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州都弾丸行一日目にゃん

 ○帝国暦 二七三〇年〇五月三〇日


 ○プリンキピウム 冒険者ギルド 駐車場


 前回の中止から三日後、オレたちはまたギルドの駐車場に集合した。


 ホテルのことはアトリー三姉妹と補助のゴーレムと用心棒役の牡の魔法牛に任せて州都までお出かけだ。防御結界もあることだし大丈夫だろう。冒険者ギルドの職員もいることだし。


「マコト、ちょっと来い」

「にゃ?」

 ギルマスのデリックのおっちゃんに呼ばれて倉庫に入った。

「これをマコトが運んでくれないか?」

 そこに並べられていたのはJRのコンテナみたいな金属の箱が四つ。

 そのうち三つは前回オレらが取り返したやつだ。

「一個、増えてるにゃんね」

「主にマコトがこの三日の間に狩って来たものだ」

「にゃあ、今回はオレが運ぶにゃん?」

「ああ、これだけの大荷物だとうちの職員では手に余る。だからと言って州都から人を呼ぶのは時間が掛かる」

「わかったにゃん」

「よろしくねネコちゃん」

 ギルドの職員であるデニスが革のプロテクターを装着していた。

「デニスが一緒に行くにゃん?」

「受け渡しはギルドの職員がするから」

「了解にゃん」

 封印済みのコンテナ四つを分解して格納した。


「ブシュ!」

 チャドの婆さん馬は相変わらず鼻を垂らしていた。なにげに高度な魔法馬だ。

「風邪が治ってないにゃんね」

「なに、走りだせば問題ない」

「チャドは先頭ね」

「うん、斥候は任せた」

「私に鼻水を飛ばしたら容赦なく撃ちますわよ」

「ひでぇ」

「ブシュ!」

 婆さん馬は容赦なくチャドの顔に鼻水を浴びせた。

「うぉ、婆さん、今朝もいい感じだぜ」

「「「うぁ」」」

 チャドの惨状にレベッカとポーラそれにデニスが後ずさる。

 オレとリーリは一足先にデリックのおっちゃんの影に隠れていた。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室


「これより州都までのコースを伝える、旧道を四日間で走り抜けてくれ」

 デリックのおっちゃんの部屋でコースと日程が発表された。

「四日とは随分と速いですね」

 レベッカのいうとおり州都まで普通の魔法馬でなら、五日から六日の距離だ。乗り合い馬車なら一〇日は掛かる。

 オレも四日までは短縮したことはない。

「チャドの婆さんは大丈夫ですの?」

「問題ない」

 チャドが腕を組んで頷く。

「その自信が何処から来るのかわからないにゃん」

「婆さんのスゴさってヤツを見せてやるぜ」

「ところで旧道って早く走れるにゃん?」

「そうね、街道みたいに馬車がいないから速度は出せるわ、その代わり距離は少し長くなるのと途中に宿がないから全部野営になるけどね」

 デニスが教えてくれる。

「野営は問題ないにゃん」

「そうね、ネコちゃんがいれば安心よね」

 ロッジを知ってるデニスたち三人が微笑む。

「安心なのか?」

 チャドだけが首を傾げる。

「ネコちゃんのロッジに泊まれるなら、それこそホテル並に快適よ」

「おお、ホテル並みか! マコトのホテルはやばかったからな」

 そう言うチャドは、ほとんど部屋にいなかったけどわかるのか?

「でも、チャドはテントか毛布でしょう? まさか女子のロッジに入ろうなんて思ってないよね」

「ちょ、おま、オレだけ野宿かよ!」

 オチが付いたところで出発だ。



 ○プリンキピウム街道


 街の門を出るとそこから速度を上げて旧道に向かう。

 陣形は当初の予定通りチャドの婆さんが斥候として前を走り、残りの三人は囮役のデニスを守るためにその左右と後方を固めた。

 前を走るチャドに付いてくだけなので楽ちんな仕事だ。

「ネコちゃん、そんな乗り方で大丈夫なの!?」

「にゃあ、問題ないにゃん」

 鞍の上であぐらをかいてるオレを見て隣を走るデニスが目を剥く。

 いや、そんなに驚かなくても。

「大丈夫だよ」

 リーリはオレの頭の上であぐらをかいていた。



 ○プリンキピウム街道 旧道


 旧道に入ったが、いまのところオオカミしか出ていない。

 いずれもチャドが襲われるだけなのでオレたちはトドメを刺して回収するだけだ。

 馬は止めずに走り続けた。

 休憩は昼飯とおやつ時に道端に馬を停めてオレとアトリー三姉妹とで作った弁当やお菓子を食べるだけで後はひたすら走る。


「本当に馬車が全然いないにゃんね」

「こっちはいろいろ不便だから仕方がないよ」

 旧道も街道も先史文明の遺跡みたいなもので、実際にどちらが古いかは良くわからないらしい。

 かつては旧道沿いが栄え、後に街道沿いが発展したからその名が定着した。

 現在は街道沿いでさえ衰退しつつある。



 ○プリンキピウム街道 旧道 野営地


「この辺りで野営にしようぜ」

 日も沈んで薄暗くなってからチャドが馬を停め野営地を決めた。位置的にはプリンキピウムの巨木群をギリギリ抜けられなかったってところか。

 オレが一日で進んだ距離としては新記録だ。

 こんなに急いで州都に行く用事も無かったし。

 道路脇の野営地は、焚き火の跡があるが最近のものじゃない。

「ネコちゃんのロッジを出して」

 デニスに後ろから抱き着かれて持ち上げられた。

「わかったにゃん」

 ロッジを再生する。

 街道の野営地だったら迷惑な大きさだが誰もいない旧道なら問題ない。絶え間ない改造をしまくっているので見た目は以前と同じだが、魔獣に囲まれても簡単には潰されない防御力を持つに至ってる。

「うお、こいつはスゴいな!」

「ええ、何度見ても半端ない魔力ですわ」

「こりゃ近衛の騎士に見付かったら強制入隊もあり得るな」

 チャドが怖いことを言う。

「六歳の子供を入隊させるのですの?」

「そう悪いヤツらじゃないんだが、庶民と犯罪奴隷の区別が付かない上流貴族のボンボンの集まりだからな」

「十分に悪いよ」

「貴族の価値観なんて俺たちには理解できないから、なるべくヤツらの目には止まらないようにしたほうがいいぜ」

「にゃあ、もちろんにゃん」

 目を付けられても捕まる前に逃げるけどな。



 ○プリンキピウム街道 旧道 野営地 ロッジ


 こちら基準だと行き遅れの女子三人がロッジに入る。

「俺も入っていいんだよな?」

「いいにゃんよ、その代わり猥褻行為をしたら犯罪奴隷にしてオレのお小遣いにするにゃん」

「心配するな、あいつらは俺より強い」

「にゃあ、それもどうにゃん」

「ブシュ!」

 婆さん馬がプルプル震えていた。

「どうした婆さん?」

 震えが大きくなる。

「どうやら寿命が来たみたいにゃん、今日の無理が相当こたえたにゃん」

「ま、マジか?」

「うん、間違いないね」

 リーリの見立てもオレと同じだった。

「自壊用の刻印に魔力が供給されてるにゃん」

「ちょっと待ってくれ! まだ駄目だ、まだ壊れないでくれ!」

 チャドの命令は拒否され自壊プロセスが優先された。

「チャドの馬、オレに診せてもらっていいにゃん?」

「おお、遠慮せずに診てやってくれ」

「にゃあ」

 婆さん馬をサーチする。

 刻印が馬の体内にこれでもかと言うぐらい詰め込まれていた。

「この馬の刻印はスゴいにゃんね、まるで本物を再現しようとしたみたいにゃん」

「かなりの高級品らしいとは聞いてる」

「にゃあ、でもメンテが良くないにゃんね、簡易化した刻印を打ち直してるにゃん、これじゃダメにゃん」

「あれで簡易になるのか!?」

「これはもう刻印の打ち直しじゃ治らないにゃんね、自壊が近いからオレが再生するにゃん」

「マコト、直せるのか?」

「にゃあ、でも、本来の姿に戻るから婆さんぽくなくなるし、鼻も垂らさなくなるにゃんよ、それでもいいにゃん?」

「いや、婆さんぽいのが好みってわけじゃないから問題ない」

「にゃあ、だったら元の刻印をそのまま復活させるにゃん」


 治癒の光を応用して婆さんの時間を巻き戻す。


 震えが止まり、痩せていた身体に筋肉が戻る、洟を垂らしたゆるい顔が精悍な顔つきに変わった。

 全く別の馬だ。

「直ったにゃん、これであと二~三〇〇年はイケるにゃん」

「マコト、本当にこれがオレの婆さんなのか!?」

「ブフ!」

 馬が鼻を鳴らして頷く。

「紛れも無くチャドの馬にゃん、倉庫に入れるにゃん」

「お、おお、婆さんこっちだ……って、もう婆さんじゃないか」

「ブフ」

 馬も頷く。

「新しい名前を考えてやるといいにゃん」

「おお、そうする、何がいいかな」

 嬉しそうなチャドは放って置いてオレとリーリはロッジに入った。


 夕食はオレが作ってテーブルに並べた。

「ネコちゃんの作ったご飯、いつ食べても美味しいね」

「これからもネコちゃんのご飯を食べたいですわ」

 レベッカとポーラは満面の笑みを浮かべる。

「まったくもってその通りだわ」

 デニスも同意する。

「あたしなんか、いつも食べてるよ!」

 リーリが自慢する。

「「「うらやましい~!」」」

「えっへん!」

 実際にはオレじゃなくて精霊情報体と図書館情報体のレシピがスゴいのだ。オレはアレンジしてるに過ぎない。

 前世でそれほど自炊してたわけじゃないからな。

「まさか、野営中にこんな旨いものが食えるとは思わなかったぜ」

 チャドの口にも合った様だ。

「レベッカとポーラも料理しないにゃんね」

「あたしたちだってするよ、焼いたり煮たり、でも塩だけじゃこの味は出ないよね」

「チャドはどうにゃん?」

「俺か? 普段は飲み屋か屋台で食うし、外では干し肉にパンで済ませる」

「デニスは呪いが掛かってるんだよね!」

 妖精のツッコミが容赦ない。

「呪いじゃないけどネコちゃんにお世話になる前は、チャドと同じってのも終わってるよね」

 デニスも自覚はあるらしい。

「私も人のことは言えませんがデニスも相当ですわね」

 ポーラに憐憫れんびんのまなざしを送られる。

「だから、ネコちゃんにお世話になってるの」

 開き直ったにゃん。

「マコト、俺もホテルに住まわせてくれ!」

「チャドのホームは州都と違うにゃん、勝手に移籍したらフリーダが悲しむにゃんよ」

「いや、違うな、フリーダは悲しむんじゃなくて怒るんだぜ」

 肩をすくめる。

「そうにゃん? オレには優しかったにゃんよ」

「冒険者ギルドに莫大な利益をもたらしてくれるマコトだ、可愛がりこそすれ、怒るバカはいないだろ」

「そうにゃん?」

「ここ最近プリンキピウムから貴重な素材が多く上がって来てるが、全部マコトが仕留めたヤツだって話だぞ」

「にゃあ、毎回、買い取り拒否にあってるから、いまひとつ実感が沸かないにゃん」

「そもそも置き場所がないから買い取りできないなんて俺は聞いたことないぞ」

「プリンキピウムでは買い取りを拒否られて初めて一人前なんだよ」

「ああ、それは有りますわね」

 レベッカとポーラが説明する。

「プリンキピウムの冒険者ギルドにも問題がありそうだな」

 チャドはデニスを見た。

「物流の問題ね、こればかりはどうしようもないから」

「デニスの言うとおりにゃん」

「マコトは今回も州都の冒険者ギルドに獲物を売るのか?」

「にゃあ、売るにゃん、ホテルと孤児院には十分ストックしたから他は売るにゃん」

「州都でも買い取り拒否に遭わないことを祈ってるぜ」

「それは嫌にゃんね」

「おかわり!」

 リーリが早くも皿を空にして声を上げた。


 チャドの部屋をロッジの地下に増設する。

 風呂とトイレに冷蔵庫完備なので起床時間まで出て来るなと三人の女子に命令されていた。

 オレはいつものようにリビングに布団を敷いて寝る。

 リーリがおなかに張り付いた。

 旧道は人通りは全くないが、マッチョなシカたちが歩きまわっている。

 一見普通の草食動物だがそうじゃないのは経験済みだ。


 探査魔法を打ったが、特異種みたいな特別危険な獣も盗賊の類も引っ掛からなかったのでオレもそのまま寝た。


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