パッセル再びにゃん
○帝国暦 二七三〇年〇六月十三日
○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道
日付が変わって少ししたところで皆んなの乗った馬車に追い付いた。
「にゃあ!」
「おお、マコト!」
ラルフが馬車を停める。
「「「マコト様!」」」
停まった馬車からわらわらとこぼれるように皆んなが降りてきた。
五歳児たちにしがみつかれる。
「にゃあ、皆んなも無事だったにゃん?」
「死霊が出たけどレオンが退治してくれた」
「にゃあ、教えたことが早速役に立って良かったにゃん」
「すべてマコト様のおかげです」
片膝を着きかしずくレオン。
「にゃあ、オレはちょっとコツを教えてエーテル器官を弄っただけにゃん」
「エーテル器官は普通弄れないぞ」
リンダに突っ込まれる。
「マコト殿はエーテル器官を治療されるのですか?」
エリカは事実確認か。
「にゃあ、できるにゃん」
「アナトリの治癒魔法は進んでるのですね」
「いや、俺の知る限りアナトリの宮廷魔導師でもエーテル器官の問題はほとんど手に負えないはずだが」
チャドはやっぱり物知りだ。
「では、マコト殿だけが?」
「そうだよ、マコトは何だって出来ちゃうんだから!」
リーリが威張る。
「おふたりともいまのことは内密に願います、下手に話が広まってマコトの帰還が妨害されると非常にマズいことになりますから」
ラルフが釘を刺す。
「わかった」
「心得ました」
「レオンさんもマコトの魔法については他言無用で頼みます」
「この生命に代えましても」
「にゃあ、別に聞かれたら喋ってもいいにゃんよ、閉じ込められても勝手に帰るから心配要らないにゃん」
「マコトは強いからね!」
妖精は威張るのを忘れない。
「あっ、ちょっと済まない」
リンダが皆んなから離れた。
そして直ぐに戻ってきた。
「マコト殿、急ぎパッセルに戻れるだろうか?」
「何か有ったにゃん?」
「死霊の群れがパッセルに襲来したらしい」
「わかったにゃん、急行するにゃん」
オレがラルフに代わって御者台に座った。
「出発!」
リーリの号令を合図に馬車を出す。同時に空間圧縮魔法を使った。
「こ、これは何ですか?」
今回、驚いたのは空間圧縮魔法が初体験のレオンだけだ。
「にゃあ、空間圧縮魔法にゃん、レオンは商人と旅をしてたなら商人の道で知ってると違うにゃん?」
勝手にあちらも空間圧縮魔法ってことにしてるけど。
「いいえ、元の主の商隊は商人の道を使えるような大店ではございませんでしたから」
「にゃあ、いろいろあるにゃんね」
権力のある者が利益を掻っ攫うのはどこも一緒か。
「どんどん行くにゃんよ!」
「行け!」
着地ポイントを二段抜かしや三段抜かしで距離を稼ぐ。夜の森だから風景に大きな違いはない。昼間だったら目がチカチカしたと思う。
「にゃあ、パッセルの状況はわかるにゃん?」
「襲われてるのはパッセルの街と大公国軍の前線基地だ、メインは城壁の中で基地は足止め程度らしい」
念話で状況を確認してるリンダが教えてくれる。
「前と違って手当たり次第じゃないにゃんね」
「どうやら死霊の狙いは市庁舎に滞在している将軍らしい」
「死霊に直に狙われてるほどの重要人物にゃんね」
リンダは首を横に振った。
「市庁舎を襲撃してる死霊はいずれも軍服姿だそうだ、死霊魔導師の指示ではない可能性もありそうだ」
「にゃあ、それなら相当恨まれてるにゃんね」
死霊より怨霊に近いのでは?
「自業自得ではあるが、市民の被害も拡がっている、捨て置くわけには行かない」
「そうにゃんね」
「我々が到着するころには死霊どもは森に逃げ去った後になるが、マコト殿の聖魔法ならそいつらを根絶やしにできるだろう」
「にゃあ、パッセルならあと三〇分も有れば到着するにゃん」
「本当か? この前よりもずっと速いぞ」
「にゃあ、適当なことは言わないから安心していいにゃん、馬車は前線基地に置いて行くにゃん」
「では、パッセルの街は私が案内しよう」
「にゃあ、頼むにゃん」
「マコト様、俺もお連れ下さい」
「にゃあ、レオンは前線基地を頼むにゃん」
「かしこまりました」
○フルゲオ大公国 クルスタロス州 州都パッセル 大公国軍の前線基地
ちょうど三〇分後、前線基地の手前にやって来た。
「にゃあ!」
基地の結界に張り付いてる死霊に聖魔法の光を浴びせてまとめて片付けた。
「にゃあ、死霊の中に強い魔力を持つ者がいるにゃん、これは死霊の上位種にゃんね」
「「「上位種!?」」」
ラルフたちが声を揃えた。
「にゃあ、そいつが指示を出してるっぽいにゃん、さっきの聖魔法の一撃で消えなかったのも上位種にゃん、見た感じ元軍人の死霊みたいにゃん」
基地周辺にいた死霊のうち九〇%は片付けたが残り一〇%が健在だった。
上位種の大半を占めているのが魔法使いらしき元軍人だ。かなり組織だった動きをしてるのは軍人だからなのか?
「まとめて送れないとなると上位種は直接叩くしかないにゃんね」
「その上位種にはマコト殿の聖魔法が効かないのか?」
リンダが質問する。
「違うよ、上位種を送るほど出力を上げるとね、生きてる人間まで天に還っちゃうんだよ」
リーリがオレに代わって解説してくれた。
「それはそれで悪くはないが」
生きたまま天に還るのはこの世界で最上の死に方とされている。即身成仏みたいだ。
「にゃあ、健康な人間を天に還すとか頼まれても嫌にゃん」
「当然です」
エリカも同意する。
「皆んなには聖魔法で聖別した銃と剣を渡すから基地は任せたにゃん、カティとアレシアとキュカとファナは馬車から出ないで銃を使うにゃん」
「「マコト様は、行っちゃうの?」」
「にゃあ、オレはまた直ぐに戻って来るにゃん、ビッキーとチャスは自分の身を守るにゃんよ」
「「はい」」
そしてラルフとチャドそれにリンダとエリカに聖魔法に特化した銃と剣を渡す。
「にゃあ、レオンがこの中でいちばん強い聖魔法の力を持ってるにゃん、アンジェリーヌ殿下がまだ基地に残ってるなら護衛に加えるといいにゃん」
「わかりました、そのように取り計らいます」
エリカが引き受けてくれた。
「にゃあ、このまま基地に突っ込むから直ぐに行動開始にゃん」
「「「おう!」」」
五歳児たちも腕を振り上げていた。
半開きの門を魔法で押し開きついでに死霊を撥ね飛ばし発令所のテントの前に突っ込んだ。
発令所に張られた特別な防御結界が鈴なりの死霊のせいで崩壊寸前になっていた。
レオンを先頭に馬車残留組以外が飛び出す。
聖別された武器と何度も聖魔法を浴びた身体は、上位種となった死霊にとっても天敵以外の何者でもない。
「オレたちも行くにゃん!」
リンダを伴って馬を走らせた。
○フルゲオ大公国 クルスタロス州 州都パッセル
死霊に強襲されたパッセルはその大きな扉をほぼ全開にしていた。
「守備隊は全滅か?」
「まだわからないにゃん」
城塞都市の結界は問題なく機能してるから入り込んだのは上位種だけと思われる。
魔法馬で門をくぐり抜けたところで城壁都市内部を聖魔法の光で満たした。
防御結界の外からだと聖魔法も著しく効果を削がれてしまうからだ。
これで不幸にも死霊と化した魂や、その犠牲となった魂、更には以前からこの地に染み着いた怨念にまみれた魂たちは全て光の粒子となって天に昇る。
「マコト殿、このまま市庁舎に向かうぞ!」
「にゃあ!」
リンダの魔法馬はなかなかの速度だ。
案内されるまでもなく街の中心にある無駄に大きな建物が市庁舎だろう。
まだ活動を継続している死霊共が集っている。
「上位種がいっぱい残ってるね」
リーリが市庁舎を見詰める。
「にゃあ、いるにゃん」
数にして二〇〇ちょっとか。
その二〇〇ちょっとの死霊がすべて上位種だ。ここからは死霊と言うより軍人相手の戦いと思った方がいいだろう。
「マコト殿、市庁舎の様子は探索できるか?」
「にゃあ、市庁舎の中の生存者は二〇人ほどにゃん、死霊はすべて上位種で二一六いるにゃん」
「持ちこたえてる方か」
「にゃあ、防御結界で守られた隠し部屋にいるのが五人にゃんね、あとの十五人はバラバラに隠れてるにゃん」
「隠し部屋にいるのが将軍だろう」
「にゃあ、だったらまだ健在にゃん」
「まずは市庁舎の外にいる個体から始末する」
「にゃあ、わかったにゃん」
オレは馬の背に立つと再生した銃を構えた。
「マコト殿!?」
「にゃあ!」
一鳴きしてから連射した。
市庁舎の外に居たのは十六体。
各出入口に張り付いてるのは八体で、他の八体は距離を置いて市庁舎を取り囲む様に配置されている。
半エーテル弾は十六体すべての死霊に着弾すると聖魔法の強い光をその内部に作り出した。
『『『おおお!』』』
青い閃光の後に白い光の粒子が飛び散り、十六体の死霊は天に還った。
「マコト殿、いまのは?」
「にゃあ、市庁舎の外側に居た死霊を天に還したにゃん」
「全部か?」
「にゃあ、外に居たのは全部にゃん」
もちろん魔石の回収も忘れない。
「魔石が大きいね」
「にゃあ」
上位種の魔石は普通より大きい怨霊ベースの死霊よりも更に二回りも大きかった。
これは高く売れそうにゃん。
○フルゲオ大公国 クルスタロス州 州都パッセル 市庁舎
オレたちは馬を消して無人になった市庁舎の正面から堂々と中に入った。
オレの感覚からすると市役所と言うより大聖堂だ。
夜でも照明の魔導具のお陰で薄暗い程度になっている。
「にゃあ、死霊は階段やその先の廊下にいるにゃん」
一度に始末されるのを警戒して大ホールでの襲撃は避けたらしい。数で押せる程でもないので考えてはいるにゃんね。
「マコト殿、次は私にやらせてくれないか?」
「にゃあ」
リンダはオレがやった聖別した剣を自分の格納空間から取り出すとニヤリとした。
階段に足を踏み入れる。
こちらは螺旋階段が多い。
『『『うおおおおおおおっ!』』』
死霊どもは天井に張り付いていた。
「来るがいい!」
リンダは危なげなく死霊どもを始末する。
騎士ではないが同じ軍属を容赦なく叩き切って光の粒子に変える。
死霊は生前と違って損傷した肉体なので噛みつき攻撃しかできない上に場所が数で押せない狭い階段やその先の廊下ではいいところ無しで一方的に狩られるのみだった。
更に挟み撃ちにしようにもリンダの背中を守ってるオレが二丁拳銃で片っ端から天に還した。
「残り一五〇ぐらいか?」
「そんなところだよ」
「にゃあ、一四八にゃん」
リンダが認識出来なかった二体は廊下では無く小部屋に隠れていた個体の分だ。
半エーテル弾は扉も壁も関係ない。
必要なのはエーテルの有無だけだ。
市庁舎全体を結界でくるみ、中も死霊の居場所だけを最小でくくった。
更に死霊の移動範囲を少しずつ削って追い詰めていく。
「マコト殿、将軍を救助するから死霊の動きを封じてくれないか?」
「動けなくすればいいにゃん?」
「そうだ、将軍を先に助けないと後で五月蝿いからな」
「にゃあ」
動きを封じるのはそれほど難しくない。
残数一二〇の死霊を結界でくくってほとんど動けない大きさにして閉じ込めた。このまま天に還せるのだがリンダの指示に従った。
「動きを封じたにゃん」
「見事な手際だ、では行こう」
リンダも隠し部屋の位置を把握してるらしい。魔法剣士なだけはある。
隠し部屋は市長室の壁の向こう側に有った。
場所にひねりはないが、かなり高度な防御結界で守られている。おバカ貴族の国だが魔法は洗練されていた。
天は二物を与えずだ。
「閣下、お迎えに上がりました」
リンダが壁をノックすると隠し扉が開いて大公国軍の制服を着た若い男が出て来た。
「ふん、近衛の三軍か」
若造がいきなりのご挨拶だ。軍人の死霊に追い回されているだけはある。
ちなみに三軍というのは女子のみで構成された騎士団の中の軍団らしい。
「これ少尉、姫騎士様に失礼ではないか」
ハンプティダンプティみたいな中年オヤジが出て来た。
いちばん華美な軍服を着てるからこいつが将軍らしい。
「それでこの子供が聖魔法使いに妖精か、ワシのところで飼うとするか」
おお、いきなりペット宣言か。
清々しいほどのバカだ。
『ぶっ飛ばしてもいい?』
リーリからお怒りの念話をいただいた。
『にゃあ、いまぶっ飛ばすと話がややこしくなるから我慢にゃん』
そっと頭の上のリーリにキャラメルソースをビスケットで挟んでチョコでコーティングしたお菓子を渡す。
『美味しい!』
空気を読んで念話で感動を伝えてくれた。
「お言葉ですが閣下、マコト殿は我が国の冒険者ギルドが招聘したアナトリの貴族です、滅多なことは仰らないで下さい」
リンダがビシっと言ってくれた。
「三軍風情が閣下に意見するとは何事か!」
白髪のビーバーが怒鳴った。
プリンキピウムで捕まえたビーバーの親戚だろうか?
他人にしては似すぎてるぞ。
「そう騒ぐでない、冒険者ギルドなど姫様の道楽だ、それに掃いて捨てるほどいるアナトリの貴族など一人二人いなくなったところで誰も気付くまい」
バカなことを言ってるが、このハンプティダンプティはそれだけのことをやれる実権の持ち主なのだろう。
高いところから落としたら割れそうだけど。
「閣下の裁定が出ましたので、あなた方はそちらの部屋に入ってもらいましょうか」
若造ともう一人、鬼畜眼鏡がオレたちに銃を向けた。
「そこは魔法の使えない空間だ、隷属の首輪を用意するまではそちらで待っていてもらおうか、三軍、おまえもだ」
若造が顎で指示する。
隷属の首輪という魔導具は面白そうだ。ふむふむ、オレには効かないにゃんね。
「いいのか、後悔するぞ」
「姫様には勇敢に戦い華々しく散ったと伝えよう」
そして将軍は愉快そうに笑う。
「調教は私めにお任せ下さい、さあ、入りなさい」
調教担当は鬼畜眼鏡か。
「くっ」
リンダは悔しそうに表情を歪めながらオレの手を引いて隠し部屋に入った。
「では、早速」
鬼畜眼鏡もオレたちに続いた。
ゴン!
「うぉ!」
見えない壁にぶつかって尻もちを突いた鬼畜眼鏡は鼻血を流す。眼鏡にもヒビが入ってる。
いい男だから余計に笑える。
「にゃあ、壁が出来てるにゃんね」
コンコンと見えない壁を叩いた。
「そうだね、壁だね」
リーリは顔をくっつける。結界にチョコもくっついた。なんかスゴい。
「どういうことですか!?」
鼻血を拭いながら鬼畜眼鏡が叫ぶ。
「にゃあ、ちょっと刻印を弄っただけにゃん」
「結界を!?」
鬼畜眼鏡が驚きの声を上げた。
「えーっ、気が付かなかったの?」
リーリも挑発する。
「小賢しい、その程度のことで逃げられるとでも思っているのか!?」
白髪ビーバーが激高する。
「にゃあ、どうして逃げる必要があるにゃん、ここはそこと違って安全にゃんよ」
「確かに」
リンダも頷く。
「にゃあ、死霊どもの結界を解くにゃんね」
リンダに囁く。
「了解した」
リンダも小声で返した。
結界が消え動きを封じられていた死霊たちが行動を再開する。
今度はお目当てのハンプティダンプティの反応もあるから一斉にこちらを目指す。
『『『おおおおおおおおおお!』』』
廊下から低く呻く声が響く。
「まさか、死霊なのか!?」
「貴様ら、全部倒したのでは無かったのか!」
将軍様と白髪ビーバーが目を剥く。
「誰がそんなことを言った?」
「にゃあ、オレも何も言ってないにゃん」
「あたしも言ってないよ!」
リンダとオレそしてリーリが肩をすくめた。
「ここを開けろ!」
顔面蒼白の若造が叫ぶ。
「にゃあ、ここは魔法が使えないらしいので無理にゃん」
「刻印を弄ったではないか!?」
鬼畜眼鏡も焦ってる。
「おまえはバカか、そんなのこの部屋に入る前にやったに決まってるだろう?」
「どうするにゃん、早く逃げないと死霊が来るにゃんよ」
「逃げ場があればだけどな」
「ないんじゃない?」
「おのれ!」
煽り耐性が低い白髪ビーバーがオレたちに銃口を向けて引き金を引いた。
「……っ!」
カチと音を立てたが銃弾は発射されなかった。
代わりに白髪ビーバーはマッパになる。
「服が消えたにゃん」
「粗末なものを見せるな愚か者!」
「ふーん」
「な、ななな」
わなわな震えて言葉が出ない白髪ビーバー。
「何をしてる馬鹿者が!」
将軍が白髪ビーバーを突き飛ばした。
「悪かった、さっきのは冗談だ!」
透明な壁にすがりつく将軍。
「面白くない冗談にゃんね」
「そうだろう、ワシは最初から反対だったんだ! 全部こいつらが勝手に仕組んだこと、ワシは無関係だ!」
「そうにゃん?」
「金貨一〇枚出そう、大金であろう?」
「にゃあ、大公国ではたかが金貨一〇枚のはした金を大金て言うにゃん?」
「貧乏くさいね」
「閣下の中では大金なのだろう」
「にゃあ、威張ってた割に大した事ないにゃん」
『『『おおおおおおおおおお!』』』
死霊の声が大きくなってる。
「とにかく中に入れてくれ!」
「閣下、私もマコト殿も魔法が使えないので無理だ」
「バカを言うな!」
全裸の白髪ビーバーが怒鳴る。
「にゃあ、裸の変態オヤジは黙ってるにゃん」
「おい、貴様ら、こんなことをして許されると思ってるのか!? 父上が黙ってないぞ!」
逆ギレした若造が目を真っ赤にして叫ぶ。
「父上って誰にゃん?」
「知らない」
オレもリーリもマジで知らない。
「貴様、俺の父上も知らないのか!」
「にゃあ、そもそもおまえは誰にゃん? にゃー教えてくれなくていいにゃん、バカ親子の名前なんて覚えるつもりはないにゃん」
「おまえの父親なら早々に国外に逃げてる。息子がアナトリの貴族の誘拐に加担したことは報告しておこう」
「貴様ら、殺す!」
若造はオレたちに向けて銃の引き金を引いた。
「はぅっ!」
「学習能力がないみたいにゃん」
「おおお」
「無能だから仕方あるまい」
若造は全裸になって突っ立ていた。
「貴様らの罪状はアンジェリーヌ様に報告済だ、お前たちは全員、軍から追放される」
逐一、念話で報告してたらしい。
「で、では、首都で申し開きの機会を!」
ハンプティダンプティこと将軍がまた見えない壁にすがりつく。あんまりこすり付けるとマジで割れるぞ。
「首都に行けば逃げる手段があるにゃんね」
「こう見えても閣下は実力者であられる」
「バカではないようだね」
「しかし、アンジェリーヌ様は捨て置けとのご命令だ」
「捨て置けとはどういうことだ!?」
必死な形相の将軍が聞き返す。
「死霊に喰われて死ねと言うことだ」
『『『おおおおおおおおおお!』』』
死霊たちはすぐそこに来ていた。
「扉の鍵を掛けろ!」
将軍が声を上げるが素っ裸たちも割れた眼鏡も動きが鈍い。
扉がゆっくりと開き顔色の悪い軍人たちが入って来た。
「お、おまえたち」
将軍たちの顔色も悪いけどな。
「お久しぶりです閣下、それに腰巾着の皆様」
先頭に立った男がニヤリと笑う。
「貴様、死霊に墜ちたのか!?」
「そう言うことになるのでしょうな」
「にゃあ、あんたが死霊魔導師にゃん?」
男は首を横に振った。
「魔法使いが死霊化すると小官の様に多少の理性を残す様ですね、死霊魔導師ほどの力は有りませんが」
「すると死霊魔導師は別にいるにゃんね?」
「たぶん首都の内部に、首都に集合せよとの命令もありました」
「にゃあ、行かなくていいにゃん?」
「パッセルの結界の影響で、我らは死霊魔導師の命令から解放されました」
「にゃあ、それでこれからどうするにゃん? 送ってもいいにゃんよ」
「我らは罪人どもを地下に連れて行きます、おあつらえ向きの道具も揃っていることですし」
「にゃあ、無関係の人間を襲わないなら、オレは干渉しないにゃん」
「我らが潜った後は地下への入口は封じて頂いて構いません、時期が来れば迷わずに天に還ると約束しましょう」
「にゃあ、約束にゃんよ」
「お心遣い感謝いたします。では最後に一つだけ、死霊魔導師は人間です、くれぐれもご注意を」
「わかったにゃん」
死霊化した軍人たちは将軍たちを廊下に引きずり出す。
「嫌だ!」
「俺が悪かった、だから助けてくれ!」
「ひぃ!」
「助けて!」
いまさら泣き叫んで許しを乞うても手遅れだ。
バタンと扉が閉まり静かになった。
見えない壁を消した。
「終わったのか?」
「そうみたいだね」
「にゃあ、約束通り地下の入口を埋めて基地に戻るにゃん」
「そうしよう」
夜明けとともにオレたちは大公国軍の前線基地に戻った。




