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ドクサの境界門にゃん

 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 境界門


 ドクサの境界門に同行するのはルチアと六人の小隊長。それと演習場の隅っこでオレを待っていたビッキーとチャスだ。

 守備隊の隊員となった少女たちは城内をカートで走り回り、冒険者ギルドの面々はいろいろ忙しいらしい。

 リーリは城の厨房に入り浸りで誘ったけど来なかった。キュカとファナそれに調理担当のゴーレムと一緒にメニューを研究するそうだ。


 境界門はプロトポロスの城壁からドクサ街道を五キロ戻ったところにある。大公の直轄領を譲り受けたので、プロトポロスの境界門がいまのドクサの境界門だ。

 魔法馬を連ねてやって来た。

「にゃあ、これがプロトポロスの境界門にゃんね、すっかり見落としていたにゃん」

 森の中に朽ち果てた門扉らしきものが倒れてる。

「境界石が有りますから、ここで間違いないであります」

 道端の境界石をルチアが指差した。

「にゃあ、了解にゃん、境界門とその後ろに守備隊の監視所を作るにゃん」

「監視所ですか?」

「にゃあ、ないと不便にゃんよ」

「ですが、道を狭めるとそれはそれで不便ではないかと思われますが」

「にゃあ、道は狭くしないにゃん、見てればわかるにゃん」


 境界門と付随して新設する監視所を城の意匠に合わせたデザインで格納空間で作りこの場所に再生した。

「「「……!」」」

 ルチアと小隊長たちは驚き過ぎだ。

「「わぁ」」

 ビッキーとチャスは目を輝かせていた。このぐらいの反応がうれしい。

 境界門と詰め所の材質は城と同じ魔獣由来のもの。頑丈な門に見張り台に仮眠室付きの詰め所でそれなりの大きさになった。

「マコト様の造られた建物が街道の結界からはみ出してますが大丈夫でありますか?」

「にゃあ、ちゃんと結界を弄って街道の路肩を監視所の分だけ拡げてあるにゃん」

「えっ、街道の結界って拡げられるのでありますか?」

「にゃあ、だから問題なく使えるにゃん」

 扉を開けて監視所に入る。

「にゃあ、泊まれるように作ってあるにゃん」

 食事はゴーレムが作る。

 警備もゴーレムが全面バックアップだ。

「誰をプロトポロスに入れるかはルチアたちの判断に任せるにゃん、でも、悪い奴らに騙されちゃダメにゃんよ」

 門の入口にこっそり真実の首輪と同様の効果を仕込んであるので、申告時に本当の事を言ってしまうからチェックはそう難しくないはず。

 それにプリンキピウムのホテルと同じく悪意を持つヤツは許可を受けても入れない仕様になってるので上手く偽装しても突破はかなり難しい。

「誰でもは入れないのでありますね」

「にゃあ、オレの希望としては困ってる子供は保護してあげて欲しいにゃんね」

「仕事を探してる人間はどうされます?」

「にゃあ、仕事が欲しい人はレオンのところで働くといいにゃん」

「かしこまりました」

「にゃあ、実際のところ運用が始まってみないとわからないにゃんね」

「お任せ下さい、検問は全員経験済みです」

「困ったことが有ったらブランディーヌ様に気軽に相談すればいいにゃん」

「気軽は無理であります」

「にゃあ、こっちがお客さんなんだから強く出ても構わないにゃんよ」

「我々がお客さんでありますか?」

「そうにゃん、死霊の魔石の件でかなり儲けさせたにゃん、今後も小麦で儲けさせる予定にゃん、無碍にはしないはずにゃん」

「そうでありますね」

 後は実際に使う小隊長たちに使い勝手を見てもらって細かな調整をする。

「マコト様は、街道の結界を自由に弄れるのでありますか?」

「にゃあ、何処まで弄れるかはわからないにゃんよ、あまり大きく弄ると思わぬ副作用が出る可能性があるにゃん」

「農地は大丈夫でありますか?」

「にゃあ、畑は結界をまったく弄ってないにゃん、作業をしてるゴーレムは人間じゃないから影響を受けないにゃん」

「そうでありましたか」

「にゃあ、街道の結界は基本そのままだから人間は入れないと思った方がいいにゃん」

「隊員にも周知いたしますが、小麦畑を見て勘違いした人間が結界に弾き飛ばされる光景が続出の予感がするであります」

「にゃあ、人が飛び込みそうなところには柵を作っておくにゃん、それを乗り越えて結界にブチあたってもオレたちの責任じゃないにゃん」

「そうでありますね、身をもって体験すればわかるでありましょう」

「にゃあ」


 ビッキーとチャスはさっきまで仮眠室のベッドの上で飛び跳ねていたが、いまは丸まって眠っていた。

「にゃあ、戻るにゃんよ」

 ふたりを起こして監視所を出る。

「門はこのままでよろしいのでありますか?」

「にゃあ、開けたままにして構わないにゃん。いまはオレの知ってる人間しか通れない設定なので安心安全にゃん」

「結界でありますか?」

「そうにゃん」

 それ以前にプロトポロス周辺に他の人間の気配が全くないので要らぬ心配だが。


 パカポコと馬を連ねて城に戻る。

「見て下さいマコト様、麦畑が」

 ルチアが畑を指差した。

「にゃあ、もう色が変わってるにゃんね」

 青から黄金色に変わっていた。

「この分なら近いうちに収穫できそうにゃん」

「「しゅうかく?」」

 五歳児たちが目をパチクリさせた。意味がわからなかったみたいだ。

「にゃあ、小麦を刈り取るのが収穫にゃん」

「「パン!」」

「そうにゃん、焼き立てのパンは最高にゃん」

「「「焼き立て!」」」

 ルチアと小隊長たちも反応していた。

「あたしも焼き立てのパン食べたい!」

「にゃ!?」

 城の厨房に篭っていたはずのリーリがオレの顔にペチっと張り付いた。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 大食堂


 昼食は、地下農場で収穫された小麦で粉を挽きパンを焼いて振る舞った。

 おかずはゴーレムのシェフとキュカとファナが腕を振るってくれたシチューだ。味の監修はリーリがしたらしい。

「にゃあ、焼き立てのパンにシチューが最高にゃん」

「異議なしだよ、シチューは当然としてチーズも悪くないよ」

 リーリはパンに溶かしたチーズを載せて食べる。

「「おいしいです!」」

 ビッキーとチャスも満面の笑みを浮かべていた。

 キュカとファナは、隊員の少女たちと談笑しながら食べてる。同じ年頃の少女たちと一緒にいるのが楽しいらしくすっかり溶け込んでいた。

 ふたりはここに置いてやってもいいかも。

 ビッキーとチャスの五歳児たちは、連れ帰って同じ年頃のプリンキピウムの孤児院の子たちと合流させるのがいいと思う。

 オレはプロトポロスとプリンキピウムを往復することになりそうだ。ドラゴンゴーレムもいるし、のんびり魔法馬で旅をするのもありだな。


 焼き立てパンは隊員たちにも大好評だった。

 いや、泣くほどではないと思うのだが。


 食べすぎて動けなくなった少女たちにウォッシュを掛けて楽にしてやる。

「普通はウォッシュに体調を整える効果なんてないのですが」

 地味にカティも食べすぎてオレのウォッシュの効果を体感していた。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 執政官執務室


 午後はルチアと六人の小隊長たちとで今後の仕事に付いて話し合う。

「皆んなにやってもらう仕事は大きく分けて二つあるにゃん。ひとつがこの城と境界門の警備にゃん」

「お任せ下さい、我らの命に代えても守り通してご覧に入れるであります」

 ルチアの言葉に先ほど境界門に同行した六人の小隊長が頷く。

「にゃあ、実際にはゴーレムたちががっちり守りを固めてるから、隊員たちは異常がないかの巡回が主な仕事になるにゃん」

「巡回でありますか?」

「ゴーレムではカバーできない部分を補う重要な役目にゃん」

「全身全霊を掛けて監視するであります」

「それと危ない時は迷わず撤退にゃん、生きていれば挽回のチャンスはいくらでもあるにゃん」

「了解であります、マコト様のお心遣い感謝いたします」

 ルチアの返答に小隊長たちが強く頷く。彼女たちを含め隊員全員の防御結界を厚めに設計しないとマズい気がしてきた。

「にゃあ、あとひとつは小麦の出荷にゃん」

 首都の冒険者ギルドの倉庫まで持って行く仕事だ。

「こちらは冒険者ギルドと協力して進めて貰うにゃん」

 ラルフたち冒険者ギルド組が一礼して会議に加わる。

「小麦は首都ルークスでの受け取りです、そこまでは守備隊の皆さんに運んで頂くことになります」

 アレシアが説明する。

 冒険者ギルドは既に受け入れ計画を立てていた。

「一〇台の馬車を二小隊の四〇人で任務に当たって欲しいにゃん」

「四〇人ですか?」

「最初のうちは大事を取ってその人数にするにゃん、安全が確保されたと判断したら構成を変えるにゃん」

「大公国では金並に貴重な小麦だ、襲撃される危険性も考慮する必要がある」

 ラルフが補足した。

「にゃあ、オレの小麦に絡んで来るヤツは盗賊だろうが貴族だろうが片っ端から粉砕するにゃん」

「い、いいのでありますか?」

 ルチアも小隊長もビビリ気味。

「なんだったら戦争しても構わないにゃんよ」

「それはなるべく勘弁だが」

「ラルフはバカ貴族が来ないとでも思ってるにゃん?」

「いや、それは」

 言葉に詰まるラルフ。

「そんなの来るに決まってるだろう、ここを何処だと思ってるんだ? 大公国だぞ」

 ラルフの代わりに横にいたチャドが答えた。

「半数は国外に出たまま帰れないんでしょう、それなのにバカ貴族ってまだいるの?」

 アレシアの言葉どおり国外に脱出した貴族は、その責務を放棄した罪でアナトリにまで捕縛と財産没収の依頼が出されていた。

「つまり国内にまだバカが半分残ってるってことだ」

「バカどもが近付かないようにするには力を見せつけるのがいちばんにゃん、それでわからなかったら見せしめにするにゃん」

「ブランディーヌ様が了承したらだぞ」

「了承しなかったら配達は無しにゃん!」

「その心配は要らないわよ」

「「「ブランディーヌ様!」」」

 大公国の冒険者ギルドのギルドマスターで大公の妹であるブランディーヌがゴーレムに案内されて入室した。

「早かったにゃんね」

「うん、飛んで来たから」

「宮廷魔導師を使うって、空間圧縮じゃ無かったにゃんね」

「飛行魔法よ」

「にゃあ」

 空飛ぶ白豚にゃん。

「ネコちゃんの麦畑、報告を聞いて耳を疑ったけど、目の当たりにしてもまだ信じられないわ」

「幻覚じゃないにゃんよ」

 オレも実際の大きさを把握してないけどな。

「この小麦を全部売ってくれるのよね」

「にゃあ、オレたちが使う分以外ならいいにゃんよ、他にツテもないにゃん」

「ネコちゃんの次に回してくれるなら構いません」

「ひとつ条件があるにゃん、小麦は価格を抑えて販売して欲しいにゃん、転売してもいいけど高くするのはダメにゃん」

「庶民が購入しやすい値付けをするのですね」

「そうにゃん、それと冒険者には安くパンを売ってやって欲しいにゃん、あいつら自分では焼かないにゃん」

「わかったわ」

「にゃあ、よろしく頼むにゃん」

「それと私に付いて来た魔導師たちがネコちゃんのお城を見学したいそうだけど、いいかしら?」

「にゃあ、立ち入り禁止区域以外はいいにゃんよ」

「ありがとう」

「立ち入り禁止区域は、単に立ち入ると危ないところだから入っちゃダメにゃんよ」

「ええ、伝えるわ」

 ブランディーヌは念話で指示を出した。

 あの色白ぽっちゃりどもは、この城をじっくり調べるつもりなのだろう。

「にゃあ、それとゴーレムの持ち出しは禁止にゃん、変な事をすると自動反撃で宮廷魔導師でも無事では済まないから注意にゃん」

「そんな泥棒みたいな真似はしないから大丈夫よ」

 いや、もうしてる。

「にゃあ、オレたちは大公国と冒険者ギルドとは末永く仲良くやって行きたいと思ってるから頼むにゃんよ」

「もちろん、私もよ」

 顔には出てないが慌てて念話で指示を出していた。

 早速、魔導師がやらかしたのが伝わったのだろう。

『あんたたち何してるの!? ネコちゃん怒ってるわよ!』

『ちょっとした失敗でござる』

『怒った幼女、はぁ、はぁ』

『大公陛下に報告するわよ』

『それはご勘弁』

『武士の情けでござる』

『あんたたち武士じゃないでしょう!』

 ブランディーヌも宮廷魔導師には苦労してる様だ。


「箔をつけるなら守備隊じゃなくてドクサの騎士団にしたらいいんじゃないか?」

「にゃあ、チャドにしてはいいアイデアにゃん」

「ちょっと引っ掛かるが、騎士団に手を出すのは宣戦布告と同じだ、どうせ戦争するなら手間が省けていいだろう」

「それにゃん」

「いや、普通は騎士団にちょっかいを出すバカはいないぞ」

「にゃあ、ラルフの常識はアナトリの常識にゃん、フルゲオ大公国はきっと違うと思うにゃん」

「はい、他の領地の騎士団を襲っての略奪はそう珍しい事例ではないであります」

 ルチアが答えてくれた。

「そうにゃん、それがこっちの常識にゃん」

 オレは天に還した元怨霊たちの記憶をいくつも見てる。

「騎士団に関してはネコちゃんの好きにして構わないわ、領地同士の小競り合いに大公陛下は口を出さないのが暗黙の了解だし」

「オレもプリンキピウムに帰らなきゃならないから、出来れば早い内に片付けたいにゃん」

「そうね、早い内に片付けたいわね」

 ブランディーヌも同意してくれる。

「面倒だから適当にいちゃもんつけてこっちから攻めるのも有りにゃんね」

「いや、それはダメだろう」

「ラルフは真面目過ぎるにゃん」

「私もネコちゃんから攻めるのは流石に許可できないわ、大規模な内戦に発展しないとも限らないし」

「それはそれで帰るのが遅れるにゃんね」

「その帰り道なのだけど、アルボラとの国境が開かれたからそっちを通っていいわよ」

「直接アルボラに入れるにゃん?」

「アルボラの領主様とも話が付いているわ、ただ長らく使われてない道なので多少の不便はあるかもしれないわ」

「にゃあ、だったら白豚じゃなくて宮廷魔導師たちに修復する様に言っといて欲しいにゃん」

「言うのは構わないけど、偏屈な人たちだから簡単には動かないわよ」

「にゃあ、だったら報酬として人数分これをやるにゃん」

 テーブルにそれをゴロンと出した。

「森の精霊の魔石にゃん、非売品にゃん」

「直ぐに取り掛かるそうよ」

 念話で即答だった様だ。

「それで相談なんだけど」

「売らないにゃん」

「ですよね」

「最初の納品は明後日に出発させるにゃん、ブランディーヌ様は上手いこと情報を流して欲しいにゃん」

「わかったわ」

 簡単に引き受けてくれた。

 ブランディーヌも既に襲ってくるであろうバカ貴族の目星が付いてる感じだ。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 領主執務室


 あった方がいいということで領主の執務室も作った。壁に大きなディスプレイを設置して地図を表示する。


 プロトポロスから首都ルークスの間にはレオンの領地フルゴル州を除くと三つの領地がある。

 この内、二つの領地は領主が逃げ出したので大公の直轄領になることが決定してた。

 残る一つが城塞都市パッセルのある領地クルスタロス州だ。

 ここは大公国軍が居座った為に居城の占拠を恐れた領主が逃げるに逃げられなかった。噂ではこの領主のバンデラス男爵家は犯罪ギルドの元締めらしい。

 更にその最中に領主が交代してる。

 弟から兄に。

 ビッキーとチャスがいたシフエンテス家と違ってこちらはお家騒動が上手く行ったわけだ。ちなみにシフエンテス家はあの後、王都に引き返して難を逃れている。

 問題の新たにバンデラス男爵家の当主となった兄ディエゴ・バンデラスだが、輪を掛けてヤバいヤツらしい。

 このヤバい大公国の中でも飛び抜けてヤバい貴族でその上、廃嫡されてるぐらいヤバいってどれだけヤバいんだ?

 誰が見たって襲ってくるバカ貴族は、このディエゴ・バンデラスで決まりだろう。


 ブランディーヌと宮廷魔導師たちは今夜、城に滞在することになった。

 既に各方面に連絡は既に済んでる。

 宮廷魔導師たちは、早くもアルボラに抜ける道の整備を終えたらしく森の精霊の魔石を取りに来た。

 こいつらもなかなかチートだ。

「「「はぁ、はぁ、猫耳幼女たんの魔石」」」

「にゃあ、魔石を舐めちゃダメにゃん!」

 危なくぶっ飛ばしそうになったが我慢できたオレは偉いと思う。


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