

「いいのです、軍隊で使ってる銃の大きさが慣れてるから扱いやすいのです」

「慣れてるのがいちばんいいにゃん」

「銃も馬みたいに仕舞っておけるの?」

「そうするつもりにゃん、それぞれ専用にするから、魔法馬と同じで他人には使えないにゃん」

「それはありがたいのです」

「ついでにキャリーのライフルも整備するから出すにゃん」

「えっ、いいの?」

「いいにゃんよ」

「ありがとう」

 オレはキャリーからライフルを借りると一旦格納した。

「にゃあ、製造から二〇〇年とは、こっちの人は物持ちがいいにゃん」

「二〇〇年なら普通なのです」

 格納空間で各部品を修復、精度を上げつつ使用する魔力の低減化を図る。

「これも仕舞える様にするにゃん?」

「お願い」

「了解にゃん、いまは所有者をキャリーに限定してるけど、後から登録を他の人に変えられるようにしておいたにゃん」

 ライフルを再生してキャリーに渡した。

「マコト、これが私のライフルなの?」

「そうにゃん」

「何処からどう見ても新品だけど?」

「にゃあ、修復したから新品に見えるにゃん」

「完璧に修復すると新品みたいになるんだね」

「部品の精度も上げたから前より使い易いと思うにゃん、でも調子に乗って撃ちまくるとこっちは、前みたいに弾切れを起こすから気を付けるにゃん」

「うん、気を付ける」

 キャリーは返却された銃に頬ずりする。その姿はちょっと面白かった。


 それから明日の打ち合わせをしてオレは自分の部屋に戻った。


 寝る前にキャリーとベルの銃を作る。

 キャリーのは慣れてる元の銃をベースに作った。

 ベルの銃は軍隊で使ってる大きさだ。

 どっちの銃もオレには大きすぎだった。



 ○帝国暦 二七三〇年〇四月十二日


 ○プリンキピウム 子ブタ亭 カウンター


「予定が変わって今日までにするんだね、気を付けて帰りなさいね」

「ありがとう」

「お世話になったのです」

「にゃあ、またにゃん」

 翌朝、女将に見送られて宿を引き払った。

 女将はいい人なのだが料理がね。



 ○プリンキピウム 市街地


「今日もいい天気なのです」

「狩り日和だね」

 馬に跨って空を見上げる。

「こっちの気候はどんな感じにゃん?」

「この季節は暑くもなく寒くもなく過ごしやすいのです」

「たまに雨が降るよ、数日続くなんてことはないけど、かなり強く降るから森の中で降られるとヤバいかな」

「足止めをされるのです」

「そのまま夜になると死ぬね」

「死ぬのです」

「にゃあ、確かにあの森の中で外で寝るのは勘弁にゃんね」

「防御結界を維持しなきゃならないから寝てる余裕はないよ」

「にゃお、冒険者は皆んな防御結界を張れるにゃん?」

「護符と呼ばれる簡易な防御結界を張る刻印が有るのです、それにナケナシの魔力を注ぐのです」

「だから寝たとしても交代だね」

「ふたりは持ってないにゃん?」

「魔法使いは自前で張れるから持ってないよ、私はベルと一緒だから持って無かった」

「油断したのです」

「にゃあ、いまは魔法馬が格納したままでも防御結界を張ってくれるから護符の代わりになるにゃん」

「おお、それはいいね」

「ありがたいのです」

 俺の作った魔法馬は軍用で森林走破オプション付きだからその辺りは充実していた。



 ○プリンキピウム 西門


「おはようにゃん」

 門番の守備隊のおっちゃんに声を掛けてカードを見せる。

「おお、連日狩りとは精が出るな」

「稼げる時に稼がないとね」

「数日、森に潜るのです」

「野営するのか?」

「にゃあ、そうにゃん」

「最近じゃ珍しいな、地元の冒険者で野営するヤツは滅多にいないぞ」

「そうにゃん?」

「ああ、最近じゃそう遠くに行かなくてもそこそこ狩れるからな」

「確かに」

「にゃあ、とにかく今日は帰らないにゃん」

「軍人さんがいるなら大丈夫だろうが気を付けろよ」

「うん、気を付ける」

「にゃあ、行ってくるにゃん」

 オレたちは門を通り抜けて街の外に出た。



 ○プリンキピウム 城壁の外


「先に銃を渡しておくにゃん」

 門を出たところでキャリーとベルに昨日作った銃を渡す。

「うわ、これもスゴいね」

「銃だけでも一財産出来そうなのです」

 ふたりは新しい銃の感触を確かめる。

「これがあると魔法を使わなくなりそうなのです」

「魔法の代わりになるのは攻撃だけにゃん」

「私は魔法を九割攻撃に使ってるので問題ないのです」

「にゃあ、だったら魔法を使わなくてもいいにゃんね」

「魔法を使わないと魔力が成長しないので楽はできないのです」

「にゃあ、それは仕方ないにゃんね」


 森に入る南側の小道に向かって城壁沿いをパカポコと三頭横並びで魔法馬を歩かせる。

 昨日の打ち合わせ通り、本日は南西エリアの奥に移動して狩りをする。

 不測の事態に備えて三人で行動する予定だ。

「森に入る前に朝ごはんにゃん」

「ここで?」

 城壁に沿った道をパカポコ馬を進めながら紙袋を渡す。

「にゃあ、馬に乗ったまま食べられるハンバーガーにゃん」

「軍の訓練みたいなのです」

「パンでハンバーグを挟んで有るんだ」

「手の込んだ料理なのです」

「そんなでもないにゃん」

「おお、これも美味しい!」

「すごく美味しいのです」

 キャリーとベルは美味しそうに頬張ってくれた。

「にゃあ、朝からちょっと重かったにゃんね」

 ソーセージエッグマフィンとかにしておくべきだったか?

「問題ないよ、狩りの前ならちょうどいいかな」

「そうなのです」

「にゃあ、今日は森の小道を真っ直ぐ突き進めばいいにゃん?」

「うん、それでいいよ」

「魔獣の森に近づき過ぎなければ大丈夫なのです」

「近いと言っても馬で二日は掛かる距離だから間違って突っ込むことはないと思うよ」

「魔獣の森の飛び地みたいなマナの濃い場所が、魔法馬で半日ちょっとぐらいの距離にあるので要注意なのです」

「マナが濃いなら間違って入り込むことはないにゃん」

「マコトはマナの濃度がわかるの?」

「にゃあ、たぶん行けばわかるにゃん」

 マナは魔力の元だからわかるはずだ。

「肌で感じられるほど近付くのは危険なのです」

「そう、危険には近付かないのがいちばんだね」

「にゃあ、無茶はしないにゃん」

 オレ一人なら多少無茶しても構わないが、キャリーとベルを危険に晒すわけにはいかない。

「マコトが変なところに突っ込みそうになったら、ちゃんと注意するから大丈夫だよ」

「だから今日は一人で遠くに行っては駄目なのです」

「了解にゃん」

 ここは狩りの先輩たちの指示に従うのが正解だ。三九歳の新車営業のおっさんは無茶はしない。

 いまは六歳児だが。


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