表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/357

進路は南西にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇六月十一日


 ロッジに戻ったオレは自分とリーリにウォッシュを掛けてから朝食作りを開始した。

「おなかペコペコだよ!」

 夜通しドーナツを食べてなかった?

 食べ疲れておなかが空いたとか、リーリならありそうだ。

「にゃあ、直ぐにできるにゃん」

 ハムエッグにトースト、それにサラダとコーンスープ、チーズとヨーグルトもあるにゃん。

「マコト、昨日のはスゴかったな」

 チャドが酒臭い。

「にゃあ、死霊がすぐそこにいたのに酔っ払えるチャドもなかなかのもんにゃん」

「そりゃ、極上のワインに最高のツマミが有ったら飲むだろう?」

「それもそうにゃんね」

 他の面々もチャドほどじゃないが飲んでいた様だ。

 どいつも肝が太い。

 ビッキーとチャスは直ぐに寝てしまったが、キュカとファナは給仕していた様だ。

 無駄にエロいのはどうにかしてもらいたい。

 全員にウォッシュを掛けてシャッキリさせた。

 その後は、皆んなでテーブルを囲んで朝食だ。


「にゃあ、今日はこのままドクサ街道を進めばいいにゃん?」

 朝食を食べながら行き先をリンダに確認した。

「特に追加の指示が出ていないのでそれで頼む」

「にゃあ、了解にゃん」

 首都からどんどん離れて行くが依頼先の思し召しなので従うしかない。

「マコト、魔石はいくつ回収したんだ?」

「にゃあ、一〇〇万ちょっとにゃん」

「「「一〇〇万!?」」」

「めちゃくちゃ多くないか? 大公国の人間が全員死霊になってもその数にはならないぞ」

 チャドは、ちゃらんぽらんだが大公国の内情に詳しい。

「にゃあ、今回は大半が怨霊系の死霊だったにゃん、魔石も一回り大きかったにゃん」

「怨霊が死霊に化けたのか?」

「そうにゃん」

「ネコちゃん、その魔石を見せてもらってもいい?」

「いいにゃんよ」

 昨夜の魔石を一個再生してアレシアに渡した。

「本当だ、普通の魔石より大きい」

「ちょっと見せてくれ」

 魔石がラルフの掌に移動した。

「これは随分と綺麗な魔石だな、透明度が高い。これなら大金貨五〇枚にはなるんじゃないか?」

「にゃあ、ラルフの見立てならそうにゃんね」

「儲かっちゃうね」

 リーリが羽根をパタパタさせる。

「にゃあ」

「それだけ儲けたんだから、もうアルボラに戻ってもいいんじゃないか?」

 チャドがもっともなことを言う。冒険者としてはそれも正解の一つだ。

「待ってくれ、それは困る!」

「死霊の活動はまだ終息していません!」

 リンダとエリカが椅子から立ち上がった。

「にゃあ、心配しなくてもまだ帰ったりしないにゃん」

「そうか」

「それを聞いて安心しました」

「にゃあ、でも大公国の貴族に『魔石を寄越せ』とか絡まれたら速攻逃げるにゃん」

「重々承知している、我らもブランディーヌ様からバカどもに不埒な真似をさせないように指示されている」

「アナトリの貴族でブランディーヌ様の客人であるマコト殿に手を出す貴族はいませんから」

「にゃあ、だったら安心にゃんね」


 ロッジを片付け代わりに馬車を出す。


 サービスで駐屯地の門を直してやったおかげで扉がスムーズに開いた。

「にゃあ、またにゃん!」

「「「お気を付けて!」」」

 ルチア少尉を始め、兵士全員が見送ってくれた。

「にゃあ、元気でにゃん!」

「バイバイ!」



 ○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道


 馬車はドクサ街道に戻り更に下る。

 景色は変わらず森だ。

「にゃあ、このまま進むと夕方にはフルゴル州を抜けて直轄領のプロトポロスに到着するにゃん」

 地図を広げて確認する。

 大公直轄領の城塞都市プロトポロスは死霊によって早々に陥落した街の一つだ。

「夕方はマズいな」

 リンダが渋い顔をする。

「ええ、かなりの数の死霊が潜伏している可能性があります」

 エリカも夕方の突入には反対らしい。

「プロトポロスは別名『監獄都市』です、死霊が発生する前から危険な場所とされていました、現在もただの廃墟ではないはずです」

 カティも反対らしい。

「にゃあ、だったらプロトポロスの手前で野営がいいにゃんね」

 街にはオレ一人で入った方が面白そうだ。

「マコト、おまえ一人でその街に行こうとしてるだろう?」

「にゃあ、先にチャドが行ってもいいにゃんよ、オレは別に急いでないにゃん」

「行くわけねえだろう!」

「マコト殿、一人で行くのは危険すぎて許可できないぞ」

 リンダからストップが掛けられた。

「にゃあ、皆んなで行った方が危険にゃんよ」

「それは言えてるか、ただし夜はダメだ、行くなら昼間にしろ」

 ラルフが折衷案を出してくる。

「にゃあ、わかったにゃん、今夜は街の外から聖魔法をぶち込むだけで勘弁してやるにゃん」

「それぐらいなら問題ないだろう」

「にゃあ、街じゃ無くてもぶっ放すにゃん」

 オレは半分だけ掛けた状態にしてある幌によじ登って聖魔法を撃った。

 森の中に青い光の直方体を連続で幾つも作り上げる。一つを昨日ほど大きくしないで数で勝負だ。

「手応え有ったにゃん」

 たくさんの魂が弾けて光の粒子になって天に還る。

「いまのは死霊じゃなかったね」

 オレの頭の上に座ったリーリが寸評する。

「にゃあ、いまのは普通にお墓だったみたいにゃん」

「ただで送ってやるとは大サービスだな」

 チャドが呆れてる。

 どうも聖魔法で死者を送るのは、お弔いとして上位の扱いになるらしい。

 本来、無料はあり得ないのだが中には、ほとんど金を取らない聖魔法使いもいないこともないとか。

 分類的には奇人変人の類で、オレもそっちにカウントされてるみたいだ。

「にゃあ、こっちに来てから使いまくったおかげで聖魔法の威力が上がったにゃん」

 無料でもいいことはある。

 また森の中で魂が弾けて光の粒子になった。

「今度はちゃんと死霊だね」

「にゃあ」

 駐屯地の襲撃にやって来たはいいが、間に合わず朝を迎えてしまい慌てて森に逃げ込んだ間抜けさんたちだ。

 間抜けでも死霊を放置したら駐屯地の子たちが可哀そうなことになるから、丹念に森の中を聖別して一匹残らず天に還す。

 ビッキーとチャスがオレを見上げてる。

「にゃあ、ビッキーとチャスもこっちに来るにゃん?」

「「はい」」

 ふたりを風魔法を使って幌の上に持ち上げた。

「「わあ!」」

 トランポリンみたいに跳ねるのが面白いらしくキャッキャと楽しそうだ。

 子供の笑顔は癒される。

 痩せっぽちで汚れていた以前のふたりの面影は消えつつある。

 いまいるのは痩せてはいるけど健康的で可愛い子供だ。

 前の主人のシフエンテス家はふたりを奴隷としては大切に扱っていたのだろうが、オレの感覚からしたら虐待だ。

 ビッキーとチャスみたいな子供の奴隷が少なからずいるという現実に暗たんとした気持ちになる。

 オレも魔力無しでこの世界に落ちて来たら似たような境遇になっていたかも。

 それ以前にレーザーで黒焦げか地面に激突して死んでるか。

「にゃあ、ふたりとも他の馬車では幌に登っちゃダメにゃんよ」

「「はい」」

「その代わりオレの馬車なら幌の上で好きにしていいにゃん」

「「はい」」

 風の魔法で囲ってるから馬車の外に転げ落ちることはないので好きなだけ暴れさせる。

 オレは聖魔法に専念だ。

 聖魔法連発で聖なる森が出来そうだ。

 街道の結界があるから人間は元々入れないけどな。

「「マコト様!」」

 振り返るとビッキーとチャスが交互に二メートルぐらい飛び上がっていた。

「にゃあ、スゴいにゃん!」

 オレも一緒になって飛び跳ねる。

「にゃははは! 楽しいにゃん!」

 飛び跳ねつつも聖魔法は使い続けた。


 五歳児たちの電池が切れたところでおやつとジュースを出してやる。

「「「美味しい!」」」

 リーリも一緒になってシュークリームを食べてる。

 オレもシュークリームを齧りながら聖魔法を撃ち続けた。

 魔法は使えば使うほど強力になるみたいだ。

「うわぁ、森の精霊みたいなヤツまで天に還っちゃってるよ」

 リーリが呆れ顔だ。

 あの枝葉を集めて作ったゆるキャラみたいなヤツらだ。あれも増えないだけで死霊と性質は変わらないから還しておくに限る。

「にゃあ、精霊の魔石は大きいにゃんね」

 回収した精霊の魔石は魔獣と遜色ない大きさだった。

 色がエメラルドグリーンで魔獣のエーテル機関と違って魔力を作り出す働きはいまひとつだ。

 ざっと解析したところ、魔法式の演算能力には優れた性能を持っていた。

 エーテル機関と組み合わせると面白いことができるかもしれない。

 例えば、ドラゴンのゴーレムだ。

 早速、オレの格納空間でドラゴンのゴーレムに精霊の魔石を突っ込んでみる。

 なるほど飛翔の魔法のレベルが上った。

 真下に人間が居なければ問題なく空を飛べそうだ。

 人間がいたら風圧で押し潰されるだろうけど。

「どうだマコト、順調か?」

 チャドが幌の上によじ登って来た。

「にゃあ、こっちは順調にゃん」

 森の精霊まで天に還してしまったことは内緒にして聖魔法を撃ち続ける。

 暗がりに潜んでいようが地面に潜っていようが問答無用で死霊どもを天に還す。

「昨日の残りがいっぱいいるにゃん」

「俺には気配すら掴めないが、いるんだな」

「にゃあ、オレも休眠中の死霊の気配はわからないにゃん、完全に停止した状態だとまずわからないにゃんね」

「そいつは厄介だが、それでも退治してるんだからマコトは偉い」

「にゃあ、オレじゃ無くて聖魔法が偉いにゃん」

「大公国も死霊とバカ貴族さえ居なければいいところなんだけどな」

「にゃあ、森に入れないから冒険者にはいまいちにゃんね」

 街道沿いは結界はかなり強力なので、路外への逸脱は命に関わる。

「それは言えるか」

 本来、普通の人には住みやすい場所なのだが死霊とバカ貴族が台無しにしていた。

「死霊は今夜も来ると思うか?」

「にゃあ、間違いなく来るにゃんね、休眠中の死霊が大量にいるのが何よりの証拠にゃん」

「問題は首都か」

「にゃあ、そっちは大公国の宮廷魔導師に任せるしかないにゃんね」

 時代遅れの大公国を存続させる必要があるのか微妙なところだが、そこはオレが関わるべき問題じゃない。

「また魔石が増えちゃうね」

 リーリがまたシュークリームにかぶりつく。

 おやつを食べたビッキーとチャスは居眠り中だ。

「にゃあ、流石にこの量になると本当に全部買ってくれるかどうか危ういにゃん」

 いくら国が買い上げるといっても限度がある。

「一度に全部売らなくてもいいんじゃないか?」

 チャドもシュークリームを摘む。

 酒飲みなのに甘味もイケる口らしい。

「にゃあ、それもそうにゃんね」

 売れようが売れまいが死霊を野放しにはできないから、遠慮も自重も無しで狩りまくることに変わりはない。



 ○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道 野営地


 昼は野営地を見つけたので馬車を停めてロッジを出した。

「にゃあ、ゆっくり風呂に入ってからお昼にするにゃん」

 小まめにウォッシュを掛けてるが身体が脂っぽい気がするので昼休みを兼ねて風呂に入らせてもらう。

 キュカとファナそれにビッキーとチャスも一緒に入る。

 風呂の習慣が無かった四人だが、ロッジの大浴場を使って気に入ったらしい。

「こんなに贅沢な湯浴みができるなんて最高です」

「わかってくれるとうれしいにゃん」

「マコト様、洗って差し上げます」

「にゃあ、オレのことはいいからビッキーとチャスを洗ってやって欲しいにゃん」

「「かしこまりました」」

 オレの代わりにビッキーとチャスを差し出した。

「ふたりともいらっしゃい」

「「はい」」

 普通の五歳児なら風呂で走り回って滑って転倒とか有りがちだが、ビッキーとチャスはとてもお行儀が良かった。

 オレが許可すれば走り回るのだろうが流石に風呂で暴れるのはダメか。

「にゃあ、ビッキーとチャスはキュカとファナを洗ってやるにゃんよ」

「「はい」」

 オレとリーリはのんびりと湯に浸かった。


 気持ちよく茹で上がったところでお昼ごはんにする。

 ラルフにアレシアそれにリンダとエリカは打ち合わせをしていた。

 カティとチャドは見張りをしてくれてる。

「にゃあ、お昼はコロッケとメンチカツと鶏の唐揚げにゃん」

 皆んな首を傾げる。

「にゃあ、皆んなの知らない料理だったにゃんね、食べればわかるにゃん」

 揚げたてのコロッケとメンチカツの皿を並べる。

 山盛りの鶏の唐揚げは恐鳥だけどな。

「コロッケとメンチカツはお好みでソースを掛けるにゃん、どれも熱いから気を付けて食べるにゃんよ」

「見たことも聞いたこともない料理だが、美味そうだな」

「おいしそうです」

「美味しいよ」

 既にリーリは味見を済ませている。

「こいつはビールに合いそうだ」

 チャドが鶏のから揚げを齧って呟く。

「にゃあ、メチャクチャ合うにゃんよ」

 ドン!とオレ特製のプレミアムビールのジョッキをチャドの前に置いた。

「いいのか?」

「にゃあ、昼休みが終わったらアルコールを抜くから構わないにゃん」

 ラルフもそわそわしてる。

 情報収集の為に仕方なく飲んでる風を装ってるが本当はただの酒好きだ。

「ラルフも飲むにゃん?」

「兄さんはダメよ」

 オレが許してもアレシアが許さなかった。

「……遠慮しておく」

 悲しそうな顔でビールを諦めた。

 わかるにゃんよ、その気持ち。

 代わりに炭酸の効いたレモン水を出してやる。

 リンダとエリカはビールを所望したので出してやった。


「にゃあ、カティに頼みがあるにゃん」

「何ですか?」

「ビッキーとチャスに魔法の手ほどきをして欲しいにゃん」

 ふたりに魔法の才能があることはオレには一目でわかった。

 エーテル器官に有ったヤバメの影は綺麗に消し去ったので、ふたりとも宮廷魔導師を狙えるぐらいの魔法使いになれるはずだ。

 もちろん、陰謀渦巻く宮廷魔導師なんかにはしないけどな。

「構いませんが、マコトさんが教えなくていいんですか?」

「にゃあ、オレも教えるけど基本が大事だと思うにゃん、残念ながらオレは基本をちゃんと習ったことがないにゃん」

 オレの魔法は、普通の人間の使うエーテル器官で作り出す魔力のみを使う魔法とは、どうやら根本が違うらしいので教えても意味がない。

「わかりました、基本は私が教えますね」

「にゃあ、これは授業料にゃん」

 大粒の魔石を二つ渡した。

「えっ、マコトさんちょっと待って下さい!?」

「足りなかったにゃん?」

「違います、授業料なんて必要ありません」

「にゃあ、これは仕事の依頼にゃん、だから対価は受け取るにゃん」

「ですが、魔石は高すぎます」

「にゃあ、魔石だったら処分に困るほど持ってるから心配要らないにゃん、それともオレからなけなしの大銀貨を取り上げるつもりにゃん?」

「えっ?」

「にゃあ、冒険者ギルドからの支払いは金貨ばかりで使いづらいにゃん」

「ですが」

「マコトがいいって言ってるんだからもらっとけよ、魔石をどっさり集めたんだから二つぐらい無くなっても誤差のウチだろう」

 チャドが口添えしてくれる。

「にゃあ」

「俺にも一つくれ」

「嫌にゃん」

 渋々だがカティが魔石を受け取ってくれビッキーとチャスに魔法を教えてくれることになった。


 昼食の後は、残りの皆んなにも風呂に入ってもらってから出発した。



 ○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道


 オレは午前中だけで二万ほどの魔石を集めていた。十分に異常な数なのだが昨日のことがあるとさっぱり多く感じられない。

「にゃ、ラルフ、この先の集落に生存者が一名いるにゃん」

「本当か?」

「にゃあ、次の枝道を入るにゃん」

「了解」

 馬車を枝道に乗り入れる。

 一キロほど進んだ先に二〇戸ほどの集落があった。



 ○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道脇 農村


 大きな屋敷が一軒ある他は掘っ立て小屋同然の家々だ。

 本百姓と小作人?

 その中央の広場に鎖で繋がれた男が倒れていた。

 オレは馬車の幌から飛び降りて男に近付く。

 かなり衰弱してるが意識は有った。

「……助けて下さい」

 か細い声で呟く。

「にゃあ、わかったにゃん」

 ウォッシュと治癒魔法を重ねがけして鎖に繋がってる金属の首輪を外した。

「ありがとうございます」

 男が土下座した。

 年の頃三〇前後ってところか?

 どう見ても奴隷だ。

「何でこんな所に繋がれてるにゃん」

「俺は生贄なんです」

「生贄にゃん? この辺りには死霊に生贄を捧げる風習があるにゃん?」

「いや、知らん」

 ラルフが答えた。

「私も聞いたことが有りません」

 リンダとエリカも首を横に振った。

「あんたを生贄に差し出した村のヤツらは何処に行った?」

 チャドが聞いた。

「旦那様を始め、全員が死霊に喰われました」

「何で生贄のおまえだけ生き残った?」

 リンダは剣の柄に手を掛けてる。

「わ、わかりません」

 殺気を感じた男は慌てて首を横に振った。

「にゃあ、慌てちゃダメにゃん、この人には聖魔法の素養があるにゃん、だから死霊に襲われなかったにゃん」

「本当なのか?」

「にゃあ、じっくり見ればわかるはずにゃん」

 リンダとエリカが男を凝視する。

「ああ、なるほど確かに微弱だが聖魔法の光が見える」

「確かにこれでは死霊が近付けませんね」

「にゃあ、その恰好ではアレだから服はオレが用意してやるにゃん」

 ボロボロの腰巻きだけなのでオレの手持ちから冒険者風の衣装とブーツを出してやる。

「ありがとうございます、ご主人様」

「にゃ、ご主人様にゃん?」

 その場の皆んなが頷いた。

「本来の主人が死亡した場合、奴隷を保護した人間に所有権が移る。我が国の法だ」

「私とリンダが立会人となりますから問題ありません」

「五人目の奴隷か、マコトは欲張りだな」

 チャドに頭を撫でられる。

「にゃあ、欲張りじゃないにゃんよ」

 簡易の更衣室を作ってキュカとファナに手伝わせて着替えさせた。

 改めて古傷を治しエーテル器官を修正して髭を落とし髪を整える。

 いつぞや捕まえた傭兵たちの肉体を参考に身体を調整し、その時コピーした戦闘技術をそっと貼り付けた。

「なかなかいい男になったにゃん」

 艶やかな金色の髪に金の瞳、がっしりとした長身に甘めのマスク。

 今度は二五~六歳に見える。

「オレはマコト・アマノにゃん、名前を教えて欲しいにゃん」

「俺はレオン・ベルリンゲルと申します」

「奴隷なのに家名があるにゃんね」

「俺の唯一の財産です」

「ベルリンゲル、何処かで聞いた家名ですね」

 エリカは聞き覚えがあるらしい。

「確か二〇年近く前に起こった、大逆事件の首謀者として処刑されたフルゴル州の領主だった侯爵の家名ではないか?」

 リンダは詳しく知っていた。

「ご存知ですか?」

「いまとなっては真相は闇の中だが、おそらく陰謀による冤罪だと言われてる」

「レオンは関係者にゃんね」

「処刑されたベルリンゲル家の当主が俺の伯父に当たります」

「連座で奴隷落ちか」

「にゃあ、冤罪なら直ぐに名誉を回復できると違うにゃん?」

「残念ながら大公陛下の裁定は覆ることはない」

「にゃお、面倒臭い国にゃんね」

「済まない」

 リンダが謝ってくれる。

 オレも当事者じゃないので怒る筋合いじゃないが、納得はいかない。

「にゃあ、これも何かの縁にゃん、レオンもアルボラに連れ帰って、冒険者兼聖魔法使いで独り立ちしてもらうにゃん」

「いえ、マコト様に一生お仕えいたします」

 レオンは片膝を着き頭を垂れた。

 その後ろで、いつの間にか幌から降りて来た五歳児たちが神妙な顔で同じ格好をしている。

 何でも真似したくなるお年頃か?

「にゃあ、細かいことは後で決めるにゃん、とりあえず魔法のイロハはカティが教えるにゃん」

「私ですか?」

「にゃあ、聖魔法はオレが教えるにゃん、これが代金にゃん」

 魔石を一個カティに投げた。

「ですから、代金は不要です!」

「にゃあ、依頼に報酬は付き物にゃん、とにかく頼んだにゃん」

「うぅ、わかりましたひとまずお受けいたします」

「にゃあ、助かるにゃん」



 ○フルゲオ大公国 フルゴル州 ドクサ街道


 ひとり増えたところで、プロトポロスに向けて馬車を出す。

 オレの探査魔法に依ると日没前に城壁の見える位置まで進めるはずだ。

 また幌の上に陣取って聖魔法をぶっ放すお仕事に戻る。

 おやつにいちご大福をキュカとファナに配ってもらう。

 ふたりに魔法を使いたいか聞いたら、『生活魔法が出来たらいいな』と言うので皆んなには内緒で使える様にしてやった。

 これぐらいは素養がなくてもエーテル器官をちょこっと弄ればどうってことないのだ。


 魔法の授業の合間にビッキーとチャスが幌の上に飛び跳ねに来たぐらいで、特に何事もなく予定していた野営地に到着した。

 午後の行程での上がりは魔石三万個だった。



 ○フルゲオ大公国 直轄領 プロトポロス近郊 野営地


 いつの間にかフルゴル州を抜けて、ドクサ街道の実質的な終点である大公直轄領に入った。

 そして直ぐに異様な都市が目の前に現れた。

 プロトポロスに最も近い野営地に馬車を入れる。首都近郊にあった様な門限に間に合わなかった者たちの為に用意された場所だ。

 肉眼で捉えた城壁はこれまで見た中でいちばん高くそして堅牢に見える。ほとんど城壁しか見えない街は監獄都市の名に相応しい。

「プロトポロスに生存者無しにゃん」

 オレの探査魔法に生存者の反応は一つもなかった。

「壊滅は本当だったわけか」

 リンダは城壁を見詰めた。

「魑魅魍魎が棲まうと言われた監獄都市までが落ちたのですね」

 エリカも厳しい表情で城壁を見る。

「魑魅魍魎も人間だったってことにゃんね」

「そうらしい」

 リンダは苦笑いを浮かべた。


「おお!」

 馬車を格納してロッジを出すとレオンが目を丸くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ