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幽霊ホテルにゃん

 ○プリンキピウム 幽霊ホテル


 不動産屋さんから正面玄関の鍵を受け取ったオレたちは早速、道路を渡って冒険者ギルドの対面にある幽霊ホテルに向かった。

 デニスとセリアは、オレと一緒に付いて来てくれると言ってくれたが今回は危ないので断った。同行者はリーリだけだ。

「にゃあ、敷地に一歩入っただけで尻尾にビンビン来るにゃん」

「うん、何かいろいろいっぱいいるね」

 鍵穴にゴツい鍵を差し込んで解錠する。これは前世と違って魔導具だ。形はそっくりだが仕組みはまったく異なっていた。


『『『……』』』


 これまた大きな扉をよっこらしょと開けると薄暗いロビーから人の囁き合う声がした。

 ホラー映画さながらだ。

 ロビーの床には刻印が刻まれてる。

「これは聖魔法のつもりらしいにゃんね、でも全体的に間違ってるにゃん」

「聖魔法は使い手が少ないから仕方ないんじゃない」

「にゃあ、まずは埃っぽいのを何とかするにゃん」


 建物全体にウォッシュを掛ける。


 建物のあちこちに刻まれたデタラメな刻印もすべて消し去った。埃っぽいのとかび臭いのも一気に取り除く。

「誰が書いたのか知らないけど全くの逆効果の刻印だったにゃんね」

「わざと怨霊を活性化させてるんじゃない?」

「にゃあ、それだと誰も得をしないにゃんよ」

「うーん、それもそうだよね」

 リーリはオレの頭の上でうなった。

「にゃあ、本当の除霊はこうやるにゃん!」

 建物全体を聖魔法の結界で包み込んだ。

 聖魔法の青い光が広がる。

 このホテルに溜まっていた不要なマナを急速に消費させるべく、すべてを浄化させ聖別した。

 淀んだ空気も一掃された。


「にゃあ、ぶっ飛ばされたくなかったらそろそろ出て来るにゃん!」


 オレの声に反応して奈落からせり上がって来るように青白い顔をした背の高い痩せた若い男が現れた。

 魔法使いの出で立ちだ。

 怨霊でも幽霊でもない生きてる人間だった。

「にゃあ、おまえがここを幽霊ホテルにした犯人にゃんね?」

 男は薄ら笑いを浮かべて剣を抜いた。

 剣からは冷気が白く漂う。アーティファクトまでは行かないが魔法を乗せられる剣のようだ。

『私の術を見抜くとは大したものだ、小さき少女よ』

「冒険者が嫉妬云々の話は後付の嘘にゃんね、実際はこの娼館にいた人間を贄にした禁呪が行われたにゃん」

 オレは無手のまま拳を突き出して構えた。

『禁呪ではない、神に至る秘術だ』

「その秘術とやらは、オリエーンス連邦の法律では禁呪に分類されてたにゃんよ」

『ほう、モノを知らぬ訳ではないようだな?』

「とにかくここはオレが買ったから、おまえには出て行ってもらうにゃん」

『小さき少女よ、おまえの魔力を得れば、私は時を待たずに神の領域に到れそうだ』

「神様はそんなに安っぽくないにゃん」

『なに、直ぐにわかる』

 男は床に剣を突き刺し刻印を刻んだ。

「にゃお! おまえオレのホテルに傷を付けるんじゃないにゃん!」

『なっ!?』

 目の前に迫ったオレに驚きの表情を浮かべた。

『げっ!』

 オレの回し蹴りを食らった男は向こう側の壁までぶっ飛んだ。

 ついでに気絶した男のエーテル器官を弄って魔法を使えなくする。イカレポンチに魔法を使わせるとろくなことにならない。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー


「ネコちゃんその男、何なの!?」

 セリアが声を上げる。

 オレは素っ裸の白髪で貧相に痩せたオヤジを縄で縛って冒険者ギルドに連れて来た。

 それまでのロビーのざわめきが一気に静まり返る。

「二〇年前の娼館での事件の犯人にゃん、それから二年前の首吊りに至るまでの事件も全部、こいつの犯行にゃん」

「は、犯人!? この人が今日まであそこにいたっていうの?」

「そうにゃん、格納空間に隠れて仮死状態で眠りながら魔力と人の魂を集めていたにゃん」

「ええ!? それって魔法使いってこと、危険はないの?」

「にゃあ、魔法は使えなくしたから大丈夫にゃん」

「夜中に不動産屋さんの家の周りを徘徊してたのもこの男なの?」

「残念ながら、それは別口にゃん」

「幽霊ホテルとは無関係だね」

 妖精も断言する。

「にゃあ、だから不動産屋さんには注意するように言って欲しいにゃん」

「ええ、伝えておくね」



 ○プリンキピウム ホテル


 男を引き渡してオレたちは向かいのホテルに戻った。

 全体の聖別が終わり、さっきのイカレた魔法使いに魂を囚われていた被害者たちも生前の姿を取り戻していた。

 いまはもう彷徨う黒い人影じゃない。

 透き通ってはいるがいずれも穏やかな表情を取り戻していた。

「にゃあ、送るにゃん」

『『『……』』』

「にゃあ、お礼はいいにゃんよ」


 聖魔法の光でホテルを満たすと人々の魂は光の粒子になって空に昇って行った。


 次に修復と改造だが、元の娼館に戻すつもりはない。

 下品な内装は一掃する。

「建設時のリゾートホテルに戻すのが良さそうにゃんね」

「マコト、レストランは外せないよ!」

 リーリがオレの頭の上からリクエストする。

「にゃあ、わかってるにゃんよ、ちゃんと作るにゃん」

 ラウンジとレストランは下品にならない程度に豪華にした。

 客室はロッジのそれにバス・トイレを増設した感じで、鏡面サソリ由来の鏡を使ったインテリアは、いざとなったらミラーハウスにもなる。

 どういうシチュエーションでミラーハウスになるのか想像が付かないけどな。

「空調を取り付けて、各入口には自動のウォッシュを設置するにゃん」

 エーテル機関をどっさりぶち込んでロッジ並みの居住性を目指す。

「にゃあ、それと地下の大浴場は欠かせないにゃんね」

 温泉リゾートみたいになって来たのはご愛嬌だ。元庶民の日本人に本物のセレブリティを求めないで欲しいにゃん。

 卓球台は我慢した。こっちにはないだろうから。

 ウォッシュ&修復で大理石の様なホテルの外装も復活した。蔦が中途半端に絡まった以前の気味の悪さは一掃される。

 これなら何処から見ても高級リゾートホテルだ。たぶん。


 地下大浴場の更に下には工房を作り、更にその下に魔法蟻たちの拠点を作る。

 まずは魔法蟻三〇匹を出す。

 ズラッと並んだ蟻たちに訓示を述べる。

「お待たせにゃん、諸君らにはこの下にある遺跡に通じるトンネルを作って欲しいにゃん」

「いい感じに頼むよ!」

『『『……』』』

 さっと右前脚を挙げて敬礼する魔法蟻たち。口をカチカチ鳴らす。

「追加の仲間が欲しい時は連絡を頼むにゃん」

 うなずいた蟻たちは早速、行動を開始した。



 ○プリンキピウム ホテル ラウンジ


 リーリがラウンジでケーキを食べ、オレが魔導具の設置と調整をしてるとホテルの表玄関にセリアとデニスが来ていた。

 もう外は薄暗くなっている。

「いらっしゃいにゃん」

「見に来たよ」

「うわ、お化け屋敷がもうこんなに綺麗になっちゃったんだ」

「元がしっかりしてたから大した手間を掛けずに綺麗になったにゃん」

「お化けはもう出ないんだよね?」

「にゃあ、いないにゃんよ」

「本当に退治しちゃったんだ」

 セリアがおっぱいを大きく弾ませて驚く。

 おっぱいの動きが驚きのバロメーターにゃんね。

「幽霊を退治できるなんて、ますますネコちゃんが何で冒険者をしてるのかわからなくなって来たわ」

 デニスはちょっと呆れた感じ。

「それでホテルはいつオープンするの?」

「にゃ? オープンにゃん」

「これならすぐにでもオープン出来そうだけど」

「にゃあ、ホテルの開業なんてそんなに簡単にはできないにゃんよ」

 オレはここの地面を掘りたいから買っただけなので、本当にホテルにするとかまったく考えて無かった。

「従業員もいないとダメよね」

「あーでも、冒険者が泊まるには立派すぎるか」

「言えてる、この街に留まってる冒険者は家を借りるか、安い子ブタ亭だものね」

「にゃあ、オレもそれが経済的だと思うにゃん」

 遺跡が優先なので、ホテルの完成は少し先になるし。

「もしかして、しばらくネコちゃんと妖精さんだけで使うの?」

「そうにゃん」

「ダメよ、それは危険だわ」

「にゃあ、少なくとも森の中より安全にゃん」

「甘いわよ、ネコちゃん、悪いやつは何処にでもいるわ」

 魔獣よりヤバいのが街の中に居るとは思えないが。

「安心して、お姉さんたちが今日から一緒に泊まり込んであげる」

「にゃあ、セリアとデニスは家に帰らなくてもいいにゃん?」

「いま姉夫婦一家と一緒で辛いの」

 デニスがしんみり呟く。

「一人暮らしじゃダメにゃん?」

「私、ご飯を作れないから」

 異世界に来ててへぺろが見られるとは思わなかったにゃん。

「にゃあ、だったらセリアとふたりで暮らしたらいいと違うにゃん?」

「私の部屋、もうすぐ取り壊すから出て行けって大家さんから言われてるの」

「別の部屋は借りられないにゃん?」

「お金が無くて」

 セリアもてへぺろ。

「にゃあ、何でお金がないにゃん?」

 冒険者ギルドの職員は家賃が払えないほど薄給ではないと思うが。

「セリアの場合は実家にお金を送ってるからだね」

「うん、弟と妹が五人もいるから大変なのよ」

「それに私と同じでセリアもご飯は作れないからお金がかさむのよね」

「にゃあ、全部外食じゃお金が掛かるにゃんね」

 前世のオレも三食コンビニなんてのも珍しく無かった。それに牛丼を挟むとほとんどそのローテーションだ。

 しかしこの国のあの不味い料理すら作れないとはどういうことだ?

「ふたりとも料理が作れなくなる呪いでも掛けられたにゃん?」

「ああ、それはあるかもしれないね、何故か焦げたり生だったりするから」

「うん、きっと呪いだよ」

 間違いなく一〇〇%違う。

「料理のできる男と結婚するのはどうにゃん?」

「男はちょっとね」

「私も」

 デニスとセリアがそろって横を向いて暗い顔をする。

 地雷か!?

 ここには地雷がいっぱい埋まってるにゃん!

「決めた! 私、ネコちゃんをお嫁さんにする!」

「私も!」

 ふたりに抱き付かれた。

「にゃああ! ちょっと落ち着くにゃん!」

 それでもふたりに揉みくちゃにされた。

「にゃあ、わかったにゃん、しばらくここに泊まっていいにゃん、でもオレは明日から州都に行くから面倒は見れないにゃんよ」

「大丈夫、住むところが有れば何とかなるわ」

 本当だろうか?



 ○プリンキピウム ホテル 制限エリア 地下施設


 魔法蟻たちは順調にトンネルを掘り進んでる。

 追加で二〇匹出したので合計五〇匹で掘る速度を上げている。

「あと一日か二日で目標の遺跡にたどり着きそうにゃん」

「そうみたいだね」

「にゃあ、リーリはどんな遺跡が埋まってるかわかるにゃん?」

「動いてないからはっきりとはわからないけど、普通の人間には使えないものだよ」

「にゃあ、使えないにゃん?」

「マコトなら使えるかもね」

「オレなら大丈夫にゃん?」

「遺跡全体で一つの魔導具だから」

「にゃあ、何かわからないけど、面白そうにゃん」

「うん、面白いと思うよ」

「にゃあ、ただ遺跡の防御機能と喧嘩しないようにしたいにゃん」

「魔法蟻が壊されたら大変だものね」

「にゃあ、魔法蟻は大事なオレの仲間にゃん」

「下に埋まってるのは、遺跡としては死んでる可能性が大きいから心配はいらないと思うよ」

「にゃあ、到達したらまずは確認にゃんね」



 ○プリンキピウム ホテル 厨房


 厨房を改造して調理補助系の魔導具で埋め尽くす。

 もつ煮専用の鍋も入れる。

 プリンキピウムでは獣の内臓を食べない。

 冒険者ギルドで聞いたが、解体されず持ち込まれた獣の内臓は新鮮な物でも焼却処理してしまうらしい。

 たぶんこの国全体がそうなのだろう。

 おいしく食べるには下処理が大変だが、その辺りの知識も皆無の様だ。極力調理に手間を掛けないお国柄では仕方がないか。

 そこで下処理も含めて全てやってくれるもつ煮専用の魔導具の鍋をこしらえた。これがあればパンに合う洋風のもつ煮をいくらでも作ってくれる。

 オレが食べたいから作るんだけど。


「ネコちゃん、何を作ってるの?」

 自分たちで選んだ客室で着替えたデニスとセリアが厨房にやって来た。

「もつ煮にゃん」

「「もつ煮?」」

 ふたりして首を傾げる。

「獣たちの内臓の煮込み料理にゃん」

「えっ、内臓なんて食べられるの?」

「美味しいにゃん」

「美味しいの?」

「食べてみるにゃん?」

「「うん」」

 器にもつ煮を盛り付けパンと一緒に出してやる。

 ふたりは恐る恐るスプーンを口に運んだ。

「「美味しい!」」

 声をハモらせる。

「へえ、こんなに美味しいんだ」

「にゃあ、新鮮な内臓だったら、ちゃんと下処理すれば食べられるにゃん」

「その下処理が難しそうね」

「そうにゃんね、簡単ではないにゃん、手間が掛かるにゃん」

「でしょうね、そうじゃなかったら皆んな食べてるよね」

「マコト、あたしも食べる」

 リーリがエプロンを引っ張った。

「にゃあ」

 リーリの分も器に盛ってやった。


 三人に給仕してるところにキャリーとベルから念話が入った。

『ヤッホー、いま大丈夫?』

『にゃあ、大丈夫にゃん』

『いま、マコトは何処にいるの、森の中?』

『プリンキピウムの街の中にゃん』

『冒険者ギルドでキャンプしてるの?』

『冒険者ギルドの向かいにゃん』

『冒険者ギルドの向かい?』

『にゃあ、冒険者ギルドの向かいにあったホテルを買ったにゃん』

『ホテルを買った!?』

『唐突すぎる行動なのです』

『にゃあ、ちょっとホテルのある場所に拠点を置く必要が出来たから仕方なく手に入れたにゃん』

『普通は仕方なくても簡単には手に入れられないよ』

『空き家だったから安かったにゃん』

『空き家でもホテルは高いのです』

『諸経費込みで大金貨三枚にゃん』

『確かにホテルなら安いけど幽霊でも出るの?』

『にゃあ、幽霊もいたにゃん、それと生きてる殺人鬼がいたにゃん』

『『殺人鬼!?』』

『にゃあ、賞金首だったので、おかげで早くも黒字にゃん』

 あの男には大金貨五枚の値段が付いていた。

『スゴいとしか言えないのです』

『場所はプリンキピウムの冒険者ギルドの真向かいだから今度泊まりに来て欲しいにゃん』

『ああ、確かに売り出されてたホテルみたいのが有ったね』

『幽霊がいっぱいいたのです』

『オレの聖魔法で幽霊は皆んな天に還ったにゃん』

『それは、いいことをしたね』

『聖魔法まで使えるとは驚きなのです』

『使えると便利にゃん』

『建物を浄化するような聖魔法が使えるならお金になるよ』

『魔力をバカ食いするから複数人でやるのが基本なのです、しかも高額な謝礼が必要なのです』

『にゃあ、聖魔法で儲けようとは思わないにゃん』

『マコトはいい人なのです』

『にゃあ、そうでもないにゃんよ』



 ○プリンキピウム 孤児院


 念話と給仕を終えたオレはリーリを連れて孤児院にもつ煮と獣の肉を持って行った。

 地下に作った保管庫に収める。

「チーズは出荷できたにゃん?」

「はい、問題なく始まりました」

 チーズの製造と出荷はアシュレイに仕切ってもらってる。以前から実質的な院長だったのでそつなくこなしてくれていた。

「ネコちゃんが戻って来たの?」

 メグを先頭に風呂上がりの子供たちが集まってきた。入浴の習慣と新しく清潔な服で以前のような暗く薄汚い印象とは完全になくなった。

 欲を言えば痩せすぎの身体にもう少し肉がほしい。ただここで暴食の悪癖を付けると大変なことになるので、そこはしっかりとコントロールしている。

「マコトは森に行ってたのか、強い獣はいたか?」

 バーニーは獣に興味津々だ。

「にゃあ、深いところまで潜ったから特異種がいっぱいいたにゃん」

「「「特異種!?」」」

 子どもたちが驚きの声をあげた。

「うわ~全然狩れる気がしないよ」

 ブレアは大げさに天を仰ぐ。

「にゃあ、街に近い場所にいた危険な獣はかなり間引いたから門の近くは以前より安全になったにゃん、でも油断は禁物にゃんよ」

「わかってる、それにマコトが頼んでくれたジャックさんとバッカスさんがいてくれるから大丈夫だよ」

「にゃあ、カラムがいれば無茶はしないと思ってるにゃん」

「俺だって無茶はしないぞ」

 バーニーも主張する。

「にゃあ、そんなのリーダーなんだから当然にゃん」

「えっ、俺がリーダーなのか?」

「アシュレイは森に行かないんだから、次に年上のバーニーが森に行くメンバーのリーダーと違うにゃん?」

「そうだよ」

「だね」

 ブレアとカラムが頷く。

「そう、そうだよ、俺がリーダーだ」

 バーニーもうなずいた。

「にゃあ、リーダーは威張るのが仕事じゃないから勘違いしてはダメにゃんよ」

「そんなことわかってる」

 全員が「本当かな?」という眼差しを向けていた。

「にゃあ、遅くなるからオレはそろそろ帰るにゃん」

「ネコちゃん、何処に帰るの?」

 メグがオレのセーラー服を引っ張った。

「にゃあ、オレはホテルを買ったにゃん、まだ工事中だけど住めるにゃん」

「マコトさんはホテルを買ったんですか?」

 アシュレイが目をパチクリさせる。

「にゃあ、冒険者ギルドの向かいにある通称幽霊ホテルにゃん」

「「「幽霊ホテル!」」」

「「「知ってる!」」」

 子供たちも良く知ってるらしい。子供は怖い話が好きだから当然か。

「大丈夫なのか?」

「ネコちゃん、お化けは怖くないの?」

 メグがオレに問いかける。

「にゃあ、それにお化けは残らず天に還ったからもう出ないにゃん」

「ネコちゃんは、お化けも退治するんだ」

「「「スゴいね」」」

「にゃあ、それほどでもないにゃん」



 ○プリンキピウム ホテル


 子供たちにまた州都に行くことを伝えたオレは遅くなる前にホテルに戻って、建物を調整し敷地を囲う塀を作った。



 ○プリンキピウム ホテル 制限エリア 地下施設


 オレとリーリはエレベーターで地下に戻った。

「魔法蟻が来たよ」

「にゃあ」

 魔法蟻が一匹、報告にやって来た。

『……』

 口をカチカチさせる。

「にゃあ、仲間の追加と拠点内にエーテル機関を設置するにゃんね、わかったにゃん」

 魔法蟻の背中に乗ったオレたちはホテルの地下に作られた拠点、またの名を魔法蟻の巣の建設現場に降りる。



 ○プリンキピウム ホテル 制限エリア 地下拠点


 トンネルと同じく地下施設内も魔法蟻じゃないとまともに移動できない。

「残りの魔法蟻を全部出すにゃん」

 地下に作られた大ホールならスペース的には十分と言うことで、一〇〇〇匹強の魔法蟻を全て出した。

 それから魔法蟻に請われるままに拠点内にエーテル機関を設置して行く。

 プリンキピウムの地下に強固な防御結界が展開される。

 あくまで魔法蟻用の地下施設というか、巣なので人間にはまともに使えない代物になる予定だ。必要があれば人間が使えるように改造するが、いまのところは魔法蟻専用で問題ない。

 表面がツルツルしたチューブ状のトンネルは魔法蟻に乗ってないと移動も難しい。これが垂直な縦坑となったらオレでも難儀する。

 魔法蟻の背中に乗っても絶叫マシンさながらだし。

「にゃあ、人間用の避難所ぐらいは作ってもいいかもしれないにゃんね」

 物騒な近衛軍が遺跡を掘り返してるうちは安心できないし、街に魔獣が来ないとも限らない。

「にゃあ、おまえら後は頼んだにゃん」

「頼んだよ!」

『『『……』』』

 オレたちは口をカチカチさせる大勢の蟻たちに見送られて地下施設に戻った。

 そこから直通の専用エレベーターで屋上のペントハウスに上がる。



 ○プリンキピウム ホテル 制限エリア ペントハウス


 ペントハウスは今回の改装でオレが付け加えたものだ。ジャグジーがある。

「ブクブクしてるね」

「にゃあ、それがいいにゃん」

 オレはジャグジーに浸かりながら夜空を見上げた。そこのオレの知ってる月は無く代わりにずっと大きなオルビスが夜空に青く輝く。

「オルビスにも人が居そうにゃんね」

「いるんじゃない」

 目を凝らすと夜の部分に点々と灯りが見えた。

「にゃあ、あちらとは行き来できないにゃん?」

「あたしが知る限りないかな」

「にゃあ、飛行機が無くては行けないにゃんよね」

 精霊情報体にもオルビスに行った記録はない。

「空を飛ぶ道具は有るみたいにゃんね、作れそうで作れないのが残念にゃん」

 例えばエンジンを魔導具に置き換えた飛行機なら作れるかもしれない。ただそれを飛ばせるかと言えば微妙だ。

 前世がパイロットならイケたか?

「空飛ぶ乗り物は、いまは使えないんじゃない? 高度限界があるし」

「にゃあ、高度限界にゃんね」

 図書館でその情報は仕入れている。

 レーザーが無差別に攻撃してくる高さが約三〇〇メートルなのだ。魔獣が発射してるというのが定説だが確固たる証拠はない。

 異世界初日のオレも撃たれたわけだが、確かに魔獣が発射していたどうかは不明だ。あの時はそれどころじゃなかったし。

 高度限界がある故に過去には有ったはずの空を飛ぶ乗り物は全く発達していない。と言うかいまのところドラゴンゴーレム以外、見たことがない。

 アレは背中に乗れないこともないレベルの代物だけどな。

 レーザー攻撃なら防御結界で何とかなりそうなので、機会があったら空を飛ぶ乗り物は手に入れたい。

 オレでも飛ばせるモノ限定で。

「にゃ~」

 オレはビールの代わりに麦茶を飲む。舌がすっかりお子様になったオレには麦茶の苦味でさえギリギリだ。

「ふぅ、美味しい」

 リーリは最初から甘いジュースだった。


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