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森で遊ぶにゃん

 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


「プリンキピウムの森はやっぱりいいにゃん」

「いいよね」

 匂いがいい。

 歯応えのある獲物を求めて普通の冒険者は足を踏み入れない森の奥に深く入る。林道も獣はいっぱいいたがプリンキピウムの森に比べるとのどかな森だ。

 魔法馬を早足にして真っ直ぐ南に進む。

「にゃあ、どうせ今日は森に泊まるつもりだからガッツリと走るにゃん」

 孤児院の皆んなにもそう言ってある。

「美味しいのを頼むね」

「にゃあ、任せるにゃん、魔力全開で釣り上げるにゃん」

 襲ってくる小物を狩りつつ魔法馬の足を止めること無く南下した。


『ブモォォォ!』


 三〇分ほど進んだところで巨大クロブタに遭遇した。

「早速、お出ましにゃん!」

 ブタに分類していいのか躊躇する相変わらずのご面相でこっちに突っ込んで来る。

 この面と大きさで特異種じゃないのがスゴいと思う。

「にゃあ!」

 電撃でクロブタの脳を沸騰させた。


『ブヒッッッ!』


 痙攣して転がったクロブタは四本の足を突っ張らせたまま動かなくなった。

「美味しい肉がいっぱい取れそうにゃん」

「本当に!?」

 妖精のテンションが上がる。

「クロブタなら最高にゃん」

「おお!」

 クロブタの肉を格納空間でベーコンに加工しながらそのまま奥に進む。


「にゃお、あれは何にゃん?」

「植物だね」

「にゃお、もしかして超デカい食肉植物にゃん?」

 四階建てのビルぐらいあるウツボカズラ似の植物に四トントラックほどの袋が付いている。

「にゃー、袋の中にマダラウシが入ってるみたいにゃん」

 袋はかなり高いところにぶら下がっているのにどうやってウシが入ったんだ?

 精霊情報体にもこの植物の知識はない。オパルスの図書館の記憶石板も同様だ。

「にゃ?」

 巨大ウツボカズラの蔦が蛇の様に動いてオレに迫る。

「にゃあ、なるほど自分で獲物を捕まえて袋に放り込むスタイルにゃんね」

「へえ、面白いね」

 どう見ても普通の植物ではない。最初の見た目からしてそうだけど。

「にゃあ、これってもしかして魔獣の植物版と違うにゃん?」

「言われてみるとそんな感じだね」

 蔦がオレに巻き付く前に電撃を浴びせて静かにさせて文字どおり根こそぎ分解した。

 消化されかかったマダラウシは格納空間で元の状態に戻しておく。

 巨大ウツボカズラにエーテル機関はなかったが、その代わり刻印を刻んだ丸い石がゴロっと出てきた。

「にゃあ、これがエーテル機関の代わりみたいにゃんね」

 機能がかなり絞られたエーテル機関の簡易版だ。

 魔獣ほどマナの濃度を必要としていないからこんな場所でも自生できたのだろう。

「この世界にはまだまだオレの知らないモノがいっぱいあるにゃんね」

「あたしも知らないことばかりで、マコトといると退屈しないで済むよ」

「にゃあ、リーリは森に住んでたと違うにゃん?」

「いろいろだよ」

 謎が多い妖精である。


 リーリと一緒に新たな獲物を求めてこのまま森を南へと突き進む。

 藪を魔法で刈り取り分解しながらそこそこの速度で魔法馬を走らせる。

「にゃお、いきなりマナが濃くなってきたにゃん」

 馬の上でリーリとおにぎりの昼ごはんを食べながら周囲を魔法で探査する。

「にゃ?」

 オレはずば抜けてデカい獣を見付けた。

 前に狩ったエビっぽいシルエットだが更に大きいぞ。

「あっちもオレを見付けたみたいにゃん」

「マコトの魔力出しっぱなしだからね」

 巨体に関わらず魔獣並みに素早い。

 木々の間を器用にすり抜ける。

「エビより速いね」

「にゃあ、もう来るにゃん!」

 巨木を挟み込んで音もなく襲い掛かって来た。

 間一髪で飛び退くとオレたちの乗った魔法馬のいた場所に巨大なハサミが突き立てられた。

 更に反対側からも!

「にゃ! 攻撃もエビっぽいけど違うにゃん!」

 ピカピカに磨き上げられた外殻は木漏れ日を反射してちょっと眩しいぞ。

 巨大な二つのハサミが口になっていた。

 しかもそれぞれ可愛い眼まで付いてる。

 それに三つめに振り下ろされた尻尾の巨大な毒針。

「わかったにゃん! サソリにゃん! ほとんど魔獣レベルの特異種にゃん!」

 巨木を使ってのフェイントの後、二つにハサミが交互に振り下ろされる。

 ハサミに擬態した口にはサメみたいな歯がぎっちり並んでいた。

 一口で馬ごと噛み砕かれそうだ。

 更に毒針と言うか電柱みたいな太さの杭が真上から打ち込まれる。

「にゃあ!」

 防御結界が有ってもその攻撃はゾッとしない。

 間髪をいれずまたハサミが振り下ろされる。

「にゃあ! 大木が邪魔にゃん!」

 視界を遮る巨木を分解した。

「にゃお」

 サソリモドキは磨き上げた銀製品の様な外殻でハサミだけじゃなく巨体の全てを覆っていた。

 オレの顔が横に伸びて映ってる。

 二つの口を開いて威嚇しつつジリジリと馬に乗ったオレたちとの距離を詰める。

「にゃあ、同じのがもう一匹いるにゃん」

「うん、いるね」

 探査魔法に真後ろから急速に近付くもう一匹のサソリモドキの反応をとらえた。

 逃げる方向を真横に切り替える。

 直ぐにもう一匹が合流した。

 二匹になったサソリみたいな化け物は合計四つの口で攻撃してくる。

 馬をかなりの速度で走らせてるのにオレの周囲はあっと言う間に穴ぼこだらけだ。

 こいつらこんな図体なのにめちゃくちゃ速いのは反則だろう!

「にゃおお! いつまでも好きにはさせないにゃん!」

 オレから反撃だ。

 振り返って銃を撃つ。


「にゃ!?」


 半エーテル弾は、ピカピカの外殻を滑ってあらぬ方向に跳弾させられた。

「にゃお! 半エーテル弾なのに跳弾とかマジにゃん!?」

「マジみたいだよ、表面が防御結界で覆われてるもの」

「だったら、これはどうにゃん!」

 銃をフルオートでぶっ放した。

「にゃおお!」

 結果は同じだった。どちらの個体を撃っても全部跳弾してしまう。

 二匹は弾丸に怯むこと無く距離を詰める。

「防御結界って魔法と違うにゃん?」

「くくりで言うと魔法に分類されるね」

「にゃあ、こいつらも魔法を使う特異種だったにゃんね」

 この前のより素早いだけ厄介だ。

「魔獣に比べるとささやかな魔法だけどね」

「攻撃がぜんぜんささやかじゃないにゃん!」

 このうち一匹のハサミが遂にオレの防御結界に接触した。

 反射的に電撃でハサミを結界から弾いたが、その隙にもう一匹に前に回り込まれ、またしてもぶっとい毒針が撃ち込まれた。

 オレが真っ二つになりそうな太さの毒針を今回は、まともに防御結界の脳天部分に食らった。

 こいつら全く容赦がないぜ。

 電柱サイズの針からオレが溺れそうなほどの量の毒を防御結界に注入する。

「にゃあ! この毒、結界を侵食するにゃん!」

 毒液は全部分解だ!

 後方のサソリモドキも毒針を突き立てる。

「にゃお、こいつら、対魔法使いの装備も持ってるのに本当に魔獣じゃないにゃん?」

「違うみたいだよ」

 ハサミまでもがオレの防御結界に食い込む。

 こいつら前後から力技でオレを防御結界ごと押し潰すつもりだ。

「にゃお! だったらオレもこれにゃん!」

 二匹を風の壁とガチガチに固めた地面で上下からプレスする。

 ギギギギ!っときしむ音が響く。

 サソリモドキの装甲の隙間からブシュ!っと緑色の体液が吹き出す。

「ぺしゃんこにゃん!」

 ベキッ! パキッ! バキン!と同時に二匹を押し潰した。

 巨大な銀色の残骸が残された。

 もうピクリともしない。

「にゃふぅ、やったにゃん」

「潰れちゃったね」

「にゃあ、仕方ないにゃん」

 二匹のサソリモドキを分解して格納空間に仕舞った。


 続いて現れたのは恐鳥だ。

「にゃあ、十分デカいけどサソリモドキの後からだと小さく感じるにゃん」

「うん、ぜんぜん小さいよ」

 銃で普通に倒した。

「にゃあ、今度は別の恐鳥に囲まれたにゃん」

 オレは鞍の上に立って銃を構えた。

「にゃお!」

 フルオートで撃ちまくって倒した恐鳥の身体で森に大きな円を描いた。


「にゃあ、今日はここまでにゃんね」

 暗くなるまで獣を狩りまくったオレは木々の間にロッジを出せそうな場所を探して設置する。



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯) ロッジ


 防御結界を大きめに張って中に入った。

 サソリモドキみたいな超デカい特異種に合わせた大きさってところか。


 夕食は分厚く切ったクロブタのベーコンを焼いてリーリとふたりで堪能した。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二四日



 ○プリンキピウムの森 南エリア(危険地帯)


 翌日は買い取り額のお高い特異種を中心に狩りまくる。

 馬を使わないと容易に来れない森の奥ではあるが、ヤツらの移動能力を鑑みるに危険度の高い特異種を間引いて置くことは重要だ。

 オレなら簡単に狩れる特異種も孤児院の子供たちでは手に余る獲物だ。

 Cランクでも群れで来られると危うくなるらしいし。

 それに強い特異種とやり合うのは怖いけど楽しい。

 どうせだからもう一日森での滞在を延ばすことにした。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二五日


『『『パオオオオオオオオオオオオ!』』』


 プリンキピウムの森でもゾウの群れに遭遇した。

 しかも特異種に率いられた群れだ。

 特異種じゃ無くてもデカくて強いのにそれが統制の取れた群れで襲って来るのだから始末が悪い。

「にゃあ!」

 ゾウの群れに追い回されながら銃をぶっぱなす。

 電撃でまとめてよりも狩りをしてる感じがして好きだ。

 とか余裕をかましてたら別のゾウの群れが前から現れた。

「にゃ? 挟み撃ちにゃん!?」

 木々をなぎ倒し物凄い勢いで突っ込んで来る。

「にゃあ!」

 オレはジャンプして馬を消した。

 象たちが正面衝突して半分以上が自滅した。

 残りは銃で始末した。


『『パォォォォォ!』』


 特異種たちが雄叫びを上げる。

 もう立っているのはそれぞれの群れを率いていたリーダーだけだ。

 オレのことなんかそっちのけで睨み合ってる。

 喧嘩両成敗と言うことで二匹同時に電撃で倒した。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二六日


 翌朝、夜の間に防御結界に引っ掛かった獣たちを始末してロッジごと仕舞った。

「今日は帰るにゃん」

「美味しい獣がいっぱい獲れてよかったね」

「にゃあ」

 プリンキピウムに向かって馬を走らせる。

 もっと森を堪能したかったが、幽霊ホテルの件で不動産屋さんを呼んでもらってるので、そろそろ戻らないといけない。


 帰り道もオレの都合などお構いなしに獣が襲って来る。

「にゃあ!」

 魔法馬の速度を落とすことなく電撃で倒して回収した。

「にゃあ、この調子なら午前中に街に到着できるはずにゃん」

 特異種のたぶんオオカミだと思われる目が六つある牛より大きい獣に並走されてるけど何とかなるだろう。

「にゃ? 背中から触手が出たにゃん!」

「特異種も魔獣と一緒で個体差が激しいからね」

「にゃあ、どんな特異種も油断がならないってことにゃんね」

 電撃とキモいので銃弾も撃ち込んだ。



 ○プリンキピウム 西門


 予想通りに午前中に街の門に到着した。

 途中で狩ったと言うか、帰り道に襲いかかって来た獣のうち特異種は一〇頭だった。

 オレはそのまま冒険者ギルドに向かう。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー


「にゃあ、来たにゃん」

「戻ったよ!」

「ふたりともいらっしゃい」

 セリアが迎えてくれた。

「にゃあ、不動産屋さんには連絡が付いたにゃん?」

「大丈夫よ、話が付いてるから、直ぐに人をやって来てもらうね」

「頼むにゃん、それとジャックとバッカスさんの返事はどうにゃん?」

「ふたりともOKしてくれて、昨日子供たちを連れて森に行ってくれたよ」

「にゃあ、仕事が早いにゃんね」

「ふたりともネコちゃんに感謝してたよ」

「そうにゃん?」

「Cランクでも確実に大銀貨五枚を一日で稼ぐのってかなり大変だから、オケラだって珍しくないし」

「にゃあ、オケラは厳しいにゃん」

「獣を倒すのは簡単なんだけど、持ち帰るのが難しいって皆んなそろって言ってるからね」

「獲物を格納空間に仕舞えないと確かにそうなるにゃん」

 上手く移動しないと次から次と襲われてしまう。

「不動産屋さんが来るまで少し時間があるから、ネコちゃんは獲物をザックのところで買い取りしてもらって」

「にゃあ、それじゃお言葉に甘えるにゃん」

 オレたちはチョロチョロと買い取りカウンターに向かった。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ロビー 買い取りカウンター


「おお、マコトたちか、お前らはこっちな」

 買い取り担当のザックに手招きされてそのまま倉庫に直行する。

「よし、こっちの準備はいいぞ、順番に出してくれ」

「いっぱいあるにゃん」

「だったら、ここで買い取れそうなのを頼む」

「にゃあ、まずは州都から来る途中に狩ったのを出すにゃん」

 まずはレベッカとポーラと一緒に狩った日本の動物園でも見ることができる獣を出す。

 皮を剥いでモツと血抜きをした状態の獲物たちを並べる。

「相変わらずの常識はずれの数だな」

「レベッカとポーラも同じぐらい持ってきたはずにゃん」

「ああ、でもマコトの場合はこれで終わりじゃないんだろう?」

「にゃあ、ゾウがあるにゃん、これはレベッカとポーラと三人で分ける約束になってるにゃん」

「それだったらふたりは辞退してたぞ、ゾウは狩ってないからいいそうだ。それで他にもまだあるんだよな?」

「にゃあ、プリンキピウムの森では特異種がいっぱい獲れたにゃん、それとこっちでもゾウにゃんね、恐鳥もいるにゃんよ」

「ああ、たった二泊三日でか? ひとまず出してみてくれ」

「にゃあ」

 特異種を中心に並べて行く。ゾウは数も多いので場所を食う。

「おお、一匹でもヤバいのにすげえな」

「入れ食いだったにゃん」

「大丈夫だ、今日は買い取れるぜ、マコトシフトを組んであるからな」

「にゃあ、それは助かるにゃん」

「いちばん大きいのはゾウの特異種か?」

 ザックは、小山のようなゾウの特異種を指差した。

「にゃあ、違うにゃん、別の特異種にゃん、まだ出してないにゃん」

「どのぐらいの大きさなんだ?」

「二匹いるからこの倉庫に入らないにゃん」

「マジか?」

「マジにゃん」

「マジだよ、スゴく大きいよ」

 リーリが両手を広げて説明してくれるがいまいちサイズ感が伝わらない。

「ここに入らないっていったいどんなのを狩ったんだ?」

「にゃあ、サソリみたいな形の全身が鏡みたいにピカピカで、ハサミのところが口になってるにゃん」

「おお、それなら鏡面サソリだ」

「名前からして多分それにゃん」

「ギルマスに報告するから来てくれ」

 デリックのおっちゃんの執務室に連れて行かれた。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド ギルドマスター執務室


「マコトたちか、ザックと一緒にどうした?」

「ギルマス、マコトたちが鏡面サソリを二匹も狩って来たらしいんですが、どうします?」

「なっ!? 鏡面サソリだと?」

 デリックのおっちゃんは、えらく驚いてる。

「準魔獣に指定されてるヤツです」

「ああ、近衛の鎧の原料にするあれだろう?」

「にゃあ、オレのは金色じゃないにゃんよ、銀色にゃん」

「鎧に加工する途中であの色に変色するんだそうだ、俺も詳しくは知らんけど」

 ザックが説明してくれる。

「豆知識にゃんね」

「マコト、裏庭ならどうだ、出せるか?」

「にゃあ、あそこならギリギリ出せるにゃん」

「だったら裏庭に出してくれ」



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド 裏庭


 冒険者ギルドの裏庭に移動して鏡面サソリを出すことになった。

「二匹一緒に出すにゃん」

「いいよ、出しちゃえ!」

「はみ出すなよ」

「にゃあ、たぶん大丈夫にゃん、にゃあ!」

 ズシン!と地響きとともに鏡面仕上げの巨大なサソリモドキが再生される。

「「おお!」」

 デリックのおっちゃんとザックが声を上げた。

 ギルドの裏庭は、二匹の鏡面サソリでいっぱいになった。

 二匹とも修復済みなので、いまにも動き出しそうだ。

「間違いない、しかも傷がないって、いったいどうやって倒したんだ?」

 デリックのおっちゃんがペタペタと鏡面サソリの表面を撫で回す。

「魔法でぺしゃんこにしてから、元の形に修復したにゃん」

「ほぅ、これが修復後とは信じられんな」

「マコトの魔法はスゴいからね」

 デリックのおっちゃんは鏡面サソリの表面を舐めるように眺める。

「本当に死んでるのか、怪しいぐらいですよ」

 ザックはビビりつつも査定を続けてる。

 動かそうと思えばできなくもない。

 エーテル機関を突っ込めば魔獣として復活したりして。

「にゃあ、こいつらはプリンキピウムで買い取れるにゃん?」

 デリックのおっちゃんに訊いた。

「ああ、買い取れるぞ。これから近衛軍に連絡するから一週間もすれば担当の技官が来るはずだ」

「随分と早く来るにゃんね」

「州都の事務所からならそんなものだ。値段交渉は俺に任せてくれ。ややこしいことになるからマコトは顔を出さないほうがいいだろう」

「わかったにゃん」

「それとこいつは、死に掛けてるところを上手い具合に確保したことにする。二匹を同時に倒したなんて知れたら間違いなく近衛軍に徴兵されちまうからな」

「六歳児でもにゃん?」

「マコトの実力なら関係なしだ、ヤツらは常に強者を欲してる」

「にゃあ、交渉事は全部デリックのおっちゃんに任せるにゃん」

「ああ、上手くやっておく、ザックも頼むぞ」

 デリックのおっちゃんは買い取り担当のザックを見た。

「わかりました、マコトには酒だの肉だのおごって貰いましたからね」

 ザックはニカっとする。

「恩に着るにゃん」

 オレとしても近衛の一般兵のあの変な帽子は被りたくないし、理不尽な事をされたらおとなしくしてる自信もない。

「ところでこれ状態保存の魔法は掛けてあるのか?」

「大丈夫にゃん」

「保管用の結界はこっちで掛けておく、売上から経費はもらうぞ」

「了解にゃん」

 州都に出向かなくても無事に売れそうで一安心だ。

「マコトは念の為、州都に行ってくれるか」

「にゃ?」

「ちょうどいい依頼があるんだ」

「どんな依頼にゃん?」

「州都までの護衛任務だ」

「Fランクが護衛なんてやっていいにゃん?」

 護衛はDランクからの依頼のはずだが。

「ランクはあくまで目安だ、オレが問題ないと判断すればそれでいい」

「アバウトにゃん」

「だね」

 リーリも頷く。

「州都までの護衛が仕事だ、馬持ちが参加の条件になる、マコトは合格だ」

「そうにゃんね、プリンキピウムに居ない方がいいにゃん」

 オレは州都行きの依頼を受けることにした。

「出発は明日の朝だ、遅れるなよ」

「随分と急にゃんね」

「ああ、マコトが来てくれなかったら護衛が足りないまま出発させるところだった」

「ちょうど良かったにゃんね」


「ネコちゃん、不動産屋さんが、って、何なのこれ!?」

 セリアがオレを呼びに来てくれた。いまは鏡面サソリにびっくり中。

「マコトが森の中で拾って来たんだ、スゴいだろう」

 デリックのおっちゃんが早速作り話を広めてくれる。

「ええっ、ネコちゃんがこんな大きいのを拾って来たんですか?」

「一財産だな」

 ザックも話を合わせてくれる。

「不動産屋って、マコトは家でも買うのか?」

 デリックのおっちゃんが尋ねる。

「向かいの幽霊ホテルが欲しいにゃん」

「マコト、アレはマジもんだぞ」

 眉間にシワを寄せるおっちゃん。

「わかってるにゃん、とにかく後は任せたにゃん」

 鏡面サソリのことはデリックのおっちゃんとザックに頼んで、オレたちはセリアに連れられて冒険者ギルドの事務所に戻った。



 ○プリンキピウム 冒険者ギルド 商談室


 ギルドの商談室で不動産屋に引き会わされた。

 不動産屋さんはプリンキピウムでは不似合いなバリっとした高そうな服に身を包んだ恰幅が良いおっさんだ。

 前世でも不動産屋さんには世話になった。ポンと高級なところを買ってくれてありがたいお客さんだ。

「あの物件の購入を希望されてるのは、お嬢さんですか?」

「そうにゃん」

「あたしもね」

「妖精さんもですか」

「にゃあ、買うのはオレにゃん」

「ネコちゃんは六歳でも、冒険者ギルドの州内売上トップですから安心して下さい」

「それはスゴいですね」

「にゃあ、たまたま運が良かっただけにゃん」

「現状渡しになりますが、どのような物件かご存知なんですよね」

 窓の外に見えるホテルを指差す。

「にゃあ、幽霊が棲みついてるところまでは確認したにゃん」

 いまも朽ちた鎧戸の向こう側で人影がチラチラしてる。

 こっちの世界の幽霊は半端ない存在感だ。

「正直に申しまして、オススメできる物件じゃないのもご存知ですよね?」

「買った人が翌日、天井からぶら下がっていた話なら聞いたにゃん」

「ホテルに巣食う怨霊どもに殺されたのです」

「怨霊にゃん?」

「はい、事の起こりは二〇年ほど前になります。当時はホテルではなくなんと言いますか、娼館として使われていました」

 言い難そうに話す。

「娼館ぐらいは知ってるからそのまま話して大丈夫にゃん」

「はあ、そうですか」

 汗をハンカチで拭う不動産屋さん。

「何か事件が起こったにゃんね?」

「ええ、娼婦の一人に熱を上げた冒険者が嫉妬に狂って、娼館にいた人間を次々と斬り殺したのです」

「以来、あの有様で、買った人間も呪い殺される始末でして」

「犯人はどうなったにゃん?」

「行方知れずです、生きてるのか死んでるのかも不明です」

「いまの持ち主の不動産屋さんは大丈夫にゃん?」

「私どもは商品として買い取っただけですので、それでも近年は店の周囲を夜な夜な徘徊する人影を見るようになりまして」

「それは危ないにゃん」

「本当のところこれは勘弁して欲しかったのですが、仕事柄そうも参りませんので」

「にゃあ、辛いところにゃんね、それで幾らで売ってくれるにゃん」

「現状渡しで大金貨一〇枚なのですが、私どももなるべく早く処分したいので大金貨八枚ぐらいで」

「大金貨八枚にゃん?」

「いえいえ、大丈夫です、相談には応じます。大金貨五枚ではどうでしょうか?」

「大金貨五枚にゃん?」

 いきなり半額だ。

「わかりました、諸経費込で大金貨三枚、これが私どもの限界です」

 勝手に値段が三分の一以下になった。

「いいにゃんよ、大金貨三枚で買うにゃん」

「ありがとうございます、でも本当にいいのですか?」

「にゃあ、問題ないにゃん」

 オレはテーブルに三枚の大金貨を置いた。

 ド派手な事故物件にしては高い気もするが、大きなホテルと考えれば安く済んだのは間違いない。

 それから一時間ほど書類を書いたり説明を受けたりして、築三〇〇年を超えるでかい幽霊ホテルは正式にオレのモノになった。


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