教えて貰うにゃん
「にゃあ、魔獣の森のことを教えて欲しいにゃん」
改めてキャリーとベルに魔獣の森について質問する。
精霊情報体にはないから、できるだけ情報を仕入れておきたい。
「軍の座学で習ったのです」
「魔獣の討伐が王国軍兵士の役目だからね」
オレにとっても幸いなことにキャリーとベルは、王国軍の兵士だけあって魔獣について普通の人よりかなり知識があるみたいだ。
「にゃあ、魔獣を倒すのがキャリーとベルの仕事にゃんね」
「領地内に王国軍を入れることを嫌がる領主が多いから、実際に出動したことはほとんど無いみたいだよ」
「魔獣はどうしたにゃん?」
「各領地の諸侯軍が対応してたよ」
「それでも二年前に国内の諸侯軍を集めて王国軍に統合したのです」
「にゃあ、するといまは諸侯軍はないにゃん?」
「表向きはないのです」
「表向きにゃん?」
「直前に騎士団に編入とかね」
「騎士団は統合の対象にはならなかったので、抜け道に利用されたのです」
「にゃあ、いろいろあるにゃんね」
「私とベルは、その統合のドサクサに紛れて王国軍に潜り込んだんだよ」
「そうなのです」
「王国軍に志願するのは難しいにゃん?」
「私たちみたいな孤児院出身だとかなりハードルが高いよ、元々は法衣貴族の三男坊とかの就職口だったから」
「それが二年前の王国軍の改革で諸侯軍と一緒になったら、貴族の子弟がゴソッと辞めたのです」
「そのタイミングでクレア姉、私たちの孤児院の先輩でいまは少尉の優秀な人なんだけど、王国軍に誘ってくれたんだよ」
「ふたりとも苦労してるにゃんね」
「いいえ、私たちはかなりマシなのです」
「そうだね、こうやって休暇で狩りに来れるなかなかなご身分だもんね」
キャリーとベルがうなずき合う。
「それで、魔獣ってどんな獣にゃん?」
「前にも言った通り魔法を使うのが最大の特徴かな、凄く大きな個体が多いかな」
「姿は千差万別なのです」
「目撃例が多いのはヘビ型かな」
「昆虫型もたまに見られるのです」
「いろいろ有るにゃんね」
「もう一つの特徴は、魔獣は体内に魔石という赤い宝石を持ってる点かな」
「ここ数百年で実際に取り出せたのは、数個なのです」
「にゃあ、随分と少ないにゃんね」
「簡単には倒せないんだよ」
「魔石は遺跡から発掘されたモノも出回ってるので、マコトも目にする機会があるかもしれないのです」
「遺跡にも有るにゃん?」
「オリエーンス連邦の時代は、獣のように狩られていたらしいのです」
「にゃあ、自分たちで作って自分たちが狩ったにゃん?」
「そういうことになるのかな」
「大規模な内戦が有ったという説が有力なのです」
「真相はわかってないにゃん?」
「そうみたいだね」
「遺跡の調査をちゃんとやれば色々わかるかもしれないと座学の先生は仰っていたのです」
「にゃあ、つまりちゃんと調査されてないにゃん?」
「お宝を持って帰るのでやっとみたいだよ」
「まるで盗掘にゃんね」
「仕方がないのです、遺跡の発掘は危険が伴うのです、犯罪奴隷を一〇〇人単位で潰すことも珍しくはないのです」
「犯罪奴隷にゃん?」
「うん、アナトリ王国では奴隷が禁止されているけど、盗賊や人殺しは例外的に奴隷として使えるんだよ」
微妙に人権が尊重されているのかな。
「それでもコストが掛かり過ぎにゃん」
「だから悠長に調査なんてしてる暇はないんだよ」
「にゃあ、すると魔獣についてはわからないことが多いにゃんね?」
「そうなのです」
「魔獣の森に付いてはどうにゃん?」
「わかってるのは、マナが濃いってことぐらいかな」
「防御結界が張れない人間が入り込むと、その濃いマナにやられるのです」
「にゃあ、それは間違って立ち入るレベルの濃さじゃないにゃんね」
「本当のところ何もわかってないに等しいかな、過去数百年の間に解放に成功した魔獣の森は僅かな面積だし」
「森の中の魔獣は直ぐに仲間を呼ぶので討伐はかなり難しいのです」
「にゃあ、攻略の難易度が高いにゃんね」
「いまの王国軍じゃとてもじゃないけど勝てないよ」
「魔獣以前に戦えるような状態じゃないのです」
「何か問題が有るにゃん?」
「残念ながら問題ばかりなのです」
ベルがため息を吐く。
「にゃあ、軍隊みたいな大きな組織では仕方ないにゃん」
問題の無い組織なんて無いだろうし。
「おかげで魔獣の森解放なんて無茶な作戦は立案されそうにないから、私としてはいいんだけど」
キャリーは皮肉めいた笑みを浮かべた。
「魔獣が出ても王都の駐屯地からは間に合わないので安泰なのです」
「にゃあ、王国軍がそれでいいにゃん?」
「良くは無いんだけど、そもそも王国軍には魔獣に通用する武器がないんだよ」
「魔獣を倒せる魔法使いもいないのです」
「優秀な魔法使いは、王国軍ではなく宮廷魔導師団の所属なんだよ」
「宮廷魔導師が出ればいいと違うにゃん?」
魔法使いなら魔法を使う魔獣にも対抗できるのではないだろうか?
「あちらは魔獣を退治したりしないのです」
「にゃ?」
「賄賂をせびるのが仕事みたいなものだから」
「にゃあ、それは難しい問題にゃんね」
宮廷魔導師が特権階級化しているのだろうか?
「魔獣を倒したり魔獣の森を探検した昔の人は偉かった」
「その時は何を使って倒したにゃん?」
「超大型の弩弓だよ、移動要塞から撃ったらしいよ」
「移動要塞なんてあるにゃん?」
「昔は有ったのです」
「いまはないにゃん?」
「成れの果てみたいのはあるよ」
「喋ってはダメなのです、軍事機密なのです」
「おっとそうだった、いまのは忘れて」
「忘れたにゃん」
「ありがとう」
「にゃあ、オレも魔獣の森を探検してみたいにゃん」
「魔獣に食べられちゃうよ」
「にゃあ、それは嫌にゃん」
「魔獣の森の更に奥には、魔の森と言う人間は立ち入ることのできない領域があるらしいのです」
「魔の森にゃん?」
「ただ伝説だから実際に存在するかはわからないけどね」
「面白そうな話にゃん」
「行っちゃダメなのです」
倒すのが無理でも魔獣を見物ぐらいしたい。
ベルから午前中の獲物を預かった。
「格納空間が空いたのでどんどん狩るのです!」
「おおっ!」
キャリーとベルは意気揚々と森に入って行った。
オレも午後の狩りにゃん。
○プリンキピウムの森 南西エリア
魔法馬と一緒に獲物を探す。
「にゃあ、探査魔法とやらを使ってみるにゃん」
探査魔法を打った。次の瞬間、自分の視覚、聴覚、触覚などの感覚がいきなり大きくなる。
各感覚が混ざりあったみたいな感覚で、遠くまでかなり詳細な情報が集められた。
「これは便利にゃん」
探索の結果を元に魔法馬を走らせた。
一時間ほど探査魔法に引っ掛かった大小の獲物を狩りまくってると、これまでにない大きな反応が出現した。
「にゃあ、これはかなりの大物にゃんね」
魔法馬に乗ったままこっそり近付く。
「にゃお、サイにゃん」
巨大シカをむさぼり食う更に巨大なサイを発見した。
鎧のような分厚い皮膚で覆われた灰色の身体は大型観光バスといい勝負だ。
ところでサイって肉食だったか?
『にゃ、まさか魔獣じゃないにゃんよね?』
『マコトそれダメ! 直ぐに逃げて!』
『にゃ?』
『その大きさは特異種なのです! 魔獣の次に危険な獣なのです!』
魔法馬を通してキャリーとベルから念話が入った。
『もうこっちを見てるにゃん』
口を真っ赤にしてこっちをガン見してる。
『しかも目玉が四つもあるにゃん』
『それって、もう間違いなく特異種だよ!』
オレの知ってるサイと違って口が大きく尖った歯がびっしり生えていた。
まるで笑ってるみたいに見える。
「これはどう見ても肉食獣にゃん」
『オオオオオオオオオォ!』
巨大サイは吠えると大地を揺らしオレに向かって突っ込んで来る。
「にゃ! やっぱりオレを食う気にゃん!」
地面を揺らし向かってくる巨大サイはヤバい!
あんなのに跳ね飛ばされたら良くて重症、下手したらまた別の異世界に転生しそうだ。
「にゃあああ!」
巨大な衝撃音とともに鮮血が飛び散った。
ずるっと巨大サイが崩れ落ちる。
全速力で突進してきた巨大サイはオレが風の魔法で作った空気の壁に激突した。
「まだ、息があるにゃんね」
立ち上がる前に電撃でトドメを刺す。
沈黙したサイを格納した。
『だ、大丈夫なの?』
『問題ないにゃ、にゃあああ!?』
同じく特異種と思われる巨大サイが三頭ばかり現れた。
「にゃあ! さっきのより大きいってどういうことにゃん!?」
オレはその場で銃を作り上げる。
三頭は仲間を殺され怒りに我を忘れて……。
いや違う。
オレを食いたくて我先に突っ込んで来る。
『『『オオオオオオオオオォ!』』』
巨大サイに銃口を向ける。
オレの銃が半分物質で半分エーテルの弾丸を撃ち出す。
着弾すると強力な衝撃が対象を突き抜ける。
どんなに硬くてもだ。
トリガーを引き三頭の巨大サイの頭を連続で撃ち抜く。
三頭は土埃を上げて転がった。
今回のヤツらはオレの空気の壁にも届くことは無かった。
トドメに電撃を加えて格納する。
『マコト、どうしたの!?』
「にゃあ、心配掛けたにゃん、無事に全部で四頭ゲットにゃん」
『四頭ってすごすぎるのです』
『こっちの寿命が縮むよ』
『にゃあ、オレもこの大きさはビビったにゃん』
○プリンキピウムの森 落下地点
巨大サイを倒した後は狩りを終了して、落下地点の記念碑まで戻ってロッジを出して細部の仕上げを行った。
「刻印の設置が煩雑にゃん」
でも十分に森での常用に耐える作りになった。
「これなら例え巨大サイが束になって掛かって来ても平気にゃん」
オレはペシペシとロッジの外壁を叩いた。
夕方、キャリーとベルが戻って来たので、ロッジを格納した。
「どうだったにゃん?」
「魔法馬が次々と獲物を見付けてくれたから大漁だったよ」
「午前中の分をマコトが預かってくれたのも大きいです」
「午後の分も預かるにゃん」
「ありがとうなのです」
ベルの格納空間にある獲物を預かり、高く売る為に必要な部位に分けた。
「にゃあ、明日からはロッジで野営するのはどうにゃん? これなら安全に夜を過ごせるにゃんよ」
「おお、それはいいね」
「私も賛成なのです、街に帰らずに狩りが続けられるのは効率がいいのです」
「人数が揃えば森で野営するのはそんなに珍しいことじゃないし、マコトのロッジがあるならそれこそ人数も関係なくなるもんね」
「軍隊の訓練より楽ちんなのです」
「にゃあ、決まりにゃん」
「まずは街に戻ろうか」
「急がないと門限ギリギリなのです」
「了解にゃん」
魔法馬の防御結界が不意打ちを防いでくれるので夜の移動でも問題ないが、門が閉まってしまうので急がなきゃならない。
異世界は門限に厳しい。
「飛ばすにゃん!」
速度を上げて二〇分も掛からずにプリンキピウムの門に到着した。