求人にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇六月二九日
○プリンキピウム 冒険者ギルド
翌日、ホテルでの雑用をこなした後、リーリを頭に乗せ道路を横断して冒険者ギルドに行く。
ついでにホテル前をアスファルトっぽく舗装しなおす。
「にゃあ、しっとりと濡れた感じが最高にゃん」
「そうなの?」
「にゃあ、舗装したてが最高にゃん」
「ふーん」
リーリには興味がないようだった。
オレが舗装の出来に満足したからいいか。
○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー
「にゃあ!」
冒険者ギルドのロビーに元気に足を踏み入れる。
「あら、ネコちゃんどうしたの?」
セリアがカウンターにいるゴツい冒険者をぞんざいに脇に退けた。
「にゃあ、大した用事じゃないから順番は守るにゃん」
椅子によじ登って座る。
「ネコちゃん、あたしで良かったら話を聞くけど」
デニスが出て来て声を掛けてくれた。
「にゃあ、助かるにゃん」
デニスの前のカウンターに張り付いた。背伸びして顔を出す。
「騎士様は、いったいどんなご相談かしら?」
「にゃあ、実はホテルの支配人をやってくれそうな人を探してるにゃん」
「プリンキピウムで?」
「そうにゃん」
「プリンキピウムにはホテルの支配人を経験した人はいないんじゃない?」
「にゃあ、それはオレもわかってるにゃん、ホテルでの経験は必要ないにゃん、信用の置ける人がいいにゃん」
「信用のおける人か、ネコちゃんの知ってる人がいい?」
「にゃあ、知らないよりは知ってる方がいいにゃんね」
「だったらノーラさんにお願いしたら? 前にギルドに仕事を探しに来ていたよ」
ノーラさんと言ったらシャンテルとベリルのおばあちゃんか。
おばあちゃんといってもまだ五〇にもなってないはず。
「にゃあ、ノーラさんにゃんね、それはいい考えにゃん」
「うん、いいんじゃない?」
冒険者ギルドでバリバリやってたキャリアを持つノーラさんなら安心だ。
オレたちはさっそく馬に乗ってノーラさんの家に向かった。
支配人就任の交渉だ。
○プリンキピウム ノーラさんの家
「こんにちはにゃん」
トントンとノーラさんの家の玄関の扉をノックする。
「ネコちゃんと妖精さん、いらっしゃい! こっちに帰ってきたんだね!」
ベリルが扉を開けてオレに抱き着いた。
「にゃあ、昨日プリンキピウムに帰ったにゃん、ノーラさんはいるにゃん?」
「おばあちゃんなら中にいるよ」
「マコトさん、妖精さん、どうぞ入って下さい」
シャンテルも出て来て招き入れてくれた。
「お邪魔するにゃん」
「ふたりとも元気そうだね!」
「うん、元気だよ! 妖精さんは?」
「あたしはいつだって元気だよ!」
ベリルの問いにリーリはオレの頭の上で仁王立ちで答えた。
「いらっしゃい、マコトさん、妖精さん、お久しぶりです、今度は貴族になられたとか?」
ノーラさんも出て来てくれた。
「にゃあ、何かそうなったにゃん」
「まあ」
「マコトだからね!」
「確かにそうですね」
すっかり元気になったノーラさんは初めて会った時とはまるで別人だ。
おばあちゃんと言っても元の世界なら働き盛りだ。
オレたちは案内されたリビングで、さっそく話を切り出した。
「にゃあ、オレが冒険者ギルドの向かいにある建物を手に入れたのはご存知にゃん?」
「ええ、もとの幽霊ホテルですよね、すっかり綺麗になってましたね」
「にゃあ、オレが改装したにゃん、途中で別の仕事が入っていろいろそのままになってたにゃん」
「大公国に行かれてたんですものね」
「そうだよ!」
「にゃあ、ノーラさんはアトリー三姉妹を知ってるにゃん?」
「ちゃんとした面識はないけどデニスとセリアが目を掛けてる子たちですよね?」
「そうにゃん、三姉妹がホテルの料理人をしてくれてるにゃん」
「あの子たち、料理ができるのですか?」
「にゃあ、オレが教えたにゃん」
「マコトさんは料理もできるのでしたね」
「ネコちゃんのお料理、とても美味しいよ」
「とってもおいしかったです」
「あたしが見込んだマコトだもん、当然だよ!」
ベリルとシャンテルそしてリーリの言葉に頷くノーラさん。
「それで冒険者ギルドでノーラさんが仕事を探してるって話を聞いたにゃん」
「ええ、身体もすっかり良くなったことですし、何かできることはないかとギルドに話を聞きに行ったんです」
「仕事はあったにゃん?」
「ギルマスは用意してくれるとおっしゃってくれたけど、無理矢理に席を空けてもらうのもどうかと思って断りました」
「にゃあ、するとまだ仕事は決まってないにゃんね?」
「ええ、この歳だとなかなか直ぐには見つからないですね」
日本も異世界も歳がいってからの再就職は難しいみたいだ。
「にゃあ、だったらノーラさんにオレのホテルで支配人をやって欲しいにゃん」
「私がマコトさんのホテルの支配人ですか?」
「にゃあ、ノーラさんならオレも安心して任せられるにゃん」
「待って下さい、私はホテルに関しては何も知りませんよ」
「そこは問題ないにゃん、オレがマニュアルを用意するにゃん」
「経験も全くありませんし」
「にゃあ、ホテルの経験は無くてもノーラさんには冒険者ギルドで築いた経験があるにゃん」
「それでいいのですか? 本当にできるかどうかわかりませんよ」
「にゃあ、いますぐにオープンするわけじゃないから問題ないにゃん、ノーラさんができないならプリンキピウムの人は誰もできないにゃん」
冒険者のおっさんたちはまず無理だろう。
「それは買い被りすぎですよ」
「にゃあ、まずはホテルを実際に見て欲しいにゃん」
「うん、それがいいね、もうすぐお昼だし!」
リーリも賛成する。理由がちょっと違うけど。
「そうにゃんね、シャンテルとベリルもいっしょに来るといいにゃん」
「私たちもいいんですか?」
「あたしもいいの?」
「にゃあ、皆んなで確かめるといいにゃん」
ノーラさんにシャンテルとベリルを馬車に乗せてホテルに向けて出発した。
○プリンキピウム ホテル 前
「これがあの幽霊ホテルだったんですよね? この前、初めて見てびっくりしました」
ホテルの前でノーラさんたちを降ろした。
「前はなかったですよね?」
「大きいね」
「前からあったけどもっと小さかったにゃん」
シャンテルとベリルは新しくしてからは初めてだと思う。
「そうですね、以前のホテルはもっと小さかったと記憶してます」
「オレが使いやすいように造り換えたにゃん」
最終的には三階建を五階建て+ペントハウスとかに増築したので、大きさも形もかなり違っていた。
「にゃあ、中も見て欲しいにゃん」
「きれいになってるよ」
○プリンキピウム ホテル ロビー
オレとリーリが先導してノーラさんたちにホテルのロビーに案内する。
不動産屋さんにもらった書類によると三〇〇年ぐらい前、ここは貴族用のリゾートホテルだった。
ホテルの後ろにある藪に埋もれて朽ち果てている付随施設がまだあるので、それを復活させれば全盛期以上の姿になる予定だ。
敷地内で全てが賄えるかなり大きなリゾートホテルだ。
「マコトさんは貴族を相手に商売するつもりなんですか?」
「にゃあ、そこは何も考えてないにゃん」
貴族たちから狩りの趣味が失われて久しいので、こんなところにやって来ることはほとんどないはずだ。
「宿代は街中の宿よりちょっとお高い値段にするつもりにゃん」
本当は客が来なくても構わないから、ベラボウに高い値段設定にしてもいいし、逆に無料でも運営は可能だ。
「そうですね、ここが安かったら街中の宿屋は全滅でしょうね」
「にゃあ、それは困るから他所が潰れない程度の価格設定にするつもりにゃん」
「マコトさんは優しいのですね」
「にゃあ、プリンキピウムはオレの知行地だから景気が悪くなると面倒なことになるにゃん」
プリンキピウムの全住民をオレが養うわけにも行かない。経済的には可能だが、そんなことをしてもダメ人間を量産するだけだ。
「決めました、私もマコトさんのホテルをお手伝いします」
ノーラさんが即決してくれた。
「にゃあ、ノーラさんが手伝ってくれるならホテルも安泰にゃん」
「本当にそれは買い被りすぎです」
「詳しいことは後で決めるにして、この時間はお昼にゃん」
「うん、お昼ごはんは大事だよ!」
特にリーリには死活問題だと思われる。
○プリンキピウム ホテル レストラン
ノーラさんたちとリーリを引き連れレストランに行く。
「にゃあ、ノーラさんさんたちを連れて来たにゃん、このホテルの支配人を引き受けてくれたにゃん」
ノーラさんをアトリー三姉妹に紹介した。
「「「よろしくおねがいします!」」」
「あなたたちがアニタとアンナとアネリね、こちらこそよろしくおねがいします」
「にゃあ、まずは三人で作ったランチを食べて貰うにゃん」
アトリー三姉妹がオレの言葉にビクッとする。
「うわー、緊張する」
「でも、頑張るしかないよ」
「そうだね」
「にゃあ、それじゃ頼むにゃん」
「「「はい、少々お待ちください」」」
三人はすぐに料理人の顔になった。
テーブルにアトリー三姉妹自慢の卵料理が並ぶ。
「美味しい! マコト、スゴい美味しいよ!」
妖精が取り乱してる。
「にゃあ、オムレツがおいしくて驚いたにゃん」
まさかここまで成長してるとは思わなかった。
「卵料理なんて珍しいですね、しかもこんなに美味しいのは初めて」
ノーラさんも気に入ってくれた。
「美味しいね、お姉ちゃん」
「うん、とっても美味しい」
ベリルとシャンテルもおいしそうに食べてる。
「これは魔法鶏をもっと増やした方がいいにゃんね」
「うん、それはぜひお願いしたい」
たぶんアンナ。
「すぐになくなっちゃうからね、補充が効くならうれしいかな」
たぶんアニタ。
「贅沢すぎる使い方だけど仕方ないよね」
たぶんアネリ。
「にゃあ、そうにゃん、オムレツは卵をいっぱい使わないとおいしくないにゃん」
「このもつ煮も美味しいわね、内臓って聞いた時は『えっ?』って思ったけどとても美味しい」
ノーラさんはもつ煮も気に入ってくれた。
「よそでは真似のできないおいしさにゃん」
あとは異世界チート料理の王道、プリンとマヨネーズが提供できれば勝ったも同然だ。
どこかと勝負してるわけじゃないが。
「ノーラさん、こんにちは」
「支配人就任ですね」
デニスとセリアがやって来た。
それに冒険者ギルドの女子職員が三人ほど付いてきた。
「いつもの頼む」
続いてデリックのおっちゃんことギルマスが来た。
その後にザックたち職員が続く。
「俺もいつもので」
「俺たちも」
こいつらオレが出掛けてる間に常連みたいになってるぞ。
「今日から一食銀貨一枚にゃん」
「「「ええっ!」」
「にゃあ、嘘にゃん」
「ビビらせるなよ」
「にゃあ、ちゃんと料理の向上に手を貸してくれて助かったにゃん、でも練習にならないから毎回同じのを食べちゃダメにゃんよ」
「「「すいません」」」
「にゃあ、わかってくれればいいにゃん」
そこにゴーレムたちが料理の載ったワゴンを押してやって来た。
「「「なっ!?」」」
白くてすべすべの異形の者の登場に驚く冒険者ギルドの面々。それにノーラさんたちも驚いていた。
「ゴーレムか!?」
デリックのおっちゃんは直ぐにわかったらしい。
「にゃあ、正解にゃん、大公国で手に入れたにゃん」
と、言うことにしておく。間違ってもいないし。
「ブランディーヌ様から話は聞いていたが、もしかしてホテルで使うつもりなのか?」
「にゃあ、従業員の代わりにゃん、王都では大して珍しくないって話にゃん」
「そうなのか?」
「にゃあ、聞いた話にゃん」
「ところでマコト、ここにノーラさんがいるってことは、協力にこぎ着けたのか?」
デリックのおっちゃんがノーラさんのいるテーブルをちら見してお辞儀していた。
「そうにゃん、ノーラさんはここの支配人に就任してくれたにゃん」
「そうか、そいつは頼もしいな」
「ついでに冒険者ギルドから二~三人、職員を融通してくれると助かるにゃん」
「いや、ギルドの職員は無理だな」
「冒険者だったら何人かいるんじゃないか?」
ザックがゴーレムから皿を受け取りながらアイデアを出してくれる。
「年齢は関係無しで、真面目な人がいいにゃんね」
「だったら、コレットさんなんていいんじゃないか?」
ザックが推薦してくれる。
「コレットさんにゃん?」
「ああ、コレット・メイシーか、確かに真面目だな」
デリックのおっちゃんも頷く。
「確かノーラさんが親しかったはずだから、聞いて貰うといいんじゃないか?」
「にゃあ、そうするにゃん」
冒険者ギルドの職員が昼休みを終えて戻って行ったところでノーラさんにザックが名前を上げてくれた冒険者のことを聞いてみた。
「コレットね、ええ良く知ってます、うちにも訪ねて来てくれていろいろお世話になったわ」
「ホテルで働いてくれないか聞いてみようと思うにゃん」
「そうね、彼女なら働いてくれるかもしれないわね、ただ……」
「何かあるにゃん?」
「彼女、何年か前に足に酷い怪我を負って杖無しでは歩けないの。だからその点は考慮してあげて下さいね」
「にゃあ、それは問題ないにゃん」
「それとコレットはフェイ・ミークという娘とパーティーを組んでるの、その娘も誘ってもらえませんか?」
「フェイ・ミークにゃんね、どんな娘にゃん?」
「とても優しい娘です、ただ冒険者としてはちょっとね」
「にゃお、アトリー三姉妹並みにセンスがないとかにゃん?」
「酷い方向音痴なの、コレットとパーティーを組む前は、何度も遭難して死にそうになってたわ」
「にゃあ、一人で森に行くのは危険にゃんね」
コレット・メイシーは二七歳の冒険者でBに近いCランク。
五年前に大きな怪我が原因で片足が不自由になった。
それでも銃の腕はピカイチで現在もプリンキピウムの冒険者ギルドでは五本の指に入る売上を誇っている。
相棒のフェイ・ミークは二〇歳でDランク。
実力的にはCランクなのだが酷い方向音痴で一度森に入ると数日は出て来ないことが多かった。
それでも五体満足で戻って来るのだから戦闘力はかなり高い。ただしコレットなしでは早死にするというのが大多数の意見だ。
どちらも冒険者として稼いでる方なので、転職してくれるかは未知数だ。冒険者は気楽で楽しい稼業だからオレだったら断る。
これはダメかな?




