帰還にゃん
「私たちも戻るわよ」
フリーダの声にオレも自分の馬を出して乗る。
「昔、追い駆けられたことがあるから金ピカはちょっと苦手なんだよね」
リーリが戻って来た。
「にゃあ、わかるにゃん」
オレも頷く。
「待てマコト、借りてた馬を返すぞ」
ディヴ隊長に呼び止められた。
「それならディヴ隊長の市長就任のお祝いにやるにゃん」
馬屋で手に入れたガラクタがベースの一般に流通している魔法馬なので転売されても問題ない。
「えっ?」
「にゃあ、いらないなら持って帰るにゃん」
「いや、いる! ありがとうなマコト!」
「にゃあ、またにゃん!」
「「「またな!」」」
守備隊の面々に見送られオレたちは、慌ただしくピガズィの街を後にした。
「誰か、早馬でオパルスに行って警戒解除を知らせて欲しいんだけど」
フリーダが皆んなに問い掛けた。
「オレがいちばん速いと思うから、行くにゃんよ」
オレが手を挙げた。
「ネコちゃんはダメよ、これ以上活躍されると冒険者ギルドとしても体裁が悪いもん」
「「「そうだな」」」
皆んなが頷いてる。
「みゃあ、そういうつもりじゃないにゃん」
しゅんとして耳がペタンとしてしまう。
「ち、違うの、ネコちゃんはもう十分に活躍したから、帰りはゆっくりして欲しいの」
「そうだぞ、他のヤツらにも見せ場を譲ってやってくれ、なあ、おまえらもそう思うだろう?」
「もちろん、そうだよ!」
「ええ、そうですわ!」
「そうにゃん?」
皆んなが力強く頷く。
「「「早馬は、俺たちがやります!」」」
例の五人組が早馬を買って出た。
「マコトさん、俺らに任せて下さい!」
「五人で行けば途中で何が有っても問題ないですよ!」
「俺らもそろそろ見せ場を作らないとヤバいっすから!」
「今日中にオパルスに知らせます!」
「じゃあ、先に行ってます!」
「にゃあ、ちょっと待つにゃん」
飛び出そうとする五人を止めた。
「馬の足にヒビが入ってるにゃんよ、早馬で足が折れたら死ぬにゃん」
手早く足のヒビを修復した。
一本だけ直すとバランスがおかしくなるので全体を修復した。
「たぶん、これで大丈夫にゃん」
「「「ありがとうございます!」」」
改めて五人を送り出した。
○西方街道
オレたちがピガズィの街を出発して一時間ほどで夕暮れを迎えた。
「やっぱりピガズィで一泊するべきだったわね」
フリーダが空を見上げる。
間もなく暗くなるが、街から中途半端な距離なので左右は雑木林でこの近くには野営場もない。
「そうは言っても、近衛の騎士様に直ぐに戻れと言われてるのに留まるわけにはいかないですよ」
「そうなんだけどね」
ラルフの言葉に頷くフリーダ。
「この先にちょっと開けた場所がありますから、そこで野営しましょう、早馬は出したんですし、俺たちまで夜道を行くこともないですから」
「そうね、そうしましょう」
近くでの野営が決定した。
○西方街道脇
魔法馬で一〇分ほどのラルフの言ってた場所は、街道から森の中に少し入った本当にただの野っ原だった。探査魔法も使わないのによくこんな場所を知ってると逆に感心する。
「にゃあ、ちょっと待つにゃん」
テントを広げようとした皆んなを止めて、オレは野っ原に野営地に作った簡易宿泊所と同じものを作った。
「えっ、そんなに簡単にできるモノなの?」
フリーダが目を丸くしてる。
「にゃあ、一度作ったから後は簡単にゃん、でも、馬置き場を作るスペースがないから馬はロビーに置くにゃん」
「お、おう」
ラルフがコクコクと頷いた。
オレとリーリが最初にロビーに入った。
「にゃあ、入口のオートウォッシュが心地いいにゃん」
「そうだね」
馬も冒険者も汚れが落ちる。
「後は好きにしていいにゃん、今日のオレの活躍はここまでにゃん」
ソファーの長椅子にゴロンとなる。
「ねえネコちゃん、悪いんだけどもうちょっと活躍してくれない?」
フリーダが擦り寄ってきた。
「にゃ?」
「皆んなに保存食は気が引けるから、また昨日の食べ物を提供して欲しいな」
「ハンバーガーにゃん?」
「そうそれ!」
「ハンバーガーなら食堂にそれが出てくる魔導具を幾つか置いてあるから、それを使うといいにゃん、ボタンを押すと出てくるにゃん」
「ハンバーガーの魔導具?」
「それとスープと飲み物の魔導具もあるにゃん、そっちもボタンを押すと出るにゃん」
「わかったわ、試してみるわね」
「あたしも行く!」
リーリを頭に乗せたフリーダは食堂のある地下へと階段を降りて行った。
その後をラルフと冒険者たちが付いて行く。
「にゃあ、オレは風呂に入るにゃん」
一人ごちて階段の手すりに座るとそのまま地下二階の大浴場まで滑り降りた。
ぱっと裸になって女子の浴室に入っていく。
ウォッシュで身体が綺麗になっても精神の疲れは取れない。やはりリラックスするにはお風呂だろう。
チャプンとお湯に浸かる。
「にゃあ、極楽にゃん」
誰もいない大浴場で泳いでしまうのは前世が日本人だったせいにゃんね。
気が済むまで泳いだ後は、またゆったりと漂ってる。
「屋上に露天風呂を作るのも良さそうにゃん」
森だと完全な露天風呂は危ないから全面ガラス張り辺りだろうか?
「にゃあ、明日にでも実行にゃん」
「何を実行するんですか?」
浴室に入って来たのは、魔法使いのカティだった。
オレほどではないがぺったんこだ。
「大したことじゃないにゃん」
「ネコちゃんの大したことじゃないはあまり信用ならないんじゃない?」
失礼な事を言いながらフリーダも入ってきた。こちらは大迫力だ。カティは2Dでフリーダは3Dにゃんね。
「マコトならやってくれるよ」
ケチャップで汚れたリーリも飛んできた。
「あ、そうそう報酬のことなんだけど」
フリーダが手をパンと打って胸をポヨンとさせる。
「報酬にゃん?」
「今回の非常召集の報酬よ、ギルドからは一日当たり銀貨五枚ね」
「危険度が半端ない割にずいぶん安いにゃんね」
「仕方ないのよ、非常召集はギルドの持ち出しなんだから、それにネコちゃんは別に有るからいいでしょう?」
「にゃあ、オレは近衛の騎士に大金貨を貰ったにゃん」
「他にも有るでしょう?」
「何か有ったにゃん?」
わからなくてカティを見ると唇がグールと動いた。
「にゃあ、グールの報奨金にゃんね」
「それでね、グールの報酬を少し他の冒険者たちにも分けて欲しいの」
「分けるも何もグールの分は、頭割りの等分じゃないにゃん?」
「等分はダメ、そんなことをしたら冒険者のやる気が出なくなっちゃうもの」
「難しいにゃんね」
「そう、難しいのよ」
「オレにはわからないから全部フリーダにお任せするにゃん」
「ありがとう、上手くやっておくね」
「マコトさんたちは直ぐにプリンキピウムに帰るんですか?」
「にゃあ、冒険者ギルドに納品が済んで依頼が完了したら帰るにゃん」
「ネコちゃん、いっそのこと州都に拠点を移さない?」
「にゃあ、そうも行かないにゃん、フリーダはデリックのおっちゃんに義理立てするんじゃなかったにゃん?」
「今回の件で手元に高位の冒険者がいないのはマズいって身に染みたの」
「にゃあ、オレはFランクの駆け出し冒険者にゃん」
「ランク的には確かにそうなんだけど」
「でも州都にマコトさんより強い冒険者はいないと思います」
「そうよね」
「金ピカ鎧はどうにゃん? 今日見た騎士はヤバかったにゃん」
二メートル超えの大男は人殺しの目をしていた。
「たぶん近衛軍が差し向けたグールの討伐隊ね」
「従者の人はいましたが、騎士の方々は三人だけでしたけど、それだけで討伐隊なんですか?」
カティは騎士たちの人数に疑問を持ったようだ。
「にゃあ、近衛の騎士たちは、その人数でも狩れると判断したにゃん」
「それもスゴい自信ですね」
「たぶん、あいつらなら殺れるにゃん」
「そうだね」
リーリも頷く。
「こっちなんか実質、ネコちゃん一人よ」
「そうでしたね、マコトさんひとりに頼りっぱなしでした」
「いくら近衛軍の騎士は強くても、私たちの州都は守ってくれないから居ても居なくても関係ないかな」
「にゃあ、そういうものにゃんね」
「マコトさん、この時期は盗賊の類が増えるので帰り道は注意して下さい、人間には獣にはないいやらしさがありますから」
「にゃあ、盗賊にはもう何度か遭遇してるにゃん、オレもそれほどお人好しじゃないから大丈夫にゃん」
「あたしも付いてるからね!」
リーリはお湯の上に仁王立ちだ。
「でも危険だからプリンキピウムに行かないでこっちにいたら?」
フリーダがオレの背中にくっつく。柔らかいにゃんね。
「にゃあ、オレは冒険者にゃん、危険だからって尻尾を丸めて逃げるわけには行かないにゃん」
「ネコちゃん、かっこいい」
頭を撫でられた。
○帝国暦 二七三〇年〇五月十七日
翌朝、簡易宿泊所を消して野っ原を元に戻した。
「ああ、もったいない」
「場所的に野営地としては中途半端過ぎるから誰も使わないと違うにゃん?」
「それもそうね」
「行きますよ、フリーダ様」
皆んなは街道に出ていた。オレとフリーダだけ空き地に残っていた。それとオレの頭に乗っているリーリ。
「にゃあ」
オレたちも馬を歩かせる。と言うかまたフリーダの馬に乗せられていた。
しっかり抱えなくてもオレは逃げないにゃん。
○西方街道
復路は平和の一言だ。
グールの気配がまだ残っているせいか、街道沿いに獣の姿は全く無かった。もともと危険な獣が滅多に出ない場所というのもある。
さっきまでお菓子を食べていたリーリはオレの頭の上で気持ち良さそうに眠っていた。オレもフリーダにもたれて昼寝だ。
○州都オパルス 城壁門
午後の遅い時間にオレたちは州都オパルスに戻って来た。
さっさとプリンキピウムに帰りたかったが、まだ肝心の納品と依頼の完了と買い取りが終わってない。
「面倒臭いにゃんね」
「買い取りを面倒臭がる冒険者なんてネコちゃんぐらいよ」
フリーダが呆れ顔。
「そうにゃん?」
「お金になる瞬間ですものいちばんうれしい瞬間ですわ」
「うん、あたしもうれしい」
両脇を固めるレベッカとポーラはオレほど擦れてないらしい。
「さあ、冒険者ギルドに行きましょう」
「にゃあ」
○州都オパルス 冒険者ギルド
「「「お帰りなさい!」」」
冒険者ギルドの前に沢山の人がいた。
「「「マコトさん、お疲れ様です!」」」
早馬で走ってくれた五人組もいる。
「にゃあ、お疲れにゃん」
「ん? お疲れ」
リーリが目を覚ました。
○州都オパルス 冒険者ギルド 買い取りカウンター
フリーダが冒険者ギルドの前で帰還の挨拶をしてる横を通り抜けてオレは真っ直ぐ買い取りカウンターへ向かった。
「マコト、買い取りなんだろう?」
ラルフが付いて来た。
「にゃあ、そうにゃん、それと依頼を完了させたいにゃん」
クロウシの依頼票をヒラヒラさせる。
「だったらオレが手続きしてやる、マコトだったら倉庫直行だな」
カウンターを素通りして地下倉庫に通された。
「まずは依頼票を片付けるか、カードを出してくれ」
「にゃあ」
依頼のクロウシを出して査定してもらう。
「依頼分と追加分いずれも問題なし、魔法で解体できるってすげえな」
「にゃあ、オレはナイフで上手に解体できる人を尊敬するにゃん」
「あれは経験が重要だからな」
何はともあれ依頼達成だ。
続いて巨大エビ、その他もろもろ。
更に来る途中で狩った数万の獣。
「常識はずれの数だな」
「買い取りは可能にゃん?」
「それは問題ない、ここは各種魔導具がそろってるからな、その数でも対応できる」
「心強いにゃんね」
「こいつに直接出していいぞ」
ラルフに指示されたのは五メートル四方ほどの磨き上げられた黒い石。
「にゃあ、これが秘蔵の魔導具にゃんね」
「ああ、大量納品用の魔導具だ、大丈夫だと思うが品質が一定の水準に達してないと弾かれるから注意してくれ、何年か前に腐った獣が大量にあふれて大惨事になったことがあるんだ」
「にゃあ、どれも新鮮だから大丈夫にゃん」
「うん、問題ないよ!」
リーリの保証付きだ。
獲物は格納空間の中で修復してから黒い石の中に移した。
レベッカとポーラが狩った分は、さっきふたりの格納空間にそれぞれ押し込んだので売るのはオレが獲った獣だけだ。
弾かれた獲物はなく全数買い取ってくれた。
「おお、大金貨二一六〇枚か、買い取りでは初めて見る金額だ」
「にゃあ、やっぱり冒険者は儲かるにゃんね」
「うん、儲かるよね」
オレとリーリはホクホクだ。
「アルボラ州内でマコトの売上がトップなのは間違いない」
「そうね、間違いないわね」
後から来たフリーダが集計結果の表示されたタブレットを見てる。
ラルフの指示を受けた別の職員が台車に木箱を載せて運んできた。
「マコト、代金だ」
「にゃあ、金貨じゃなくて金にゃんね」
「ああ、金のプレートだ、一枚で大金貨一〇枚分になる。冒険者ギルドなら手数料なしで両替するが、商会に持ち込むといい金額を取られるから気を付けてくれ」
「了解にゃん」
箱ごと格納空間に仕舞う。
「ネコちゃん、報奨金はどうする? プリンキピウムのギルドに送金すればいいのかしら」
「にゃあ、それでお願いするにゃん」
「後は野営地の宿泊所の管理でしょう?」
「そこは全部任せるにゃん」
「ええ、わかったわ」
「にゃあ、オレは買い取りが終わったからプリンキピウムに帰るにゃん」
「気を付けてね」
「にゃあ、ちゃんと気を付けて帰るにゃん」
「ネコちゃんなら何が有っても大丈夫でしょうけど」
「マコト、またこっちに獲物を持って来てくれよ」
「にゃあ、了解にゃん」
「近いうちまた来るんじゃない?」
「そうにゃんね」
フリーダやラルフに見送られてオレたちはプリンキピウムの帰途に付いた。
「ネコちゃん、待って!」
「わたくしたちも一緒にプリンキピウムに帰りますわ!」
レベッカとポーラが付いて来た。