ドクサ州にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇六月十六日
○フルゲオ大公国 ドクサ街道
翌朝、大泣きするレオンに別れを告げ、次男坊大公たちに見送られてルークスを出発した。
まずはパッセルの先フルゴル州にある大公国軍の駐屯地に向かい、そこでルチア少尉や兵士たちと合流してプロトポロスに向かう予定だ。
「マコト、本当にレオンを手放していいのか?」
チャドに問い掛けられる。
「手放すも何も奴隷制度は廃止になったにゃん」
「奴隷はともかく有能な部下になったと思うぞ」
「にゃあ、そうにゃんね、でもこの国の復興には有能な人間が必要にゃん、それにオレのことを手伝ってくれる子たちはこの先で待ってるにゃん」
「ああ、駐屯地の子たちか」
「にゃあ」
「マコト、投資の件、ブランディーヌ様からOKが出たぞ」
ラルフが教えてくれる。
「マコトは何処かに投資するのか?」
「にゃあ、レオンの領地にゃん、魔石の売上の一部を回すだけにゃん」
「投資というより無償譲渡みたいなものだけどな」
「にゃあ、いちおう主人だった手前、ちゃんとして送り出してやりたいにゃん」
「いくら投資したんだ?」
チャドが好奇心丸出しだ。
「かなりの金額だな、正確なところは言えないが」
「にゃあ、それだと言ってるようなものにゃん、フリーダに後で苦情を入れるにゃん」
「そういうわけで、内密に頼む」
ラルフがキリッとする。
「俺も余計なことは言わないって、しかし、マコトも思い切った金の使い方をするんだな、俺の六歳の頃とは大違いだぜ」
「にゃあ、これから荒れ果てた領地を復活させるにゃん、金は幾ら有っても足りないにゃん」
「確かにそれは言えるわな」
特に大公国では小麦の不足が深刻だ。
耕作地の荒廃で生産高が激しく落ち込んでいた。荒廃の理由も多岐にわたっており対策も一筋縄ではいかないのが現状らしい。
魔法がそれなりに使える大公でさえ農業に力を使ったりしていなかった。第一公子も死霊なんかこしらえてないで小麦を作るべきだったのだ。
「投資も間に冒険者ギルドを挟んでるから、悪い商人に引っ掛かったりはしないはずにゃん」
「冒険者ギルドか、それなら問題ないな」
「ああ、そこは俺たち冒険者ギルドに任せてくれ」
お馬鹿な貴族がのさばっていたせいで、この国の有能な人間はかなりの数が冒険者ギルドに流れていた。これを使わない手はない。
「「マコト様!」」
魔法の勉強を終えたビッキーとチャスがオレの両側に張り付く。
「マコトのおなかは渡さないよ!」
対抗してリーリがオレのおなかに張り付いた。
リーリ以外は誰も狙ってないと思うけど。
ポツポツと隠れていた人が動き出したらしく畑にも人の姿が見え始めていた。
デフロット第一公子の荒療治が本当に効果が有ったのかこれからハッキリするだろう。
馬車の幌は全開にして風を流す。
いまはキュカとファナが御者台に座り、徹夜したラルフとアレシアとチャドは居眠り。
ビッキーとチャスも気持ち良さそうに眠っていた。
特に用事のないパッセルには立ち寄らず真っ直ぐ駐屯地を目指す予定だ。
急ぐ必要もないし、昨日、連絡が行ったばかりの駐屯地の子たちも移動の準備や個人の荷造りで大忙しだろう。
早く到着して変に慌てさせるより、指定した時間まで姿を現さない方がいい。
いくら気さくでもお偉いさんに張り付かれたら嫌なものだ。
それでも今日の夜には到着するけどな。
午後はオレが御者台に座った。
相変わらず両側はビッキーとチャスが固めている。
リーリは頭の上だ。
「にゃあ、飛ばすにゃん!」
「行け!」
空間圧縮魔法でジャンプポイントを一気に五段抜かし。
「「「わぁ!」」
流石に浮遊感がある。
着地は風の魔法を併用してショックを相殺する。
「「スゴい!」」
五歳児たちは目を輝かせる。
他の連中は、ラルフは寝てるしチャドは飲んでるので問題なしだ。
カティとアレシアとキュカとファナは女子トークが盛り上がっていて、空間圧縮魔法の行使に気付いてなかった。
「次、あたしが飛ばしたい!」
リーリもやりたがった。
「にゃあ、いいにゃんよ次はリーリがやってみるにゃん」
「行くよ!」
「にゃあ!」
リーリが馬車を飛ばす。
「にゃ?」
これは空間圧縮魔法じゃないぞ!
「到着!」
「にゃあ」
○大公国軍 フルゴル州 西方面駐屯地
駐屯地の門の前に馬車が到着していた。
「「綺麗だったね」」
確かに宇宙とか銀河が見えたぞ。
宇宙の真理に確かに触れたかもしれない。
「おお、もう着いたか、流石に酒飲んでると早いな」
泥酔したチャドがニョロリと馬車を降りる。
「あたしが飛ばしたからね」
リーリはオレの頭の上でご満悦だ。
これは空間圧縮魔法じゃなくてワープなのでは?
気付いたのはオレだけみたいだけど。
「早く来すぎちゃったにゃんね」
少女兵たちがドタバタ走り回ってる。
「いいえ、問題ありません」
ビシっと敬礼するルチア・モーラ少尉。
門を開けてもらって馬車を中に入れたところで少尉が駆け付けた。
「にゃあ、急な上にいろいろ勝手に決めてごめんにゃん」
「そちらも問題ありません、小官を始め全員、マコト様の配下となることを喜んでおります」
本当かどうか判別が付かない厳しい表情をしてる。
「にゃあ、まだ何も決まってないのが本当のところにゃん」
「問題ありません、十分な物資に馬車までご用意いただけて十分であります」
一二〇人を運ぶので二〇台の二頭立て馬車を用意した。
全員、女の子なので自動ウォッシュ機能付きだ。
「にゃあ、プロトポロスまでだとこの馬車なら朝に出れば夕方には到着するにゃん」
「単騎で走るのと同じ速度が出るのでありますか?」
「にゃあ、出るにゃんよ、御者は誰でもできるし、居なくても大丈夫にゃん」
「御者がいなくてもでありますか?」
「にゃあ、前の馬車を自動追尾するにゃん」
「出発はいつにいたしましょう?」
「明日の朝は可能にゃん?」
「問題ありません、今夜でも可能です」
「にゃあ、今夜はゆっくり寝て身体を休めるといいにゃん」
「ありがとうございます」
予定より早く到着したので、少女兵たちの健康診断を行う。
一二〇人いるので、一〇人ずつ診断する。
まとめてエーテル器官のエラーを修正し、前回は手が回らなかった疾病や怪我を治療した。
集団検診なので一時間で全員を診ることが出来た。
怪我は、この前の火傷の時に一緒に治療したので大きなものは無かったが、栄養不良による障害が発生していた。
長期的に見るとよろしくないのでこれは完全に治療した。
「にゃあ、オレは一足先にプロトポロスに入って街を片付けるにゃん、皆んなはルチアたちと一緒に来て欲しいにゃん」
「一緒にって、テントはどうするんだ?」
チャドがテントを展開した馬車を指差す。
「にゃあ、カティが畳んでくれるにゃん」
「私ですか!?」
「にゃあ、『格納』って命令すれば元に戻るにゃん」
「わかりました」
「皆んなの世話はキュカとファナに頼むにゃん、それと兵隊さんにも食べさせてあげて欲しいにゃん」
「「お任せ下さい」」
キュカとファナのふたりは自動調理の魔導具を使いこなし料理も完璧にこなしてくれる。今回はハンバーガーの調理器なので腕は振るえないけど。
「にゃあ、じゃあ行って来るにゃん」
「「マコト様!」」
ビッキーとチャスが駆け寄ってオレにヒシっとしがみついた。
「この子たちも一緒に行きたいみたいだよ」
リーリがオレの頭に乗って教えてくれる。
「にゃあ、ビッキーとチャスもオレと一緒に行くにゃん?」
「「いきます!」」
「にゃあ、だったら連れて行くにゃん」
「「はい!」」
ビッキーとチャスはニコっとしてギュッと抱き着く。
「にゃあ」
「小さい子たちだけで大丈夫なのか?」
心配顔のラルフは意外と常識人だ。
「にゃあ、問題ないにゃん」
オレは魔法馬を再生してビッキーとチャスと一緒に乗った。
リーリはそのままオレの頭の上だ。
「にゃあ、明日の夕方、プロトポロスでにゃん!」
馬を走らせ門を抜けた。
○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道
街道に抜ける道を速度を上げて走る。ここはいまはレオンの領地なのだが、陰謀を企ててベルリンゲル侯爵を抹殺した割に特に何かをやった感じは無く、単に放置していたっぽい。
意味がわからない。
「にゃあ、飛ぶにゃんよ!」
魔法馬をジャンプさせドラゴンゴーレムと入れ替えた。
「「わあ!」」
ビッキーとチャスが声を上げた。
オレたちを乗せたドラゴンゴーレムは、新たに仕入れた飛翔の魔法の効果で地面を凹ますことなくスムーズに上昇した。
「「とんでる?」」
「にゃあ、飛んでるにゃん」
五歳児たちは空からの風景に見入っていた。
ドラゴンゴーレムは、地上の木々を揺らすこともなく低空で飛行する。森の結界は木々の高さまでみたいだ。
「上出来にゃん」
街道の結界に縛られること無く真っ直ぐプロトポロスを目指す。
馬で一日掛かる距離もドラゴンゴーレムなら空間圧縮魔法を使わなくても一時間ちょっとってところか。
「何処にも人がいないね」
「にゃあ、監獄を作るような場所にゃん、元から周囲には人口が少なかったみたいにゃん」
「街道の結界が無ければもう少し使えるのにね」
「にゃあ、使えないから衰退してるにゃん」
ドクサの本来の州都はプロトポロスから更に西の方角に馬で一〇日の場所にある。
大昔の死霊の大発生で壊滅して以来、放棄されたとリンダとエリカが教えてくれた場所だ。
ドクサ自体、結界で隔てられた人跡未踏の森林があるだけなので、先人の州都を放棄の選択も当然だと思う。
今回あまりに不便だと言うことで、大公家の直轄領だったがプロトポロスが割譲されドクサに組み入れられた。
俺がドクサを貰わなければ、プロトポロスが放棄されていただけだと思う。
○フルゲオ大公国 ドクサ州 城塞都市プロトポロス 上空
普通の人どころか盗賊の類すら見ることなく一時間ちょっとのフライトでプロトポロスの上空にやって来た。
そのままプロトポロスの上を旋回する。
「これは使えないね」
「にゃあ、瓦礫が陥没した穴に埋まってるにゃん」
改めて昼間に見ると惨憺たる有り様だった。いまのプロトポロスは城壁で囲われた大穴だ。
「「……」」
五歳児たちは良くわからず目をぱちくりさせる。
この状態ではテントすら張れないので復元が必須だ。最初からそのつもりで先に来たわけだが。
上空からプロトポロスを探索する。ベースにすべきモノがちゃんと残ってない。全部、瓦礫になってしまっている。
時間を逆行させて本来の姿を探った。
「にゃあ、ここは三〇〇〇年ほど前に作られたお城だったみたいにゃん」
籠城戦を前提とした造りだ。
たぶん敵は人間じゃなくて魔獣だと思う。かつては、かなり高度な魔獣避けの刻印が刻まれていたみたいだ。
何らかの理由で半壊して放置されていたその遺構を監獄に流用したのが、この前までの姿だったらしい。中央の塔とかは後付だった様だ。
「魔獣はいつ仕込んだんだろうね?」
「にゃあ、城ができるずっと前みたいにゃんよ、オリエーンス連邦時代にゃん」
詳しいことはオレの演算能力では導き出せないが、長らく地下に隠されていた禁呪を何らかの方法で大公の祖先が知り子孫に伝えたのだろう。
せっかくの魔力なんだからもっと建設的なことに使えば良かったのに。
「にゃあ、まずはお城を復活させるにゃん」
「いいぞ、やっちゃえ!」
リーリがオレの頭の上で飛び跳ねる。
「「マコト様、ガンバレ!」」
ビッキーとチャスはオレが何をするのかわかってないみたいだが応援してくれた。
時間を戻すだけなのでそれほど手間はかからない。魔力もこの前の魔獣の赤ちゃんから貰ったのがどっさりある。
ついでにここでも金も回収しておくか。
「にゃあ!」
風が渦を巻き砂塵を巻き上げる。
渦の中に青い稲妻が幾つも光った。
ドラゴンゴーレムを距離を取って旋回させる。
思ってたより派手な光景に五歳児たちがギュッとオレにしがみついた。
「にゃあ、大丈夫にゃんよ、順調に進んでるにゃん」
ドラゴンゴーレムが旋回を繰り返す内に砂塵と青い稲妻が消えた。
「「お城!」」
街が一つまるまる入ってるだけあって巨大な城だった。
優美さよりも実用的な防御力を優先したずんぐりむっくりなシルエットは嫌いじゃ無かった。
回収した金は地金に加工した。数量は約三〇〇〇枚にゃん。
かなり貯め込んであった。
誰が貯めたのか知らないが、持ち出す暇がなかったのは残念だったね。




