ピガズィにゃん
○帝国暦 二七三〇年〇五月十六日
○西方街道
翌朝、予定通りに夜明けとともに野営地を出発した。破壊された土壁は昨夜のうちに修理し扉も新設してある。グール避けの結界もほどこしたので従来よりも安全な野営地になってるはずだ。
オレと魔法使いのカティで周囲を探索しながら魔法馬を進ませる。
「いまのところグールの反応は皆無にゃん」
今日のオレは自分の魔法馬に乗ってる。
それでもフリーダの隣にいるようにラルフに指示されていた。リーリはいつものようにオレの頭の上だ。
「カティはどう?」
「私も感じません、近くにいないのは間違い無さそうです」
フリーダの問い掛けにカティも首を横に振る。
途中の道端で発見されるのは人間の死体だけで残念ながら生存者はない。死者はいずれもグールに襲われたらしくむごたらしく食い散らかされていた。
屈強な冒険者も青い顔をしている。いくら冒険者でも人間の死体はそう見るものではないか。オレはゾンビ映画でも見てるみたいで現実感がいまひとつだ。
「マコト、また頼む」
少し先を行くラルフがまた死体を見付けたらしい。
これで一〇体目だ。多いのか少ないのかオレには判断できない。
「了解にゃん」
新しく見付けた道端の死体はこれまでと同じくグールに食い散らかされて、ほとんど骨しか残って無かった。
「にゃあ!」
聖魔法で送ってやる。
「襲われたのは昨日のまだ陽があるうちだろう」
ラルフは遺体の状態から時間を割り出した。州都みたいな安全な場所に住んでる割にいろいろ経験してるらしい。
「ラルフ、グールはこの人たちを追って来たにゃん?」
「もしくは、運悪くグールの進行方向に逃げてしまって追い付かれたかだな」
「皆んな停まって!」
フリーダが声を掛けた。
「ピガズィよ」
小高い丘の上にある街が見えた。あそこがピガズィか。それほど大きな街ではなさそうだ。
「マコト」
リーリがオレの頭の上で囁く。
「にゃう、オレにもわかったにゃん、フリーダ、街にグールの気配ありにゃん、ここだと見つかる可能性があるにゃんよ」
「林に入った方が良さそうね」
「そうにゃん」
オレたちは街道脇の雑木林に馬を入れて街を見る。
「まさかピガズィの全員がグールどもに喰われたんじゃないだろうな?」
ラルフが目を凝らす。いくら目が良くても建物の中までは見えないにゃんよ。
「いいえ、街には少なくない人の気配もしています」
カティが情報を追加する。
「グールは街の入口と中をぐるぐる歩きまわってるヤツがいるにゃん、数は全部で一〇匹にゃんね」
「マコトさんの見立てで間違いないと思います」
カティも同意する。
「どうします、フリーダ様?」
ラルフがフリーダに問い掛けた。
「昨日までの私ならこのまま攻め込んだのだけど、グールが役割分担して動いてる以上、なるべくなら気付かれずに殲滅したい」
「問題はどうやって近付くかですね? ピガズィの街からは街道は丸見えだし、この先は麦畑と来てるから身体を隠しようがありません」
「ラルフの言うとおりにゃんね」
「水道橋の中を進むのはどうだ?」
冒険者の一人が提案した。
「あそこは魚でも溺れる水流だがやってみるか?」
「すいませんでした」
他に意見は出なかった。
「だったらオレがここから狙撃して倒すにゃん」
「ここから!? そんな事ができるの、対象が全然見えてないのに?」
「マコトならできるよ」
リーリがオレの頭の上で請け合った。
「にゃあ、グールを魔法でマーキングしたから後は銃弾を飛ばすだけにゃん」
「マコトさん、それってかなり難しいですよ」
カティが心配してくれる。
「オレはできるから心配いらないにゃん」
「どうしますフリーダ様? マコトの策しかなさそうですが」
「ネコちゃんに頼りっ放しになるけど、頼むしかないわね」
「了解にゃん」
オレは馬に乗ったまま雑木林を出て銃を構えた。
今回は小銃タイプを使う。
探索を掛けたまま引き金を引いた。半エーテル弾がピガズィの街に飛ぶ。
まずは最奥のグールのエーテル器官を撃ち抜いて倒す。
続けて巡回中のグールを順番に倒して行く。
最後に門番のグールを倒した。
「終わったにゃん」
「グールの反応、全部消えました」
カティが確認してくれた。
「マジで倒したのか!?」
「このまま街に入って確認するわよ!」
「「「おおっ!」」」
ピガズィの街に向かって馬を走らせた。
○ピガズィの街
坂道を駆け上るとそこに門番のグールの死体が二つ転がっていた。
「どちらも額に犯罪奴隷の紋章がある。野営地を襲ったヤツらの残党ですね」
「でしょうね」
「マコト、残りのグールは何処だ?」
「こっちにゃん」
グールの死体のある場所を順番に案内した。
「全部で一〇体、数も合ってる」
「ネコちゃん、討伐証明は回収したから送っていいわよ」
「了解にゃん」
聖魔法を使い一〇体のグールを天に還した。
「人間の死体はどうするにゃん」
街のあちこちに食い散らかされた死体が転がっていた。
「街の守備隊が残ってるみたいだからそっちに任せる」
ラルフの視線の先にピガズィの守備隊の人間がいた。オレたちの気配に気付いて出て来たようだ。
「あんたら、冒険者か?」
「オレはラルフ・マーレイ、州都の冒険者ギルドの人間です、それとギルマス以外は冒険者になります」
「お久しぶりディヴ隊長、無事だったのね」
ピガズィの守備隊の隊長さんは三〇代後半のイケメンオヤジだ。
「フリーダ、わざわざお前さんが来てくれたのか?」
フリーダとは知り合いらしい。
「グールが複数出たとあっては来ないわけにも行かないでしょう?」
「グールはどうなった? さっきまで何匹か徘徊してたが」
「街を徘徊していたグールは始末したわ」
「本当か?」
「この周囲に反応は有りません」
カティがフリーダに代わって答えた。
「そうか、すると街は助かったんだな」
ディヴは深く息を吐いた。
「被害は?」
「水源地に詰めていた守備隊がほぼ全滅だ、街中でも逃げ遅れた市民が何人か喰われたが、詳細はこれからだな」
「現れたグールの数はわかる?」
「いや、かなりいたとしか、フリーダは見なかったか? 大部分は街道をオパルスの方角に降りて行ったぞ」
ディヴは坂道を指差す。
「野営地で襲われたわ、全部始末したけど」
「数は?」
「五〇ちょっと」
「近衛っぽい鎧を着たヤツはいたか?」
「ああ、上位種ね、ちゃんと始末したわ」
「そうか、それならほぼ狩り尽くしたと思う、流石だなフリーダ」
「私に付いて来てくれた冒険者が優秀だったからね」
オレをちらっと見る。
「フリーダ、済まないが水源地を見て来てくれないか? 案内の者を出すから」
「わかったわ、皆んな行くわよ!」
フリーダの号令に冒険者が集まった。
○ピガズィの街 水源地通り
水源地まで、ピガズィの守備隊の若い兄ちゃんが案内してくれることになった。
三〇分ほど山道を登った所にあるらしい。
「普段は歩きなんですけど、馬はいいですね」
新兵に魔法馬が渡るわけがないのでオレが出してやった。
「マコト、グールの反応はあるか?」
ラルフは守備隊の兄ちゃんと馬を並べて先頭を行く。
「グールはいないにゃん、でも人間の反応がこの先にあるにゃん、人数は一人、たぶん男にゃん」
「何者だ?」
「怪我をしてるにゃんね、座り込んでるにゃん」
「守備隊の生き残りかもしれません、俺が先に行って見て来ます」
「俺も一緒に行こう、森の中じゃなくて路上にいるんだな?」
「にゃあ、この先の道端にいるからわかるはずにゃん」
「わかった、行くぞ、兄ちゃん!」
「あ、はい!」
二頭の魔法馬が駆けて行った。
「水源地の先はどうなってるにゃん?」
「林道が続いてるはずよ、でも、それも途中で途切れてるんじゃなかったかしら」
フリーダはピガズィの地理に明るかった。
「にゃあ、だったら林道も確認が必要にゃんね」
「そうね、グールがいったい何処から来たのか確かめないと」
オレたちは先行したふたりに追い付いた。
「カティ、手を貸してくれ、かなりヤバい」
道端に寝かされていたのは守備隊の隊員だった。さっきの隊長と同じぐらいの歳だ。
ワイルド系のイケメンオヤジは腕と胸に酷い傷を負ってた。
「す、すいません、治癒魔法は得意じゃないんです、そんな酷い傷、無理です」
「ここもネコちゃんの出番みたいね」
「ネコちゃんに掛かったら一発ですわ」
レベッカとポーラがオレを推薦する。
「いまさら驚かないけど、ネコちゃんは治癒魔法も使えるのね?」
フリーダが確認する。
「にゃあ、問題ないにゃん」
「マジでマコトにおんぶに抱っこだな」
ラルフがため息を吐く。
「マコトだからね」
ここで妖精が威張る。
「にゃあ、今回はたまたまオレの得意分野に当たっただけにゃん」
オレは馬から降りて瀕死の重傷を負ってるワイルド系のイケメンオヤジに近付いた。
「……なんだ、最近の冒険者はこんなちっちゃい子もいるのか?」
青白い顔だが軽口を叩く余裕はあるらしい。
「マコトは優秀です、聖魔法も使えますよ」
「おいおい、オレはまだ天に召されるわけにはいかないぞ」
「わかってますよ、マコト頼んだ」
「にゃあ」
ワイルド系のイケメンオヤジのエーテル器官に魔力を注いで肉体の修復を開始する。
ついでにグールの襲撃の記憶をこっそりコピーした。
内容は昨日見せてもらった映像と大きな違いはないにゃんね。
「おっ、おお、マジか!?」
治癒の光を浴びてさっきまで死にそうだったおっさんが身体を起こした。
「嬢ちゃん、スゲーな!」
オレの頭を撫でる。
「副隊長、大丈夫なんですか?」
守備隊の兄ちゃんが驚いた顔のまま問いかける。
「ああ、もう大丈夫だ、俺としたことがちょっと怪我したぐらいで弱気になってたぜ」
「もう、ガルトさん、死にかかってたのは本当よ」
フリーダが肩をすくめる。
「おっちゃんは副隊長にゃん?」
「そうだ、俺はガルト・ダルトン、ピガズィ守備隊の副隊長だ。それで命の恩人の嬢ちゃんの名前は?」
「オレはマコトにゃん」
「あたしはリーリだよ!」
「そうか、ありがとうなマコト、それと妖精さんも」
また頭を撫でられた。
「ガルトさん、早速で悪いんだけど、私たちはこれから水源地に行くの、一緒に来てもらってもいい?」
「もちろんだフリーダ、あそこが俺の持ち場だからな、じゃあ、マコトの馬に乗せてくれるか?」
「いいにゃんよ」
ガルトのおっちゃん、と言っても本当のオレより若いけどな、を後ろに乗せた。
○ピガズィの街 水源地
水源地は通常であれば綺麗な場所だ。
いまはあちこちに惨劇の跡がなまなましく残されていた。
食い散らかされた遺体があちこちに散らばっている。
「こいつは、生存者は皆無か」
ラルフがため息混じりに言った。
「一応、詳細な探索を掛けるにゃん」
目を閉じて人間の魂を探す。
「にゃ?」
水路の先、水道橋に落とし込むところの柵にふたり引っ掛かってる。
「生存者がいたにゃん」
「本当か!?」
ガルトを乗せたまま馬を走らせ、水路に引っ掛かっていたふたりを魔法で引き上げた。
ふたりの身体は激しい流れで身体を異物混入防止の柵に押し当てられて、かなりのダメージを負っていた。
それにグール襲撃の傷。
死んでるがまだ死んでない。幸いなことに魂が抜け出してない。蘇生は可能だ。
「ダメなんじゃないか?」
「マコトなら大丈夫だよ」
「にゃあ、まだ完全に死んでないにゃん」
オレは馬を飛び降り、ふたりの側で治療を開始した。
「すさまじい魔力だな」
ガルトのおっちゃんが呟く。
「マコトはスゴいんだよ」
「ああ、それはわかる、治癒の光が半端ない」
ふたりのエーテル器官に魔力を注ぎ込み肉体と魂を同時に修復する。
「大丈夫、イケるにゃん」
五分後、ふたりの青年が息を吹き返し目を覚ました。
「あれ、何で昼間?」
「お嬢ちゃん、迷子かい?」
また頭を撫でられてるにゃん。
「おまえら!」
ガルトのおっちゃんがふたりに抱き着いた。
「副隊長、どうしたんですか?」
「おまえら、グールにやられてほとんど死んでたんだぞ、それをここにいるマコトが助けてくれたんだ」
「「本当ですか!?」」
「思い出さないのか?」
「あっ、いえ、確かに、あの時、グールにやられて水路に落ちて意識を失ったんです」
「俺もその後、直ぐに落ちました」
「本当なら、おまえらはそこで死んでたわけだ」
「「おおっ!」」
感嘆の声を上げながら自分の身体を確認した。
でも、残念ながら助けられたのはそのふたりだけだった。
グールは昨日の未明に突然現れ、守備隊七人のうち四人と冒険者ふたりのうち一人を殺害して街に向かった。
生き残った冒険者が、オパルスに走ってくれたおかげで被害は最少に抑えられた。もし州都への侵入を許していたら大惨事になっていたろう。
「林道に足跡がありますね」
ラルフが四つん這いになって林道の路面を観察する。
「ああ、この大きさはグールで間違いない」
副隊長のガルトも確認している。
「やはり林道を降りて来たのね」
二〇〇メートルほど林道に徒歩で入って調べている。
オレとカティの探査魔法で調べられる範囲にはグールの反応は無かった。
「にゃあ、ガルトのおっちゃん、この先で金ピカ鎧の居そうな場所は何処にゃん?」
「おい、マコトそういうことは思っても口にしないのが長生きする秘訣だぜ」
ガルトが眉間にシワを寄せた。
「にゃ~、知ってるなら教えるにゃん」
ガルトの足にくっついておねだりする。
「かなり離れてるが、プリンキピウム遺跡がいちばん近い」
「にゃあ、やっぱりそうにゃんね、発掘中の遺跡なら犯罪奴隷もいるはずにゃん」
「何だマコトも知ってるのか?」
「にゃあ、オレはプリンキピウムの冒険者にゃん、遺跡の噂はそれなりに聞いてるにゃん」
「マコトは見に行ったことはないのか?」
「プリンキピウムのギルマスのおっちゃんから危ないから近付くなって言われてるにゃん」
「それもそうか、状況からしてヤツらの出処はそこで決まりだな」
「ちょっと、あなたたちそういう話は、私の聞こえないところでやって!」
フリーダは両手で耳を塞いだ。
「にゃあ、このまま林道を奥まで調べるにゃん?」
「そうね、でも態勢を整えてからじゃないと無理ね、いまは引き返しましょう」
林道から戻ったところで守備隊の伝令がやって来た。
「フリーダ様! 至急ピガズィの街にお戻り下さい! 近衛軍の方がお待ちです!」
「えっ、近衛軍なの?」
「騎士様です」
「こりゃ全員で戻った方が良さそうだぜ」
ガルトがフリーダに耳打ちする。
「そうね、わかりました、直ぐに戻るから近衛の騎士様の所に案内して、皆んな行くわよ!」
オレたちは林道の入口からピガズィの街に引き返した。
○ピガズィの街
街の入口の守備隊の詰め所の前に遠目からでも見間違いようのない近衛の騎士の金ピカ鎧が三人分見えた。
他にも例の変な帽子の兵士が六人ほど見える。
「マコトは馬を消してカティの馬に乗れ、おとなしくして余計なことはするなよ」
ラルフがオレに釘を刺した。
「オレはいつもおとなしいにゃん」
「それについては後でゆっくり話し合おう」
「騎士と目を合わすのも厳禁だぞ」
「殿様みたいにゃんね」
「ああ、近衛の騎士様は皆んな上位貴族だ」
「にゃあ、わかったにゃん、皆んなの迷惑になる様なことはしないにゃん」
「頼んだぞ」
オレは馬を消してカティの前に収まった。
「あたしはちょっと消えてるね」
リーリは姿を消した。もう気配さえ追えない。妖精魔法は半端ない。
「お呼びと聞き急ぎ戻りました、オパルスの冒険者ギルドのフリーダ・ベルティでございます」
馬を降りたフリーダは、片膝を着いて頭を垂れた。
オレたちも真似をする。
「近衛軍少尉ヒュー・クロッソンである。この度のグールの討伐、見事である。よって近衛軍より褒章を下賜する」
いちばんデカい金ピカ鎧が名乗った。
二メートルを超えてた体躯はがっしりとして横幅もあった。
「ありがとうございます」
「グールの討伐証明はすべて提出して貰いたい」
「かしこまりました、カティ、グールの討伐証明をお出しして」
「ひゃい」
緊張したカティが声を裏返らせつつ、何故かオレの手を握って前に出た。
それから格納空間に仕舞ってあったグールの右手首を入れた防水布の袋を3つ取り出した。
「上位種はどうされます? 死体をまるごと保管してございますが」
「上位種か、見せてみろ」
「はい」
おお、今度は噛まなかった。
上位種のグールの死体が出される。
「「おおっ」」
後ろに控えていた金ピカ鎧が声を漏らした。
「上位種も我らが引き取ろう」
従者が袋の中の手首を数えてクロッソン少尉に報告した。
グールは全部で六二体だった。これに上位種が一体。
「一体当たり大金貨一枚、上位種は一〇枚出そう」
「ありがとうございます」
従者から金貨の入った革袋がフリーダに渡された。
「この度のグールの件、人心をいたずらに混乱させる可能性がある、よって一切を他言無用とする」
「承知いたしました」
緘口令か?
「お待ち下さい」
一件落着と思ったら、声が上がった。
声を上げたのは横から出て来た成金臭の漂う顔が四角い中年男だった。
「わたくしはピガズィの市長ホゼア・ボイルでございます、後ろに控えておりますのは助役を務めるふたりの息子にございます」
何でこのタイミングで市長ファミリーの紹介にゃん?
息子はそろって見事な逆三角形だった。顔の輪郭が。
「この度のグールの襲撃で、我が街は大きな被害を受けました。我が一族も多大な被害を受け生き残ったのは我ら三人のみでございます」
市長の一族が我先に逃げ出して運悪くグールに喰われたらしい。街道沿いに点在していた遺体がそうだったのだろう。
「グールは我が街を通り討伐されたわけですから、報奨金は我らが受け取り分配するのが正しいあり方ではないかと具申致します」
なにその超理論?
「なるほど、それを拒否した場合はどうなる?」
「人の口に戸を立てるのは難しいと存じます」
「つまりその方らが漏らすと言うわけか?」
冷たい眼差しで市長を眺めるクロッソン少尉。
「いえ、あくまで一般論でございます」
市長は脂汗を拭いながら卑屈な笑みを浮かべた。
「なるほど、では情報を漏れないようにしなくてはならぬな」
「その通りでございます、すべてお任せ下さい」
「つまり、金を払わなければ今回の件を公にすると言いたいのだな?」
「い、いえ、滅相もございません」
いまさら否定しても、金をくれなきゃ喋ると言ってるのと同じにゃん。
「こいつらを反逆罪で捕縛せよ」
「「「はっ!」」」
兵士たちは市長たちを蹴り飛ばすと手慣れた様子で捕縛した。
「守備隊隊長は、ディヴ・バノンと言ったな?」
「はっ!」
ディブ隊長が顔を上げた。
「貴様が今日から市長だ、領主には近衛軍より通達する、市民を正しき道に導くように努力せよ」
「かしこまりました」
ディヴ隊長が市長に出世した。
「我らはこれより水源地に向かう、冒険者はオパルスに戻り警戒を解くがいい」
「承知いたしました、直ぐに戻ります」
「ところで、オパルスの冒険者は子供を連れてるのか?」
子供?
にゃあ、オレのことにゃん!
見付からないようにおとなしくしていたのだが徒労に終わった。
と言うか、カティがオレの手を握って前に出たから気付くに決まってるにゃん。
「マコトは聖魔法の使い手ですので、連れて参りました」
フリーダが無難な説明をしてくれる。
「おお聖魔法か、では、グールを送ってくれたのもその方か?」
「そうにゃん」
「そうか、犯罪奴隷とは言え人外のケダモノに墜ちた哀れな者たちだ、最後に魂が救われ彼らも感謝しているだろう」
「そう願いたいにゃん」
「我らにも聖魔法の祝福をもらえないだろうか?」
「にゃあ、承ったにゃん」
オレは立ち上がって聖魔法の祝福を行った。
聖なる光が一帯を包み込み浄化と幸運を授ける。
「おお、これは素晴らしい、その力を磨けば一角の使い手となるであろう、精進するがいい」
従者がオレに大金貨一枚くれた。
「謝礼だ」
「ありがとうございますにゃん」
金ピカの騎士たちとその従者は馬に乗って駆けて行った。元市長たちは荷馬車に積まれてドナドナだ。