中間拠点にゃん
○魔法蟻トンネル
オレたちは魔法蟻に乗って地下トンネルを行く。
便宜上トンネルといってるが、オレの感覚からするとこれは直径が一〇メートルぐらいある巨大なパイプだ。
トンネルの材質も金属っぽくってつなぎ目はなくそれ自体が淡く発光していた。
そこをオレたちを乗せた魔法蟻が滑って加速する。原理は魔法を使ったリニアモーターカーみたいなモノだと理解すれば大きく外れてはいない。
「にゃあ、思ったより速いにゃんね」
すでに大公国の領地ドクサ州と首都ルークス間で開通している。もうすぐ小麦の運搬にも使われる予定だ。
「これは楽しいね!」
「「あぅ、マコト様」」
ビッキーとチャスは怖いみたいだ。縦坑よりは絶叫度が低いが幼児の乗るものではないか。
「にゃあ、大丈夫にゃんよ、そんなに遠くないからすぐに到着するにゃん」
魔法蟻は減速を開始した。
ビッキーとチャスの緊張が少し緩和された。
これから向かう中間拠点は文字どおりプリンキピウムの街と州都オパルスの中間地点にある。
なるべく山あり谷ありを避けつつ最短を目指すと旧道のやや東寄りを並走するルートになるらしい。
コース取りは魔法蟻に丸投げだったが、トンネル掘りの専門家だけあっていい仕事をしている。餅は餅屋だね。
○魔法蟻トンネル 州都オパルス プリンキピウム間 中間拠点
魔法蟻は分岐路で中間地点用のトンネルに入り減速を続け、大きなホールに出た。かまぼこ型の天井のせいか高校の体育館を思い出す。あれの三倍はあるけど。
「ありがとうにゃん」
魔法蟻を下りると口をカチカチさせて別のトンネルに戻っていった。いまは州都と大公国の拠点に向けてのトンネルの掘削作業が急ピッチで進められている。
魔法蟻たちは働き者だ。
「にゃあ、想像以上に立派にゃん」
オレは大ホールを見回す。材質はここも金属っぽい。装飾はないがトンネルと同じく床も壁も天井も淡く光っているので不思議な感じだ。
プリンキピウムのホテルの地下に造ったトンネルからそれほど時間がたってないのに大公国での地下施設とかなりの進化を遂げていた。
「ここどこ?」
「どこ?」
ビッキーとチャスもキョロキョロしてる。
「にゃあ、ここはオレたちの秘密基地にゃん」
「「ひみつきち?」」
「にゃあ、オレたちだけの秘密の場所だから他の人に言っちゃダメにゃんよ」
「「はい!」」
「リーリも内緒で頼むにゃんよ」
「わかってるよ、そんなことよりまずはごはんだよ!」
リーリがセーラー服の袖を引っ張った。
「にゃあ、そうにゃんね」
ビッキーとチャスも連れて大ホールから出た。
中間拠点の設計図は頭の中に入ってるので案内されなくてもわかる。
リーリを頭に乗せビッキーとチャスと手を繋いで中間拠点の居住スペースに向かう。
人間用に造られたエリアは普通に天井だけの照明になってる。相変わらず全部金属だけどな。
地下なので燃える素材を使うのはヤバいか。
「にゃあ、こっちにゃん」
居住スペースにはロッジと同等の部屋が幾つも用意されてる。
オレが作って魔法蟻たちの格納空間に投げ入れたものなので中身はまったく同じだ。
慣れ親しんだロッジとあってビッキーとチャスもやっとのこと緊張がとけた。
「マコト様、ここぢめんのした?」
ビッキーが質問する。
「にゃあ、そうにゃんよ」
「ぢめんのしたすごいね」
チャスも感心する。
「マコトだからね!」
リーリも五歳児相手に威張るのを忘れない。
夕食はナポリタンのスパゲッティにした。ブタのウインナーがいい味をだしてる。
「「「美味しい」」」
ビッキーとチャスとリーリの三人は口をケチャップで赤くしていた。
オレも同じだけど。
風呂はオレがリクエストした大浴場があるので皆んなを連れて行った。温泉ではないのだがお湯に治癒効果が付加してあるので身体にはダイレクトにいい。
「「おおきい!」」
「にゃあ」
自分でリクエストしてなんだが、一度に二~三〇〇人は入れそうな大きさだ。
そこを三人+妖精で独占する。
「やっぱりお風呂は大きいのがいいね」
お湯に浮かべた洗面器に乗ったリーリが漂ってきた。
「「はい!」」
ビッキーとチャスも同意した。
「にゃあ」
当然、オレも同意だ。
お風呂の後はビッキーとチャスが寝てしまったので、オレはリーリにふたりを任せて魔法蟻たちのいるエリアに向かった。
そこは大ホールよりも更に大きな空間だ。
『『『……』』』
「にゃあ、魔法蟻とゴーレムを二〇〇〇体ずつ欲しいにゃんね」
『『『……』』』
魔法蟻たちが口をカチカチさせた。
「にゃあ、出すにゃんよ!」
『『『……!』』』
魔法蟻たちも仲間の増産にテンションが上がる。
「にゃあ!」
魔法蟻を一〇〇体ずつ小分けにして再生した。蟻たちはすぐに作業を開始するらしく続々とトンネルに入って行く。
「にゃあ、頼んだにゃんよ!」
蟻たちは振り返って右前脚を挙げた。
続いてゴーレム二〇〇〇体の再生だ。
「にゃあ!」
こちらは小分けせずに一度に全部を再生した。魔法蟻と比べるとゴーレムは場所をくわない。
地下に二〇〇〇体のゴーレムを出せる空間があるのがスゴいけど。
ゴーレムたちも中間拠点の各持ち場に向かった。
魔法蟻に頼まれていた仕事を終えたオレは、リビングのソファーに凭れて格納空間に仕舞ってある大量の魔法馬の残骸の整理と再生を始めた。
「にゃあ、これ八割が軍用にゃんね」
「馬井戸から持ってきた魔法馬?」
リーリはメロン丸ごとシャーベットと格闘中。
「にゃあ、そうにゃん、オリエーンス連邦時代の軍馬の処分場だったにゃんね」
オレの馬よりも更に一回り大きくて、重量物の運搬向きだろうか、しっかりとした馬体だ。
ノーマルの状態でも明らかに現在の魔法馬とは性能が違う。
それに格好もいい。
「これにエーテル機関と森の精の魔石を突っ込んだらヤバいにゃんね」
「でも、面白そうだね」
魔獣由来の素材も組み合わせる。
「にゃあ、これだともう魔獣と何ら変わらないにゃん」
違いは人間を襲うか否かぐらいか。
『……』
外がすっかり暗くなった時間に魔法蟻から念話が飛んできた。
「にゃ、こんなところに魔獣にゃん?」
ここから五〇キロほど西に離れた場所に魔獣の反応を魔法蟻が察知した。
「魔獣の森を出てさまよってる奴っぽいにゃん」
このままだと林道まで出てきそうだ。
林道にそって州都もしくはプリンキピウムに流れる可能性も考えられる。
「ちょっとヤバいにゃんね」
プリンキピウムに流れていったらオレの作った防御結界が弾き飛ばすのだが、州都はどうだ?
確か防御結界は有ったはずだから侵入はされないと思うが、郊外の集落に被害が出る可能性がある。
グールみたいに冒険者ギルドに丸投げできる案件じゃないし。
「にゃあ、これは今日手に入れたお馬さんたちに活躍してもらうのが良さそうにゃん」
「本当は、さっそく試してみたいだけじゃないの?」
リーリからのツッコミが入る。
「にゃあ、六歳児が新しいオモチャを試したがるのは普通のことにゃんよ」
○州都オパルス プリンキピウム間 中間拠点 地上
ビッキーとチャスが起きてくることはないと思うが、また留守をリーリに頼んでオレは地上に出た。
五〇キロとかなり距離があるが、オレにも魔獣の場所はわかった。
ドラゴンゴーレムを再生し空に駆け上がった。
○州都オパルス プリンキピウム間 上空
魔獣は北西に進路を取りつつあった。直進すると州都オパルスに到達する方角だ。
「にゃあ、このまま速度を出されるとまずいにゃんね」
魔獣は蛇タイプだ。
以前対峙した鎧蛇はシャレにならない速度が出てたから、いまはまだ州都から距離があってもぜんぜん安心できない。
夜空に浮かぶオルビスの光を受け、森にドラゴンゴーレムの影を落として飛び続ける。いまのところオレの方が速い。
魔獣はまだゆっくりと森の中をのたくっていた。
○州都オパルス プリンキピウム間 森林
オレは魔獣までの距離を詰めその背後に回り込んで地上に降下した。同時に魔力を魔獣のいる方向に漏らした。
魔獣の反応が止まった。首を後ろに向けて魔力の反応を確かめた。
「にゃあ、随分と鼻のいい奴にゃん」
オレは自分の魔法馬を再生して跨った。
「行くにゃんよ」
魔法馬を走らせる。続けて今日手に入れ改造した魔法馬を再生した。まさか全部を出すわけにはいかないので調整済みの中からの選抜だ。
その数、二〇〇ちょっと。
オレの後ろから地響きを立てて追ってくる。しかもお行儀が良くない。チンピラと軍人を混ぜて魔法馬にした感じだ。
「来るにゃん」
魔獣はいま再生した魔法馬の魔力も感じ取ったのかこちらに方向転換した。しかも速いぞ!
何もそう慌てなくていいのに。
「にゃあ、それでも腕試しにはちょうどいいにゃんね」
二〇〇ちょっとの暴れ馬VSはぐれ魔獣だ。
「壊されても直ぐ修復してやるから思い切り行って欲しいにゃん」
魔法馬たちはオレを追い抜いて恐ろしいほどの勢いで夜の森を駆ける。
魔法馬たちと魔獣とは峡谷を挟んで対峙した。
どうやら以前倒した鎧蛇の仲間みたいだ。
鎧蛇はらんらんと眼を赤く光らせる。
大きさはまんまヘッドライトを点灯した特急そのものだ。
対岸まで五〇メートルといったところだろうか。
「にゃ?」
のんきに距離を測ってる間に馬たちは峡谷を飛び越えて鎧蛇に襲い掛かった。
鎧蛇も炎を吐いて応戦するが、魔法馬たちの強力な防御結界を破ることはできない。
魔法馬たちの蹴りの一発一発に電撃が乗せられ、鎧蛇はあっという間に無残な姿に成り果てた。
「ここまで一方的とは思わなかったにゃん」
鎧蛇の躯を分解する。
「帰るにゃんよ」
今夜のオレの仕事は魔法馬たちの再生と引率で終わってしまった。
「お帰り、早かったね」
中間拠点に戻ったオレをリーリが出迎えてくれた。パイナップルの丸ごとシャーベットに取り掛かっている。
「にゃあ、魔法馬たちがあっという間に蹴り殺したにゃん、数の暴力にゃん」
「魔法馬ってそんなに強かったかな?」
リーリが首を傾げる。
「にゃあ、オレの魔法馬たちが特別強いにゃん、エーテル機関は偉大にゃん」
もう魔法馬というより別の何かかもしれないが。
オレはまた風呂に入りながら新しく手に入れたエーテル機関を眺める。
「きれいにゃん」
魔獣は善戦むなしくすぐにやられてしまったが、エーテル機関の魔法式は実に美しかった。
魔力の流れが更に効率化される。
「これは使うしか無いにゃんね」
オレは魔法馬や魔法蟻それにゴーレムからトイレに至るまでエーテル機関のすべてをバージョンアップした。
満足したオレは布団に潜り込んで寝た。
○帝国暦 二七三〇年〇六月二八日
翌日、オレたちはそのまま魔法蟻の背中に乗ってトンネルを使ってプリンキピウムの森の秘密の出入口から外に出た。
○プリンキピウムの森 西エリア
そして何食わぬ顔で旧道に出て単騎の魔法馬から馬車に乗り換えてプリンキピウムの門に向かった。
○プリンキピウム 西門
「にゃあ、ここがプリンキピウムにゃん」
門の前で馬車を停めビッキーとチャスにプリンキピウムの城壁を見せた。
「ギザギザしてる」
「おおきい」
「にゃあ、そうにゃんプリンキピウムの城壁はギザギザしてて大きいのが特徴にゃん」
「あたしの方が強いけどね!」
リーリには謎の妖精魔法があるから本当の可能性が高いと思われる。などと考えつつ門をくぐった。
「にゃあ、ただいまにゃん!」
オレが声を掛けると詰め所にいた守備隊の隊員が出て来て一列に並んだ。
「マコト様に敬礼!」
一斉に敬礼する。
ビッキーとチャスも敬礼する。
「にゃあ、何ごとにゃん?」
「マコト様、カードをお見せ下さい」
隊長のおっちゃんがうやうやしく手を差し出すからカードを出してやった。
「にゃあ、わかったにゃん、ビールにゃんね、ただはダメにゃんよ」
村長に諭されたので無料配布はヤメにする。
「おおお、本当に騎士様だ!」
「スゲー!」
「本当だったんですね」
隊長を始め隊員たちはオレの冒険者カードを見て声を上げた。
「にゃあ、そんなに騒ぐほどのことじゃないにゃん」
「ですが騎士様ですよ、そして我らのお館様だ」
「にゃあ、おっちゃんもおだてるのが上手いにゃんね、もう今回だけにゃんよ」
根負けしたオレはビールを二ケース出して渡した。
「頂戴いたします!」
「でも、飲むのは仕事が終わってからにゃんよ」
「「「はっ!」」」
またビシっと敬礼した。
ビッキーとチャスは、オレの従者扱いでカード無しでOKだった。
○プリンキピウム 町道
そのまま馬車を進ませる。
「まずは、冒険者ギルドに挨拶にゃんね」
「いいんじゃない、通り道だし」
「「ぼうけんしゃぎるど?」」
ビッキーとチャスは、あちこちキョロキョロしていた。
「にゃあ、オレが世話になってるところにゃん」
「どちらかと言うとマコトが世話してあげてるんじゃない?」
「にゃあ、持ちつ持たれつにゃん」
○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー
冒険者ギルドに顔を出すとそれまでの喧騒がウソのように静まった。
「にゃ?」
何か怖い。
「皆んな、騎士様のお帰りよ!」
最初に声を上げたのはセリアだった。
「「「おおおお!」」」
冒険者たちの野太い声が続いた。
ビッキーとチャスがビクっとしてオレにしがみついた。
「ネコちゃん、ギルマスが来て欲しいって」
デニスに手招きされた。
「にゃあ」
○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室
オレは両側にビッキーとチャスをくっつけ頭にリーリを乗せた状態でギルマスの執務室に入った。
「よう、お帰り! 大活躍だったらしいな」
デリックのおっちゃんは相変わらずデカかった。
「にゃあ、何とか戻って来たにゃん」
「その子たちはどうしたんだ?」
「にゃあ、ビッキーとチャスにゃん、大公国で保護したにゃん」
「保護って、マコトより年上なんじゃないか?」
「にゃお、オレは六歳でビッキーとチャスは五歳にゃん」
本当のオレは三九歳だけどな。
「六歳児が五歳児を保護か、マコト以外にはできないことだな」
「マコトだからね」
リーリは威張りポイントを見逃さない。
「まったくだ、領主様も六歳のマコトにプリンキピウムを渡したのも、マコトだからって判断なのだろうな」
デリックのおっちゃんは愉快そうだ。
「にゃあ、知行地はともかく騎士にしたのはオレを守る為らしいにゃん」
「一介の冒険者と騎士では扱いが違うからな」
大公国ほどではないが、アナトリ王国でも庶民と貴族の間には大きな隔たりがある。
日本の常識を持つオレからするといまいちピンと来ないが。
「大公国でも領地を二つせしめて辺境伯になったんだって?」
「にゃあ、成り行きにゃん」
「それで、騎士様になったマコトはプリンキピウムをどうするつもりだ?」
「にゃあ、逆にオレはどこまでやっていいものにゃん?」
「領主様に全権を委任されてるから町長よりは権限がはるかに上だ、つまりプリンキピウムを好きにしていいってわけだ」
「にゃあ、税金を上げて私腹を肥やすなんてこともできるにゃん?」
「やりすぎると領主に苦情が行くが可能だ。プリンキピウムの場合、前の町長がギリギリまで上げてるから限界だがな」
「いまの税額がギリギリにゃん?」
「市民は年間に金貨一枚、商売人は更に売上の三割か金貨三枚だ、冒険者は買い取り額の三割が乗せられてる、マコトは騎士になったからこれからは免除だな」
「高いにゃんね」
「ああ、プリンキピウムが不人気の原因の一つだ」
そもそも富の再分配の思想がないから貧乏人からもバンバン取って貴族は免除されるわけだ。
「にゃあ、ところでプリンキピウムの町役場は何処にあるにゃん?」
「そんなのはない、冒険者ギルドが代行してる」
「にゃあ、税金を一〇分の一に減らしても大丈夫にゃん?」
「そうするとマコトの取り分も一〇分の一になるぞ」
「にゃあ、オレは問題ないにゃん、でも公共事業費が捻出できないにゃんね」
「公共事業、何だそりゃ?」
「道路を作ったり直したり橋を作ったりするにゃん」
「街道なら領主様が金を出すが、それ以外は使う人間がやるのが普通だぞ」
「そんな気はしたにゃん」
道路はオレが魔法で直すのが手っ取り早そうだ。
「にゃあ、プリンキピウムは市民カードの発行も高かったにゃんね」
「大金貨一枚だな、しかしこれは特別高いってことはない」
「にゃあ、それも大銀貨一枚でいいにゃん」
「そいつは構わないが、得体の知れない人間が押し寄せる可能性があるがいいのか?」
「プリンキピウムだったらもっと住人がいてもいいと思うにゃん、それに街に悪意のある人間は入れないようにするにゃん」
「なるほど、だが冒険者以外に仕事がないぞ」
「にゃあ、仕事にゃんね、そこはオレも考えてみるにゃん」
「そうだな、マコトだったらどうにかできるかもな」
「にゃあ、ひとまず行政の代行はこれまで通り冒険者ギルドにお願いするにゃん、税金の減額も頼むにゃん」
「了解だ」
「それとビッキーとチャスの市民カードが欲しいにゃん」
「わかった、用意しよう」
「プリンキピウムの代官をデリックのおっちゃんにお願いするにゃん、併せて町長の地位は廃止するにゃん」
「俺が代官か、まあいいだろう」
「にゃあ、六歳児に街の運営は荷が重いにゃん」
「面倒くさいだけだろう?」
「にゃあ、それもあるけど、適材適所にゃん」
面倒ごとは冒険者ギルドに丸投げしてホテルに戻った。
○プリンキピウム ホテル ロビー
「「「ネコちゃん、妖精さんお帰り!」」」
アトリー三姉妹が出迎えてくれた。
「にゃあ、ただいまにゃん」
「ただいま!」
「「「その子たちは?」」」
「にゃあ、ビッキーとチャスにゃん、大公国から連れてきたにゃん」
「ビッキーです」
「チャスです」
ふたりともちゃんとご挨拶ができた。
「「「よろしくね!」」」
○プリンキピウム ホテル ラウンジ
ひとまずラウンジに移動した。
リーリとビッキーとチャスには、アトリー三姉妹お手製のチョコパフェを出してもらった。
「ネコちゃん、騎士様になったんだって?」
「にゃあ、そうにゃん、アネリは情報が早いにゃんね」
「あたしはアニタだよ」
「にゃあ、じゃあ、こっちがアネリにゃん?」
「残念、あたしはアンナ」
「難しすぎるにゃん」
「騎士様になるより簡単だと思うけどな」
アネリが首をひねった。
「にゃあ、騎士なんて悪いヤツをぶっ飛ばせばなれるにゃん」
「あたしらだとウサギをぶっ飛ばすのも難しいからね」
アニタが遠い目をする。
「ウサギに蹴られて怪我はしたけど」
アネリも遠い目をした。
「なかなかできることじゃないってデニスさんに言われた」
アンナもまた遠い目をした。
「にゃあ、オレが留守の間、何か問題は無かったにゃん?」
「ギルドの人は皆んなご飯を食べてくれたよ」
「何か言ってたにゃん?」
「タダ飯は最高って言ってた」
「明日から有料にゃん」
「それと泊めて欲しいって、商人の人が何人か来たかな」
「どうしたにゃん?」
「まだオープンしてないって断ったよ」
「にゃあ、それでいいにゃん」
「料理は慣れたけど従業員を雇わないとオープンできないよね」
「そうにゃんね」
何か面倒臭くなった。
「ネコちゃん、面倒臭くなったんでしょう?」
「にゃ」
「「「ネコちゃん!」」」
「にゃあ、従業員はある程度ゴーレムで誤魔化すにゃん」
「「「ゴーレム!?」
「でも、支配人は人間じゃないとダメにゃんね」
「ゴーレムはどうなんだろう?」
「悪くない」
「お客さんが怖がったりしない?」
「にゃあ、この国ではかなり高級な魔導具って扱いみたいにゃんね」
「「「高級!」」」
三つ子が声を揃えた。
「にゃあ、まずは支配人を決めるにゃん」
「「「支配人って?」」」
「ホテル全体を切り盛りしてくれる人にゃん」
「「「おおお!」」」
何か感動するポイントだったらしい。
「問題は心当たりが全くないことにゃんね」
「だったら冒険者ギルドで聞くといいよ」
「にゃあ、アニタ、ナイスアイデアにゃん」
「だから違うって!」
「にゃお」
「ネコちゃん、ビッキーちゃんとチャスちゃんは孤児院で預かってもらったら?」
「いまの孤児院ならオススメ」
「だよね、あたしらがいたころに比べたら天国だよ」
「そうにゃんね」
「「孤児院?」」
ビッキーとチャスはオレを見る。
「にゃあ、前に話したビッキーとチャスぐらいの子供が暮らしてる場所にゃん」
「一回、行って見てみればいいんじゃない?」
「そうだね、まずは体験だね」
「それにネコちゃんにべったりくっついてるとダメ人間になっちゃうよ」
「確かにそれはあるよね」
リーリが腕組みして頷く。
「にゃあ、とにかく行ってみるにゃん」
○プリンキピウム 孤児院
孤児院にビッキーとチャスとリーリを連れてやって来た。
途中、地味に道路を修繕しながら馬車を走らせたので、路面はしっとりとしてツヤツヤで滑らかだ。
「「「ネコちゃんだ!」」」
門を開けると子供たちが飛び出して来た。
「「……!」」
ビッキーとチャスは走ってくる子供たちにびっくりしてオレに抱き着いた。
「ネコちゃん、その子たち誰?」
メグが問い掛ける。
「にゃあ、ふたりともちゃんとご挨拶しないとダメにゃんよ」
「「こんにちは!」」
「あたしはメグだよ」
「ビッキーです」
「チャスです」
「ビッキーちゃんとチャスちゃん?」
「「はい!」」
ふたりは元気に返事をした。
「こっちで一緒に遊ぼう」
ビッキーとチャスがオレを見る。
「にゃあ、遊んで来ていいにゃんよ」
「「はい!」」
ビッキーとチャスはメグに手を引かれて孤児院の中に駆けて行った。
その後のオレはアシュレイと一緒にお昼ごはんを作ったり、新しい遊具のトランポリンを作ったり、ゴーレムを増やしたりした。
ビッキーとチャスは面倒見のいいメグの働きもあってすぐに馴染んだ。楽しそうに遊んでる姿にほっとした。
夕方まで様子をみたが問題はなさそうだった。
「にゃあ、ふたりともここはどうにゃん?」
「「楽しい!」」
ビッキーとチャスはいい笑顔を見せてくれた。
「にゃあ、オレは帰るけどふたりはこのまま泊まれそうにゃん?」
「「はい!」」
返事もいい。
「にゃあ、アシュレイ、ふたりを頼むにゃんね」
孤児院のリーダーであるアシュレイにお願いした。
「はい、ふたりとも礼儀正しいですし大丈夫だと思います」
「あたしもいるからだいじょうぶだよ!」
メグも請け負ってくれた。
「にゃあ、皆んなもビッキーとチャスを頼んだにゃんよ」
「「「はい!」」」
ほかの子たちもいい返事をくれた。
孤児院の皆んなに見送られてホテルに戻った。
○プリンキピウム ホテル ペントハウス
夜になって久し振りにプリンキピウムのホテルのペントハウスでジャグジーでブクブクする。
「みゃあ」
ビッキーとチャスがいなくなった寂しさにちょっと泣いてしまった。
プライベートな空間は六歳児のマインドが表に出てしまう。
「無理しないで連れてくれば良かったのに」
「にゃあ、それはダメにゃん、ビッキーとチャスには友だちをいっぱい作って欲しいにゃん」
涙を拭った。
「マコトは偉いね」
頭に乗ったリーリが撫でてくれた。




