報酬の精算にゃん
○帝国暦 二七三〇年〇六月〇四日
○州都オパルス 冒険者ギルド ロビー
朝になってロッジを仕舞ったオレは、リーリを頭に乗せて冒険者ギルドのロビーに入った。
「「「マコトさん、妖精さん、おはようございます!」」」
「にゃあ、おはようにゃん」
「おはよう!」
顔見知りになった冒険者の何人かに挨拶された。
何故か敬語だ。
「おお、マコトたち来たか、ギルマスがお呼びだぞ」
「ラルフも早いにゃんね」
「早起きさん?」
「俺は泊まりだ」
「にゃあ、だったらオレのロッジで仮眠すれば良かったにゃん」
「そうだった」
「にゃあ、朝ごはんがまだならこれを食べるといいにゃん」
紙で包んだサンドイッチを渡した。
「おお、マコトの作る食い物は美味いから助かる」
視線を感じる。
『『『いいなあ』』』
受付の女性職員たちも欲しそうなテレパシーを送って来た(感じがした)ので、まとめて渡した。
「ネコちゃんたち、こっちよ」
扉から顔を出したフリーダに手招きされてギルマスの執務室に入った。
○州都オパルス 冒険者ギルド ギルドマスター執務室
「今朝までにブラッドフィールド傭兵団との交渉が終わったから報告するわね」
「にゃあ、お手数お掛けするにゃん」
「いいの、これも冒険者ギルドの仕事ですもの、それに狙われたのはウチの荷物だからね」
「にゃあ、そうにゃんね」
「取扱い注意の上級貴族のスキャンダル絡みの案件の情報が漏れたのは、完全にウチの失態だし、ネコちゃんがいてくれて本当に助かったわ」
オレがいなかったら子供の遺骨も見付からなかったわけだから、事件そのものが起こらなかった可能性が高いけどな。
「ブラッドフィールド傭兵団の話に戻るわね」
「にゃあ」
「今回は完全に犯罪行為に加担していたから身代金は通常の五倍で話が付いたわ」
「五倍にゃん?」
いきなりボッタクリ?
「相場だから気にしないで」
「ブラッドフィールド傭兵団にはネコちゃんの名前は非公開にしたわ、それと今後も不干渉の約束を取り付けた」
「何か保証はあるにゃん?」
「今回のネコちゃんの功績を讃えて、王宮から騎士の称号が贈られることになったわ。名ばかりの貴族だけど庶民よりは権利が守られるわ」
「にゃあ、六歳児でも有りにゃん?」
「過去に四歳の記録があるそうだから問題ないわ」
「にゃあ、冒険者のランクが上がる前に騎士になったにゃん」
「それとね、領主様からは、知行地がプレゼントされるわ、場所はプリンキピウムよ、巨木群から南がネコちゃんの管轄になるわね」
「にゃ、知行地にゃん?」
「そう、一代限りの領地みたいなものね」
「にゃあ」
プリンキピウムを支配するお代官様になった様なものか。また変な貴族もどきに入り込まれるよりましか。
「次がネコちゃんに支払われる、傭兵の身代金の詳細ね」
フリーダがタブレットに目を落とす。
「副団長が大金貨三〇枚、魔法使いが大金貨二〇枚、一般兵が大金貨一〇枚がベースの金額ね」
「にゃあ、オレが予想してたよりもずっと高いにゃんね」
「当然よ、身代金なんだから」
傭兵は盗賊とは命の値段がかなり違うらしい。
「今回は副団長が一名、魔法使いが四名、一般兵が四五名いたから合計は大金貨五六〇枚、更に五倍だから二八〇〇枚になるわね」
「にゃあ、ギルドの取り分はいくらにゃん?」
「一〇%をブラッドフィールド傭兵団側からもらってるから、ネコちゃんのお金はそのまま支払われるわ」
「にゃあ」
州都を往復するほどにスゴい勢いでお金が溜まって行く。前世でもこの金運を少しでも分けて欲しかった。
「ネコちゃんのカードの記載を新しくするわね」
「にゃあ、カードにゃん?」
「ネコちゃんは、騎士になったからその内容を追記するの」
冒険者ギルドのカードを出すと、直ぐに職員の人に預けられた。
「それと、昨日の明細が出てるわよ」
「犯罪奴隷とプリンキピウムで買ってもらえなかった分にゃんね」
「犯罪奴隷はひとり金貨八枚で十八人だから、合計で一四四枚ね、それと魔法使いは財産を没収したその半分が支払われるから算定には少し待ってね」
「にゃあ、分配はオレが八で皆んなが二だったにゃんね、それを三人で分けるからひとり金貨九枚と大銀貨六枚にゃんね」
「十分な報酬ね」
「そうにゃん?」
「ネコちゃんは無駄遣いしちゃダメよ」
「にゃあ、屋台で買い食いしまくっても、ちょっとやそっとでは無くならないから大丈夫にゃん」
「それとお金は絶対に貸さないこと」
「ダメにゃん?」
「六歳の子供に借金を申し込んでくる人間のクズは相手にしちゃダメよ」
職員の人がカードと報酬の入った箱を持ってきた。
「これでネコちゃんは騎士ね」
「紋章をデザインしないといけないにゃんね」
「それとこれがネコちゃんから買い取りした分、大金貨一〇〇枚になったわ」
「にゃあ、かなりの金額にゃん」
「モノが良かったから当然よ」
「にゃあ、それと鹵獲した装備品を分けたいから、倉庫の隅っこでも貸して欲しいにゃん」
「ここを使ってもいいわよ」
「魔法馬が一〇頭入るにゃん」
「あー、それは入らないわね」
扉が開いてチャドが現れた。
「おう、待たせたな!」
「にゃあ」
「やあ!」
「マコト、大金が手に入ったんだろう、オレに投資しないか?」
早速、人間のクズが現れた。
「嫌にゃん」
「なあ、絶対に儲かるって」
「にゃあ、これがチャドの取り分にゃん、自分の金で投資すればいいにゃん」
「おお、金貨が九枚か! それと大銀貨が六枚! マコトのお陰でボロ儲けだぜ」
「それと装備品もあるにゃん」
「あのボロ布みたいな服と崩壊寸前の馬に爆発しそうな銃だろう? 流石にあれはいらないわ、じゃあな、俺は忙しいんで行くぜ」
人間のクズことチャドは分け前の入った革袋を仕舞うとさっさと出て行った。
五分ほどしてレベッカとポーラが職員に案内されて来た。
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
「レベッカが起きてくれなくて途方にくれましたわ」
「あっ、それは言っちゃダメだよ」
「遅れてないから問題ないにゃん」
「ないよ!」
「それなら安心ですわ」
「これがレベッカとポーラの分け前にゃん」
それぞれに分け前の入った革袋を渡す。
「おお、こんなに貰えちゃうんだ」
「何もしてないのに恐縮ですわ」
「それと装備品があるから、倉庫で分けるにゃん」
「ああ、それなんだけど装備品は遠慮しとくよ」
「この現金だって貰い過ぎですもの、これ以上は貰えませんわ」
「そうにゃん?」
「うん、大丈夫だから」
レベッカとポーラも現金だけ受け取って帰ってしまった。
「にゃあ、せっかく直したのに誰も貰ってくれなかったにゃん」
耳がペタン。
「要らないなら売っちゃえばいいよ」
リーリが慰めてくれる。
「そうにゃんね」
「ねえ、ここに出せる範囲でネコちゃんが盗賊たちから手に入れた装備品、見せてくれる?」
「いいにゃんよ」
フリーダに求めに応じて盗賊と殺し屋から巻き上げた装備品をお披露目する。
テーブルに乗る範囲で。
銃が一〇丁、それに剣が一〇本、他には服だの靴だのプロテクターだの。
かさばる物は出さないでおく。
「まるで新品ね」
「にゃあ、オレがウォッシュと修復と改造をしたにゃん」
「プリンキピウムからの情報の通り、ネコちゃんは自在に修復ができるのね」
「魔法使いだから当然にゃん」
「いえ、魔法使いでもここまでの修復はできないわよ」
「そうにゃん?」
他の人のことは良くわからない。
「装備品を鑑定できる職員を呼んでもいいかしら」
「にゃあ、構わないにゃん」
フリーダに呼ばれてふたりの中年の職員が出て来た。
「ざっと見て幾らぐらいになりそうかしら?」
ふたりの職員に問い掛ける。
「そうですね、簡易鑑定なので低くなりますがそれでよろしければ」
「構わないわ」
「銃は一〇丁のうち九丁がそれぞれ大金貨三枚程度、一丁が値段を付けられません」
「にゃあ、ちゃんと撃てるはずだけど何処かマズいにゃん?」
「いえ、こちらですが前領主が散逸させたアーティファクトの一つ『竜殺し』かと思われます」
「えっ、これがそうなの?」
フリーダは派手な装飾の入った銃を手にする。
「特徴からして『竜殺し』で間違いないかと」
「確かに魔獣の魔石を収める場所があるわね」
魔獣の魔石はエーテル機関のことだ。
確かにエーテル機関をぶっこんだらオレが森で拾ったドラゴンゴーレムぐらいはイケそうだ。
「領主様の所にあったものなら返すにゃん?」
「ネコちゃんのものだから返す必要は無いわ、でも領主様なら買い取るんじゃないかしら? 宝物庫の肥やしにちょうど良さそうだし」
「にゃあ、飾る分には見栄えはいいにゃんね、だったらそれはギルドに預けるにゃん」
「わかったわ、それで他にはどう?」
「剣はいずれも無銘ながら上質ですので、買い取りで大金貨一枚を下ることはないでしょう」
「その他の装備品も中々のものね」
「マコトが修理したからね!」
リーリがオレの頭の上で威張る。
「新品同様の上質な品ですから、プロテクターは金貨一から三枚、ブーツは大銀貨二枚程度、他はまとめて金貨一枚程度で買い取られるでしょう」
「悪くない金額にゃん」
「ネコちゃん、買い取り価格でいいなら私が一括で引き取ってもいいわよ」
「オレはありがたいにゃん、でもフリーダは大丈夫にゃん?」
「ちゃんと売り先は頭の中にあるから心配しないで」
「にゃあ、それならいいにゃん」
「それでしたら、こちらで売り出されてはどうでしょうか?」
「それもいいわね」
「ギルドは装備品を買い取らないんじゃなかったにゃん?」
「新品同様の品ならば問題ないわ、じゃあ、詳細な鑑定をしたら一割乗せて売ってちょうだい」
「かしこまりました」
ふたりの職員が台車に乗せて運んで行った。
○州都オパルス 冒険者ギルド 裏庭
装備品を売っ払ったオレは、ギルドの裏庭で昨日の夜に改造したこっちの世界観を壊さないギリギリのところで押さえた魔法車を再生する。
自動車の黎明期のクラッシックカーに似ている。
タイヤは太いけどな。
「ちゃんと走るの?」
リーリが失礼なことを言う。
「にゃあ、普通に走ってもオレの馬車程度は出るにゃんよ」
運転席もオレの大きさに合わせて改造してある。
ボディは魔獣由来の素材に鏡面サソリのコーティングを施してピカピカだ。
「ネコちゃん、これって魔法車よね?」
見送りに出てくれたフリーダは何故か疑問形。
「にゃあ、そうにゃん」
フリーダが興味津々と言った様子で眺めてる。
「やっぱり魔法車なんだ、もしかしてこれでプリンキピウムまで帰るつもりなの?」
「そうにゃん、魔法車で帰るにゃん」
「大丈夫なの?」
フリーダも失礼なことを言う。
「にゃお、強度も機能も走破性も問題ないにゃん」
「ネコちゃんだったら、何かあっても魔法が使い放題だからどうにでもなるわね」
「にゃあ、そういうことにゃん、オレたちはそろそろプリンキピウムに帰るにゃん」
魔法車に乗り込んだ。
やっぱり車は最高にゃん。
ダブルクラッチとか面倒臭いんでオートマだけどな。ついでに全輪駆動で道を選ばず。
「マコト、ちょっと待ってくれ!」
ラルフが飛び出して来た。
「まだ行かないでくれ、フリーダ様、緊急の連絡です」
それからフリーダに何か耳打ちしてる。
「それって本当なの!?」
「はい、フルゲオ大公国のギルマスから直で連絡が入りました、正式な要請です」
「間違いないのね?」
「はい」
「ネコちゃん、ちょっといいかしら?」
「にゃ?」
「ネコちゃんに緊急の指名依頼が来たの」
「オレに指名依頼にゃん?」
「ええ、詳しいことは中で話すわ、来て」
どうやら回避不能の厄介事が発生したらしい。
オレは久し振りのドライブを諦めて、フリーダとラルフの後に続いて冒険者ギルドの建物に戻った。




