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ホテルの地下にゃん

『……』

 真夜中に魔法蟻から念話が入った。

『にゃあ、直ぐ行くにゃん』

「あたしも行くよ」

 リーリがオレの寝間着のTシャツの胸元から這い出した。



 ○プリンキピウム ホテル 制限エリア 地下施設


 オレとリーリはペントハウスから専用エレベーターで地下施設まで一気に降りる。

「間もなくにゃんね?」

『……』

 魔法蟻が口をカチカチさせながら頷いた。

 トンネルを掘り進めた魔法蟻たちが遺跡にいよいよ到達するらしい。

 オレは縦坑の縁からこわごわ覗き込む。

 トンネル自体が発光してるので底まで見通せるがかなり深い。

「へえ、かなり深く掘ったんだね、これならもう直ぐ到着間違いなしだよ」

 リーリはオレの頭の上から覗き込む。

「にゃあ、遺跡まで一直線にゃん」

 ほぼ垂直な直径一〇メートルほどの縦坑だ。三〇〇メートルほどの深さになってる。

 蟻たちは青く光る縦坑の壁を縦横無尽に行き来する。

「にゃあ、下まで頼むにゃん」

 オレも魔法蟻の背中に跨った。

 魔法的にくっついたので垂直の壁を歩かれても平気だ。

 縦坑の壁は驚くほどツルツルだが、蟻たちの足はしっかりとグリップしていた。

 グリップするのはオレの配下の魔法蟻たちだけで他所の魔法蟻はそのまま真っ逆さまに墜落する。

 別にここで拠点防衛をする必要はないのだが、魔法蟻のデフォルトの機能の様だ。

 魔法蟻はオレたちを背に乗せたまま約三〇〇メートルの縦坑を螺旋を描きながら仲間たちを避けて一気に降りる。

「にゃあああああ!」

「うわあああああ!」

 ジェットコースターのパワーアップ版だ。この前、乗った時より迫力を増していた。

 あっという間に縦坑の底に到着だ。

「にゃあ、効いたにゃん」

「面白かったね」

「にゃあ、オレにはちょっとスリリング過ぎだったにゃん」

 前の身体だったら間違いなく目を回していただろう。

 蟻の背中から降りて地面に立つ。

 底もまた金属の感触だ。しかもかなり分厚いみたいだ。

「これが遺跡の外殻にゃんね」

『『『……』』』

 蟻たちが頷く。

「止まってるみたいだね、でもこの感触からすると完全には死んでもいないんじゃないかな」

 リーリが遺跡をチェックしてくれる。

「何かに使えそうにゃん?」

「マコトも詳しく調べればわかるよ」

「にゃあ、わかったにゃん、オレもやってみるにゃん」

 遺跡の表面を探査魔法で軽くスキャンする。

「本来は球形にゃんね、直径約三〇〇メートルだからかなりの大きさにゃん、一部がひしゃげてるにゃんね」

「何かあって壊れたんだね」

「修復の途中で魔力切れを起こして機能停止したみたいにゃん」

「すると死んだわけじゃないから修復は可能だね」

「にゃあ、オレだとシステムを立ち上げないとちゃんとした情報が読み取れないけど、おまえたちはこの遺跡は何かわかるにゃん?」

 魔法蟻たちはここの情報を持ってるみたいだった。

『『『……』』』

 蟻たちが答えてくれた。

「図書館にゃん?」

 蟻たちが教えてくれたのは『図書館』だった。

 しかし中で本を読むのでは無く、外からアクセスするらしい。

「にゃあ、記憶石板の親分みたいなものにゃんね」

「この状態だと人間には使えないけど、マコトだったら大丈夫なんじゃない?」

「にゃあ、修理すればイケると思うにゃん」

『『『……』』』

 蟻たちは口をカチカチさせながら同意する。

「まずは、撤収にゃん」

 オレたちはトンネルから這い出したところで、遺跡を分解して格納空間に仕舞い、空いた場所を同じ比重の土砂で埋めた。

 遺跡はオレの格納空間で修理して再起動させるつもりだ。

「遺跡がまるごとマコトの格納空間に入っちゃったの?」

「にゃあ、我ながらこんな大きなモノを格納空間に抱え込めるとはびっくりにゃん」

「修復出来そう?」

 リーリがオレの前でホバリングして顔を覗き込む。

「にゃあ、やってみるにゃん」

 まずは図書館の時間を戻す。

 ひしゃげたのは約五〇〇〇年前だ。つまりオリエーンス連邦時代末期。先史文明が滅んだ頃だ。

 遺跡自体も連邦時代のものだろう。その証拠に精霊情報体にはこの『図書館』に関連する記録がない。

 ひしゃげる直前まで時間を戻し図書館は以前の形を取り戻した。

 鏡面サソリの外殻を彷彿とさせるツルツルした球体だ。

 何故、地面に埋められた図書館の表面をここまで凝ったのかは不明だ。

 形は元に戻ったがシステムは沈黙したままだった。

 空っぽになってる魔力を注ぎ込む。

 手応えを感じた。

「にゃあ、生き返りそうにゃん」

 更に魔力を注ぎ込みオレの持ってる精霊情報体の知識でシステムをハッキングした。

「にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ~ん」

 オレの音声を登録する。

 システムを書き換えてオレがこの図書館のマスターになった。

「にゃあ、生き返ったにゃん」

 早速、図書館の情報にアクセスする。

「これは精霊情報体のオリエーンス連邦版にゃんね、図書館情報体にゃん」

「どれどれ」

 リーリはオレの頭に乗ると格納空間にある図書館に直にアクセスする。妖精魔法は何でもありだ。

「うん、確かに図書館ぽい、それも大図書館だね」

「にゃあ、この情報でエーテル機関の改造の幅が拡がったにゃん」

「その割に魔獣の記載そのものはさっぱりみたいだね」

「にゃあ、軍事機密っぽい情報はほとんど入ってないにゃん」

「この遺跡はどうするの?」

「にゃあ、王国の法律だと領主様に報告しないといけないにゃん、オレの土地だから所有権は主張できるみたいにゃんね」

「どうせ他の人には使えないんだし、そのまま持ってればいいんじゃない?」

「そうにゃんね、機会があったら領主様に報告するにゃん」

 まず信じないと思うけど。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二八日


 ○プリンキピウム ホテル


 明け方、早起きしたオレは図書館情報体から新しく手に入れた知識を使ってホテルを更に改造する。

 魔獣に直接攻撃されてもびくともしない堅牢性と安全性を確保した。

 いったい何と戦ってるのかオレも良くわからないが。



 ○プリンキピウムの森 南西エリア(危険地帯)


 居候たちの朝食を作った後、オレはリーリを連れて森に狩りに出る。どうせ州都に行くんだからと言うことで、奥の危険地帯まで入ってデカい特異種を中心に狩りまくった。



 ○プリンキピウム ホテル ラウンジ


 夕方になってホテルに戻る。

 ラウンジのソファーに座ってリーリと一緒にコーラを飲む。

「にゃあ、コーラが美味いにゃん」

 六歳児の身体には炭酸がちょっとキツいけどな。

「シュワシュワするね」

「にゃあ、それがいいにゃん」

「マコト、アイスを入れて」

「にゃあ、コーラフロートにゃんね」

「フロート好き」

「オレも好きにゃん」

 リーリと自分のグラスにアイスを浮かべた。

「マコトは、ホテルを始めないの? もう建物は出来たんでしょう?」

「リーリの目的はレストランにゃんね」

「えへへ、そうだよ」

「にゃあ、このまま開業しないのも勿体ないけど、不特定多数を入れるのも問題を引き起こしそうで面倒にゃん」

「誰が来るかわからないってのはあるね」

「ホテルの開業が目的で手に入れたわけじゃないから、このままでも問題はないにゃん、しばらくは現状維持にゃんね」

「コーラフロートおかわり!」

「にゃあ」

 リーリにコーラフロートのおかわり作ってるとデニスが帰って来た。

「ただいまネコちゃんたち、ちょっといいかな?」

「お帰りにゃん、どうかしたにゃん?」

「ここに泊めて欲しい子たちが居るんだけど、どうにかならない?」

「泊めて欲しい子?」

 リーリがホテルの入口に顔を向けた。

「にゃあ、ホテルの前にいる冒険者っぽい女の子三人のことにゃん?」

「うん、その子たち」

「にゃあ、いま許可したから入れるにゃんよ」

「ありがとう、いま呼んで来るね」

 デニスが入口に戻った。

 防御結界に守られてるのでオレの許可がないとホテルには入れない。

 そこを無理矢理侵入しようとするとこの前の素っ裸のオヤジみたいになる。

 デニスが三人の女の子たちを連れて戻ってきた。

「ここって幽霊ホテルですよね?」

「いつの間に改装したの?」

「すごく高そう」

 年の頃は十五ぐらいで、ちょっと汚れてるけど可愛い子たちだ。

「三人は三つ子にゃん?」

 思い切り同じ顔だ。

「そうよ、この子たちはアトリー三姉妹、右からアニタ、アンナ、アネリ、全員Eランクの冒険者よ」

 デニスが三人を紹介してくれる。

「正解は左からアニタ、アンナ、アネリです」

 アニタが訂正した。

「あら」

 デニスでも見分けが付かないらしい。

 これはかなり難易度が高いにゃん。

「オレはマコトにゃん、Fランクだから皆んなの後輩にゃん、それでこっちがリーリにゃん」

「リーリだよ、よろしくね!」

「こちらこそよろしく……って、こんなにちっちゃい子が冒険者なの!? しかも妖精さんを連れてるの?」

 アニタが驚きの声をあげる。

「そしてこのホテルのオーナーでもあるの」

「オーナーって、もしかして貴族様ですか?」

 アンナは腰が引ける。

「にゃあ、違うにゃん、普通の冒険者にゃん」

「ネコちゃんのこと普通とは言わないかな? 登録してまだ一ヶ月ちょっとで既にプリンキピウムの冒険者ギルドでは年間売上げトップだもん」

「たまたまにゃん」

「ネコちゃんは魔法使いなの?」

 アネリはオレをじっと見た。

「そうにゃん、オレは魔法使いにゃん」

「魔法使いなら、それも有り得るか」

「そうだね」

「ああ、私たちも魔法を使えたらな」

「調子に乗って今ごろ死んでる」

「ああ、有り得るね」

「でも一度ぐらいは調子に乗りたいよね」

 三姉妹の雑談が続く。

「アニタたちを泊める理由は何にゃん、州都から姉一家でも帰って来たにゃん?」

「それは私の話でしょう! この子たち家賃が払えなくて借家を出されちゃったの、ここ何日か野宿してたんですって」

 入口でウォッシュされても完全に綺麗にならなかったのは野宿のせいか。

「にゃあ、お金がないにゃん?」

「うん、昨日から獲物も獲れてないし」

 アニタが力なく頷く。

「水だけじゃ力が出ないし」

 アンナは首を横に振る。

「ギルドの裏庭を借りたかったんだけど塞がっててダメって言われちゃうし」

 アネリは遠い目をする。

 ギルドの裏庭はオレのせいだ。

「わかったにゃん、困ってる時はお互い様にゃん、喜んで泊めるにゃん」

「あたしたちお金ないけどいいの?」

 アニタが確認する。

「開業前だから要らないにゃん、レベッカとポーラもただで泊まってるにゃんよ」

「レベッカ先輩とポーラ先輩も?」

「にゃあ、あいつらは単に無計画にゃん、三人は、まずは大浴場に行くといいにゃん」

「「「大浴場って、なに?」」」

 三姉妹はそろって首を傾げる。

 こっちの庶民は風呂とは無縁の生活をしてる者が多い。お湯を沸かす魔導具はそう珍しくないが、お湯に浸かるのは一般のご家庭だとなかなか難しいようだ。

「大浴場についてはデニスに聞いて欲しいにゃん」

「わかったわ、三人ともこっちよ、大きなお風呂だからびっくりするわよ」

 デニスに案内されてアトリー三姉妹は、キョロキョロしながらその後に付いて階段を降りて行く。

 オレは皆んなが地下の大浴場に浸かってる間に夕食の準備に取り掛かった。



 ○プリンキピウム ホテル レストラン


「「「美味しい!」」」

 アトリー三姉妹は、スウェットに身を包んでもつ煮を食べてる。

「マコトのお料理だからね、美味しいのは当然だよ!」

 もちろんリーリも一緒に食べてる。

「ネコちゃん、ご飯まで食べさせてもらって本当にただでいいの?」

 アンナは心配そうにオレを見た。たぶんアンナだと思う。

「にゃあ、後で請求したりしないから安心していいにゃん」

「そう、ネコちゃんは太っ腹なんだよ」

「私たちは何度も助けられてますわ」

 三姉妹の先輩レベッカとポーラもスエット姿だ。ちなみにチャドは今晩も飲みに行ってる。

「後で請求されても払えないけど」

 アネリが寂しそうに微笑む。こっちもアネリのはずだ。

「うん、払えない」

 アニタは断言する。残りはアニタだからたぶん合ってるはず。

「そうだね、払える気がしない」

 アンナもうなずいた。

「にゃあ、アンナたちは普段何を狩ってるにゃん?」

「罠を使ってウサギを獲ってるよ」

 アニタが答えた。もしかしてそっちがアンナか?

「にゃあ、罠が使えるのはスゴいにゃんね」

「そんなことないよ、仕掛けても狩れてないんだし」

 アネリかと思うが違うのかも。

 最初から良くわからなかったけど、同じスエットを着たら余計にわからなくなった。

「剣は使わないにゃん?」

「あたしたち剣も射撃も全然ダメだから」

 アンナかもしれないアニタが答えた。もしかしたらアネリの可能性もある。

「銃もダメにゃん?」

「連射しちゃうし、的に当たった事がないからギルマスから禁止令が出ちゃった」

 アンナじゃないかもしれないアニタかアネリが答えた。

「それ以前に銃なんて買えないけど」

 アネリだと思うのだが自信が揺らぎまくりだ。

 もう無理に特定しなくてもいいか。

「にゃあ、もしかして剣も禁止されたにゃん?」

「いや、それはないよ、ただ力がなくて上手く振れないんだよ、弓もヘロヘロだし」

「おなかが空いて力が入らなくてさ」

「孤児院を出た時には『やった、これでおなかいっぱい食べられる!』って思ったんだけどね、現実は甘くなかったわけよ」

「にゃあ、苦労してるにゃんね」

 十二歳で登録して現在十四歳のアトリー三姉妹は、いまだにEランクの底辺らしいから、おなかが空いてるのを差し引いても冒険者としての適性があまりないのかも。

「今日はご飯も食べられたし屋根の下で眠れるから、明日は朝一で動けそうだよ」

「うん、いっぱい捕まえられそうな気がする」

「明日は、ネコちゃんにウサギの煮込みを作ってもらおう!」

「「「おう!」」」

 三姉妹は声をそろえた。

「ダメよ、あなたたちはしばらくここに置いてもらって体調を整えなさい」

 セリアも戻って来て一緒に食事してる。

「それがいいね、無理をして怪我なんかされたら、ここを紹介した意味が無くなっちゃうもの」

 デニスも同調する。

「何もしないのは落ち着かないよ」

「うん、落ち着かない」

「これまで、何かしないと死んじゃう環境だったから急にはね」

 アトリー三姉妹の言ってることはよく分かる。社会保障など無いに等しい世界だ。立ち止まれば命が危うくなるのも事実だ。

「だったらマコトにお料理を教えてもらったら?」

 リーリがスプーンを魔法で操りながら提案する。

「にゃあ、それいいにゃんね、オレが料理を教えるから、朝昼晩のご飯を作るといいにゃん」

「「「ご飯?」」」

 アトリー三姉妹はキョトン。

「ナイスアイデアだよ、ネコちゃんはもう直ぐ州都にお出かけしちゃうから、その間どうしようって思ってたんだよね」

 激しく同意するセリア。

「アニタたちがご飯を作ってくれるなら安心ね」

 デニスは、お姉さんぽく何気に情けないことを言ってる。

「にゃあ、デニスとセリアは憶えないにゃん? 料理ができない呪いを解くいい機会にゃんよ」

「ほら、私たちって冒険者ギルドでの仕事があるから」

 デニスは首を横にブンブン振る。

「そう、冒険者ギルドはすごく忙しいの!」

 セリアも何か必死だ。

「にゃあ、そうにゃんね、アニタたちはどうにゃん?」

「やれることが有るならやるよ」

「うん、働く」

「出来るかどうかわからないけど」

「にゃあ、やる気があれば大丈夫にゃん」


 オレは早速、厨房でアトリー三姉妹に調理方法やレシピを伝授する。

「オレの額に額をくっつけるにゃん」

「額?」

 脇の下に手を入れられひょいと持ち上げられた。

「どれどれ」

「もうちょっと詰めて」

 三人が一度におでこを近づけて来る。

「にゃああ、ひとりずつにゃん!」

 手取り足取りよりも確実に伝える為に直接知識を流し込む。

「「「おおおお」」」

 ついでに読み書きと計算も伝授した。

「これでそこの厨房を使えるにゃんよ、魔導具がない他の厨房でも応用は利くはずにゃん、アニタはどうにゃん?」

 誰が誰だかわからないのでこちらから名前を呼んだ。

「うん、たぶんできると思う」

 アニタが頷く。

「後は身体が慣れればオレと同じぐらいできるはずにゃん、アンナはどうにゃん?」

「うん、頑張る」

 アンナはギュッと拳を握った。

「アネリもイケそうにゃん?」

「うん、やるよ」

 アネリも気合が入る。

「これで料理人は確保したから、ホテルをオープンさせちゃっても良いんじゃない?」

 リーリは早くオープンさせてレストランに入り浸りたいのだろう。

「にゃあ、そうは言っても料理人だけじゃまだ人が足りないにゃん、少なくともフロントがいないと始まらないにゃんよ」

 自動チェックインの魔導具はあっただろうか?

「ネコちゃん、それってあたしたちがここで料理人をするってこと?」

 アニタが手を挙げた。

「にゃあ、嫌なら別にいいにゃんよ、他を探すにゃん」

「いえ、堅気の仕事に就けるなら是非やりたいです!」

 アニタはオレを抱き上げた。

「外を駆け回らずに済むし」

 アンナは何やら回想してる。

「憧れのご飯と屋根がある生活」

 アネリはうっとりしてる。

「厨房用の服も用意するにゃん」

「本格的だね」

「にゃあ、形から入るにゃん」

 アトリー三姉妹には明日の朝ごはんから手伝ってもらうことで話は決まった。



 ○プリンキピウム ホテル 女子従業員寮


「ネコちゃん、あたしたち一人一部屋でいいの?」

 三姉妹の従業員寮の部屋割りをしたところでそんなことを聞かれた。

 従業員ということでこっちに住んでもらう。

「アニタは三人一緒がいいにゃん?」

「アニタはあたしだよ」

 問い掛けた隣の子が手を上げた。

「アンナにゃん?」

「残念、アンナはあたし」

 もう一つ隣の子が手をあげる。

「アネリにゃん?」

「おお、正解」

「やっぱり、オレには見分けが付かないにゃん」

「わかるよ、良く間違われるもん」

 アネリが頷く。

「見分ける努力を放棄してる人も少なくない」

 アンナは遠い目をする。

「それはそれで失礼な話にゃんね、それで三人一緒がいいなら三人部屋を用意するにゃんよ」

「いや、一人部屋でお願いします! いままで一人部屋なんて経験した事が無かったから確認したかっただけだよ」

 アニタが慌てて一人部屋を希望した。

「うん、それはあるね、いままで何をするにも三人一緒だったから」

 頷くアネリ。

「緊張するけど、一人部屋でお願い」

 アンナも一人部屋がいいらしい。

「わかったにゃん」

 ドアにアトリー三姉妹それぞれの名前の入ったプレートを貼り付ける。

「にゃあ、トイレとお風呂の使い方はわかるにゃんね」

「うん、何故か知ってる」

 アニタの言葉に他のふたりも頷く。

「明日の朝から頼むにゃん、にゃあ、お休みにゃん」

「おやすみね!」

 リーリもオレの頭の上から手を振る。

「うん、頑張る、お休みネコちゃん、妖精さん」

「「お休み!」」


 チャドは戻って来なかった。まあいいけど。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二九日


 ○プリンキピウム ホテル 厨房


 翌朝、アトリー三姉妹に朝食を作ってもらった。おそろいの白い厨房服を着てるので相変わらず見分けが付かない。

 昨日、厨房機器の魔導具の使い方もレシピもすべてエーテル器官を通して伝授したのでオレは見ていただけだったがちゃんとそれなりのモノが完成した。

「にゃあ、オレとリーリが味見をするにゃん?」

「「「お願いします」」」

 三人そろって頭を下げた。

 作ってくれたメニューは豆のスープに厚焼きベーコンにサラダそれにパン。それを一つ一つ味見した。

「にゃあ、どれも美味しいにゃん、ちゃんと出来てるにゃん」

「うん、合格だよ!」

 リーリからもOKが出た。

「ふぅ、安心した」

 アニタが安堵の息を吐く。

「自分でもちゃんと出来てるか半信半疑だったんだよね」

 アンナも緊張を解いた。

「ネコちゃんの魔導具と用意してくれた食材が無かったら出来なかったよ」

 アネリはオレの頭を撫でる。

 ちなみに見分けが付いてないのでいまのは適当だ。

「作り方はわかってるはずだから魔導具が無くても自分たちだけでもできるにゃん」

「頭でわかっていてもたぶん無理だよ」

「出来たとしても時間が掛かっちゃう」

「うん、掛かる、いまの数倍は掛かるよ」

「道具はそのためのものだから当然にゃん」

「それもそうか」

「おかわり!」

 リーリが声を上げた。試食じゃなくて本気食いだった。

「「「はい、ただいま」」」

 三姉妹は手早くおかわりを用意する。

「にゃあ、次は皆んなを起こして食べさせるといいにゃん」

「うん、そうする」

 代表してアネリが答えると三人はデニスとセリアそれにレベッカとポーラを起こしに行った。

 昨夜戻らなかったチャドはいつの間にかロビーのソファーに転がっていた。酒臭い。


 アトリー三姉妹が作った朝食はデニスたちにも好評だった。

「うー」

 チャドは二日酔いだったので水だけ飲んで部屋に戻って行った。



 ○プリンキピウム ホテル 裏庭


「にゃあ、朝食に卵がないのはいまひとつにゃんね」

 ホテルの裏庭で魔法鶏を作る。

『コッコッコ』

 褐色のガラス細工みたいな鶏が次々と歩き出す。

 一〇羽の魔法鶏を作り上げたオレはアトリー三姉妹を裏庭に連れて来た。

「これもしかしたら魔法鶏?」

「にゃあ、アニタ正解にゃん」

「アニタは私」

 隣の子が申し訳無さそうな顔で手を挙げた。

「にゃあ、またやってしまったにゃん」

「仕方ないよ」

「にゃあ、それでアネリは魔法鶏を見たことがあるにゃん?」

「ううん、初めて見た、それと私はアンナね」

「みゃあ」

「良くあることだから大丈夫だよ」

 アネリに慰められた。

「にゃあ、ここからが本題にゃん、三人に卵の採り方を教えるにゃん」

「私たちに採れるかな?」

 三人はそれぞれ鶏たちを目で追う。

「鶏を捕まえるわけじゃないから簡単にゃん、孤児院の子供たちも出来てるにゃんよ」

「デニスさんとセリアさんに聞いたけどネコちゃん、私たちがいた孤児院の面倒も見てるんだってね」

「六歳なのにスゴい」

「あたしたちなんか、あの子たちが困ってるのに何も出来なかったのに」

「にゃあ、他人のことは自分たちの食い扶持が稼げたら考えればいいにゃん」

「「「ごもっともです」」」


 卵を手に入れるとアトリー三姉妹は直ぐに調理人の目になった。

「これで目玉焼きとか玉子焼きを作ればいいんだね」

「そうにゃん」

 間違えるとアレなので名前は割愛させていただきます。

「ゆで卵も有りだね」

「にゃあ、ゆで卵は奥が深いにゃんよ、味付け玉子も最高にゃん」

「早速、試してみようか?」

「ネコちゃん、卵を使ってもいい?」

 三人がオレを見る。

「構わないにゃんよ、納得するまで作るといいにゃん、卵も好きなだけ鶏にもらって欲しいにゃん」

 卵の入ったザルを三人に渡した。

「それで、こっちは魔法牛にゃん、ミルクを出してくれるにゃん」

 魔法牛も再生していた。

「「「ミルク?」」」

「プリンの材料にゃん」

「「「ああ、あれね」」」

「にゃあ、明日からオレたちは州都に行くからその間、好きにしていいにゃん」

「あたしたちの試作品、孤児院の子や後輩たちにあげてもいい?」

「いいにゃんよ、ホテルの馬車も好きに使って構わないにゃん」


 魔法牛のミルクの搾り方を教えた後は、厨房をアトリー三姉妹に任せてオレとリーリはまた森に潜った。


 無論、大猟だ。


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