フルゲオ大公国二日目にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇六月〇八日
○フルゲオ大公国 アナトリ街道
フルゲオ大公国に入って二日目。
夜間の移動禁止の解ける日の出とともにフルゲオ大公国の首都ルークスに向けて出発した。
御者台はラルフとチャドに任せて、女子は荷台にしつらえた二列の対面ベンチシートに座っている。
他の馬車が少ない今のうちに速度を上げて距離を稼ぐ。
「にゃあ、キュカとファナはルークスに逆戻りにゃんね」
「同じ風景で飽きちゃうね」
「いいえ、前のご主人様の馬車は外が見えませんでしたから」
「マコト様の馬車は見晴らしがいいので飽きません」
大型のタイヤを履いてるから車高が高いので見晴らしはいい。
「風景と言っても森ばかりだけどね」
妖精はオレの頭の上に立つ。
「私たちはこれまでルークスから出たことがありませんでしたから、森の風景もとても珍しく感じます」
「にゃあ、だったらこれからいろいろ見れるにゃんよ」
「プリンキピウムは森の中だものね」
「にゃあ、森は森でもかなり違うにゃん」
「見た目は似てるけどね」
「どう違うのですか?」
「にゃあ、プリンキピウムの森は獣がいっぱいいるにゃん、大公国の森はあまり獣がいないにゃんね」
「大公国の森は結界のせいで獣が少ないですね、特異種などほとんどいないんじゃないでしょうか?」
カティが教えてくれる。
「危険なのはオオカミぐらいだね」
リーリが探査魔法で周囲を確認してる。どれほどの範囲をカバーしてるのかはオレにもわからない。
「にゃあ、キュカとファナはエパネノスに入るまでどのぐらい掛かったにゃん?」
「ルークスを出てちょうど一〇日です」
「にゃあ、随分かかるにゃんね」
「はい、護衛の人たちもそう言ってました」
「エパネノスに向かう貴族が多いから仕方ないんじゃない?」
アレシアの言う通り対向車は、いまも渋滞寸前のゆったりとした流れだ。
「にゃあ、キュカとファナは何で貴族が国境に向かってるかわかるにゃん?」
「はい、反乱がルークスの近くで起こったと聞きました」
「そんなことを使用人の方々が仰っていました」
「にゃあ、反乱にゃん?」
「おお、それは俺が仕入れた取って置きのネタだ」
ラルフがへべれけになって仕入れた情報だったらしい。
「死霊の情報は流れてないにゃん?」
「オレも国境では聞かなかったな」
「ああ、死霊に関しては箝口令が敷かれてるようだ」
「冒険者ギルドもにゃん?」
「依頼内容を第三者に漏らさないのは冒険者の基本だからな」
「にゃあ、キュカとファナは死霊の話は聞いてないにゃん?」
「それはおとぎ話に出てくるあの死霊ですか?」
「おとぎ話にゃん?」
「その死霊でおおむね間違いありません」
オレに代わってカティが答えた。
「大公国の昔話に死霊にまつわる話があります、以前の大発生の記憶なのでしょう」
「史実に残ってるにゃん?」
「今回ほどの大規模な死霊発生だったかは、わかりませんが記録はいくつかあります」
カティはそれなりに詳しいらしい。
「キュカさんとファナさんも今回の件は知らないみたいね」
「そうみたいにゃん」
アレシアの言う通りキュカとファナは今回の死霊発生の件は知らなかった。
「にゃあ、キュカとファナにも教えておくにゃん、オレたちは大公国内で死霊の群れを退治するにゃん」
「「死霊ですか!?」」
「そうにゃん、死霊にゃん」
「マコト様のご命令とあらば」
「私たちも死力を尽くして戦います」
「にゃあ、ふたりは戦わなくていいにゃん、死霊はまとめてオレが始末するにゃん」
「マコト以外は防御結界の中で見物がいちばん効率的だからね」
「妖精さんの言う通り、死霊相手ではマコト以外は歯が立たない」
「死霊のお仲間になるのが関の山だな」
御者台のラルフとチャドがうなずき合った。
対向車線をあれだけ走っていた貴族の馬車がかなりまばらになったので、ラルフに馬車の速度を上げてもらった。
風景が代わり映えしないから体感的にはそれほど速度が出てる様な感じはしない。
たまに来る対向車や追い抜きの時だけ速度を落としてもらった。
ある程度は馬たちが自動で調整するので神経質な操作は必要ないけどな。
街道沿いに人家は無く、集落や街は街道沿いでは無く枝道を数キロ行った先に作られていた。その辺りもプリンキピウム街道に似ていた。
違いは盗賊が街道を通ってやって来るのと、街道の路肩から先が結界に依って阻まれ、森の中に入ることができない点だ。
「通常の馬車で一週間程度だからこのペースなら四日で到着出来そうだな」
ラルフは馬車の速度に満足そうだ。
「そうですね」
カティも頷く。
「おい、四日って言ったら単騎より速いんじゃないか?」
チャドは半信半疑だ。
「オレの馬とチャドの婆さんならもっと速いにゃん」
「いや、それだと馬(婆さん)が大丈夫でも俺がもたない」
「あたしも無理だわ」
アレシアは単に乗馬が嫌なだけでは?
「私もです」
「カティはもう少し体力を付けるべきにゃんね」
「すいません」
「マコトの馬なら二日で到着だね、あたしが保証するよ」
「妖精さん、夜通し走るのは無しだぞ」
「だったら、三日半かな」
リーリはオレの頭の上であぐらをかいて首をひねる。
「馬だけなら三日あれば十分にゃん」
「言っておくけどあたしは無理だからね」
アレシアは魔法馬での移動は断固反対らしい。
「にゃあ、わかってるにゃん」
「馬車でも十分に速いから大丈夫です」
カティも馬に乗っての移動は嫌みたいだ。
馬の上は退屈だからわからないでもない。寝るのも馬車の方が楽だし。
「マコト、前方で人が集まってるよ」
「山賊ならうれしいにゃん」
「いや、その反応はおかしいだろう」
チャドからツッコミが入る。
「山賊では無さそうですね」
カティが前方を睨んだ。
「貴族の馬車が森に突っ込んで潰れてるみたいにゃんね」
まだ距離があるがリーリとオレとカティにはわかる。
「潰れてるの?」
「うん、潰れてる、乗ってた人も護衛の人も魔法馬も全部ぺちゃんこでね、それでね」
リーリが潰れた馬車と乗員の様子を詳細に教えてくれる。
「あの、特別知りたいわけじゃないから」
アレシアは眉間にシワを寄せる。
オレにも見えてるけどな。
「馬車は路外に逸脱したところをやられたらしいにゃん」
「護衛の騎馬も助けに入って潰されたみたいだね」
街道から逸脱したと言ってもほんの五メートル程度だ。
「いったい何にやられたの?」
「結界にゃん」
「結界か」
ラルフは苦い顔をする。
「噂に違わずエグいもんだな」
チャドは肩をすくめた。
「普通は街道から外れることはできないのですが」
「にゃあ、たぶん馬車の防御結界のせいにゃん」
「防御結界ですか?」
「にゃあ、馬車の防御結界が街道の結界に接触して一時的に無効化したにゃん、でもその後の反撃は防げなかったみたいにゃんね」
オレも使ったことのある風の魔法だろう。
事故現場が肉眼で見える位置に来た。
集まっているのは難を逃れた家臣か? 路肩に馬車を連ねて停車していた。
「マコト、何があっても無視しろよ」
「ああ、それがいい」
「にゃあ、ラルフとチャドに言われなくてもわかってるにゃん、オレだってこの国の貴族とは関わり合いになりたくないにゃん」
「それならいいが」
何か引っ掛かる言い方をしてる。
カティも目を伏せる。
「ああ、殉死の風習が残ってるんだね」
リーリがオレの頭の上でボソっと物騒なことを言う。
「にゃお、殉死ってまさか、あの殉死にゃん?」
「主が非業の死を遂げた場合に奴隷が殉死する習わしです」
「奴隷の魂を使って主を天にお還しするのです」
「ただの迷信だけどね」
キュカとファナの言葉をリーリが否定する。
「にゃあ、そうにゃん、迷信に決まってるにゃん」
他の人間の霊が天に還る手助けをするなんて不可能だ。
そんなことが可能ならもっと幽霊が少ないのではないだろうか?
「にゃ?」
事故現場のすぐ傍らの路肩に子供がふたりひざまずいてる。
目隠しに猿ぐつわ、しかも後ろ手に縛られていた。
「にゃああ! マジで殉死にゃん!?」
ふたりの背後に剣を持った大男が立つ。
「うん、マジみたいだね」
「にゃお!」
「マコト、手を出すな、この国では許される行為だ」
大男は剣舞を舞う。
そして剣を振り上げた。
「なっ!?」
殉死の儀式を見守っていた家臣たちが驚きの声を上げた。
子供の奴隷と大男の間に突然オレが現れたのだから驚きもするか。
しかも振り下ろされた剣を掌で受け止めた。
「な、何者だ!」
騎士っぽい男たちが剣を抜いた。
「にゃお、オレはマコトにゃん! 殉死の儀式、オレに預けてもらうにゃん!」
「貴様、何を言ってる!?」
大男の声で耳がキーンとする。
「おまえらの主は、オレが送ってやるにゃん」
街道の結界を切り裂いて潰された馬車の前に飛んだ。
「「「おおっ!」」」
家臣たちが呆気に取られてるうちにオレは聖魔法を発動させた。
治癒の光より深く青い光が広がる。
魂が肉体から離れているので残念ながら蘇生は無理だ。
その代わりちゃんと送ってやる。
光の粒子が人の形を作る。
「「「殿っ!」」」
人の良さそうなおっさんが殿様なのだろう。
殿様の情報が流れ込んでくる。
エルネスト・シフエンテス。
大公国の法衣貴族の男爵だ。
後ろにぼんやり見えてるのは奥方とまだ幼い息子。
そして巻き込まれた家臣たち。
男爵はオレを見詰める。
「にゃあ、送るにゃん」
うなずきつつも寂しそうな笑みを浮かべる。
思考が伝わる。
「にゃ? わかったにゃん、伝えるにゃん」
男爵がオレに一礼する。
奥方や息子、それに家臣たちが続く。
殿様から伝言を受け取ったオレは男爵たちの魂を天に還す。
人の姿は光の粒子となり、魂の数だけ螺旋の軌道で天に昇る。
次は潰れた馬車と魔法馬の再生だ。
そこに犠牲となった人の姿はないが、馬車も馬も綺麗に再生され路肩に戻った。
「にゃあ、この中で家令のリカルド・パラウは誰にゃん?」
まだ呆気に取られたままの家臣たちに声を掛けた。
「私がリカルド・パラウだ」
さっきの大男だった。
「エルネスト殿の言葉を伝えるにゃん」
「殿はそなたに何と仰ったのだ?」
家臣たちも、息を呑む。
「まずは、このような事態になったことを皆に詫びるそうにゃん」
「殿、何をおっしゃいます!」
「にゃあ、まだあるにゃん、家督は三番目の弟ヒルベルト殿に譲るそうにゃん」
「次弟のフェラン様ではなく三番目のヒルベルト様と仰ったのか?」
「にゃあ、そうにゃん」
「理由は?」
「これを見るにゃん」
修復したばかりの馬車の馬の前脚を指差した。
「折れる様に刻印に細工されてたにゃん」
「なんと」
「エルネスト殿が死んだのは事故でも何でもないにゃん、二番目の弟フェランの仕組んだ殺人にゃん」
「何故、わかるのですか?」
「にゃお、刻印に残ってる魔力の波動にゃん、エルネスト殿が直接確認したにゃん」
男爵はかなり優秀な魔導師だった。
次弟は更に上だったらしいが。
オレは格納空間から紙を取り出し問題の刻印を転写してからサインした。
「これが証拠になるから最寄りの冒険者ギルドに提出するにゃん」
「冒険者ギルドに?」
受け取った紙を不思議そうに見る。
「アナトリの貴族かつ冒険者のマコト様が発行したものだ、嘘偽りなどない」
遅れてやっとラルフが御者を務めるオレの馬車が到着した。
「「「アナトリの貴族!?」」」
家臣たちは慌てて居住まいを正す。
「ご無礼いたしました」
大男が頭を下げた。
「にゃあ、気にしなくていいにゃんよ、そんなことよりエルネスト殿は速やかな家督の引き継ぎを望んでるにゃん」
「殿のお気持ち、このリカルドしかとお受けしました、必ずやヒルベルト様に家督を継いで頂きます」
大男が涙で頬を濡らした。
『それは困るな』
冷たい声にその場の空気が凍った。
「貴様、どう言う意味だ?」
声を発した若い騎士を睨み付けるリカルド。
『言葉の通りですよ、リカルド』
若い騎士は引きつった様な笑みを浮かべた。
「あれは、強制憑依だね」
リーリがオレの頭に着地した。
「すると憑依してるのは、二番目の弟フェランにゃんね」
「それなりの使い手だね、あたしらの足元にも及ばないけど」
どんな時も威張ることを忘れない。
妖精はブレない。
「マコト殿、そこにいる兵士がフェラン様なのか?」
「にゃあ、中身はそうにゃん」
強制憑依された若い騎士は、シフエンテス家の家臣ではなく傭兵らしい。
『ふふ、穏便に事を済ませようと思ったのですが、とんだ横槍が入りましたね、仕方ありません、全員に死んでいただきましょう』
若い傭兵がニヤリと笑った。
「にゃあ、随分と短絡的なヤツにゃん」
「でも、憑依体を使って魔法を使うなんてかなり精密な制御をしてるよ」
若い傭兵は馬に跨ったまま手をこちらに翳した。
「フェラン様、何故このようなことを為されたのですか!?」
『決まってる! 優秀な者が家督を継ぐ資格があるのです!』
甲高い声で叫んだ。
「性格に難があるみたいだね」
「にゃあ、家督を継げなかった理由が次男だったこと以外にも有りそうにゃん」
リーリと囁きあう。
『皆、愚兄のところに行きなさい!』
憑依体の掌から熱線が出た。
「ぎゃあああああ!」
悲鳴を上げたのは憑依体の若い傭兵だった。悲鳴自体は本人のものだ。
熱線を撃ち出した手が燃え上がっていた。
「やっぱり無理があったみたいだね」
「にゃあ」
熱線はオレの防御結界が吸い取っていた。
憑依体の若い傭兵は魔法使いの素養が無かったらしく肉体が魔法に侵食された。
これ以上、燃やすのはマズいね。
「にゃあ!」
勝手に憑依された挙句、腕を燃やされて踏んだり蹴ったりの兄ちゃんの炎を消してやった。
ついでにフェランの尻尾を捕まえた。
「にゃあ、いま治すからおとなしくしてるにゃん」
馬上でバタバタしてる若い傭兵の酷い火傷を治癒の光で覆って治療した。
「マコト殿、その者を治癒して大丈夫なのですか?」
「問題ないにゃん、フェランは捕まえたにゃん」
「フェラン様を捕まえたのですか?」
「にゃあ、本人に聞いてみると言いにゃん」
リカルドは若い傭兵を見る。
『き、貴様、何をした?』
驚愕の表情を浮かべていた。
「にゃあ、おまえの魔法を奪ったにゃん」
実際にはエーテル器官を乗っ取ったのだ。
『でまかせです! そんなことなどできるわけありません!』
「マコトにはできるんだよ、マコトの魔力が見えない格下には理解できないだろうけどね」
妖精がクスクス笑う。
『おのれ!』
煽り耐性が低いフェランは激高してまた魔法を使おうとしたが、無論、何も起こらなかった。
『なっ!?』
「にゃあ、おまえのエーテル器官を一般人クラスに書き換えたにゃん」
「もう魔法は使えないよ」
既に憑依はオレの魔力に依って維持されている。
『あり得ない! こんなことが有っていいわけがない!』
「にゃあ、五月蝿いから憑依は解くにゃん」
憑依を終了した。
「あれ、俺はいったい何を? いや、それよりお館様が!」
意識を取り戻した若い傭兵が慌てふためく。
「落ち着かんか!」
リカルドの声に若い傭兵が固まった。
「にゃあ、フェランの魔力は潰したにゃん」
「もう魔導師でも何でもないよ」
「後のことはシフエンテス家で決めるといいにゃん」
「かたじけない、これより後続のヒルベルト様と合流し指示を仰ぎます」
「にゃあ」
「マコト殿、実は謝礼のことなのですが」
何やら言い難そうなリカルド。
「にゃあ、それだったら……」
「こっちの相場は大金貨二〇枚だったな、マコトの聖魔法のレベルだとその倍にはなるだろうな」
チャドが謝礼を断ろうとしたオレの言葉に声を重ねた。
「ごもっともです、ですが当家も手元不如意でして」
大きな背中を丸めて小さくなるリカルド。
それでも十分にでかい。
「だったら、そこの奴隷をふたり、マコトに譲ってやってくれ」
そこのふたりとは、さっき殉死させられそうになっていた子供の奴隷だ。
目隠しと猿ぐつわは外されているが腕は縛られたままだった。
殉死を免れても奴隷の扱いに変わりはない。
「子供の奴隷ふたりでいいのですか?」
リカルドの反応からするとふたりの値段はそれほど高くはないのだろう。
一行に奴隷はこの子たちしかいない。
「にゃあ、そうにゃんね、オレはそれでいいにゃんよ」
リカルドは息を吐き出しほっとした表情を浮かべた。
「ありがとうございます」
首をハネられそうになってる子供の奴隷を助ける為に馬車を飛び出したのだから最後まで面倒を見てやろう。
まだ怯えた子供の奴隷はどちらも女の子で年齢は五歳、オレと同じぐらいの背丈だ。
貫頭衣みたいな簡単な作りの服で、裸足。
どちらも汚れていて髪は茶色で縮れている。
オレはふたりの縄を解いてやりウォッシュを掛けた。
一人が青い髪、もう一人が紫色の髪だった。
痩せてはいるけどどちらも可愛い顔をしてる。
「にゃあ、名前は?」
「ビッキーです」
「チャスです」
たどたどしく答える。
青い髪がビッキーで紫色の髪がチャス。
「にゃあ、オレはマコトにゃん、まずは馬車に乗るにゃん」
リカルドを始めとするシフエンテス家の家臣たちに別れを告げ、オレたちは馬車を出した。
オレはビッキーとチャスの健康診断と治療をしてから新しい服と靴を出してやった。
こちらも冒険者風の服装だ。
身繕いはキュカとファナに任せる。
ビッキーとチャスはいまだ状況がわからず馬車の中でそろってキョトンとしていた。
「にゃあ、これからちょっと危ないところに行くけど悪いようにはしないにゃん」
「危ないところですか?」
「にゃあ、死霊が出る場所にゃん」
「死霊に食べられればいいんですか?」
「にゃお、食べられたら困るにゃん」
「囮じゃないんですか?」
首を傾げるビッキーとチャス。
「にゃあ、違うにゃん」
「マコトさんはあなたたちを救ってくれたのです」
「悪いようにしないのは本当だからネコちゃんを信じてあげて」
「「はい」」
厳しくしつけられていたのだろう綺麗な返事をした。
馬車を走らせたまま今日の昼食。サンドイッチの入った袋とジュースを配った。
ビッキーとチャスにも食べる様に促す。
「食べていいんですか?」
「にゃあ、いいにゃんよ」
ふたりもサンドイッチにかぶりつき顔をほころばせる。
「ご主人様の下さるご飯は美味しいでしょう?」
「「はい」」
キュカの問いにビッキーとチャスはいい返事をした。
午後は一段と街道が閑散とした。
路面状況も良く道幅も広いのもあってオレはラルフと御者を代わって馬車の速度を上げた。
要は誰にも見られなければ問題ないわけだ。
代わり映えのしない風景なので体感は大きな変化はないので同乗者はそこまで速度が出てるとは気付かない。
馬車の防御結界が風を防いでるのも体感を惑わす一因だ。
ビッキーとチャスにも大きなクッションを与えて楽にしてもらってる。
最初は頑張って起きていたが、満腹なのもあって直ぐに眠ってしまった。
ラルフとチャドもその横でビールを飲んで休憩中。
カティにアレシアそれにキュカとファナは情報交換と言うか女子会だ。
「にゃあ、もしかして森にいるのは森の精霊にゃん?」
オレの隣にちょこんと座ってるリーリにこっそり訊く。
森の中を枝葉で出来たゆるキャラのキグルミみたいのがさまよってる。昨日見た濃いマナの塊と違ってずっとハッキリ見えた。
ただ、他の人たちは見えないと思う。もしかしたらカティだったら気配をとらえられるかもってレベルだ。
「精霊というより性質は死霊に近いかな? 人間を捕食するから」
リーリが教えてくれる。
「にゃあ、森の精霊は街道には出て来れないのが救いにゃんね」
「絶対はないけど、街道の強力な結界を見る限りまず出て来ないかな」
「にゃあ、ヤツらは人間を食べなくても消滅しないにゃん?」
「そこは精霊みたいなものだからね、森にいる限りは消耗しないよ」
「にゃあ、厄介な森の番人にゃんね」
○フルゲオ大公国 アナトリ街道 野営地
日没前に野営地という名の野っ原に到着した。
先客もいないのでちょうど良かった。
大公国の貴族はトラブルの種しか運んで来ないから居ないに越したことはない。
「にゃあ、またテントを設営するにゃん」
昨夜作った通りの馬車に幌+テントを出現させた。
ビッキーとチャスの為に部屋を一つ増設してある。
ふたりはいままでずっと一緒だったらしく、まだ部屋を分けない方がいいらしい。
お風呂とトイレの使い方はカティとアレシアが教えていた。
その間、オレは夕食の準備をする。
今夜はシチューとパンでいいかな?
恐鳥の肉を使ったクリームシチューだ。
「「「美味しい!」」」
皆んなそう言ってくれてオレもうれしいにゃん。
「最高だよマコト! おかわり!」
リーリが空になった皿を差し出した。
「「おかわり下さい!」」
ビッキーとチャスも元気に空になった皿を出した。
他の皆んなもお代りする。
賑やかな楽しい食卓はこちらに来てのいちばんの収穫だ。




