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麦畑にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇六月十七日


 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス ペントハウス


 翌朝、目を覚ますと地平線まで麦畑が広がっていた。青々とした麦の穂が風にたなびき、ちょっと甘い匂いが漂ってくる。

「にゃ、にゃあ、魔法蟻とゴーレムたちは随分と頑張ったにゃんね」

 この何処の穀倉地帯?な風景に内心ちょっと動揺してる。まさかここまで大きな麦畑が出現するとは予想してなかった。

 これは地下の倉庫を増設して空間拡張の魔法も付与した方が良さそうだ。現状の大きさだととても収まる気がしない。

「おはよう! ゴーレムを使うと作物の成長も早いんだね」

 テーブルに置かれたお菓子を食べてたリーリが飛んできた。

「おはようにゃん、魔法を併用してるから地下農場ほどじゃないけど早いにゃん」

 魔法蟻とゴーレムたちはオレの予想を大きく超えた有能さだ。

「「おはようございます」」

 パジャマ姿のビッキーとチャスも起きてきた。

「にゃあ、おはようにゃん」

「おはよう!」

 今朝は、このままペントハウスで朝食を取ることにした。

 魔導具でワッフルを焼いて食べる。

 フルーツにチョコやホイップクリームそれにポテトサラダ。

 五歳児たちとリーリは夢中になって食べてる。

「にゃあ、慌てなくてもいいにゃんよ」

 オレもチョコとクリームをてんこ盛りにして食べる。

「甘くて最高にゃん」

 オレのクリームまみれの口を給仕をしてくれるゴーレムが拭いてくれた。

「にゃあ、ありがとうにゃん」

 ゴーレムは順番にクリームまみれの口を拭く。

「「ありがとうございます」」

 五歳児たちは丁寧にお礼を言う。

「あたしは自分で綺麗にするから不要だよ」

 リーリは風を操りクリームを綺麗にこそぎ取って舐めた。

 実に器用だ。


「マコト様、森がないです」

「ほんとうだ、森じゃなくなってる」

 ビッキーとチャスも気付いた。

「にゃあ、森を畑に変えたにゃん」

「「はたけ?」」

「にゃあ、そうにゃん、小麦や野菜が穫れるにゃん」

「「スゴい!」」

 ふたりは首都生まれの首都育ちなので農地を見たことがないみたいだ。

「はたけって大きいね」

「大きい!」

「マコトの畑は特別大きいんだよ」

「そうにゃんね」

 地平線の向こうまでずっと小麦なんてそうそう見られない風景だ。オレも初めて見た。

 農地は五〇〇〇体のゴーレムと三〇〇〇台のトラクターそして七〇〇〇匹の魔法蟻で維持できる大きさになってるはずなのだが。

 どいつもこいつもまだイケると拡大中だ。もうドクサ州の中なら好きにしていいということにした。

 蟻の巣型の倉庫も作られトンネルで繋げられる。既にオレのコントロールを離れてる気がしないでもない。

「マコト様、これは全部パンになるの!?」

「にゃあ、パンとパスタみたいな麺の材料にゃんね」

「「スゴい!」

 何がスゴいのかビッキーとチャスは大興奮だ。

 確かに農地がこの調子だとルチアたちの主な仕事は小麦や野菜の販売になりそうだ。

 荷馬車を追加で作った方がいいかも。

 この城を守る仕事に小麦を売りに行く仕事が追加だね。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 城内


「にゃあ、今日もお城の探検にゃん」

「「はい!」」

 ビッキーとチャスとオレの子供三人がベンチシートのカートに乗って城の探検に出発する。

 リーリはいつもの頭の上だ。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 市街地区


 プロトポロスは他所の城壁都市と違い、市街地区の上にも頑丈な屋根が付いてる。監獄都市の時代には無くなっていたが上空からの攻撃にも耐える造りになっているのだ。

 だから街は天井の高い地下街の様な様相になってる。

「当たり前だけどお店は全部、閉まってるね」

「にゃあ、全部閉まってるのはいまいちにゃん」

 真新しいだけに冷たい感じがする。

「ゴーレムを使って店を出すとか考えた方がいいにゃんね」

「いいと思うよ」

 戦闘服やブーツ、室内着に下着など売る店をいくつか作った。売ると言っても支給品だから無料だけど。

 それから銃や剣のメンテナンスをする武器屋。当然、隊員は無料だ。それにレストランにカフェにホテルも配置する。

 ホテルがラルフたちの宿舎になる。

「お昼はカフェかな」

 リーリの意見でお昼はおしゃれなカフェ飯に決定する。プリンキピウムやオパルスでも見たことのない業態だ。

 地下街のオープンテラスみたいなややこしさがあるが、天井には青空が映し出されてるからまあいいだろう。

 おしゃれパスタとパフェでおなかいっぱいにした。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 城内


 午後は屋内だけどだだっ広い守備隊が使う予定の演習場や、城と一緒に再生された図書館を見て回った。

 図書館はすべて記憶石板だ。内容をコピーするとオパルスの図書館のものと同じく大半がオリエーンス連邦の出土品っぽい。

 ビッキーとチャスも図書館に興味津々だったので読み書きを伝授した。魔法を使って教えたので直ぐに実践可能だ。


 城の探検を続けてるうちに夕方になった。

 馬車に分乗したルチアを始めとする少女兵たちとラルフたちが到着する時間だ。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 城壁門


「ルチア・モーラ以下一二〇名、ただいま到着いたしました!」

 全員が馬車を降りルチアを先頭に敬礼する。

 オレたちは門の前で出迎えた。

「にゃあ、お疲れにゃん!」

「マコト様、ここがプロトポロスなのでありますか?」

 ルチアが城壁門を見上げる。

「にゃあ、そうにゃん、ちょっと改造したにゃん」

「マコト、この前とは色も形も全然違ってるぞ、それにこの一面の小麦畑は何だ?」

 最後尾に停めた馬車からラルフが飛び出していきなり詰問して来た。

「にゃあ、作ったにゃん」

「作った!?」

 ラルフの声にビクッとした。

「ちょっとバカ兄貴どいてよ!」

「うぉ!」

 後ろからアレシアがラルフを突き飛ばした。

「ネコちゃん、小麦はもちろん冒険者ギルドに仕切らせてくれるのよね!?」

 猫なで声で擦り寄ってくる。

「にゃ、にゃあ、それは構わないにゃん」

「よっしゃあ!」

 またビクってしてしまう。

「いや、おまえも大概だぞ」

 ラルフが服の埃を払う。

「魔法での促成栽培らしいが、あと何日で刈り取れるんだ?」

「にゃあ、二~三日にゃんね」

「最短だと三日で小麦が生産できるのか?」

「本来はそこまで短くはしないそうにゃん、一〇日周期がベストらしいにゃんね」

 全部ゴーレムからの知識だ。

「それでも十分早いぞ」

「にゃあ、魔法を使ってるから普通に育てるよりは早いにゃんね」

「マコト、このプロトポロスは街なのか、それとも城なのか?」

 チャドが質問する。

「にゃあ、籠城戦を前提に作られた城にゃん。監獄時代は見る影もなかったみたいにゃんね」

「これ全体で一つの城なのか?」

 ラルフに釣られて全員が城壁を見上げた。

「そうにゃん」

「監獄だった頃とも違うんだよね?」

 アレシアが質問する。

「にゃあ、ぜんぜん違うにゃんよ、監獄は全壊したから元の姿をベースにして直したにゃん」

「直したって随分と簡単に言うが、城塞都市丸ごとだぞ」

 チャドが今頃ツッコミを入れてきた。

「そんなのマコトなら朝飯前だよ、正確には夕ご飯前だったけどね」

 リーリの言葉にビッキーとチャスの五歳児たちが頷いた。

「にゃあ、いつまでも立ち話してないで中に入るにゃん、開門にゃん!」

 オレの言葉に大きな扉が幾つも開いた。

「「「ゴーレム!?」」」

 両側に並ぶゴーレムたちに驚きの声を上げた。

「マコト、ゴーレムも掘り当てたのか!?」

 叫ぶほど驚いていた、そう言えばゴーレムの立ち位置はそんな感じだったか。

「掘り当てたというより城の備品にゃん」

「ネコちゃん、ゴーレムの仕切りも冒険者ギルドに!」

 アレシアがオレの肩を掴む。

「にゃあ、ゴーレムは城の備品なので売らないにゃん」

「そこをなんとか!」

「何と言われてもそれは無理にゃん」

 売ってはイケないレベルに改造してるしな。

「アレシア、そのぐらいにしておけ! 悪いなマコト、冒険者ギルドはマコトが売ってくれるもの以外はノータッチだ」

「にゃあ、それで頼むにゃん」

「ネコちゃん、ごめんなさい、ゴーレムがスゴかったから、つい」

 アレシアは頭を下げる。

「にゃあ、アレシアの仕事だからわかるにゃん、でもゴーレムはオレのかわいい子分なので売買の対象にはしないにゃん」

「うん、わかった」

「しかし、これがあの監獄だったのか、完全に別物だな」

 キョロキョロ見渡すチャド。

「チャドはブチ込まれたことがあるにゃん?」

「失脚した大物貴族専用だから、俺なんか頼んでも入れてくれねえよ」

「にゃあ、牢屋なら一応あるにゃんよ」

「いや、別に牢屋を体験したいわけじゃないから気にしないでくれ」

 チャドは腰が引け気味。

「まずは皆んなを部屋に案内するにゃんね」

 オレは魔法馬を再生しビッキーとチャスも乗せて馬車を城の中に誘導した。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス ペントハウス


 少女兵たちを各自の部屋に案内した後はルチアとの面談だ。

 場所はオレのペントハウス。

 同席してるのはラルフとアレシア兄妹とカティだ。

 チャドは城内を探検に行った。

 キュカとファナはリーリとビッキーとチャスの案内で大浴場に行ってる。

「勝手に執政官に任命してごめんにゃん」

「いいえ、何の問題もありません」

「仕事はドクサの管理にゃん、と言ってもご覧の通りほとんど麦畑になってるにゃん」

「つまり小麦の管理か?」

 ラルフが口を挟む。

「そうにゃん、農園の管理運営はゴーレムがやるからルチアの仕事は出荷の管理にゃんね、細かいことは冒険者ギルドに丸投げでいいにゃんよ」

「商会じゃなくて冒険者ギルドなのでありますか?」

「にゃあ、オレは商業ギルドに加盟してないから冒険者ギルドに売るにゃん」

 ラルフとアレシアが頭を下げる。

「でも、大商会の人たちが黙ってないのでは?」

 カティが疑問を呈する。

「にゃあ、商会のお偉いさんは貴族どもと一緒に逃げ出してるから再入国はできないにゃん」

 ざっくりとだがレオナール大公陛下から聞いている。

「これまで機能してなかった商業ギルドが息を吹き返すまでは、冒険者ギルドが代行することになるわ」

 アレシアが情報を付け加える。

「マコト、小麦に関してはブランディーヌ様が直接話したいそうだ」

 既にラルフが連絡を入れたらしい。

「にゃあ、まだ集荷量がどれぐらいになるかわからないにゃんよ」

「どう見ても少なくはないだろう?」

「そうにゃんね」

 地下農場も稼働開始するので少ない量ではない。

「にゃあ、姫様との会談はルチアに任せるにゃん」

「小官がですか!?」

「もう直ぐオレはプリンキピウムに帰るにゃん」

「ブランディーヌ様の会見にはマコト様もご同席下さい! 小官だけでは絶対に無理であります!」

 ルチアは歯切れよく情けないことを言う。

「わかったにゃん、馬鹿なことを吹っ掛けて来たら取引は止めるから安心して欲しいにゃん」

「それは勘弁しろ」

「にゃあ、姫様はいつごろ来るにゃん?」

「今夜出るそうだ、魔導師を伴って来るから明日の夕方には到着するんじゃないか?」

「にゃお、あの宮廷魔導師たちも来るにゃんね」

「そう嫌そうな顔をするな」

「にゃあ」



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 大食堂


 大食堂に全員を集めてのオレ主催の夕食会を開催した。

「にゃあ、今夜は無礼講にゃん!」

「「「わあ!」」」

 少女兵たちの大歓声が響き渡る。

「「「マコト様!」」」

「「「可愛い!」」」

 早速、オレは少女兵たちに抱き上げられたりモフられたり。

 無礼講の意味を履き違えてる気がしないでもないがまあ良しとするか。

 皆んな楽しそうだし。

 ビッキーとチャスもいい笑顔をしてる。

 ラルフとチャドは女子に囲まれてまんざらでも無さそう。

 キュカとファナは男の扱い方を教授していた。皆んな興味津々だ。

 ルチアはカティに何やら相談中。

 アレシアは小隊長たちと話してる。

 リーリはゴーレムが運んでくる新しい料理を味見するのに忙しそうだった。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 制限エリア 地下施設


 地下農場の為の魔導具の生産を魔法蟻たちに頼まれたオレは、夜中にトンネルの入口に降りた。

 同行はリーリだけだ。

 ビッキーとチャスには一部を見せたが安全上の理由から他の人間にこの場所のことは秘密だ。

「にゃあ、頼むにゃん」

 魔法蟻の背中に乗り込む。

「出発!」

 リーリがオレの頭の上から号令を掛けると魔法蟻がトンネルを降りた。

「にゃああ!」

「あははは、楽しい!」

 何度経験しても魔法蟻のトンネルは迫力満点だ。

 脇道に入ったところで魔法蟻が停まった。

『……』

 魔法蟻が口をカチカチさせる。

「にゃあ、ここに魔導具にゃんね」

 地下農場用の魔導具を出す。

 二階建て住宅ぐらいあるそれにゴーレムたちが群がって配管作業をする。

 オレは次の場所に運ばれていく。


 明け方までその作業を続けた。



 ○帝国暦 二七三〇年〇六月十八日


 ○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 守備隊 演習場


 朝っぱらから演習場の演台にルチアと一緒に立たされてるオレ。こういうの前世を含めて慣れてないから緊張する。

「これより我々は、ドクサ守備隊として活動を開始する。諸君らの力でこのドクサそしてプロトポロスの平和を守ってもらいたい!」

 整列した隊員を前にルチアがドクサ守備隊発足の訓示を行う。

「では、マコト様お願いするであります」

 オレもなの!?

「にゃ、にゃあ、皆んなの頑張りに期待してるにゃん、でも怪我のないように頼むにゃんね」

 皆んなの緊張した顔が緩んだ。


 オレとルチアの訓示の後、訓練が始まった。

 オレの提供した新しい戦闘服でだだっ広い演習場を走る守備隊の隊員たち。小隊長を先頭に小隊ごとに並んで走る。

「にゃあ、ランニングはこっちでもやるにゃんね」

「身体が有れば出来ますから」

 オレの隣でルチアが切ないことを言ってる。

「これまでの訓練は、ほとんど道具を使わないものばかりでしたので、馬に乗れない隊員もおります。その点はご了承ください」

「にゃあ、オレの提供する魔法馬なら問題なく乗れるから心配いらないにゃん」

「そうでありますか?」

「にゃあ、馬車よりも小回りが利く分、操るのは簡単にゃんよ」

「あの馬車より簡単なら、問題はないと思われます。守備隊には何頭ほどご提供戴けるのでありますか?」

「ちゃんと人数分、提供するにゃん」

「ああ、小隊長の分でありますね、助かります」

「にゃあ、隊員全員に決まってるにゃん、魔法馬と銃はそれぞれに貸与するにゃん、そのかわりオレに忠誠を誓ってもらうにゃんよ、どちらも危ない代物だからそこは譲れないにゃん」

「忠誠は問題ありませんが、隊員一人ずつに貸し与えてよろしいのでありますか? かなりの金額になるかと思われますが」

「問題ないにゃん、どっちもオレの手作りにゃん」

「マコト様が魔法馬や銃を作られるのでありますか!?」

「にゃあ、馬車もそうにゃん」

「小官の理解が追い付かないであります」

「にゃあ、魔法使いは便利な存在だと思うぐらいで十分にゃん」

「はあ、そうするでありますか」

「ランニングの後は、プロトポロス城内をカートで走り回って内部を把握して欲しいにゃん」

「カートというとあの小さな魔法車でありますね?」

「にゃあ、あれも乗れば直ぐに運転を覚えるにゃん」

 遊園地のカートより簡単だ。ビッキーとチャスも昨日ちゃんと運転している。

「マコト様、具申よろしいでありますか?」

「にゃあ、いいにゃんよ」

「ドクサの境界門をなるべく早く整備されるのがよろしいかと思われます」

「境界門にゃんね、了解にゃん、これから行ってみるにゃん」

「小官もお供いたします」

「にゃあ」

 ルチアの意見に従って、オレはドクサの境界門の強化に乗り出した。


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