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大公国軍の駐屯地にゃん

 ○大公国軍 フルゴル州 西方面駐屯地


 大公国軍の駐屯地は臨時の前線基地と違ってちゃんとした城壁と石造りの建物で構成されていた。

 見た感じは、駐屯地より砦と言った方がぴったりだ。

 ただし古くてボロくてちょっと貧乏くさい。

 黒く煤けた城壁は、最近油か何かを燃やした跡だ。

「ギリギリ生き残った感じだね」

「にゃあ、結界は辛うじて残ってるにゃん、でも城壁を燃やしたのはマズかったにゃんね」

「うん、結界が壊れかかってるもんね」

「マコト殿と妖精殿は刻印の魔法式が読み取れるのか?」

 リンダがオレを見る。

「にゃあ」

「マコトだったらそのぐらいはできるよ」

 リーリがオレの頭の上で胸を張った。


 この状況では当然だが門が閉ざされてる。鉄の帯を貼り付けた古い木製の大きな扉だが、蝶番に問題があるらしく左右どちらの扉も傾いでた。

 おかげで隙間も大きくオレだったら余裕で通り抜けられそうだ。

「騎士リンダ・ガレータだ、開門せよ!」

 リンダが声を掛けると門の向こうでどたばたしてる。

 ギシギシと酷い音を立てて門が中途半端に開き若い士官が出て来た。

 高校生ぐらいの女の子だ。

 こちらでは成人扱いか。

「ルチア・モーラ少尉であります」

 おお、少尉さんだ。

「ご苦労、駐屯地の状況はどうか?」

「連夜、死霊との攻防が続いております、死者八〇名、重傷者三〇名、活動可能な兵士は九〇名であります」

「騎士エリカ・モリストです。ルチア、あなたがここの司令なの?」

「臨時に小官が指揮を執っております」

「本来の司令は不在なのか?」

「先日、パッセルに向けて下士官と共に出発されました」

 オレたちの脳裏に同じ情景が映ったはずだ。

 壊れた馬車と朽ちた魔法馬。

「残念ながらいずれもパッセルには到着していない」

「日が暮れる前に到着される予定でしたが、行き先を変更されたのでしょうか?」

「パッセル以外に昼間の内に到着できる街があるならその可能性も考えられるが」

「その距離に街はありません」

「森を通ったのなら全滅にゃんね」

「あのそちらは?」

「アナトリの冒険者にして王国騎士のマコト殿だ。聖魔法の強力な使い手でもある」

「聖魔法でありますか?」

「にゃあ」

「マコト殿の言葉通りだ、昼間でもパッセルに向かうのにドクサ街道を通ったのなら死霊に襲われた可能性が高い」

「全滅ですか?」

「森の中で壊れた馬車と魔法馬を見た。この駐屯地のものかは、検分している時間もなかったので確証はない」

「ドクサ街道沿いなら間違いないかと思われます」

 ルチアが肯定する。

「駐屯地の全員で移動しなかったのは不幸中の幸いでしたね」

「一緒に行動したくても馬車も魔法馬も足りませんから、貴族階級の方々が優先して脱出されました」

「そうか」

 リンダとエリカは複雑そうな表情を浮かべる。

 ルチア少尉の表情からすると貴族階級だけがより安全な城塞都市への離脱を許されたのだろう。

 まあ、全滅したけど。

「にゃあ、今夜はここで野営にゃんね」

「だろうな、ルチア、我々の逗留を許可してもらいたい」

「かしこまりました、既に食料も底を突いてる有り様ですからろくなおもてなしは出来ませんがご了承ください」

「備蓄もないのか?」

「はい、ここには最初から備蓄などされていませんでしたから」

「本当か?」

「物資の横流しは珍しいことではありません」

 言葉に毒を感じた。

「にゃあ、食料がないなら融通するにゃんよ、それと怪我人の治療もやるにゃん」

「ありがたいお申し出ですが、小官の一存では」

「マコトさんは、法外な報酬を要求しないから大丈夫です」

 オレの横に立ったのはカティだった。

「カティさん!」

「お久し振りですルチア、立派になりましたね」

「いえ、自分はまだまだです」

 痛そうな表情を浮かべた。

「にゃあ、カティはルチア少尉と知り合いにゃん?」

「同郷の後輩です」

「自分の魔法の師匠であられます」

「にゃあ、カティの知り合いなら金は取れないにゃんね、ただでいいにゃんよ」

「本当ですか!?」

「待て少尉、大公国軍が他国の貴族に施しを受けるわけにはいかない、費用については我らに任せてもらいたい」

「かしこまりました」

「にゃあ、軍隊はいろいろ面倒にゃんね、交渉事はアレシアに任せるからリンダとエリカと三人で決めて欲しいにゃん」

「わかったわ、双方に問題がないようにまとめておくわね」

 アレシアが請け負ってくれた。

「にゃあ、頼んだにゃん、まずは治療をするから案内して欲しいにゃん、他の皆んなは馬車で待ってて欲しいにゃん」

「「「お手伝いします!」」」

 キュカとファナそれにビッキーとチャスが馬車から降りて来た。

「にゃあ、だったら兵隊さんにハンバーガーとジュースを配って欲しいにゃん」

 馬車の側面のトランクを開けるとハンバーガーとジュースの自動製造機が現れた。

 いま作ったにゃん。

 それにカウンターを出す。

 あっという間にハンバーガーの屋台が出来上がった。

「にゃあ、後は頼んだにゃん」

「「「お任せ下さい!」」」

 屋台に最初に並んだのはチャドとリーリだった。


「こちらです」

 案内された先は駐屯地の倉庫の様な場所だった。

 うめき声が聞こえる。

 それに糞尿と血の混じった臭いが建物に入る前からかなり強く漂っていた。

 こんな臭いの中にいたら健康な人間でもおかしくなりそうだ。

「にゃあ、先にウォッシュにゃん」

 扉を開く前に建物全体にウォッシュをかました。

「にゃあ、こんなところにゃんね」

 扉を開いたがもう不快な臭いは消え去ってる。

「にゃあ、ここは常時ウォッシュでいいにゃんね、それに治癒の効果もサービスしておくにゃん」

「あ、ありがとうございます」

 ルチア少尉は綺麗になった建物に目を丸くしていた。


 床に転がされただけの重傷者は大半が火傷のようだ。

 城壁で油を燃やした時に巻き込まれたのだろうか、皆んな酷い有様だった。

「これは」

 カティは目を背けそうになるのを我慢してる。

「治療してないにゃん?」

「治癒師がいませんので、弱い治癒魔法が使える兵士が交代で当たってましたがとても追いつける状況ではなく」

「治療らしい治療も行っていないにゃんね」

「はい、水を掛けるぐらいしか出来ず何人も死なせてしまいました」

 ルチア少尉は悔しそうに表情を歪めた。

 いくら魔法頼みで医学が発展してないからと言ってもこれは酷すぎだ。

「まずは治療するにゃん」

「では、誰から」

「にゃあ、一度にやるにゃん」

「一度にですか?」

「にゃあ、三〇人も重傷者がいるのに一人ずつなんて悠長にやってられないにゃん、行くにゃんよ」


 重傷者のいる空間を治癒の光で満たした。

 聖魔法の青に近いがやや緑がかっている光だ。

 エーテル器官に魔力を注ぎ込み焼けただれた身体を修復する。


「えっ?」

「身体が動く」

「ちゃんと目が見える」

 床に寝かされていた兵士たちが起き上がりお互いの身体を確認し合う。


 三〇人の重傷者は全員が完治した。

 そのほとんどが一〇代半ばの少女たちだ。

「にゃあ、もしかして駐屯地にいるのは全員女の子にゃん?」

「そうです」

 さっきまでと違って女の子の華やかな匂いがする。

「マコト様は治癒師ではないんですか?」

 ルチア少尉は素の喋り方になっていた。

「にゃあ、違うにゃん、本業は冒険者にゃん」

「こんなにスゴい治癒魔法が使えるのに冒険者が本業なのですか?」

「間違いなくマコトさんは冒険者です、同時に凄腕の魔法使いでもあるのです」

 リーリではなくカティが誇らしげに解説した。

「こんなにちっちゃいのに?」

「ちっちゃいのにです」

「にゃあ、皆んな女の子なら軽傷者も治した方がいいにゃんね、駐屯地の全員を集めて欲しいにゃん」

「わかりました」

 ルチア少尉が飛び出して行った。


 全員の治療を終えた頃には駐屯地に夕暮れが訪れようとしていた。


「にゃあ、野営の準備をするにゃん」

「直ぐに将官用のお部屋を用意しますのでお待ち下さい」

「にゃあ、オレたちは自前のロッジを持ち歩いてるからそっちを使うにゃん、どうしてもと言うならリンダとエリカに提供してやって欲しいにゃん」

「いや、我々はマコト殿と行動を共にするから気遣いは無用だ」

 リンダが直ぐに断りを入れた。

 ふたりはオレに張り付くように命じられてるのだろう。

「にゃあ、ルチア少尉、今夜はオレが死霊を始末するから不寝番は不要にゃん、それと城壁の刻印を新しくしたにゃん」

「刻印をですか?」

「にゃあ、焼かれたせいで機能停止寸前だったにゃん」

「本当ですか? 死霊に効果があると言うことで司令の命令で油を燃やしていたのですが、刻印にダメージを与えていたとは」

 ドンヨリ顔のルチア少尉。

「上の命令では仕方ないにゃん」

「本当に不寝番も不要なのですか?」

「にゃあ、死霊は全部オレが相手をするから問題ないにゃん」

「しかし、大公国軍の兵士たるもの、敵を前に隠れているというのは」

「例え屈強な兵士でも死霊の前では無力にゃん」

「それはわかってるのですが」

「マコト殿、見張りを置くぐらいは許可してはどうだ?」

「にゃあ、大公国軍の矜持もわかるにゃん、でも、そろそろ死霊魔導師にオレの存在が伝わった頃合いにゃん、今夜あたり何か動きがあるかもしれないにゃん」

「死霊魔導師ですか?」

「にゃあ、何処かに隠れて死霊たちを動かしてるはずにゃん」

「死霊魔導師にマコト殿の存在が知れたら、戦わずに避けるルートを取ると思うのですが」

「その可能性もあるにゃんね」

「マコト殿は違うとのお考えか?」

「にゃあ、オレならここに足止めして潰すにゃん」

「ここで潰すか」

「昨夜の様子からすると死霊を大量に当ててマコト殿の魔力切れを待つとかは、有りそうですね」

「にゃあ、死霊魔導師は死霊の数に絶対の自信を持ってるはずにゃん、昨夜がたぶん初めての負けと違うにゃん?」

「はい、これまで大公国軍は死霊に対して戦果らしい戦果は上げていません」

「だから、死霊魔導師は、たぶん昨夜は投入する死霊の数が少なかったと考えてるはずにゃん」

「もし違っていたら?」

「その時は、敵が一枚上手だったと諦めるしかないにゃん」

「そうですね、違っていたら大公国軍がどうにかするしかありませんね」

 たぶんそれはないだろう。

 死霊魔導師もオレを潰しておかないと安心できないはずだ。

「にゃあ、死霊どもが昨日とは比べ物にならない数で来たら、流石に防御にまでは手が回らないにゃん、だからルチア少尉たちはあらかじめ刻印で守られた建物の中にいて欲しいにゃん」

「マコト殿に従ったほうがいいだろう、我々は足手まといでしかないわけだから」

「了解いたしました、兵にはそう伝えます」


 迫り来る夕闇に怯えていた少女兵たちは一様にホッとした表情を浮かべた。


 駐屯地の中庭にロッジを出す。

 赤く染まった夕焼けの空は綺麗だが空気がピリピリしている。

「にゃあ、皆んなも外に出ちゃダメにゃんよ」

「「「はい」」」

 キュカとファナとビッキーとチャスはいい返事をした。

「にゃあ、夕食は用意してあるから適当に食べるにゃん、後のことはアレシアとカティに任せるにゃん」

「任せて」

「何も出来ませんが」

「にゃあ、ロッジにいてくれるだけでいいにゃん」

「本当なら我らもマコト殿と行動を伴にしたいのだが」

「私たちも足手まといなのはわかってますからおとなしくしてます」

「にゃあ、リンダとエリカも頼んだにゃん」


 オレはリーリを連れて駐屯地のいちばん高い場所、四つある見張り台のうち一つの屋根の上にピクニックシートを敷いて陣取った。

「まだ日が完全に落ちてないのに死霊たちが動いてるね」

 リーリが南西の方角を見た。

「それにこっちからも来るっぽいよ」

 続けて南の方向を指差す。

「にゃあ、予想通り今夜のうちにオレを潰す作戦みたいにゃん」

「数で押してくるのか、それとも何か作戦があるのか、どっちだろうね?」

「にゃあ、数で押すだけでも十分に脅威にゃん」

「マコトが魔力切れを起こさないのを知らないから、まずはそれかな」

「にゃあ、この辺りは小さな集落ばかりだから死霊も大した数じゃないと思ったんだけど、死にたてホヤホヤじゃなくても死霊になるにゃんね」

「それ、あたしも気付いた、天に還らなかった魂だったら鮮度は関係無く死霊化できるみたいだね」

「にゃあ、怨霊が多そうな土地柄だから死霊化できる魂の数は十分過ぎるほどあるにゃん、正直、反則だと思うにゃん」

「余計な肉体がない分、生きてる人間を襲って死霊化するよりも手間が掛からないっぽいね」

 リーリと話してる間にヤツらは一気に距離を詰めて来た。

「にゃお、最初から大群にゃん!」

「西と北側にも反応があるね」

「にゃお、まだ日が完全に落ちていないのにヤツらはやる気まんまんにゃん」


『『『おおおおおおおおお!』』』


 まだ数キロは離れているが四方から死霊のうめき声が木霊する。

『にゃあ、全員屋内に退避にゃん!』

 オレは声を風に載せて駐屯地内に響かせた。

 まだ外にいた少女兵たちが慌てて駐屯地の兵舎に飛び込んだ。

『にゃあ! ラルフとチャドもロッジに入るにゃん! 間もなくここは死霊であふれかえるにゃんよ!』

 余裕をかましてるふたりの尻を風で突き刺した。


「「××××××!」」


 何か叫んでるけど知らないにゃん。

 駐屯地の結界は新しい刻印で作り直したが、数が数なので城壁を越えて敷地内に入り込まれる可能性がある。

 その代わり駐屯地の建物とロッジは強固な聖魔法の結界が張ってある。

 死霊がどれだけ居ようと建物にもロッジにも指一本触れることはできないはずだ。


 半径五キロ圏内に約三万の死霊が入り込んだ。

「にゃあ、リーリはロッジに戻らなくていいにゃん?」

「あたしはここでドーナツを食べてるよ」

 つまりドーナツを出せとの要求だ。

「にゃあ」

 ドーナツ一〇個入りの箱を出す。

 半径五キロ圏内の死霊は約五万に膨れ上がった。

 途切れることなく死霊どもは駐屯地目指して進軍を続けてる。

 間もなく太陽が完全に沈む。

「来るにゃん」

 暗かった森の中がまるで燃えてる様に赤い光が漏れ出す。

「にゃあ、一気に行くにゃん!」

 既にマーキングを終えている死霊を聖魔法の光で包み込んだ。

 赤い光が消え青い光が森から漏れた。

 その直後に白い光の粒子が幾つも弾けて森からあふれ天に昇る。

「にゃあ、五万個の魔石を回収にゃん」

「死霊は途切れずに来るね」

「にゃあ、本当にオレの魔力切れを狙ってるみたいにゃん」

 すべてを送った半径五キロ圏内のエリアは、直ぐにまた死霊まみれになる。

「リーリは、死霊魔導師が何処にいるかわかるにゃん?」

「ううん、ぜんぜんわからないよ」

「にゃあ、オレの探索圏内にもそれらしき反応はないにゃん」

「集落の中にいるのかな?」

「にゃあ、残存集落にある反応は全部人間にゃん、人間の特異種どころか普通の魔法使いすらいないにゃん」

「だったら、もっと離れたところにいるのかな?」

「にゃあ、そもそも死霊をどうやって操ってるのかが謎にゃん」

「うーん、マコトの探査魔法に引っ掛からない距離を保って指示を出してるなら念話あたりかな?」

「にゃあ、死霊は念話が使えるにゃん?」

「魔石の性能からすると十分可能だと思うよ」

「念話なら距離はほとんど関係なくなるから厄介にゃんね、傍受も現実的じゃないにゃん」

「死霊を一匹捕まえて解剖すればわかるんじゃない?」

「にゃあ、傍受出来てもこちらから小細工するのは難しそうにゃん、それに気持ち悪いから触りたくないにゃん」

 完全な双方向の念話ではないだろうし。


『『『おおおおおおおおお!』』』


 半径五キロ圏内のオレの支配する領域が瞬く間に死霊で埋まった。

「もう肉眼で見えるところまで来てるにゃん」

 赤い光の帯が駐屯地を囲んでいた。

「今度は多いにゃんね、軽く一〇万を越えてるにゃん」

「まだまだ増えてる」

「にゃあ、いったい幾ら用意したのか予想が付かないにゃん」

「たぶん、朝までこの調子でびっしりだと思うよ」

「にゃお、オレも小細工なしの力押しは嫌いじゃないにゃん」

 聖魔法を発動し片っ端から死霊を送った。

 それでも死霊は怯むこと無く押し寄せる。

「にゃあ、城壁に張り付いたにゃん」

「結界はちゃんと効いてるけど防ぎきれてないね」

 死霊の数が増す。

 二〇万を越えた辺りからカウントが追い付かない。

「にゃあ、駐屯地内に入られたにゃん」


『『『があああああああああ!』』』


 なだれ込んだ死霊たちが折り重なって各建物の結界に張り付いた。

 防御結界の表面に死霊が隙間なく埋まる。

 ホラー映画でもこの数はちょっと見ないだろう。

「小細工はないかと思ったけどちゃんとあるにゃんね」

 最初に城壁に張り付いていた死霊が燃え上がった。

「刻印を焼き切るつもりなのかな?」

「にゃお、昨日までの大公国軍の攻撃から学んだみたいにゃん」

「考えたのは死霊じゃないと思うけどね」

「にゃあ、オレのこしらえた結界は焼いてどうこうなるほどヤワじゃないにゃんよ!」

 死霊は自分から城壁の防御結界に飛び込みどんどん焼かれる。効果がないことが理解出来てないみたいだ。

 城壁の防御結界は壊されてはいないが、少なくない数の死霊に突破されているので改良が必要だ。

「マコトの結界とオンボロな駐屯地の結界の違いを読み取れてないんだね」

「にゃあ、ヤツらは魔法式を読んでないにゃん?」

「能力的に無理みたいだね」

「にゃあ、小細工もネタバレしたし、何より燃え上がる死霊は暑苦しい上にキモいから天にお還り願うにゃん」

 駐屯地を含む半径五キロ圏内を聖魔法の青い光で満たした。

 ここからはこれまで使った聖魔法と違って、出力を上げて森の中どころか、地下一〇〇メートルまでを一気に聖別する。

「にゃあ!」

 燃え上がっていた死霊も、鈴なりになっていたヤツらも全て弾けて光の粒子になる。

 駐屯地の中庭から光の粒子が多数立ち昇ったのはアレだが。

「にゃあ、次は皆んな幸せになるにゃんよ!」

「マコト、魔石の回収を忘れてる」

「にゃあ、そうだったにゃんね」

 死霊の残した魔石を回収した。

 二八万個だ。

 さっきの五万個と合わせると大金貨九九〇万枚分にもなる。

「にゃあ、これって本当に冒険者ギルドで換金できるにゃん?」

「大公国では無理なんじゃない?」

「にゃあ、大公国の貴族にただで寄越せとか言われそうにゃんね」

「ただであげるの?」

「にゃお、オレが苦労して手に入れた魔石にゃん、ただでやるわけないにゃん、欲しかったら一個大金貨六〇枚で売ってやるにゃん」

「それは儲かっちゃうね」

「でも元が人間だからちょっと複雑にゃん」

「ほとんどが怨霊や幽霊だからね、襲われた人も生きたまま死霊にはならないからね、天に還す手数料って考えればいいんじゃない?」

「にゃあ、それもそうにゃんね」


 夜明けまでに天に還した死霊は全部で一〇〇万を越えていた。

 大公国の人口、約六〇万人よりはるかに多い。

 やはり怨霊や幽霊の類が、死霊にジョブチェンジしたことが数字からも証明された。


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