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近衛軍の兵士たちにゃん

「ポーラの家宝で逃げた獣たちがもう戻って来たにゃんね」

「全部頂き!」

 レベッカは一度に三つのブーメランを投げた。

 マッチョなシカが四頭倒れた。

 何か数が合ってないけどいいか。獲物はオレが分解回収する。

「ああ、せっかくの林道なのに残念ですわ」

 自分の魔法馬に曳かれた小型の荷馬車に転がっているポーラはアレだけぶっ放したのにまだ足りないらしい。

「にゃあ、今日一日はおとなしくしてないとダメにゃんよ」

「はい、すいません」


 魔力切れで荷物状態のポーラをそのままにレベッカとオレは、楽しく狩りをしながら進む。

 舞い戻ってきた獣たちは美味しそうなオレ目掛けて襲い掛かる。

 電撃で全部仕留めるのも大人気ないので拳銃で始末した。

 牙を剥くマッチョなシカを次々と回収する。この世界には純粋な大型の草食動物は存在しないのか?

 人に飼われてるヤギだって隙を見せれば襲い掛かってくると聞くし。

 ウサギだって襲い掛かってくる。

 普通なのはネコと犬ぐらいか。

 藪を踏み潰し木々をなぎ倒してゾウが出てくる。

 あの鼻の長いゾウだ。

 しかも異世界版なので動物園のゾウよりずっとデカい!


『パァオオオオオオン!』


 荒ぶったゾウが鼻を振り上げて襲って来る。元の世界のゾウもおとなしくはないが、好んで人間食べたりしないだろう。

「ネコちゃんお願い」

「にゃあ!」

 レベッカの声に応えて拳銃でゾウの頭を撃つ。半エーテル体の弾丸から脳髄に電撃を加えた。

 ゾウの巨体が硬直して倒れる。

 倒れる音もデカい。

「おお、あたしのブーメランだと倒しきれないから助かったよ」

「にゃあ、普段はどうしてるにゃん?」

「逃げるか、ポーラのあの銃かな、ゾウって群れで来るから大変なんだよね、ポーラの銃も大変だけど」

「うん、確かに群れだね」

 リーリは探知済みらしい。本日はゾウの群れとポーラの銃の両方を堪能にゃん。

「来たにゃんね」


『『『パァオオオオオオ!』』』


 既に囲まれてるし。

 しかも怒ってる。

 自分たちから襲って来たくせに仲間がヤラれたからって怒るんだから、チンピラみたいに始末がわるい。


 全部倒したけど。


 ゾウをこれだけ殺ってしまったら地球なら大問題だが、こちらではその常識は通用しない。殺るか殺られるかの対等な関係が続いている。

「にゃあ、ゾウは美味しいにゃん?」

「獣は強くなるほど美味しいですわ」

 ポーラは荷台で人をダメにするソファーに身体を沈めつつ教えてくれる。

「にゃあ、それは楽しみにゃんね」

「あたしも楽しみ!」

「ゾウは、プリンキピウムの冒険者ギルドでは買い取り拒否じゃないかな? なんたって大きいから」

「一匹ぐらいはイケると思いますわ」

「戻ったらザックに聞いてみるにゃん」

 美味しいなら無理に売らなくてもいいか。

「ネコちゃんはプリンキピウムと州都を往復してるだけでお金持ちになるね」

「あやかりたいですわ」

「レベッカとポーラだってそこそこ稼いでると違うにゃん?」

「あたしたちは、出費が多いからね」

「ネコちゃんにくっついて宿泊代浮かせてもカツカツですわ」

「無駄遣いが多いと違うにゃん?」

「「……」」

 ふたりが視線を逸らした。

「にゃあ」


 夕方、森に霧が出てきた。呼応してマナの濃度が上昇する。

「これはマズい霧だね」

 リーリが周囲を見渡す。

「そうみたいにゃん」

「今日はここまでだね」

「霧が出たので森の精霊に注意ですわ」

 レベッカとポーラにも危険を感じ取ったらしい。

「ネコちゃんは、防御結界を急いだ方がいいよ」

「オレのは最初から展開済みにゃん、レベッカとポーラは大丈夫にゃん?」

「わたくしたちは精霊除けの護符を持っているから問題ありませんわ」

「精霊除けの護符もあるにゃんね」

「旅の途中で野営する者には必需品だよ、獣除けほど高くないし」

「精霊に連れて行かれたくはありませんもの」

「にゃあ、それはオレもごめんにゃん」



 ○プリンキピウム林道脇 ロッジ


 霧が本格的に濃くなる前に森の傾斜地に空き地を強引に作ってそこにロッジを出して落ち着いた。

「今日は本当に精霊が出そうだね」

 霧はかなり濃くなっていた。マナの濃度もそれに比例して上昇する。

「ふたりは精霊を見たこと有るにゃん?」

「一度だけ有りますわ、誰も信じてくれませんが」

「その時、酔っ払っていたのは確かだけどね」

「にゃあ、森の中で酔っ払ってたにゃん?」

「森の中と言ってもその時は結界の効いてる野営地だったから安全は確保されていましたわ」

「いまはやらないけどね」

「若さ故の過ちですわ」

「いまだって十分若いにゃんよ」

 やることも。

「それでどんな感じだったにゃん?」

「ネコちゃんもたぶん信じないと思うけど、手足の生えた白いキノコが笛を吹きながら行列を作って歩いてたの」

「にゃ?」

 思わずフレーメン反応にゃん。

「無理に信じなくて構いませんわ」

「にゃあ、どんな光景なのか思いつかなかっただけにゃん」

「それは同意するよ」

「ええ、想像の追いつかない光景でしたわ」

 ふたりをロッジに入れてから不測の事態に備えて防御結界を厚くする。白いキノコなら害は無さそうだが怨霊とかだと厄介だ。

 今日は、この状態だから捕れるかどうかはわからないけど、獣除けの結界を張らないでおく。

 霧は濃さを増しマナもちょっとマズい濃度まで上昇した。既に精霊に連れて行かれるレベルに達している。

「はあ、喉が渇いた、ネコちゃんお酒もらうね」

「わたくしも魔力切れにはいちばんの特効薬だと思いますわ」

 ふたりは勝手知ったる冷蔵庫を開けてビールを飲み始める。つまみのハムとチーズそれにカチカチパンのスライスも一緒に出してテーブルに並べた。

「にゃあ、飲み過ぎ注意にゃんよ」

「はーい、わかってます」

「当然ですわ」

 返事はいいのだが、ふたりはソファーでとろけていた。

「美味しいね」

 リーリはスライスしたパンにチーズを乗せてカリカリ食べていた。


 夕食は昼間に倒したゾウをシチューにして出した。

「シチュー美味しい!」

 レベッカとポーラにはワインも出してやる。

「ゾウのシチューにはワインだよね」

「わたくしも全面的に同意いたしますわ、ワインも美味しいですわ」

「にゃあ、それは良かったにゃん」

 オレはビール派だったが、いまはお茶を愛飲している。

 甘いデザートワインすらまともに飲めないいまのオレでは仕方がない。

 飲めない反動で、いまもレシピを頼りに酒の量産と開発に励んでいた。

 全部が全部、格納空間での作業なので、皆んなはオレがどこからか持ってきたと思ってるみたいだ。

「美味しい、最高だよ、ネコちゃん」

「ええ、最高ですわ」

 目の前のふたりは酒を湯水のように飲みちらしてる。

 飲むのは構わないが大丈夫なのだろうかと心配になる飲みっぷりだ。

 アルコールを任意で分解できるからって、酔っ払って眠ってしまったらどうしようもないと思うのだが。


「にゃお」

 ソファーで潰れてるふたり。いくらロッジが安全とは言え、街の中じゃないのだから全力で飲むのはどうかと思うぞ。

「シチューおかわり!」

 リーリが皿を突き出した。


 真夜中、霧の中に巨大な影が動き回るのがオレの探知結界に引っ掛かった。

「何かいるにゃんね」

「そうだね」

 リーリも気付いたみたいだ。レベッカとポーラは地下のゲストルームで爆睡中。

「少なくとも魔獣ではなさそうにゃん」

 防御結界で防げるレベルだと思う。

「それでいてこの感じ獣でも無さそうにゃん」

「うん、獣じゃないよ、自分の目で見てみるのがいいんじゃない?」

「にゃあ」

 オレはロッジの屋根のハッチを開けて顔を出した。

 反応は肉眼でも確認できる距離だ。

「にゃ?」

 形は巨大な怪獣だった。

 恐竜じゃなくて怪獣。頭が大きくて、まるでデフォルメされたぬいぐるみみたいなプロポーションだ。

 しかも本物じゃない。

 怪獣にリボンを巻いて型を抜き取り、残されたリボンだけで形作っている感じだ。

 半エーテル体か?

 オレの銃の弾丸と同じ、半分がエーテルでもう半分が物質。

 それが動いてる。

「にゃあ、知識としては有るけど実際に見るのは初めてにゃん」

「普通はこんなところには出てこないからね」

 リボンの怪獣は何か探してる。

 状況からしてたぶんオレか?

 半エーテル体がオレに何の用事だろう?

 オレはロッジの屋上に立った。

「にゃあ、オレに話でも有るにゃん?」

 リボンの怪獣はオレに顔を向ける。

「にゃ?」

『……』

 怪獣が何を言いたいのか何となくわかった。

「にゃあ、聖魔法で送って欲しいにゃん?」

 コクンと怪獣が頷いた。

「わかったにゃん、送ってやるにゃん」

 オレは聖魔法を発動させる。

「にゃあ!」

 怪獣は地面からの青い光に照らされリボンが解けて光の粒子になって天に昇って行く。

 お礼に恐竜の豆知識みたいのをくれた。

 卵のイカした並べ方は使いどころがあるか怪しいが、恐竜の種類とその特徴は役に立ちそうだ。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二〇日


 ○プリンキピウム林道


 プリンキピウムへの帰路、実質的な三日目。

「ふぅ~いい気分ですわ」

 ポーラは伸びをする。

「撃ちまくりたい気分ですわ」

 物騒なことを付け加える。

「大きい銃はダメにゃんよ」

「わかってますわ、今回は魔法を使います」

「ポーラは攻撃魔法を使えるにゃん?」

「もちろんですわ」

「ダメだよポーラ、魔法は禁止だからね」

「えーっ、またですの?」

 レベッカがいきなりのダメ出しだ。

「何故にゃん?」

「見ればネコちゃんもわかるよ、ポーラ、あのシカを魔法で倒してみて」

 レベッカはオレたちを見付けて駆けて来る牡鹿を指差した。早くもヨダレを垂らしてオレを食う気マンマンだ。

「楽勝ですわ」

 ポーラは手を突き出し魔法を発動した。


「にゃ!」


 牡鹿の前半分が膨らんでドン!と破裂した。

 赤い飛沫が舞い近くの大木の幹もベチョっと血の色に染まった。

「うわっ! シカが爆発したね」

 リーリも目を丸くする。

「ふふん、この程度軽いですわ」

「にゃあ、獲物が回収不能にゃん」

「うん、木っ端微塵だね、だから禁止なんだよ」

 芸風がでっかい銃と同じだ。もしかして先祖代々マジでヤバいバーサーカー系?

「回収なんて些細な問題ですわ、ほら、それに三分の一ほど残ってますわよ」

「ザックに聞くまでもなく買ってくれないよ」

「にゃあ、獲物と言うより肉片にゃん」

「おいしそうじゃないね」

「もう、皆んな意地悪ですわ」

 ポーラは口を尖らせる。

「にゃあ、もちろんポーラの魔法はスゴかったにゃんよ、だからそれは強敵の為に取って置くべきにゃん」

「そうだよ、最後の切り札は軽々しく他人に見せちゃダメだよ」

 慌てて取り繕うオレとレベッカ。

「確かにそうですわね」

「にゃあ、だから普通の銃を使うにゃん」

「ポーラはには銃が似合うよ」

「そうですわね、わたくしの魔法は戦場でこそ映えますものね」

 人間を破裂させるのって人道的にどうかと思うが。

「そうにゃんね」

 ここは余計なツッコミ無しで同意しておく。

「うん、かっこいいと思うよ」

「ふふ、わたくしの貴族の血が戦場を求めてますわ」

「にゃあ、狩りも貴族の嗜みにゃんよ」

「そうですの?」

「うん、たまに貴族の冒険者っているよね」

 食い詰めた下級貴族の三男とかかな?

「それもそうでしたわね、さあ、狩りを始めますわよ」

 ポーラは優雅に馬に乗って銃を構えそのまま撃った。

 藪からクマがゴロっと転がり出て倒れる。

「まずまずですわね」

 ポーラはクマを格納空間に仕舞うと先頭を切って馬を走らせた。

「にゃあ、頑張りすぎちゃダメにゃんよ」

「わかってますわ!」

 そう言いながら銃を連射した。


 また魔力切れが心配なほど銃を撃ちまくったポーラの活躍もあって午前中だけでかなりの数の獲物が手に入った。

 プリンキピウムに到着して早々また州都に売りに行かなくてはならないなんて事態が冗談じゃなくなってきたぞ。



 ○プリンキピウム林道脇 ロッジ


 お昼は道端にまたもや無理やりロッジを出してリーリのリクエストで昨夜のシチューをパスタに掛けて出した。

「美味しい! マコトこれ最高だよ!」

「にゃあ、一晩置いていい感じになったにゃん」

 主に魔法で。

「この先は道が険しくなるから気をつけてね」

 レベッカが教えてくれる。

「いちばんの難所ですわね」

 オレはポーラの家宝ぶっ放し事件が、いちばんの難所だったと思うぞ。



 ○プリンキピウム林道


 午後は難所というだけあって林道と言うより登山道みたいな道になった。細い道の片方は落ちたらただじゃ済まない峡谷で、もう片方はびっしりと草木が絡み合ってる藪だ。

「これなら近衛の馬車は通らないにゃんね」

「そうだね、この道で馬車は無理だよね」

 レベッカも同意する。

「油断は禁物ですわよ、近衛の方々は普通じゃありませんわ」

 ポーラが不穏なフラグを立てる。

「にゃあ、ヤツらが普通じゃないのは十分わかってるにゃん」

「金ピカと変な帽子だもんね」

 リーリも腕を組んで頷いた。それから前方を指差す。

「前から来るよ」

「にゃあ、魔法馬が三騎にゃん、かなり飛ばしてるにゃん、ふたりともこっちにゃん」

 オレは馬を消して真横の藪にトンネルを作って潜り込んだ。

 レベッカとポーラも馬を消してオレの後に続いた。

 藪の中にふたり用テントぐらいの空間を作ってトンネルの入口を元に戻した。

 オレは腹ばいで藪の向こうを眺める。

 魔法馬の蹄の音が響いて来た。キャリーとベルの忠告に従って認識阻害の魔法は使わずに藪の中の空間の内側だけを防御結界で固める。


 オレたちが息を潜めて隠れてる前を三騎の魔法馬が通り過ぎた。幸い気付かれることはなくそのまま行ってしまった。


 乗っていたのは近衛の騎士ではなくてあの変な帽子の兵士たちだった。

「にゃあ、騎士じゃなかったのは良かったにゃん」

「ですわね、ピガズィで出会った騎士様だったらたぶん見つかってましたわ」

「にゃあ、同感にゃん」

 この前のヒュー・クロッソン少尉とかヤバすぎだ。あれなら魔獣と対峙した方がまだ気楽だ。

 誰も居ないのを確認してから藪から這い出した。

「この先に近衛軍がウロチョロしてる可能性ありだね」

「狩りは終わりにしてさっさとプリンキピウムに帰るのが正解ですわね」

「にゃあ、そうにゃんね」

 オレもレベッカとポーラの意見に同意した。

 君子危うきに近寄らず、もしくは好奇心は猫を殺すだ。

 オレも猫の一種だしな。


 そこからは狩りは自衛だけに抑えて速度を上げて林道を走った。

 しかし、こういうときに限ってデカいウシの群れや、ゾウの群れに出遭ってしまう。

 狭い道を突進してくるわ、藪から飛び出した挙句、勢い余って峡谷に墜落するわで、穏便にやり過ごすなんて無理な状況が連続する。

 オレも銃を使ってる余裕がないので電撃で片付けて片っ端から格納した。そうでもしないと体当たりされて三人一緒に峡谷にまっ逆さまなんてことになりかねない。

 おかげで狩りをするつもりなんて無かったのに思っていたほど進まずペースは昨日までと同程度だった。


「今日はここまでにゃんね」

 魔法馬を停める。太陽は大きく西に傾いて空は茜に染まっていた。

「ロッジは出せそうにないけどいいの?」

 リーリがオレの顔を覗き込む。

 相変わらず林道の左右は藪と峡谷だ。道幅は二メートルを切ってるから道端にテントすら張れない。

「暗くなっちゃうけどもう少し先に野営地があるよ、ただの空き地だけど、ちゃんとした獣避けの結界が張ってあるんだよね」

「その代わり林道の真横ですから普通に丸見えですけど」

「ここだと普通は夜明けまで道端で交代で仮眠かな、どうせ丸見えなら野営地でいいんじゃない?」

「ここでしたらネコちゃんにまたヤブの中に隠れる空間を作ってもらうのがいいんじゃありません?」

「でも、さっきの場所と違ってここの藪はトゲトゲだよ」

 レベッカの言う通りここの藪は、鋭いトゲのある草木が固く絡み合っていて獣すら通り抜けは難儀しそうだ。

「そこはネコちゃんの魔法で何とかしてもらいましょう」

「にゃあ、さっきの兵士たちが戻って来る可能性を考えると藪に潜った方が余計な心配をしなくて済むにゃんね」

 オレはともかく美人の若い女を山中で見付けた兵士たちが品行方正に振る舞うとは思えなかった。

 レベッカとポーラの腕を以てすれば、おとなしくどうこうされることはないしオレも黙ってないが、トラブルを未然に防げるならそれが最善だ。

 魔法馬を消してまた藪に長さ五メートルほどのトンネルを穿うがつ。その先の空間にテントを出してトンネルを塞いでしまえば天然トゲトゲなシェルターのできあがりだ。「これはいいね」

「トゲも刺さりませんのね」

「防御結界の効果にゃん、にゃあ、まずはテントの中でくつろぐにゃん」

 レベッカとポーラを先にテントに入れてからオレもリーリを頭に乗せて入った。



 ○プリンキピウム林道脇 テント


「ネコちゃんなにここ? 拡張空間なの!?」

「そうだよ、マコトが作った拡張空間付きの特別なテントだよ!」

 レベッカの疑問にリーリが解説する。

「ロッジに比べると狭いけど我慢にゃん」

「野営してる冒険者が聞いたら本気で怒り出しますわよ」

「にゃあ、他の人に言っちゃダメにゃんよ」

「こんなこと言ったところで誰も信じてくれないから大丈夫だよ」

「そうですわね、森の精霊で懲りましたわ」

 しみじみするふたりだった。

 手足の有る白いキノコはちょっと信じられないけど、何かオレも同レベルに扱われて地味にショックにゃん。



 ○帝国暦 二七三〇年〇五月二一日


 ○プリンキピウム林道


 プリンキピウムへの帰路、実質的な四日目。

 十分に安全を確保してから藪のトンネルから抜け出した。何かロッジより落ち着いた感じがしたのはオレがネコだからか?


 昨日、レベッカの言ってた野営地に出た辺りから道はまた馬車でも走れそうな広さに戻っていた。

 地形も峡谷がなくなってなだらかな森に変わる。難所は越えたが、その代わりこの辺りからプリンキピウムの森みたいなものだ。

 早速オオカミがお出ましだ。おなじみのシロオオカミが呼んでもいないのに寄ってきてオレを食べようとする。


『キャィン!』


 魔法馬の防御結界と馬キックで全身を強く打って死亡。お肉と毛皮はオレが頂戴した。


「ストップ! 人がいるよ」

 野営地から三時間ほど走った辺りでレベッカが手を挙げた。

 一〇〇メートルほど先に四人ほど男がいた。青っぽい作業服みたいな格好には見覚えが有った。

「にゃあ、守備隊の人にゃんね」

「ええ、それもプリンキピウムの守備隊ですわね、見たことがある人ですわ」

 ポーラの顔見知りらしい。

「プリンキピウムの守備隊がこんなところで何をしてるにゃん?」

「あれは検問ですわね」

 守備隊の人たちは少し開けた場所で検問していた。こっちの世界にも検問があるんだ。いつもの癖でシートベルトを確認しそうになった。


「停まってくれ!」

 守備隊のひとりが手を挙げた。

 オレたちは魔法馬を止める。

「こんにちは、こんなところで検問なの?」

 代表してレベッカが挨拶する。

「ああ、あんたらか、まあちょっとな、知ってるけど規則だからギルドのカードを見せてくれるか?」

 オレたちはそれぞれ冒険者ギルドのカードを見せた。

「もしかして、この先は通行止めにゃん?」

「いや、プリンキピウムに行くなら問題ない」

「この先に街に行く以外の行き先なんてあった?」

「ありませんわよね?」

 知っててわざと言ってるのだろうレベッカとポーラが首を捻る。

「遺跡だよ、間違っても近付くなよ」

 声を潜める隊員。

「にゃあ、了解にゃん」

 オレは、情報料代わりに紙に包んだホットドックを人数分取り出して渡した。

「休憩時間に食べて欲しいにゃん」

「おっ、悪いな」

 まめなのは、前世がトップセールスだった名残にゃん。

 嘘にゃん、ただの営業にゃん。

「あたしも欲しい」

 リーリにもホットドッグをあげてパカポコと少し先を進むと丁字路が有った。

 遺跡に通じる道は、顔が半分隠れるカエルの被り物みたいな変な帽子の男たちが封鎖している。見まごうことなき近衛軍の兵士だ。

 こちらは本格的なバリケードを構築してる。幸い金ピカ騎士の姿は見当たらなかった。

「あの人たち、じっとこっちを見てますわね」

 オレたちも横目で見てるけど。

 被り物で兵士の目は完全に隠れてるのに視線をハッキリ感じる。

「さっさと行こう」

「そうだね」

「にゃあ」

 あの顔の見えない変な帽子は尻尾がゾワワってするにゃん。


「ふぅ、緊張した」

「止められたらどうしようかと思いましたわ」

 近衛軍の兵士から見ない位置にきてレベッカとポーラは安堵の息を吐き出す。

「にゃあ、州都側の入口に誰も居なかったから油断してたにゃん」

 オレもシッポの毛羽立ちが収まった。

「マコト、ホットドッグ無くなちゃったよ」

 オレの顔を悲しそうな表情で覗き込むリーリ。

 食べたら無くなると思うのだが。

「にゃあ、おかわりにゃん」

「ありがとう!」

 新しいのを出してやると直ぐにかぶりついた。まさか近衛軍の兵士はリーリの食べていたホットドッグを見てたんじゃないよね?


「にゃあ、プリンキピウムの遺跡って何の遺跡にゃん?」

「さあ、わたくしは遺跡の中身までは聞いたことがありませんわ」

「まだ発見されたばかりだから、詳しくはわかってないんじゃないかな?」

「近衛軍が来てるのですから、重要な遺跡なのは間違いないですわね」

 キャリーとベルも王宮が管理するクーストース遺跡群の一つとか言ってた。

「噂では、偶然に遺跡を発見した冒険者はかなりの報奨金を貰ったらしいよ、間違いなくお金になる遺跡だね」

「にゃあ、遺跡を発見するとお金が貰えるにゃん?」

「使える魔法馬とか、お宝が埋まってることがあるからね、それこそアーティファクトなんて見付けたら貴族に取り立てられてもおかしくないよ」

「にゃあ、凄いにゃんね」

 レベッカとポーラの話は、キャリーとベルから聞いた内容より情報が俗っぽい。

 格納空間にグールの上位種が持っていたアーティファクトの剣が入ってるが、遺跡から発掘したわけじゃないから、売るのはNGだろう。


「にゃあ、また検問にゃん」

 少し進んだところにまた青っぽい作業服みたいな格好の男が四人いた。

「良かったこっちもプリンキピウムの守備隊の人だ」

「そうですわね、近衛軍は過度の緊張を強いられるから苦手ですわ」

「にゃあ、オレもそう思うにゃん」

 プリンキピウム側の検問も見知った隊員たちだった。

「よう、べっぴんさんたち冒険者ギルドのカードを見せてくれ」

 にゃあ、それってオレも入ってるにゃん?

 カードを見せたついでにホットドックを人数分出した。

「おう、差し入れか、悪いな」

「にゃあ、いつも世話になってるからこれぐらいは当然にゃん」

 現場の人間を大事にしないと後で困ったことになるのはどこの世も同じだろう。

 ホットドッグが気に入ったリーリには三本目を出してやった。


 パカポコと歩かせて検問が見えなくなったところで馬の速度を少しずつ上げる。

「やっぱりグールの出処はプリンキピウム遺跡なのかな?」

 レベッカがヤバいことをヤバい場所で口にする。

「にゃ? オレは何も知らないにゃん!」

「わ、わたくしも何もわかりませんわ!」

「あたしも知らないよ!」

「ちょ、待ってよ、あたしも何も知らないって!」


 オレたちは、そのまま夕方まで魔法馬を思い切り走らせた。


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