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食材を探すにゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇七月〇四日


 ○プリンキピウム ホテル ロビー


 朝食の後、ノーラさんに声を掛けられた。

「マコトさん、私たちも従業員寮に越して来てもよろしいでしょうか?」

「いいにゃんよ、家族用を使うといいにゃん」

「ありがとうございます」

 ノーラさんは、支配人らしくスーツ姿だ。

 こちらの高級ホテルを知らないので元の世界と図書館の情報を参考にして作り上げた。

 シャンテルとベリルの姉妹はドアマンの衣装だ。コスプレ感満載だけど可愛い。

「引っ越しも手伝うにゃんよ」

「それは冒険者ギルドに依頼を出します」

「にゃあ、だったら依頼料は必要経費でオレが出すにゃん、それと馬車も使って欲しいにゃん」

 ホテル用に大小取り揃えて地下の駐車場に置いて有った。

「ええ、馬車はお借りしますが、依頼料まで甘えるわけにはいきません」

「にゃあ、堅いことは抜きにゃん、それに今後も引っ越しはあると思うからお金は掛からないようにしたいにゃん」

「わかりました、マコトさんは本当に優しいのですね」

「にゃあ、そういうつもりはないにゃんよ」

 引越し費用の会社持ちは結構あるぞ。こっちじゃ知らないが。

「にゃあ、ノーラさんのお家はどうするにゃん?」

「お隣の息子さん夫婦にお貸ししようと思ってます」

「にゃあ、ご近所さんなら安心にゃんね」

「ええ、息子さん夫婦には身体を壊した時に随分とお世話になりましたから、それとコレットのご両親も寮に入れていただけないでしょうか?」

「いいにゃんよ、家族用に一緒に住んでもいいし、いままで通りでもいいし、コレットの好きにして欲しいにゃん」

「ええ、そう伝えます」

「フェイは、いいにゃん?」

「フェイのご両親は数年前に他界されてるんですよ」

「それは残念にゃんね」

「お姉さん一家がいるそうですが、フェイが苦手に思ってるらしいとかで」

「にゃあ、それじゃダメにゃんね」

 家族のことに外野が口を出しても事態を悪くするだけだ。


 ノーラさんとの打ち合わせの後は、オレはリーリを連れて食材を探しに森に出掛けることにした。

「本当にふたりで大丈夫なの?」

 ホテルの制服であるジャケット姿のコレットが心配そうな顔をする。

「にゃあ、全力で魔法を使うからオレとリーリだけのほうが危なくないにゃん。それに狩りに出るときはいつもふたりにゃんよ」

「ああ、ネコちゃんたちだとそうか、魔法馬も半端ないものね」

 フェイも同じ服装だ。

「気を付けてね」

「にゃあ、二~三日で帰って来るにゃん」


 シャンテルとベリルがホテルの前で見送ってくれる。

「マコトさん、気をつけて」

「行ってらっしゃい、ネコちゃん、リーリちゃん!」

「にゃあ!」

「バイバイ!」


 オレたちはホテルを出発して森に向かった。



 ○プリンキピウム 町道


 ホテルと孤児院は防御結界に空調が付加されているので気にならないが、一歩敷地の外に出ると夏の日差しが照りつけ、ねっとりと湿った空気に包まれる。

「にゃあ、すっかり夏にゃんね」

「そうだね」

 季節と暦は日本とほぼ同様だった。今日は特にいい天気なので気温がぐんと高くなっていた。

 そして森からの湿った空気がプリンキピウムの街を覆っていた。不快指数が上がりまくりの汗かきまくりだ。

 速攻で魔法馬の防御結界に空調を効かせる。


「よう、マコト! 妖精さん!」

 ジャックだった。さっそく昨日売った髑髏の装飾付きの真っ黒な戦斧を装備していた。隣にはバッカスもいる。

「にゃあ、おはようにゃん!」

「おはよう!」

「マコトはこれから狩りに出るのか?」

「にゃあ、そうにゃん。ふたりは帰って来たところにゃん?」

「そうだ」

「日が高くなると暑くてやってられないからな、開門と同時に森に入ってこの時間には戻って来るんだ」

 バッカスは玉のような汗を拭いながら教えてくれた。

「マコトも真っ昼間は避けた方がいいぞ、汗で簡単に身体が干からびちまう」

「にゃあ、オレは馬も使うし防御結界で日差しも熱気もシャットアウトにゃん」

「そいつはうらやましい」

「俺たちは、買い取りの後は涼しい冒険者ギルドのロビーで一休みだ」

「にゃあ、あそこは空調の魔導具が置いてあったにゃんね」

「これからしばらくは、俺たちのたまり場だな」

 冒険者のおっさんたちは真っ昼間には外に出ないで空調の効いてる冒険者ギルドのロビーでゴロゴロしてるようだ。

「あまりダラダラしてるとデリックの旦那に『仕事してこい!』って叩き出されるけどな」

「にゃあ」

 その光景が簡単に目に浮かんだ。



 ○プリンキピウム 西門


 守備隊の隊長なのにいまだに門番をしてるおっちゃんに挨拶して、ついでに詰め所に空調の魔導具をプレゼントしてから街の外に出た。



 ○プリンキピウムの森 南エリア


「行くにゃんよ」

「いいよ!」

 速度をあげて馬を走らせる。

「にゃあ、やっぱり狩りに出るとわくわくするにゃん」

「そうだね、新しい味との出会いがありそうだもんね」

 リーリはブレない。

 森ではいろいろなモノが揃ってしまう。

 森にはない米と小麦に野菜を数種類ほど魔法蟻とゴーレムたちが地下農場で作ってるので、ホテルのレストランと従業員食堂で使う分は十分賄える目処が立ってる。

 現在も拡張を続けているので、かなりの規模の地下農場になる予定だ。それに大公国の領地とも近いうちにトンネルが開通する。

「足りないのはウシにゃん。出来ればブタも欲しいにゃんね」

「あたしは恐鳥も欲しいかな、唐揚げ食べたい」

「いいにゃんね」

 ウシもブタもヤバい獣そのものだし恐鳥なんか恐竜に数えてもいいぐらいだ。もちろんどれも歯ごたえのある連中だから嫌いではない。

 オレたちはヤバい獣が多い南を目指して馬を走らせた。


 森の中は街よりも更にじめじめしていて、この季節になると冒険者たちは虫よけの簡易結界を手放せないらしい。

 ジャックとバッカスもそれぞれ胸に下げていた。

 魔法馬の防御結界にも大小の虫がプチプチ当たっている。こういった虫の中にはヤバい伝染病を媒介するモノもいるから注意が必要だ。

 今度、簡易防御結界付きのお守りでも作ってプリンキピウムの冒険者たちに配るのもいいかもしれない。

 変な病気を街に持って来られても困るしな。



  ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


「にゃあ、大物にゃん」

「大きいね」

 森を走ること一時間半ほどで最初の大物に出会った。ここに到達するまで襲ってきた獣はすべて魔法馬の防御結界に当たっただけで逝ってしまったので、狩りの獲物にはカウントしていない。回収はしてるけど。

 最初に獲物にカウントされたのは恐竜の特異種だ。しかも二本足で走る肉食タイプ。恐竜の復元図よりもマッチョで黒光りする鎧のような皮膚で覆われた身体は、怪獣ぽいシルエットを作り出していた。

 それにデカい。いまもクマの特異種をお食事中だ。特異種をハンバーガーみたいに食べてるのだからヤバい大きさだ。

「モモのお肉がなかなかおいしそうだね」

「にゃあ、そうにゃんね」

 プリンキピウムの森の獣は強いほどうまい。実にシンプルなルールで成り立っている。

 恐竜が食事の手を止めた。手はあまり使ってないけど。

 視線をオレたちに向ける。

 オレを監視する六つもある目玉はギロっ!と擬音を付けたくなる。

「にゃあ、ヤツからはオレがおいしそうに見えるにゃんね」

「マコトはプニプニのポヨンポヨンだからね」

「にゃ?」

 それは触り心地か? まさか食感じゃないよね。

 黒い恐竜は半分食べたクマの特異種を投げ捨てた。それから一歩、二歩とゆっくりとした足取りでオレたちに近付く。

 オレは小銃を構えた。

 獲物のオレたちが逃げ出さないから恐竜も駆け出さずに距離を詰める。

「狩るにゃん」

 恐竜の頭を狙って小銃のトリガーを引く。

 半エーテルの弾丸は装甲のような皮膚ごと恐竜の額を撃ち抜いた。頭部に残った弾丸から電撃が走り、恐竜は全身を硬直させて前のめりに倒れた。

「にゃあ、電撃弾はまずまずの効果にゃん」

「銃と併用するなんて凝った魔法だね」

「にゃあ、オリエーンス神聖帝国の魔法にゃん」

 恐竜を回収する。


「もっと南にゃんね」

「うん、まだ食べたことのないヤツらに会いに行こう!」

「にゃあ!」

 オレたちは、魔法馬を走らせさらなる南下を図った。おいしそうな魔力を振り撒くのも忘れない。

 そのまま危険地帯に突入した。


「恐鳥が引っ掛かったにゃん」

 ほどなくして恐鳥の群れがオレたちを発見した。

「唐揚げ!」

 現れたのは白くてとさかの赤いレグホンなカラーリングの恐鳥だ。卵の入ったモツがおいしそう。

 恐鳥は群れで一斉に襲い掛かる。全部で九羽で囲んで避けるいとまを与えずくちばしをガンガン防御結界に突き立てた。こいつら電撃を返されてもお構いなしだ。

「にゃあ!」

 空気の刃を使って恐鳥を縦に真っ二つにして回収した。首を切り落としても死なないからなこいつら。

「唐揚げ!」

「にゃあ、ここでひとまずお昼にゃんね」

「異議なし!」



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) ロッジ


 全会一致でここでお昼ごはんということで邪魔な木々を切り倒してロッジを置く。無秩序に森林破壊をしてるようだが、プリンキピウムの森に限っていえば一週間程度でもとに戻る。

 この不自然な再生能力は森全体になにか仕掛けられてるのではないかと思う。草もそうなのかどうかは不明。だって他の場所でも生えるのが早いんだもん。

 ロッジではゴーレムに唐揚げを作らせ、オレはその横でタルタルソースを仕上げる。リーリはその横で味見と称して出来上がった唐揚げを次々と摘む。

「美味しいね」

「にゃあ、タルタルソースを付けても美味しいにゃんよ」

「試してみるね」

 タルタルソースもみるみる減っていった。

「うん、味はこれでOKだよ!」

「にゃあ」

 リーリからOKが出たということは、ここまでが味見だったらしい。身体に似合わずスケールの大きな味見にゃん。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


 午後もオレが生き餌を演じつつ南下を続けた。群れを率いた特異種が増えたせいで速度は遅くなったが獲物の数と種類は格納空間に積み増されていった。

 残念ながらウシとブタは出会わずに日暮れを迎えてしまった。いざとなったらこちらから探しに行くからいいか。


 またまた森を切り開いてロッジを再生した。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) ロッジ


 ロッジの風呂に入ってから、屋上に上がってジュースを飲む。空はあかね色から蒼黒に替わり星が瞬く。

 リーリはお気に入りのプリン・ア・ラ・モードだ。

 ゴーレムが給仕してくれてる。

「相変わらずオルビスは大迫力にゃん」

「そうだね」

 青く輝く地球にそっくりな星は、今にも空から落ちて来そうだ。

「にゃ?」

 森がザワザワしてる。

 南の方向から巨大な気配がした。数が半端ない。

「マコト、おいしそうなのが来たよ」

「にゃあ、真打ち登場にゃん」

 今日はもう来ないのかと諦めていたのだが、焦らすだけ焦らしてウシの登場だ。

「待たせただけあって、いつもより数が多いにゃん」

「これは普通じゃない感じだね」

 三〇〇頭を超える群れだ。

「オレのばらまいた魔力が多すぎたにゃんね」

「それはあるね、普通はいっしょに行動しない複数の群れが混ざってこの数になったみたいだね」


「「「ムォォォォォォォォォォォ!」」」


 重低音の鳴き声に囲まれる。周囲の木々がビリビリ震えた。

 森の闇に赤く光る目が幾つも帯の様にロッジを囲む。

 形は褐色和種に似てなくもないが和牛とは大きさが全然違う巨大なウシたちだ。

「にゃあ、夜の闇を利用してもオレには意味がないにゃんよ」

 更に巨大な特異種が混ざってるが、これも関係なしだ。

 オレは右手を突き上げた。

「にゃああああ!」

 雄叫びとともに地面に光の筋が走り巨大な刻印を形成する。

 ウシたちは突然の光に驚いて逃げようとするが既に足は動かなくなっていた。

 いまになって誰が獲物なのか気付いたらしいがもう遅い。


 オレは全部回収してから、リーリとリビングに戻って寝たにゃん。



 ○帝国暦 二七三〇年〇七月〇五日


 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


「いい天気にゃん」

 翌朝、ロッジを仕舞ってから空を見上げた。きれいな青空が広がっている。おかげで防御結界の空調が効いてなかったら狩りなんかする気にならない気温と湿度になっている。

「今日の狙いはブタだね」

「にゃあ、ブタにゃん」

 予定よりも早くウシは十分すぎる数を得たので、今日はブタを求めて更に南下する。危険度が更に増す。

 魔法馬を出して飛び乗った。

「行くにゃん」

「出発!」

 馬を走らせるとほんの数秒でトラが襲い掛かって来た。

「にゃあ!」

 防御結界に触れるまでもない電撃一発で回収した。


「大きいにゃんね」

「そうだね」

 デカい反応に近付いてみれば真っ白い巨大な恐竜が木の葉を食んでいた。

 形はオレの知ってる首長の草食の恐竜だ。

 ただ大きさが尋常じゃない。

 オレの存在には気付いてる様だが、こっちには興味がないらしい。

 襲って来ない動物なんて久し振りだ。

 オレも手を出さない。

 白い恐竜の横をこそっと通り過ぎてまた魔法馬を走らせた。


 今日のお昼はブタの収獲を願って馬を走らせながらカツサンドを食べる。

「最高だね」

 リーリはカツサンドを入れたバスケットに入り込んでいた。

 ズズン!とかなり前方から地鳴りの音と微振動が来た。

「にゃ?」

 馬を停めて目を凝らす。

 同時に探査魔法を打った。

 距離はあるが巨大な反応がある。

 全長二〇〇メートル強、直径一〇メートルの筒状の生物だ。

「魔獣ではなさそうにゃんね」

 魔獣ではないが、鏡面サソリ並の厄介な相手だと思った方がいい。

 なんたってデカすぎる。

「見えないね」

 リーリも目を凝らす。

「にゃあ、反応からすると地面に潜ってるみたいにゃん」

 しかもそこそこの速度で動いていた。地中では電撃が届くかどうかもわからない。

「美味しいかな?」

 リーリはバスケットの中から問いかける。

「にゃあ、それ以前に食べられるかどうかもわからないにゃんよ」

「狩るの?」

「もちろん襲ってきたら狩るにゃん」


 オレたちは巨大生物の反応に向けて馬を進めた。


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