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宮廷魔導師の陣にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇六月十四日


 ○フルゲオ大公国 クルスタロス州 州都パッセル 大公国軍の前線基地


「皆んな無事にゃん?」

 基地周辺にも死霊の気配は皆無になっている。

「全員、無事だ」

 ラルフを始め全員が奮戦したと一目でわかる姿だった。

 近くに居た兵士ごとウォッシュを掛けてねぎらってやる。

「「マコト様!」」

 五歳児たちも馬車から駆けて来てオレに飛び付いた。

「もう、おなかペコペコだよ」

 リーリはずっと食べていたと思うのだが。

「にゃあ、まずは朝ごはんにゃんね」

 発令所のテントからアンジェリーヌ第一公女がリンダとエリカを伴って出て来た。

「いろいろ済まない、マコト殿」

 アンジェリーヌが詫びを入れてくれる。

「にゃあ、これも仕事の一貫にゃん」

「これより直ぐルークスに帰還したいのだが、マコト殿に頼めるだろうか?」

「にゃあ、いいにゃんよ、直ぐに出るにゃん」

「アンジェリーヌ殿下の従者がふたりいるのだが同行できるか?」

「威張り散らすバカだったら、お断りにゃん」

「その点は問題ない」

 突然、オレの身体が持ち上がる。

「貴公がマコト殿か、なるほど小さくて可愛らしいお嬢さんだ」

 ゴツくてデカいおっさんに抱きかかえられていた。

「叔父上、マコト殿は王国の貴族、しかも当主ですよ」

 アンジェリーヌが呆れ顔だ。

「おお、そうだったな、俺はダミアーノ・ボワモルティエだ、いまは冒険者兼アンジェリーヌの護衛をしている」

 何か悪魔に守られてそうな名前だがいい人そうだ。

「にゃあ、マコト・アマノにゃん」

 叔父上と言うことは大公の弟ってことか?

 大公も背が高かったがこっちはもっと大きい。

「ダミアーノ様、マコト様をこちらに」

 長身の金髪美女にパスされた。

 このダイナマイトバディは冒険者ギルドのお偉いさん?

 いや、このタイミングではそれはないか。

「にゃあ、お姉さんもアンジェリーヌ殿下の従者にゃん」

「はい、グリセルダ・ランジェッラと申します。レオン様の婚約者です」

「にゃ?」

 レオンを見ると全力で首を横に振っていた。

「奴隷に落とされた身でありながら聖戦士になられたレオン様こそ我が夫に相応しいお方です」

 レオンは、オレの知らない間に聖剣士から聖戦士にジョブチェンジしたみたいだ。

「グリセルダ、いきなりそんなことを言われてもマコト殿が困っているぞ」

 アンジェリーヌが助け舟を出してくれた。

「にゃあ、まずは首都ルークスに行くにゃん、細かい話はそれからにゃん」


 帰りも馬車ごと空間圧縮魔法を使うため、オレが御者台に座った。

「出発するにゃん」

 街道に出て直ぐに空間圧縮魔法を使った。

「「「おおお!」」」

 最初はアンジェリーヌとその従者たちは驚いていたが直ぐに慣れた様だ。



 ○フルゲオ大公国 ドクサ街道


 走りながらの朝ごはんはエッグマフィンとソーセージマフィン。

 それにポテトとシェイク。

 相変わらずどこぞのモーニングメニューと似た感じなのはオレがオレだからだ。

「マコト殿の料理人はかなりの腕らしいな」

 同じく御者台にいるアンジェリーヌがエッグマフィンを頬張って目を丸くする。

「違うよ、作ってるのはマコトだよ」

 リーリがアンジェリーヌに説明する。

「マコト殿が!?」

「キュカとファナは袋に入れて配る係なんだよ」

「マコト殿は料理までできるのだな、私と大違いだ」

「にゃあ、姫様がなんでも出来たらそれこそ失業者が続出にゃん」

「確かにそれはそうなのだが」

 騎士団なんて野営をすることもある職業なら何もできないよりは、出来た方がいいけどな。


「にゃあ、アンジェリーヌ様は死霊魔導師に心当たりはないにゃん?」

 既に死霊の上位種が残した言葉は伝えられている。

「死霊魔導師が人間であるなら間違いなく有能な魔法使いだろう、そしてかなりイカれてる」

「にゃあ、イカれてる魔法使いなんて相手にしたくないにゃんね」

「まったくだ」

「大公国は魔法使いが多いから探すのも大変そうにゃんね」

「人間が死霊魔導師であるなら容疑者は一人いる」

「にゃ、心当たりがあるにゃん?」

「既に知ってると思うが、我が国の西部で大規模な反乱が起こった」

「にゃあ、噂程度には聞いてるにゃん」

「その反乱の中心で死霊が発生したのだ、それが始まりだ」

「首都を目指してる反乱軍というのは、もしかして死霊のことにゃん?」

「そうだ、反乱に加わっていた人間の大部分が死霊に喰われて死霊になったのだ。それにヤツらのアジトから死霊召喚の儀式の跡も発見されている」

「にゃあ、反乱軍に魔法使いがいたにゃんね?」

「そうだ、反乱軍の中心人物の一人に元宮廷魔導師と言う触れ込みの男が居たらしい」

「にゃあ、そいつは本物の元宮廷魔導師にゃん?」

「いや、違っていた。名前は偽名で宮廷魔導師に籍を置いたことのある人間の中にも該当者は無かった」

「怪しい人間にゃん」

「死霊魔導師が人間と確定したからにはまず間違いないだろう」

「禁忌の死霊召喚を行う知識と魔力を持つ人間が市井に紛れていたにゃんね」

「この報告には兄上たちも驚かれていたよ」

「にゃあ、そいつがいま何処にいるかは不明にゃんね?」

「反乱軍が死霊に襲われて壊滅したときに姿を消したらしい、こちらの調査でも以後の足取りは不明だ」

「にゃあ、そいつの顔を見た人間は生き残ってないにゃん?」

「何人かはいたが、目撃者の記憶を探ったが見事に記憶阻害の魔法が掛かっていたそうだ」

「にゃお、死霊魔導師は正体不明なままにゃんね」

「そうだ、何処かにいる」

「死霊から、もうちょっと詳しく聞き出せばよかったにゃんね」

「いや、マコト殿のおかげでパッセルも落とされずに済んだわけだし十分に働いてくれた。我々だけでは今頃ルークスはおびただしい数の死霊に取り囲まれていたろう」

「にゃあ、死霊の本隊はオレを回避したと違うにゃん?」

「いや、宮廷魔導師たちの観測によれば、死霊どもはかなり数を減らしたらしい。マコト殿の与えた損害はヤツらにとって甚大だったわけだ」

「にゃあ、役に立ったのなら良かったにゃん」

「それとマコト殿には先に言っておくが」

「なににゃん?」

「私の下の兄はちょっと変わっていて、まあ、あまり驚かないで欲しい」

「主席宮廷魔導師のお兄さんにゃん?」

「そう、第二公子のレオナール兄上だ」

 巷でヤバいって噂の次男坊殿下にゃんね。

「にゃあ、いざとなったら逃げるから心配いらないにゃん」

 殺さなければ問題にならないだろう。

「いや、マコト殿に逃げられるのは困るのだが」

 アンジェリーヌは困った顔を見せた。


 夕方少し前に大公国の首都ルークスに到着した。



 ○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣


 最初は騎士団の本部に行く予定だったが、次男坊殿下からアンジェリーヌに連絡が入り、宮廷魔導師が陣を張る城壁の外に馬車を向けた。

 首都の手前に光魔法の巨大な魔法陣を構築しているらしい。城壁の中から攻撃するのかと思ったら違うみたいだ。


 急ごしらえのはずの宮廷魔導師の首都防御陣の中には、何故かちゃんとした屋敷が建っていた。

「レオナール兄上は格納魔法の達人でね」

「にゃあ」

 この大きさの格納魔法は、オレ以外では初めて見た。

「子供の頃は、気に入ると何でも格納してよく父上に怒られていたものだ。侯爵の屋敷を持ち帰った時はお尻が赤くなるまで打たれていたな」

 それは微笑ましいエピソードなのか?

「大物だね」

 リーリも感心している。

「にゃ、にゃあ、スケールが大きいにゃんね」

 庶民がやったら犯罪奴隷か、貴族か商会で飼い殺しだろう。


 陣の警備や作業をしてるのは大公国軍の兵士だ。

 彼らの誘導で決められた位置に馬車を停める。

「ロッジは馬車の隣に出してもらって構わないそうだ」

「にゃあ」

 今回は馬車を仕舞わずにロッジを出す。

「にゃあ、カティたちはロッジで待っていて欲しいにゃん」

「「「はい」」」

 ラルフとアレシアはオレと同行する。

「マコト殿、レオンとチャドを借りるぞ」

「にゃあ」

「えっ、俺もですか?」

「チャドも身体をほぐすのを手伝え」

「さあ、マコト様の許可も戴いたことですし、参りましょう」

 婚活騎士グリセルダにお婿認定されたレオンが困り顔のまま連れて行かれた。

 リンダとエリカがいるとは言え、いいのか姫様の守護騎士がふたりとも抜けて。

 リーリはオレの頭に乗せたまま連れて行く。妖精は縁起物なので何処に連れて行ってもOKなのがこの世界の常識だ。



 ○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣 レオナールの館


 移築した屋敷では大公国軍の兵士がドアマンよろしく扉を開けてくれる。

「お待ちしておりました」

 玄関ホールで出迎えてくれたのは執事っぽい爺さん。

 そしてルークスの冒険者ギルドのマスター、ブランディーヌ公女殿下だった。

「お疲れ様ネコちゃん、大活躍だったわね」

「にゃあ、死霊からは防戦一方だったにゃん」

「ふふ、モノは言い様ね」

「にゃあ」

「もう少しお話したかったけど、兄上が待ってるからこのぐらいにするわね」

 アンジェリーヌとブランディーヌのふたりに手を引かれてレオナール第二公子の待つ部屋に連れて行かれた。安定のFBIに捕まった宇宙人スタイルだ。


 赤毛で目付きの悪い中学生男子がいた。

「まさか本当に六歳児とはな」

 オレも目の前にヤンキー中学生がいてびっくりした。

 学生服みたいな黒い詰め襟にマントみたいな服装だし。

 片手に巻いてる包帯の下はアレか、邪神か何かが棲んでるのか?

「兄上に嘘など申しません」

「まさか私の報告をお疑いでしたか?」

「いや、そうではない」

 妹たちには頭が上がらないのかな?

 年下に見えるし。

 この世界では強い魔力を持ってるとあまり歳を取らない。

 ベルやカティも年齢より幼く見える。

「レオナールだ、死霊と大公国軍のバカども討伐に感謝する」

「にゃあ、マコト・アマノにゃん」

「あたしはリーリだよ」

 リーリはオレの頭の上で仁王立ちだ。

「お、おう」

「死霊はともかく大公国軍のアレは自滅にゃん」

「小者が欲をかくからそうなるんだ、あいつらの財産はマコトにくれてやる、好きにしろ」

「にゃあ、オレじゃなくてあいつらの被害者家族にやって欲しいにゃん」

「だったらアンジェリーヌに任せるといい」

「にゃあ、お願いするにゃん」

「了解した」

「ネコちゃんは優しいのね」

 ブランディーヌがオレの頭を撫でる。

「マコトの今回の稼ぎからしたら、あいつらの財産なんて小銭みたいなものだろう?」

「まあね」

 オレの代わりにリーリが答える。

「にゃあ、換金してないからいまはただの綺麗な石にゃん」

「俺のところで全数買い取りたいが、国が傾くか」

「無理はしない方がいいにゃん」

「マコト、おまえ、俺の嫁になれ」

「にゃ?」

「「あ、兄上!」」

 レオナールのいきなりの求婚にアンジェリーヌとブランディーヌのふたりが声を揃えた。

「稀有な魔力を持つ者を一族に引き入れて何が悪い?」

「駄目です、兄上と結婚なんてネコちゃんが不幸になります!」

「ちょ、待て」

「周囲から『ああやっぱり』って言われる妹の身にもなっていただきたい」

「な、何だそれは!」

 この次男坊殿下、聞いた話とイメージがかなり違う。

 確かに変わってはいるが。

「兄上、マコト殿の身分を忘れたのですか? アナトリの貴族との婚姻は約定違反であり、派兵の口実を与えることになります」

「ネコちゃんは六歳児ですから、王国からの問い合わせを言い掛かりと突っ撥ねるのも難しいでしょうね」

「冒険者ギルドも黙ってないのではないですか? 魔石の分配先まで決まってるそうですし」

「にゃ?」

「既にケントルムからも引き合いが来てます」

 オレの持ってる魔石の行き先が事細かに決まってるのか?

 ラルフとアレシア兄妹の仕事って魔石のカウントが本当だったりしてな。

「にゃあ、そんなことより死霊と死霊魔導師はどうするにゃん?」

「心配するな、死霊は俺様の光魔法で一網打尽にする。死霊魔導師は探索中だ、いずれ尻尾を出すだろう。マコトを呼んだのはあくまで保険だ」

「にゃあ、光魔法って聞いたことがないにゃん」

「当然だ、俺様が一から組み上げた新型の魔法だからな」

 大丈夫なのかそれ?



 ○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣 魔法陣


「「「はぁ、はぁ、猫耳幼女たん」」」

 陣の中央に作られた光魔法の魔法陣の前で、前世の自称高等遊民の友人と雰囲気がそっくりの色白ぽっちゃりなおっさんに囲まれていた。

 いまさっき紹介された宮廷魔導師たちだ。

「にゃあ、皆んな魔力はスゴいにゃんね」

「ちょっとアクが強いが実力重視で集めたからな」

 総勢二〇人。

 三人ほど普通の感じの人もいるが大半がそっち系だ。

 権力を振りかざして悪さをするタイプではないのは評価できる。

 それに実力が半端ない。

 こいつら全員なら魔獣もイケるだろう。

 ただ、オレを見て息を荒げるのはどうなんだ?

「これが光の魔法の魔法陣にゃんね」

「そうだ」

 直径二〇〇メートルちょっとの魔法陣は二〇〇〇個の刻印によって生み出されていた。

 淡く光って地面から三〇センチほど浮いてる。

 これが発動すると光魔法なだけあって鬼のような光を作り出す。

「にゃあ、確かに斬新な魔法式にゃん」

「わかるのか?」

「わかるにゃん」

 日光で死ぬのだから理屈は合ってるが、これが本当に死霊に効くのかはオレにも良くわからない。

「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」

 だからオレを囲んで息を荒げるのはヤメてくれないか。



 ○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣 ロッジ


 オレたちはロッジの屋上から状況を見守りつつ早めの夕食を摂ることにした。

「このとんかつという食い物はヤバいな」

 何故か次男坊殿下も混ざっている。

「フリーダに散々自慢されてたけど本当に美味しい」

「このワインも最高だ」

「私もレオン様の為にお料理がんばります」

 ギルマスに守護騎士たちもいる。

 宮廷魔導師たちには、前世のそっち系の友人が好物だったハンバーガーとコーラを配布してる。

 ポテトも付けてあるにゃん。

 死霊は北西より二二〇万が二時間後に到着すると報告が入っていた。

 のんきに飯を食ってる場合じゃないのは承知してるが、次男坊殿下と魔導師以外はやることがないのでロッジに引っ込んでいたほうが邪魔にならなくていい。

「にゃあ、アンジェリーヌ殿下とブランディーヌ殿下は城に戻らなくていいにゃん?」

「城よりマコト殿のロッジの方が安全であろう?」

「にゃあ、ルークスの防御結界はかなり強力にゃんよ」

「だが、刻印の大半が死んでる。魔力も能力も三流の家柄以外に誇るものがない魔導師ばかりの時代が長かったからな」

 妹に代わって次男坊殿下が教えてくれる。

「にゃあ、アレでそうにゃん?」

「ああ、城壁はまだマシだがそれでも三分の一が死んでる。北側なんか一部崩落したままだしな」

「魔法で直せないにゃん?」

「魔法か」

 次男坊殿下は目をパチクリさせる。

「手で直すより早くて頑丈に造れるにゃんよ」

「言われてみればそうだな、面白そうだ、この騒動が落ち着いたらやってみるか」

「にゃあ」


 いよいよ日没が迫る。



 ○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣 簡易宿泊所


 陣地内に簡易宿泊所を三棟ほど並べて作った。

 この前、ピガズィの途中に作ったものに対死霊の聖魔法結界をプラスしたものだ。

 地上一階と地下は繋いである。

 約二〇〇人の兵士たちを地下の大食堂に集めた。

「にゃあ、酒とつまみを用意したから楽しむといいにゃん、後は寝るなり風呂に入るなり好きにしていいにゃんよ」

「死霊はいいのでありますか?」

 代表して小隊長が質問する。

「死霊退治は俺様と宮廷魔導師の仕事だ、おまえらは安全なここにいるといい、ここでダメなら城にいても同じだ」

 レオナール殿下の言葉に感涙する兵士多数。

 陣地内を高濃度の聖魔法で満たすので、下手にうろちょろされると困るのだ。


 日が沈む。



 ○フルゲオ大公国 首都ルークス郊外 首都防御陣 ロッジ


 オレはロッジの屋上で人をダメにするクッションに身体を預けて探査魔法の出力を上げている。

 両側にビッキーとチャスの五歳児が抱き付き、おなかにはリーリが張り付いてる。

 死霊は二二〇万じゃなくて正確には三八〇万だ。

 数からしてそのほとんどが怨霊や幽霊ベースで間違いないだろう。斜陽の大公国も昔はいまと比べ物にならないぐらい人がいたのだ。

 大公国の北西部はほぼ壊滅。少なくない犠牲者を出してまた人口を減らしている。

 復興は大公国の仕事なので頑張ってもらうしかないだろう。

「マコトは魔導具も作れるのか?」

 レオナール殿下はさっきまでロッジのあちこちを興味深そうに見て歩いていた。

「にゃあ、嗜み程度にゃん」

「あれで嗜みなのか? 便所にまで魔導具とは恐れ入ったぞ」

「にゃあ、生活の質を高める為に魔導具は存在するにゃん」

「そいつは贅沢でいいな」

「にゃあ、レオナール殿下は魔法陣の所に行かなくていいにゃん?」

 次男坊殿下もオレの隣に並べたクッションに身体を預けてる。

「見える位置なら問題ない、マコトも同じだろう?」

「にゃあ」

「死霊の正確な数はわかるか?」

「オレの見立てでは三八〇万にゃん」

「ルークスの人口は三〇万がいいところだぞ」

「餌になる人間が足りないから最終的に死霊は自滅するにゃんね」

 大公国と王国との国境は堅牢な結界がいまだに機能しているので死霊は通り抜けることはできない。大公国内の人間を食い尽くしたらそれで終わりだ。

「死霊魔導師の目的は大公国の滅亡か?」

「にゃあ、そこはオレにもさっぱりにゃん」

 今回の死霊魔導師はプロトポロスの一件から、先史文明であるオリエーンス連邦時代の禁忌魔法に明るい人間だと推察される。

 死霊とは別のもっとヤバい魔法を使う可能性だって十分に考えられる。

 幸いここから調べた限り王都とその近郊にプロトポロスみたいな魔導具を使った仕掛けは発見されなかった。

 別な手を使って来るのだろうか?

 大量の死霊を使った禁呪?

 でも、こんな貧乏で偏屈な国を滅ぼしても誰得じゃないのか?

 今回の騒動で得をしたヤツが怪しいが、それだと魔石を独り占めにしてるオレになってしまう。

 その次が冒険者ギルド。

 ただし冒険者ギルドだと時期が合わない。

 オレが初めて聖魔法を見せた時期には既に死霊が発生していたわけだし。

 オレが犯人じゃないように冒険者ギルドもない。

 死霊召喚なんて禁呪を使ったヤツが死霊魔導師で間違いないだろう。


 暗くなったはずの西の空に赤い光が見え始めた。

「にゃあ、来たにゃん」

 身体を起こすとビッキーとチャスの五歳児たちがまどろみから目覚めた。

「にゃあ、ふたりともロッジの中に入ってるにゃん」

「「マコト様は?」」

 心配そうにギュッと抱きつく。

「にゃあ、ちゃんと戻るから心配要らないにゃん、カティ、後は頼んだにゃん」

「任せて下さい」

 ビッキーとチャスをカティに預けた。

「先に行くぞマコト!」

 レオナール殿下がマントをなびかせ跳躍する。

 風を巧みに操って空を飛ぶ。

 おお! あれはただの風の魔法じゃない空を飛ぶために特化された飛翔の魔法だ。

「にゃあ、ああやるにゃんね」

 次男坊殿下の飛翔の魔法を参考にオレも空を飛んだ。

「マコトもちゃんと飛べるんだね」

 リーリが胸元から出て来た。

「にゃあ、オレも飛翔の魔法を覚えたにゃん」

 飛翔の魔法は滑空ではなく上昇もできる。

 これを使えばドラゴンゴーレムも地面を凹ませずに飛ぶことができる。実用化に大きく前進した。

 レオナール殿下に続いて光魔法の魔法陣の手前に旋回して着地する。

「おまえら、始めるぞ!」

「「「はぁ、はぁ、マコトたんのパンツ」」」

 魔導師たちが並ぶ魔法陣の上で旋回したのがマズかったか。

 空が暗くても魔法陣が光ってるせいで丸見えだったにゃん。

 魔導師たちの意識はオレのパンツに集中してる。

「殿下、こいつら全員殺してもいいにゃん?」

「全部終わったらな」

 疲れた表情を見せる次男坊殿下。

 それでも魔法陣の光が増す。

 北西の空が赤い光の帯が広がる。

「推定数六五〇万に増えたにゃん」

「ろ、六五〇万だと!?」

「にゃあ、分裂でもしてるみたいな増え方にゃん」

 この国はどんだけ怨霊がいるんだ?

「試しに撃ってみるか、アレだけいればハズレはないだろう」

 レオナールは片腕に巻いた包帯を外した。

 そこには魔力増幅の刻印が刻まれていた。

「腕にビリビリ来てるぜ」

 そんなもん腕に刻んだらビリビリするに決まってる。

「我が刃、閃光となって敵を殲滅せよ!」

 おお、腕の刻印とそれまで淡く光っていた魔法陣が光を増した。

 いまちょっとカッコいいと思ってしまった。悔しい。

「雷火!」

 魔法陣の光が上昇し回転して北西に向かって飛んで行った。

 赤い光の帯に吸い込まれると同時に光った。

「にゃあ、光ったにゃん!」

 稲光のような閃光だった。

 でも大きな変化は無かった。

「効かないのか! 何故だ!?」

 いまのは死霊を消すには十分な光だったはずだが。

「にゃあ、確認するにゃん」

 死霊の大半はこれまでと同じ種類のはず。

「にゃ?」

「どうした?」

「にゃお、泥にゃん! 死霊が泥にまみれてるにゃん」

「泥だと?」

「にゃあ、泥で全身をコーティングして光を遮ってるにゃん」

「なんだと」

「死霊魔導師にこの魔法陣のことがバレてるにゃんね」

「チクショウ! その可能性があったのか!」

「にゃあ、この分だと聖魔法に対する対策もあるかも知れないにゃん」

「試してみろ」

「にゃあ、魔法陣を借りるにゃん」

 魔法陣に手を翳し聖魔法の青い光に書き換える。

「「「はぁ、はぁ、マコトたんの魔力がビンビン来るぅ!」」」

「にゃあ、魔導師の魔力は不要にゃん、怪我をするから魔法陣から魔力を切り離すにゃん」

「言われた通りにしろ」

「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」

 繋がったままだ。

「にゃあ、エーテル器官が砕けても知らないにゃんよ!」

 魔力を上げた。

「「「ひっ!」」」

 魔導師たちは尻餅をついて後ずさる。

「にゃあ、それでいいにゃん」

 オレだけの魔法陣に作り替えて更に魔力を増す。

 青く光りながら浮き上がる。

 こんなモノでいいだろう。

「行くにゃん」

 青い魔法陣が上昇し北西の空に飛び去った。

「にゃあ、続けて行くにゃん」

 連続して打ち出す。


『『『おおおおおおおおおお!』』』


 遠くから死霊の声がした。

「効いてる様だな」

 レオナール殿下の魔法みたい派手に光ってないが青い光がチラチラして赤い光を消し去って行く。

「にゃあ、飛ばした魔法陣で死霊どもを切り裂いてるにゃん」

「切り裂く?」

「流石に切り裂けば泥でコーティングしても無意味にゃん、にゃあ、これなら硬い上位種が混ざってても問題ないにゃんね」

 魔法陣に物理的な硬さを与えて泥パックごと切り裂いてる。

 詳細は不明の上位種より硬いのがいたが、切り裂かれた挙句に内側から聖なる光で満たされたら雑魚同様に天に還って行った。

「どんどん行くにゃん」

 直径二〇〇メートルの魔法陣を一秒間に三枚打ち出す。

 天に昇る光の粒子で逆ナイアガラだ。

「「「はぁ、はぁ、マコトたん、スゴいにゃん」」」

 手元が狂うからおまえらが『にゃん』を語尾に付けるな!

 順調に死霊を刻んでるのだが。

「にゃあ、どうなってるにゃん? 一二〇〇万は退治したのに全然減ってないにゃん」

「一二〇〇万だと!?」

 レオナール殿下も予想外の異常な数字に驚きの声を上げた。

「どういうことだ!?」

「誰かがいまも大量の死霊を作ってるってことだね」

 リーリが教えてくれる。

「にゃあ、作ってるのは死霊魔導師にゃん?」

「たぶんね」

「しかし、人間にそのような事ができるのか?」

「にゃあ、普通は無理にゃんね」

「だろうな、いくら有能な魔導師でもあの数は無理だ、魔力がもたない」

「でも、それを可能にする魔法が一つあるにゃん」

「なんだって!?」

 レオナール殿下は目を剥いた。

「それは死霊召喚の魔法とは違うのか?」

「違うにゃん、もっと大掛かりな禁呪中の禁呪にゃん、例えば自らの国民を贄にして侵略者を滅ぼすオリエーンス連邦時代の秘術とかにゃん」

「そんなものがあるのか?」

「にゃあ、あるにゃん」

 詳細は不明だが、存在は図書館情報体に記載されていた。

「ただし大掛かりな仕掛けが必要にゃん」

「少なくとも俺が知る限り大公国には無いぞ」

「遺跡はどうにゃん?」

「いや、そこはわからん」

 秘術を使うことが前提なら、プロトポロスの空中刻印も別の意味が出てくる。

 秘術を発動させるのに必要な膨大な魔力の供給だ。

 城塞都市の地下に隠されたあの魔獣がいれば供給可能だ。

 プロトポロスでは、防御結界代わりの石の巨人が動き出したから、オレは魔獣を倒すことができたが、今回、死霊に襲撃され放棄された城塞都市は他にも幾つかある。

 他の都市にもまだあのピザのお化けみたいな魔獣が残っていたとしたら?

 この状況からすると有る可能性が高い。

「オレの考えた通りの秘術なら、大公国内すべての人間と死者の魂が残らず死霊になるにゃん」

「いったい誰がそんなことを?」

「死霊魔導師にゃん」

「死霊魔導師が国を潰すと言うのか?」

「死霊の数からしてそのつもりと違うにゃん?」

 地鳴りがする。

 続いて揺れが来た。

「マコト、お城が!」

 リーリの声に振り返ると城壁の中で大公の城が崩れ始めていた。


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