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空中刻印にゃん

 ○フルゲオ大公国 直轄領 プロトポロス近郊 野営地


「「マコト様!」」

 ビッキーとチャスが馬から降りたオレに抱き着いた。

「にゃあ、約束どおりすぐ帰って来たにゃんよ」

「皆すまない、迷惑を掛けた」

「ご心配おかけしました」

 リンダとエリカが頭を下げた。

「マコト、今夜はどうするんだ、ここに留まるか?」

 ラルフが尋ねる。

「そうにゃんね、オレはあの空中刻印がどうなるのか確認しておきたいにゃん」

 プロトポロスの上空に留まっている空中刻印を指差す。

「俺は完全に暗くなる前に駐屯地方面に戻った方がいい気がするぞ」

「チャドの言うことも、もっともにゃんね」

 絶え間ない地響きは城壁の中で陥没が続いてる証拠だ。

「あたしとマコトだけ残って皆んなは戻った方がいいんじゃない?」

「にゃあ、そうにゃんね」

 リーリの意見に賛成だ。

「いや、マコト殿だけ置いて逃げるわけにはいかない」

「せめて我らだけでも」

「にゃあ、リンダとエリカもダメにゃん」

 オレは地響きが続く中、馬車を再生した。

「皆んなは、ここを離れるにゃん」

「マコト様、それでしたら今度こそ私だけでもお側に!」

 レオンが抱き着きそうな勢いでオレに迫る。

「にゃあ、レオンもダメにゃんよ、プロトポロスからすごい勢いで濃いマナがあふれてるにゃん、皆んなには命に関わる濃度にゃん」

「ハッキリとは読み取れませんが、ざわざわした感じがするのはわかります」

 カティはマナの変化を感じ取った。

「これはかなりマズいものが出て来るかもね」

 リーリが予想した。

「にゃあ、オレもそう思うにゃん」

 濃いマナを撒き散らすモノといったら思い当たるのは一つだが、例え正解しても嬉しくない。

「わかりました、ラルフ、御者は任せました、直ぐに出発します」

「は、はい!」

「リンダも乗って!」

「お、おぅ」

「皆さんも急いで下さい!」

 エリカが決断を下し、ラルフとリンダと共に御者台に乗った。

「任せたぞ、マコト!」

「「マコト様!」」

 チャドが敬礼する五歳児たちを両脇に抱えて馬車に乗り込む。

「レオンさんも早く!」

 カティがレオンの背中を押す。

「ですが」

「レオンさんがいてもマコトさんの足手まといになるだけです、さあ早く!」

 レオンもカティの迫力に押されて馬車に乗った。

「「マコト様、ご武運を!」」

「後で合流しましょう!」

 キュカとファナそしてアレシアが続いた。

「にゃあ!」

 馬車が走り出すのを見送った。


「リーリは、皆んなと行かなくていいにゃん?」

「あたしも何が出てくるか興味あるもん、オリエーンス連邦時代のモノなんて懐かしすぎだよ」

 何か悠久の時を生きてる生き物みたいな事を言った。


 オレは、照明弾代わりに光の球を暗くなったプロトポロス上空に幾つも打ち上げた。

 空中刻印がくっきりと照らし出される。

 生で残ってるオリエーンス連邦時代の技術を間もなく目の当たりにするわけだ。

「空中刻印が消えるよ」

「にゃあ、いよいよ来るにゃんね」

 空中刻印が消え空に描かれた魔法陣がゆっくりと土埃の中に降りて行った。

 これで再生の魔法が完成なのか?

 崩落が続くプロトポロスの街は、明るく照らされても、もうもうと立ち上がる砂埃で何も見えない。

 肉眼では。

 オレの猫耳は土煙の中で蠢く音を捉えていた。

 大きくて重い何かがいる。

 突如、腹に響くような爆発音と共に城壁の一部が弾けた。

 軽く数十トンは有る城壁の石材が風を切って飛んでくる。

「にゃ!? こっちに来たにゃん!」

 石材はオレたちの直ぐ横をゴロゴロ転がった。

「出てきたよ!」

 崩れた城壁から姿を現したのは崩壊した監獄を材料にしたと思しきずんぐりとした不格好な石の巨人。二体も出て来た。いや三体、違う四体だ。

 身長二〇メートルのドラ○もんみたいな体型と言えば可愛く聞こえるが、尻尾がゾワゾワする歪な怪物だった。

「魔獣じゃなかったね」

 オレも魔獣の登場を予想していたが違っていた。

「にゃあ、魔力で石を連結してるのはわかるにゃん、でもどうして動いてるのかが不明にゃん」

 ゴーレムに似てるが身体の何処にも刻印がない。

 無論、エーテル機関に類するモノも無かった。

「にゃあ!」

 試しに打った分解の魔法も効かない。

 これでゴーレムじゃなくて生物のくくりになるのか!?

「ぶっ壊すしかないね!」

「にゃあ!」

 四体の石の巨人がこちらに向かって移動を開始する。

 鈍重そうなプロポーションに反して予想以上に速いぞ。

 オレは改造したばかりのドラゴンゴーレムを再生し背中によじ登った。

 ロッジは強度試験も兼ねていまはそのまま放置だ。

「飛ぶにゃん!」

 ドラゴンゴーレムが軽く羽ばたいてふわりと浮き上がった。

 同時にボコっと真下の地面が浅く陥没した。

 その代わりあのプリンキピウムの森で木々をなぎ倒した突風は起きてない。

「にゃあ、ちゃんとレベルが上がってるにゃん」

 突進してくる巨人の頭上を飛び越えてやり過ごす。

 ドラゴンの真下を通った個体は、意識して攻撃したわけじゃないがボコっと身長が四分の一ほど縮んだ。

「にゃあ、意外に脆いにゃ、にゃ!?」

 凹んだ身長は瞬く間に元に戻り、立ち止まったかと思うと後ろ向きに駆け出す。

 いや元から前後の区別がない作りか。

 他の個体も同じく後ろ向きに駆けてくる。

「にゃふぅ、空に逃げて正解だったにゃん」

 悠長に魔法馬で相手をしたら、あっと言う間に踏み潰されていた。

 防御結界が有るから死にはしないが、踏み付けられて地面にめり込むなんて御免被りたい。

「マコト! 来るよ!」

「にゃあ!」

 石の巨人たちはドラゴンゴーレムに向かって己の身体を構成する石材を飛ばした。

 小さくても一辺が一メートルはある立方体だ。

 防御結界が無かったら風圧だけで撃ち落とされるぞ。

 それが連続で飛んでくる。

「にゃあ、おまえら、撃ちすぎにゃん!」

 防御結界で飛んで来る石材をヌルっと軌道を逸らして遥か後方に飛ばす。

 石材はそのままあっさり高度限界を越えて赤いレーザーに撃ち抜かれて木っ端微塵になってる。

 高度限界のレーザーは魔獣が撃ってるというのが通説だが、オレ自身が実際に調べたわけじゃないので真相は不明だ。

 ここみたいに魔獣の森からかなり離れた場所でもタイムラグ無しに撃ち込まれるから、魔獣以外にも何か仕組みがあるのは間違い無さそうだ。

 などと余計なことを考えてる暇はない!

 次々と飛んで来る石材をひらりとかわす。

「これはスリル満点だね!」

「にゃあ! こっちからも行くにゃん!」

「やっちゃえ!」

 ドラゴンゴーレムで風の魔法をアクセラレートし手前の一体を押し潰した。

 石材が粉々に砕け巨人は姿を保てなくなり崩れ去った。

「にゃあ!」

 巨人はいい感じに砕石になった。このまま持って帰ってプリンキピウムの森のぬかるみに撒いてやるにゃん。

「にゃ?」

 ところが砕石に分解が効かなかった。

 そればかりじゃなく、まるでビデオの逆転再生の様に元の形に戻った。

「にゃおお! その再生能力は反則にゃん!」

「おお、これは面白いね!」

 驚愕してるオレの頭の上でリーリは楽しそうだ。

「にゃあ!」

 ダメ元で残りの巨人にも風の魔法を使って砕石に変えてやった。

 しかしその状態もほんの二~三秒で元の石の巨人に戻った。

 魔法式すら見えない。

「どうなってるにゃん?」

「不死身なんだね」

「どうやって魔力を供給してるかもわからないにゃん」

「石ころに刻印があるわけじゃなさそうだね」

「にゃあ、全くないにゃん」

 石の巨人が飛ばす石材は鬱陶しいので発射された瞬間に風の魔法で砕く。

 最初は、圧倒的な質量にびびったが意外と単調な攻撃でかわすのはそれほど難しくなかった。

 頭を抑えられるドラゴンゴーレムを使ったのは正解だ。

 そう思った矢先に石の巨人たちが形を変えた。

 今度は人型じゃないぞ。

「マコト! あっちもドラゴンになったよ! しかもこっちより大きい!」

「にゃお、それは流石に反則にゃん!」

 石の巨人から石のドラゴンに変形した挙句、オレのドラゴンゴーレムよりスムーズに浮き上がった。

 しかもドラゴンたちは、石じゃなくてちゃんと炎を次々と吐き出した。

「にゃあ!」

 防御結界は抜かれていないが、じっくり炙られるわけにはいかない。

 幸い細かい機動はオレのドラゴンゴーレムが上だ。

 襲い来る幾すじもの炎を避けて次々と石のドラゴンたちに電撃を浴びせた。

「にゃあ、こいつらドラゴンになっても直ぐに再生するにゃん!」

「大本の性質は変化しないらしいね」

「空中でもドギツい再生能力に変化がないにゃん」

 ドラゴンゴーレムから衝撃波を浴びせて身体を砕くが、石のドラゴンたちは一瞬で再生してしまう。

「まるで誰かが直ぐ近くで石のドラゴンたちに再生魔法を掛けてるみたいにゃん」

「うん、そんな感じだね」

 オレはドラゴンゴーレムの高度を上げた。

 石のドラゴンたちもオレたちを追う。

 三〇〇メートルの高度限界に達した。

 レーザーが容赦なく照射される。

「にゃあ!」

 防御結界でレーザーを逸らすオレと違って石のドラゴンたちは全ての照射をまともに食らった。

 再生する端からレーザーに撃ち抜かれる。

「やっぱり、外から再生魔法が使われてるっぽいにゃんね」

 いや、再生魔法と言うより遠隔操作で石を集めて動かしてるのではないだろうか?

 魔力だけで石の巨人やドラゴンを動かすなんて普通の魔法使いにはできない芸当だ。

 そもそも魔力の供給をエーテル器官に縛られている人間では無理だろう。

 空中刻印が再生した何かの仕業だ。

 石のドラゴンたちの相手はレーザーに任せてオレたちは高度を落とした。



 ○フルゲオ大公国 直轄領 プロトポロス


 そのままプロトポロス上空に滑空する。

 監獄都市はいますり鉢状の大きな穴になっていた。

「にゃ?」

 強力な認識阻害の結界が張られている。

 たぶん。

「この下に何かいると思うにゃん」

 勘に近い予想だ。

「そうだとすると石のドラゴンたちを動かしてる何かがこの下にいるんだね?」

「にゃあ、空中刻印が再生した何かにゃん」

 まずは陥没した中にある分解できるものを片っ端から分解した。

 積み重なった瓦礫にまだ残っていた地下の遺構の様なものまで消し去った。

「にゃ? 何か出てきたにゃん」

「穴の中に穴?」

「そうにゃんね」

 直径一〇〇メートル深さ一五〇メートルほどの縦坑が、陥没して出来た穴の中心に現れた。

 意識を集中すると予想通り縦坑の底に認識阻害の結界の存在を微かだが感じ取った。

「リーリほどじゃないけど、かなり強力な認識阻害の結界にゃんね」

「そうだね、あたしほどじゃないね、しかも認識阻害に全振りしちゃってるから本体自体はそんなに強くないみたいだよ」

「そうにゃん?」

「試してみれば?」

「にゃあ!」

 縦坑の底に向かって電撃を放った。

 薄暗い縦坑に青白い物体が姿を現す。

 直径三〇メートルの円盤状のものだ。いまの電撃で認識阻害の結界に不具合が生じたらしい。

 風の魔法で円盤状の何かを縦坑から浮き上がらせた。

 バチバチと青い火花が飛び散ってるのはオレの電撃の影響だろう。表面の一部が少し焦げてるし。

 オレの目の前まで浮き上がらせたそれを結界で囲って魔力を封じ込めた。

 それと同時に上空で派手な音が響き四体の石のドラゴンたちがレーザーで完全に破壊され消し飛んだ。

「にゃあ、まるでピザ生地にゃん」

「ピザ!」

 直径三〇メートルで厚さは一メートルもない。

 少し青みがかってるけど焼く前のピザ生地に雰囲気がそっくりだ。

「焼くの?」

「にゃあ、ピザ生地みたいだけどこれは魔獣にゃんね」

「なんだ魔獣か」

「エーテル機関はこれにゃんね?」

 防御力を持たない魔獣からエーテル機関を抜き出すのはそれほど難しい作業ではない。

 ピザ生地魔獣も分解し縦坑を埋め戻した。

 プロトポロスの監獄を元に戻すのはかなりの労力と金の掛かる事業になるだろう。

 なんたって穴だし。


 プロトポロスは沈黙したが、まだ魔力の残滓が残っていた。

「これにゃんね」

 空中刻印が最初に浮かび上がった場所の近くから魔獣のエーテル機関を使った魔導具を見つけ掘り出した。

「封印された魔獣を蘇らせるアーティファクトだったにゃんね」

 エーテル機関に刻まれた刻印を消す。

 これでただの魔獣の魔石だ。

「にゃあ、皆んなの所に戻るにゃん」

「そうだね、帰ろう!」

 プロトポロスの街から街道に飛び元の野営地に戻った。

 ロッジは傷一つなく健在だ。

 オレはドラゴンゴーレムとロッジを仕舞って魔法馬に乗り換えた。


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