小麦の集積地にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇六月二二日
○フルゲオ大公国 クルスタロス州 州都パッセル 郊外 簡易宿泊所
朝のうちに元奴隷の人たちにクルスタロスの守備隊と運送業務について説明し、それぞれに振り分けと装備一式を授与した。
のんびりさせようと思った約八〇〇人のうち半数が働きたいというので協力して貰う。
元奴隷の人たちには元大公国軍の兵士から将軍までいて驚いたにゃん。元奴隷に有能な人間が多いのはバカ貴族が幅を利かせていた弊害だな。
知識も魔法で与えたので魔法馬や馬車の扱いなどは実際に動かして慣れてくれ。
後のことは全面的に彼らと冒険者ギルドに任せることにした。下手にオレが口を出すより上手く行くと思う。
○フルゲオ大公国 クルスタロス州 ドクサ街道
「出発!」
リーリの号令とともに馬車と騎馬はパッセルを予定より二時間ほど遅れて出発した。
「マコト様、森が消えて畑になっていますが」
城壁を出て先に気付いたのはカリーヌだった。
「おお、本当だ」
セレナも声を上げる。
「にゃあ、オレが作り変えたにゃん」
「流石です、マコト様」
「スゴすぎて言葉がありません」
「にゃあ」
実際の作業は魔法蟻とゴーレムだけどな。
クルスタロスから先は、直轄領となった領地があるだけなのでオレはまたリーリと一緒に荷台の小麦粉の山の上にちょこんと座っている。
クルスタロスの代官をあのガタイのいい冒険者ギルドのギルマス、ヤルマル・ベイアーのおっちゃんに無理を言って兼任で就任してもらった。
冒険者ギルドに頼ってばかりだが、彼らがオレをここに連れて来たのだから責任は取って欲しい。
パッセルの市民は、生命線とも言える小麦粉を代官が押さえてるので実権の把握にはそれほど手間取ることはないと思う。既に反抗的な市民は排除されてる。
それでもまだ武器を手に戦うのなら、元奴隷たちから選抜した新しい守備隊が圧倒的な戦力差を見せつけるまでだ。
○フルゲオ大公国 大公直轄領 ドクサ街道
「盗賊も出ないから退屈にゃん」
「そうだね」
直轄領となった場所は、次男坊大公が透かさず代官を送り込んでいち早く実権を把握している。
残念なのは商人の道が使い物にならないと判明したことだ。実は数十年前から空間圧縮走行が出来なくなっていた。
いや、使えないことはないのだが空間圧縮魔法の使い手を確保出来ず、使うに使えない状態に陥ったらしい。
空間圧縮魔法の使い手をとある一族が独占したのが衰退の始まりで、魔法を使えない人間が当主になった辺りから一気におかしくなったそうだ。
秘術を守りたいのはわかるが空間圧縮魔法ではそこまでスゴくないのにな。オレが簡単に推察できたぐらいだし。
それでいてカティみたいな後ろ盾のない優秀な魔法使いは、大公国内では技量に相応しい仕事を得られず、冒険者ギルドを頼って少なくない数が国外に出てしまった。
いまの商人の道はただの真っ直ぐなだけの凸凹道で、普通の街道の方が状態がいいらしい。
空間圧縮魔法が使えないのに商人の道が残っていたのは、大公家から多額の補助金をせしめるための方便に使っていたからだ。
この詐欺行為で大店の商会は、国外に逃れた当主の帰還を待つこと無くいずれも取り潰しが決定した。
大公家の主導で商業ギルドは一から作り直すらしい。
これ以上もう落ち様もないだろうから少なくとも前よりはマシになると思う。
これもデフロット第一公子のやらかしたメチャクチャの副産物の一つか。だからってヤツの所業をオレは評価しないけどな。
もっと上手いやりようがあったのにデフロットは選択しなかった。
デフロットが死霊魔導師だったから?
死霊魔導師もまた人間の特異種だったのかもしれない。
人間とはまったく見分けの付かない特異種。
心だけが違っている特異種だ。
○帝国暦 二七三〇年〇六月二三日
三ヶ所目のドクサ騎士団専用宿泊所を出て首都ルークスを目指す。
昨夜は、すき焼きパーティーで盛り上がった。
オレはずっとリーリの食べるお肉を卵に絡ませる係だったけどな。
「にゃあ、今日中に到着にゃん」
「「「おう!」」」
ルークスでの目的地は、この前の宮廷魔導師たちの陣地跡だ。
あそこを小麦の集積地にする。
要はデカい倉庫を作ってそこから全国各地に配送するのだ。
配送を担う元奴隷の人たちもそこが本拠地になると思う。
ドクサ騎士団とパッセル守備隊がルークスの集積場に運び、そこからネコミミマコトの宅配便が各地にお届けするにゃん。
馬車とフォークリフトも用意しないとイケナイにゃんね。
ちなみにネコミミマコトの宅配便はオレが冗談で言ったのがそのまま採用されてしまった。こっちの人は元ネタを知らないから、冗談に聞こえなかったのだと後で気付いたにゃんよ。
「マコト、前方に人と魔法馬がいるよ」
リーリが先に見付けた。
「電撃する?」
「にゃあ、盗賊はいないはずにゃん、オレに突っ掛かって来るバカ貴族の生き残りもこの辺りに生息してないにゃん」
「だったら、ドカンてぶっ飛ばしちゃう?」
無邪気に提案して来る。
「にゃあ、それはダメにゃん、アレは近衛騎士団団長のアンジェリーヌ様にゃん」
ドカンとぶっ飛ばすとここに来てややこしい事態に発展するぞ。
守護騎士のダミアーノとグリセルダもいる。
グリセルダはレオンと一緒じゃないにゃん? それにダミアーノは内務大臣に就任したと違うにゃん?
「やあ、迎えに来たよ」
「にゃあ、アンジェリーヌ様が直々にお出迎えにゃん?」
「マコト殿の小麦を失ったら我々の命運は尽きると言ってもいいからな」
「アンジェリーヌ様は大げさにゃん」
「いや、死霊発生の混乱で小麦の国内備蓄が底を突いてしまったんだ、大店の商会すべて廃業決定で既に動いてない」
「にゃお」
必要な小麦粉ぐらいルートを確保してから潰せよと言いたいところだが、死霊騒ぎで先に潰れていたか。
「にゃあ、わざわざアンジェリーヌ様が出て来なくても、オレたちから小麦を奪えるヤツなんていないから大丈夫にゃん」
「なに単に私が安心したいだけだ」
「姫様は、マコトのご飯が食べたいだけなんだ」
「お察し下さい」
アンジェリーヌの守護騎士ふたりが真相を暴露した。
「ちょ! ふたりとも何を言ってる!?」
真っ赤になるアンジェリーヌ。
オレの髪の毛がツンツン引っ張られる。
「にゃ?」
「おなか空いたね」
リーリの食欲にも火がついてしまった。
○フルゲオ大公国 大公直轄領 ドクサ街道脇
馬車を路肩に止めてオレの騎士たちにお弁当を配ってもらう。
もちろんアンジェリーヌ様とその護衛の人たちにも配る。
オレの騎士たちは馬を仕舞って馬車の荷台に上がってお昼ごはん。
御者台のふたりは御者台で食べる。
荷台は見晴らしもいいし、小麦粉の袋に掛けてあるシートは分厚いけど柔らかいので座り心地も最高だ。
アンジェリーヌの守護騎士たちだけは魔法馬を降りずに警戒を続行しつつ食べてる。
「マコト殿が俺たちよりずっと広い探査魔法を持ってるのはわかってるんだけどな」
「癖みたいなものですからお気遣いなく」
「でも本当に美味いな」
「ええ、とっても」
その他の騎士たちも弁当を食べる。
今日のお弁当はおにぎりバスケットだ。
大きなおにぎり二つに恐鳥のから揚げとブタのウインナーに味付け卵、それに漬物も入れてある。
要は某コンビニエンスストアのお弁当だ。オレにエレガントなランチを求められても困るにゃん。
飲み物はお茶だ。
「お米は初めてだが、とても美味しい」
アンジェリーヌにも好評だった。
「にゃあ、プリンキピウムでは冒険者が割りと食べてるにゃん」
危険なエリアじゃ食べないだろうけど野営のお供にしてる冒険者はそれなりいる。
オパルスの近郊で栽培されているので米は簡単に手に入った。
その後、地下農場でオレ好みに品種改良したけどな。
「最高だよ」
いちばん喜んでいるのはアンジェリーヌじゃなくてリーリだ。
「にゃあ、レオンはどうしたにゃん?」
「旦那様は、冒険者ギルドの方々と打ち合わせです」
グリセルダは赤くなって身体をクネクネ。
「にゃあ」
見てるだけで、おなかいっぱいになった。
○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣跡
夕方前にオレたちは首都の前に作られた首都防御陣の跡に到着した。
簡易宿泊所は残ってるが、それ以外はゲートと柵を残してきれいさっぱり片付けられて、粘土質の地面に雑草がちょろちょろ生えてるだけの野っ原になっていた。
「だだっ広いのは好都合にゃん」
「兄上はマコト殿の好きなようにしていいそうだ」
「にゃあ」
もともと細かいことを気にする質じゃないと思うが、あの次男坊。
「まずは集積場から造るにゃん」
当初は冒険者ギルドの倉庫という話だったが、既に魔石でいっぱいになってるので新たにここに小麦専用の集積地を造る事になった。
イメージしたのはトラックがスロープで登っていく立駐みたいな構造の巨大な倉庫だ。
「にゃあ!」
実際には地下が本物の集積場になってる。
たぶんトンネルを通って来る小麦の方が多いからだ。
「にゃふ~、こんなもんにゃんね」
前世でもお目に掛かったことのない大きさの倉庫ができた。
「「「……」」」
皆んな固まってる。
「にゃ、もしかしてちょっとちっちゃかったにゃん?」
「そうかもね」
リーリが首をひねる。
「にゃあ、もう欲しがりにゃんね」
「人間の欲望には切りがないから」
腕を組んで頷く妖精。
それは言えてる。
「いいにゃん、やるにゃん! にゃああ!」
倉庫をもうひとまわり大きくした。
「にゃあ、これ以上は欲しがってもダメにゃんよ、使いづらくなるにゃん」
いまもちょっと微妙だ。
「いや、あまりの大きさにびっくりして声が出なかっただけだ、決して不満が有ったわけじゃない」
アンジェリーヌが動き出した。
他の連中もカクカク頷く。
「にゃあ」
屋上にはオレのペントハウスと露天風呂を付けたい。
続けて冒険者ギルドから派遣された職員のオフィス棟や従業員寮に騎士たちの宿泊所に地下駐車場、それに輸送用の馬車や作業用のゴーレムなどを出して敷地内の道路を整備したらちょっとしたした街っぽくなった。
小麦の馬車はゴーレムが乗って倉庫に運んで行った。
「にゃあ、騎士の皆んなは夕食までくつろいでいて欲しいにゃん」
「「了解です、失礼します」」
四〇人の少女たちはゴーレムの案内で宿舎に行進して行った。
大公国のお偉いさんがいるから緊張してた様だ。
「何か飛んで来たよ」
リーリが上空を指差す。
「にゃ?」
オレの目の前に厨二っぽいのが飛来した。
レオナール・ボワモルティエ大公だ。
「マコト、何だこれは!?」
出来たてのデカブツを指差す。
「にゃあ、小麦の倉庫にゃん、野菜とお米も入れるにゃん、それでも余ってるところは魔法牛と魔法鶏でも入れておくにゃん」
「牛乳飲み放題だね」
リーリもうれしそう。
「倉庫、これがか!?」
「にゃあ」
「城より立派だぞ」
「にゃあ、単にこっちが新しいからそう見えるだけにゃん」
何故か皆んなが首を横に振った。
遅れてブランディーヌとリンダとエリカが馬を並べてやって来た。
「お帰りなさいネコちゃん、それで私はどこを使っていいのかしら?」
「にゃ?」
「もう冒険者ギルドの硬い椅子で寝るのは嫌なの!」
「にゃあ、お城にブランディーヌ様のお部屋があったにゃんね」
「だから、俺様の屋敷に来いと言ったであろう」
レオナール大公が呆れ顔。
「兄上の館は宮廷魔導師の皆さんを始め殿方ばかりではないですか? 無理を仰らないでください」
「そうか、愉快な奴らだぞ、マコトもそう思うだろう?」
「にゃあ、そうにゃんね」
愉快は愉快だが愉快すぎてちょっとした弾みに全員まとめてぶっ飛ばしたくなるのが玉に瑕の連中だ。
「にゃあ、年頃のお嬢様を一緒に住まわせると魔導師連中がギスギスするからヤメたほうがいいにゃんよ」
ブランディーヌ様は本物のお姫様だから宮廷魔導師団なんか簡単にクラッシュだ。
「妹に手を出したら普通に殺すけどな」
「人数が減るとお城の再建が遅れるにゃんよ」
「それなら現段階で既に遅れている、マコト、城の土台だけでも手を貸してくれ」
「土台にゃん?」
「ああ、溶けた石材だの何だのが固まってまるで一枚の強固な岩みたいになってる。俺様も魔導師どもも手を焼いているんだ」
「にゃあ、わかったにゃん、土台だけでいいにゃん?」
「何なら全部再生してくれてもいいぞ、代金はこの辺りの土地でどうだ?」
アバウトな提示だ。
「にゃあ、いいにゃんよ、でも危ないモノは再生しないにゃん」
「確かに元の城は危ないものが多すぎる」
「照明だの水道だのはサービスしておくにゃん」
「おトイレはネコちゃん仕様でお願い」
ブランディーヌからリクエストが入る。
「にゃあ、了解にゃん」
オレは城の跡地を探索する。
ヤバいものはもう埋まってない。立ち入り禁止の簡易結界が張られているから近くに人もいなかった。
「やるにゃんよ」
「いますぐか?」
「にゃあ!」
一気に元の城を再生する。呪いの道具などはすべて無効化し、照明とトイレなどの水回りはより近代化を図った。
「もうできたのか?」
城壁の向こう側に真新しくなった城がそびえる。
「にゃあ、後は現物を見ながらの微調整にゃん」
「ああ、そのぐらいは魔導師どもにやらせる」
「にゃあ、それがいいにゃん」
出番がないのもつまらないからね。
「助かったぞマコト、またな!」
次男坊大公陛下は空を飛んで帰って行った。
「にゃあ、お城の部屋も再生してあるからブランディーヌ様も確認して欲しいにゃん」
「ええ、わかったわ」
「にゃあ、オレも自分の部屋を作りに行くから、またにゃんね」
自分の魔法馬を出して飛び乗った。
飛んで行ってもいいのだが倉庫のスロープの具合も確かめておきたい。
○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 集積場 倉庫
パカポコパカポコパカポコ。
何故か魔法馬の足音の数が多いが。
振り返るとブランディーヌとアンジェリーヌとふたりの守護騎士たちの計六人が付いて来ていた。
「にゃ?」
「今夜はネコちゃんの所に泊めてもらうって決めたから」
「私もだ」
「にゃあ、守護騎士の皆さんもにゃん?」
「「「もちろんだ」」」
「旦那様と離れて過ごすのは寂しいですが仕方ありません」
「レオンはどこにいるにゃん?」
「冒険者ギルドの一室でお勉強中です」
「グリセルダは戻っていいぞ」
アンジェリーヌはちょっと疲れた笑みを浮かべた。
いろいろ当てられてるらしい。
婚活騎士からおのろけ騎士に変わってお花畑の花びらをまき散らしているから。
「にゃあ、夜になったらレオンを呼ぶと良いにゃん、オレからも話したいことがあるにゃん」
「わかりました、日が暮れたら旦那様に連絡いたします!」
「頼んだにゃん」
瞳にハートマークが見えた気がした。
○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 集積場 倉庫 屋上
たっぷりと時間を掛けてスロープを昇って巨大倉庫の屋上に出た。
「思ってた以上にデカかったにゃん」
ちょっとやっちまったかもしれないが今更ちっちゃくするのもアレだし。
「屋上も広いね」
「にゃあ、早速、造るにゃん」
この広さにいつものペントハウスではバランスが悪すぎる。
「にゃあ!」
屋上いっぱいの庭園とお屋敷を出した。お屋敷は以前コルムバの近くで手に入れた魔法使いの家をベースにしたものだ。
無論、露天風呂完備。
「桃だ!」
リーリが桃の実を目ざとく見付けて飛んで行った。
「「「……」」」
また止まってる姫様たち。
「にゃあ、いくら欲しがっても、今度は大きくしないにゃんよ」
「いや、誰も大きくしろとは言ってないぞ」
アンジェリーヌが首を横に振った。
「にゃあ、それは良かったにゃん、これ以上はバランスが崩れるからどうしようかと思ったにゃん」
空中庭園と屋敷のバランスは崩したくなかった。
「マンゴーもある!」
リーリがマンゴーの木を見付けて文字通り飛んで行った。
「おお、こいつは美味いな」
「でしょう!」
アンジェリーヌ様の守護騎士ダミアーノも一緒になってマンゴーを食べてる。
ちなみに桃もマンゴーもオレがそれっぽく作った謎植物だ。
本物の桃の木もマンゴーの木もちゃんと見たことがないから仕方ない。
館の前ではゴーレムたちが並んで一礼する。
「お出迎えしてくれてるのね」
「そうにゃん、部屋に案内させるにゃん」
「後に付いていけばいいのね」
「おお、一人に一体とは豪勢だ」
「私はレオン様と同じ部屋でお願いします」
担当のゴーレムがお辞儀をしてグリセルダを案内した。
「にゃあ、オレは露天風呂でひとっ風呂あびてくるにゃん、皆んなは好きにくつろいでいて欲しいにゃん」
オレは皆んなに手を振ってから館からちょっと外れた場所にある露天風呂に向かった。
露天風呂は空中庭園の西側に設置してある。
首都の城壁の反対側だ。
いつものペントハウスも一緒に作ってある。
でっかく作った露天風呂は少し壁から飛び出してる。
絶景と絶叫を混ぜた感じの仕上がりだ。
「にゃふ~」
「お風呂!」
オレがのんびりしてる所に果汁にまみれたリーリがドボンとお湯に飛び込んだ。
それから浮き上がってオレにくっつく。
「露天風呂は良いね」
「にゃあ」
夕日を見ながらふたりでチャプチャプしていた。
○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 集積場 騎士団宿泊所
夕食は騎士たちの宿泊所で鉄板焼きの妙技を披露することになった。
その前にレオンに抱き着かれて号泣されたけどな。
「にゃあ、このまえ別れてからそんなにたってないにゃんよ」
「違うのです! 私はマコト様のお心遣いに感動してるのです!」
「にゃ?」
「マコト様が旦那様にご提供いただいた資金と労働力ですわ」
グリセルダが教えてくれた。
冒険者ギルド経由で送った資金と犯罪奴隷のことか。
「にゃあ、そんなに感謝しなくてもいいにゃんよ、オレのところで犯罪奴隷は使わないからレオンのところに回しただけにゃん」
オレたちにとってはゴーレムの方が使い勝手が良いからね。
あらためて鉄板焼きだ。
前世でたまに友人たちと食べてたのでオレにも再現が可能だった。
各テーブルにはゴーレムが着いて肉だの何だのを華麗に焼いて皆んなを楽しませる。
フランベも盛り上がる。
なぜか宮廷魔導師たちも混ざってる。
ウチの子たちを泣かす様なマネは許さないが、真面目に交際するなら許さないこともないにゃん。
オレが担当するテーブルにはレオナール大公にアンジェリーヌとブランディーヌ、それにリーリだ。
ロイヤル&ファンタジーにゃん。
「にゃあ、まずは前菜にゃん」
サラダにバター焼きのアスパラガスみたいなのを添える。
ワインはゴーレムのソムリエがサービスする。
三人はそれぞれ好みが違うようだ。
リーリは葡萄ジュース。
メインディッシュはクロウシのステーキだ。
「わさび醤油で食べて欲しいにゃん、わさびは辛いから少しずつ試して欲しいにゃん」
目の前の三人と妖精はオレの話を聞き流し箸を動かす。
こっちの世界の人は皆んな箸が使える。
「これがクロウシか?」
「正確には特異種にゃん」
「「「クロウシの特異種!?」」」
「にゃあ、同じクロウシでも特異種はもっと味がいいにゃん」
「クロウシですら大公国では手に入らないのに特異種とはな」
「冒険者ギルドでもほとん流通してないはずだが」
「にゃあ、オレがプリンキピウムの森で狩ったにゃん、美味しいから売らないで自分用に保存しておいたにゃん」
「いい判断だね」
リーリが褒めてくれた。
「大公陛下のところならクロウシは珍しくないと思ってたにゃん」
「我が国の貧乏加減を舐めてもらっては困る」
「にゃお」
「ぜいたく三昧の貴族階級でも、ネコちゃんみたいに美味しいご飯を食べてる人は皆無ね」
「それに我が国は狩りができる森が少ないからな」
「にゃあ、結界が厳しすぎるから仕方ないにゃん」
「魔獣や獣の被害とは無縁で過ごせるが、弊害も大きい」
「にゃあ、王国では獣の被害で廃村も珍しくないからどっちもどっちにゃん」
お肉の後はガーリックライス。
デザートにクレープを振る舞った。
○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 集積場 倉庫 屋上露天風呂
夜はオレの騎士たちを露天風呂に案内した。
「「「マコト様もご一緒に」」」
「にゃあ」
オレも女の子たちに混じってお湯に浸かる。
何度入っても気持ちいい。
「にゃふ~」
リーリは露天風呂脇のテーブルでジュースを堪能中。
「マコト様はこれからどうされるんですか?」
セレナがオレの側に来た。既にナイスなボディだ。
将来、冒険者ギルドに入っても出世間違い無しのおっぱいがぷかぷか。なるほど。
「にゃあ、オレはプリンキピウムに帰るにゃん」
「プリンキピウムはアルボラの街ですよね」
カリーヌは今後に期待だ。大丈夫キミはまだ若い。
「良く知ってるにゃんね」
「マコト様の知行地だと聞きましたので」
「にゃあ、蒸し暑くてシャレにならない獣が出ることを除けばいいところにゃんよ、にゃお、でもご飯がおいしくないにゃんね」
「マコト様は、すぐに戻られるのですか?」
「にゃあ、本当はこんなに長くプリンキピウムを留守にするつもりはなかったにゃん」
大公国の辺境伯なんて偉いんだか偉くないのか微妙な肩書を追加する予定もなかった。
「マコト様、また来ていただけますよね?」
カリーヌの言葉に少女たちが緊張した面持ちでオレを見る。
「にゃあ、たまに様子を見に来るにゃん、それにオレと念話ができるから距離があっても関係ないにゃんよ」
「「「念話?」」」
「皆んなにやった魔法馬の機能にゃん」
『にゃあ、聞こえるにゃん?』
「「「聞こえます!」」」
『皆んなも試すにゃん』
『『『マコト様!』』』
『にゃあ』
オレは構わなかったのだが、収拾が付かなくなるからと非常時を除いて小隊長とルチアに相談してからになった。
「あの、マコト様」
騎士たちの中でも背が小さい方の子デビーが緊張した面持ちで話し掛けてきた。
「にゃあ、どうしたにゃん?」
「お願いがあるのですが」
「にゃあ、どんなお願いにゃん?」
「妹がいるのですが、私のお部屋に住まわせてもらえないでしょうか?」
「にゃあ、デビーの妹ならいいにゃんよ」
「いま、叔父の家に預けてまして、って、いいのですか!?」
「にゃあ、後は小隊長とルチアに相談して詳細を決めて欲しいにゃん」
丸投げだ。
「ありがとうございます、マコト様!」
デビーに抱き付かれた。
「にゃあ」
まだまだ発展途上だ。
「あっ、デビーずるい!」
誰かが叫んで、他の少女たちが抱き着いてもみくちゃにされた。
とても柔らかかったにゃん。
 




