非常招集にゃん
○州都オパルス 商業地区
突然、サイレンみたいな音が鳴った。
『オパルス市内にいる冒険者に告ぐ! 至急、冒険者ギルドに集合せよ!』
続けて大音響でアナウンスが流れた。木霊してグワングワンいってる。
「拡声の魔導具にゃんね」
「マコトも呼ばれてるんじゃないの?」
「にゃあ、冒険者ギルドの非常招集ならそうにゃんね」
○州都オパルス 冒険者ギルド前
州都オパルスの冒険者ギルドの前には非常招集に応じた冒険者が集まっていた。
馬を消しリーリを頭に乗せたままチョロチョロと人混みをかき分けて前に出る。
冒険者たちが『なんでこんなところに子供が?』みたいな顔をしていた。
「間もなくギルマスから非常招集の詳細を伝える!」
ガタイのデカいギルドの職員が声を張り上げた。
冒険者たちはザワザワしてる。
「特異種が出たらしいぜ」
「マジかよ!?」
「やべえ、バックレようぜ」
コソコソと逃げ出す奴がいる。
オレも面倒くさいからバックレようかな。
特異種なんて魔獣の出来損ないみたいで面白くないし。
コソっと人混みに紛れて……。
「あっ、ネコちゃんたちだ!」
「見当たらないから、もう帰ったのかと思ってましたわ」
レベッカとポーラだった。
人がバックレようとしてるのに呼ぶんじゃない!
「にゃお、ふたりもまだいたにゃん?」
「レベッカが寝坊したので運悪く非常招集に掴まってしまいましたわ」
「面目ない」
ギルドの扉が開いておっぱいの大きなお姉さんギルマスのフリーダが出て来た。
「おっぱいが大きいとギルドでは偉くなるにゃん?」
「間違いないね」
妖精が断言する。
「らしいよ」
「わたくしもそう聞いてますわ」
レベッカとポーラも頷く。
大きなおっぱいを見ても何とも思わないオレがいる。フリーダのエロさは理解できるのだがその先がない。
やはりオレは身も心も六歳女児か。
「非常招集に応じた諸君に感謝する!」
「「「おう!」」」
皆んな元気いいにゃんね。
「ピガズィで人間の特異種が出た」
人間の特異種!?
「おい、マジか?」
「ヤバいな」
「チクショウ、逃げ遅れた」
冒険者のざわめきが大きくなる。
「人間の特異種って、グールかな?」
「グールにゃんね」
人間の特異種の情報はキャリーとベルに教えてもらった内容がほとんど全てだ。
「ちょっとシャレにならない相手ですわね」
この期に及んでコソコソと逃げ出す奴がいるが悪くない選択だ。
オレも人喰い鬼なんて相手したくない。
「静かに!」
さっきのガタイの大きいギルド職員が声を上げた。
冒険者たちが静まる。
「これよりランク毎に二手に分ける。Dランク以下は街の東西の門を守備隊と協力して守って欲しい、Cランク以上はピガズィに向かう、なおFランクは今回の招集は免除とする、以上だ!」
オレはFランクだから招集免除だ。
「にゃあ、レベッカとポーラは頑張るにゃんよ、オレたちは一足先にプリンキピウムに帰るにゃん」
「えー、ネコちゃんたちズルい!」
「不公平ですわ!」
「オレは駆け出しのFランクなので、皆んなの足手まといにならないようにさっさと帰るにゃん」
「ネコちゃんの実力なら実質Bランクを超えてるから一緒に行こうよ」
「にゃーでも特異種程度ならレベッカとポーラがいれば十分にゃん」
「グールをその辺りの特異種と一緒にしてはいけませんわ、普通に死にます」
「特異種を狩りまくってるネコちゃんなら十分にイケるって」
「にゃあ、か弱い六歳児を捕まえて何を言い出すにゃん」
「都合がいい時だけ六歳児にならないでよ」
「オレはいつだって六歳児にゃん」
「おっほん、あー」
冒険者ギルドの職員が咳払いする。
「なおFランクのうち馬持ちで銃を持って妖精を連れてる六歳児は、Cランク以上と行動を共にしてもらう、ではCランク以上と一部Fランクはロビー集合!」
「にゃ?」
オレを狙い撃ちか!
「ギルドも特異種を狩れるネコちゃんを招集免除にするわけ無かったか」
「そうですわね」
「マコトなら問題ないよ」
リーリも保証してくれた。
「にゃあ、面倒臭いにゃん」
オレはレベッカとポーラに引っ張られて冒険者ギルドの中に連れ込まれた。
○州都オパルス 冒険者ギルド ロビー
「これより概要を説明する」
ロビーの壁に画像が映し出されブリーフィングが開始された。
画像が映し出されるのはベルも使っていたからメジャーな魔法なのだろう。
「人喰い鬼がピガズィの街に現れたのは本日の未明だ、水源地の見張り小屋が襲われ、駆け付けた守備隊と交戦状態になった」
画像は、明るくなってからのものだ。
そこにゴリラの様な体型の人間が映し出されていた。
眼球が隆起し口が耳まで裂けている。
まるで笑ってる様な顔は壮絶の一言だ。
しかも複数いる。
「特異種は一体じゃないにゃん?」
「グールでは珍しいね」
リーリが呟く。
「守備隊では侵攻が止められず被害が拡大してる、また街の外でも逃げ出した市民に被害が出ていることから統制の取れた行動をしてる様だ」
統制の取れた動きは特異種なら当然にゃん。
「グールの集団なんて初めて聞いたけど」
「わたくしもグールの群れは初耳ですわ」
「にゃあ、普通はどんな感じにゃん?」
レベッカとポーラはグールの情報を結構持っている様だ。
「グールは単体で出た事案以外は聞いた事がないかな」
「それでも街中に出現するので甚大な被害が出るのがグールの特徴ですわ」
「にゃあ、すると今回は相当やばいにゃんね、これって軍隊に任せたほうがいいと違うにゃん」
「王国軍は王都にいますから直ぐには来れませんわ」
「にゃあ、そうだったにゃん」
「アルボラの騎士団は出ないのかな?」
「騎士団にゃん?」
「騎士団は対人戦闘が専門ですから、グールには歯が立ちませんわ、それにお貴族様のお坊ちゃまたちですから」
「それもそうだね」
ポーラの毒舌に同意するレベッカ。
アルボラにも騎士団はいるが使えないらしい。
「ネコちゃん、期待してるよ」
「ええ、期待してますわ」
「にゃあ、オレよりレベッカとポーラが頑張るにゃん」
○西方街道
超簡単なブリーフィングの後、携帯食と水と毛布を渡され出発となった。このまま西方街道をピガズィの街に向けて進軍する。特に作戦のない直球勝負だ。
門を出る頃には正午を回っていた。
西方街道はかつて隣国フルゲオ大公国の首都にまで通じていた街道だ。国境の境界門が大昔に閉鎖される以前は大公国の首都ルークスの名を冠してルークス街道と呼ばれていたそうだ。
現在の街道名は、州都からの方向から名付けられている。故に州が違えば同じ名前の街道がある様だ。
州都の図書館で得た情報によれば、ピガズィは州都オパルスから西に馬で一日の距離にある州都の水源地が置かれた水の街だそうだ。
なるほど州都に水を供給する水道橋が、西方街道から見える。ローマの水道橋に似ているその姿はなかなかのものだ。
二〇人ほどの冒険者がそれぞれ魔法馬に乗って団子になって西方街道を進む。森に山や谷のプリンキピウム街道と違って見通しの良いのどかな田園風景なので、緊張感はいまいちだ。
「ごめんね、ネコちゃんまで参加させちゃって」
オレは、ギルドマスターのフリーダの馬に乗せられている。後頭部におっぱいが当たってるが、革のプロテクター越しなので見た目と違ってかなり硬いにゃんね。
リーリはフリーダの魔法馬の頭に乗っている。
「いいにゃんよ、何事も経験にゃん」
最悪ドラゴンゴーレムで脱出すればいいだろう。
「ネコちゃんほどの魔法使いは貴重だから、ちょうど州都にいてくれて助かったわ」
「フリーダ様、いくら優れた魔法使いでもFランクの六歳児はマズくないですか?」
ガタイのいいギルド職員ラルフ・マーレイも同行している。
冒険者ギルドの指定害獣駆除担当で、ヤバいのが出た時に冒険者を束ねて戦う役割を担ってるそうだ。
「にゃあ、そうにゃんね、ラルフのおっちゃんの言うことも一理あるにゃん、オレが良くても外聞が良くないにゃんよ」
「マコト、俺は二五歳でおっちゃんじゃないぞ」
「に、にゃあ、冗談にゃん」
なんとラルフはオレよりずっと年下だった。
意外と若いにゃんね。
「ネコちゃんの件は、領主様の了解を得てるから問題ありません」
「にゃあ、スゴいところの許可をもぎ取ったにゃんね」
この世界、児童福祉法が息をしてないにゃん。
「にゃあ、このまま進んだらグールに待ち伏せされないにゃん?」
「大丈夫、一匹ずつ狩るより効率がいいもの」
「人間は獣じゃないにゃんよ」
「いいえ、グールになった時点で彼らは獣になったの、組織だって動いてるとは言っても所詮は獣程度ね」
「にゃあ、そうにゃん?」
「もちろんグール相手に油断はしないから安心して、逆に少人数を狙われる方が危険だから」
「まとまっていた方が安全にゃんね」
「そういうこと」
「それで、今日は夜通し走るにゃん?」
「いいえ、途中の野営地を使って日の出とともに出発ね、それならピガズィに着くのは明日の昼前になるから」
「夜襲を掛けられたりしないにゃん?」
「無論、想定済みだから」
フリーダが胸を張って革のプロテクターがまた後頭部に当たった。
○西方街道 野営地
途中でグールに襲撃されることも無く夕方に予定通り野営地に到着した。
グールどころか州都に来る途中あれだけあふれていた獣が一匹も姿を見せていないのは森じゃないからか?
「立派な野営地にゃんね、プリンキピウムの街道には無かったにゃん」
「そうだね、無かったよね」
リーリと一緒に塀を見上げる。
野営地は古いけど頑丈そうな塀で囲まれた広場だった。中にはボットン便所と水場もある。プリンキピウム街道の焚き火の跡があるだけの野っ原とは大違いだ。
「ただちょっと臭うにゃんね」
問題はそれぐらいでプリンキピウムの街道にある野営地よりもずっと安全だ。物理的な塀の存在は大きい。
あっちのほうが危ないのに。
今日は州都からの通行が禁止されてるので、オレたちグール討伐隊の冒険者が独占している。
Bランクの若い女魔法使いが土の壁を補修し、出入口を完全に塞ぐ。
中学生くらいに見えるが十八歳らしい。
こうして日々、野営地は成長するんにゃんね。
「オレも何かするにゃん?」
フリーダに訪ねた。
馬すら走らせてないオレは身体がなまっていた。
「ネコちゃんは何が出来そう?」
「トイレが臭いから、そのあたりの改修は慣れたものにゃん、あと水場に屋根が欲しいにゃんね」
「わかった、ネコちゃんの好きにやって」
「にゃあ、了解にゃん」
トイレは男女別にして個数を増やして水洗化した。それに使用前後に使用者ごと自動的にウォッシュする。
「これで臭くないにゃんね」
「随分と立派なのが出来たね」
フリーダがオレの横で感心してる。
「トイレは重要にゃん」
「この中に住むヤツが出て来るんじゃない?」
「わたくしの住んでる借家より立派ですわ」
レベッカとポーラも感心していた。
「にゃあ、そういう不届き者は入れないようにするにゃん」
「そんなこと出来るの?」
フリーダがオレの頭を撫でる。
「簡単にゃん、別の目的を持ってるヤツは入れない様に条件を加えるだけにゃん」
防御結界の応用だ。
「何でもできるのね」
「何でもはできないにゃんよ」
できるのはオレの中に知識が有って、実物を触れたことがあるモノだけだ。簡単なモノはその限りじゃないが。
それと知識と実物のハイブリッドなモノは多少難しくてもイケる。魔法馬やドラゴンゴーレムがそうにゃんね。
「次に水場にゃん」
屋根をかけて流し台も作る。水道橋から引いた水は、きれいだからこれは弄らない。
「ネコちゃん、ロッジは出さないの?」
レベッカが問いかける。
「にゃあ、あんなのを出したらかさばって他の皆んなの迷惑になるからダメにゃん」
「だったら、皆んなを入れてさしあげては?」
ポーラが提案する。
「にゃあ、いくらなんでもオレのロッジにこの人数は無理にゃん」
「ロッジが、もうちょっと大きければ入れたのに残念だよね」
「そうですわね」
「そうにゃんね」
交代でテントで寝るより安全で快適な場所の方がいいに決まってる。
「全員で泊まれる簡易宿泊所を作ってもいいにゃんよ」
「「「できるの?」」」
「頑丈に作ってグールでも簡単には入れない様にするにゃん、フリーダが許可してくれれば作るにゃん」
「どうぞ、許可するからやってみて」
横で聞いていたフリーダはすぐに許可をくれた。
簡易宿泊所の場所は野営地の端にあるトイレの横に決めた。ここなら馬車の邪魔にならない。
頭の中にイメージを作り上げる。
「にゃああああ!」
石造りの地上四階地下二階建ての頑丈な建物が出現した。
「「「おおお、マジか!?」」」
周囲から声が上がる。
「こんなもんでいいにゃん?」
「い、いいんじゃない」
フリーダがコクコクと頷く。
「ネコちゃん、こんなのも造れちゃうんだ」
「度肝を抜くとはこのことですわね」
ロッジを見てるレベッカとポーラも驚いていた。
「マコトだからね!」
リーリがオレの頭の上で威張る。
「外から侵入されないように外壁はツルツルで明かり取りも細長くしてあるにゃん。強度も上げてあるから結界なしでも簡単には壊れないにゃんよ」
「これなら夜襲されても大丈夫そうね」
「これでダメなら、何をしてもダメだよ」
「そうですわね」
「ネコちゃん、中はどうなってるの?」
「客室はドミトリー風で、一部屋に三段の寝台が二つ入ってるから六人までの相部屋にゃん、それが二階から四階まであるにゃん、一階はロビーとカウンターそれに従業員スペース、地下一階に厨房と食堂、地下二階が大浴場にゃん、トイレとシャワールームは各階に付けたにゃん」
「何かスゴいことだけはわかったわ」
フリーダの顔が強張っている様な。
「当然、スゴいよ!」
「ええ、そうですわね」
レベッカとポーラも深く考えるのは止めた様だ。
「もしかして厩舎もあるの?」
「にゃあ、ついでに造ったにゃん、魔法馬は厩舎に入れて欲しいにゃん」
冒険者たちにも声を掛けた。
それぞれが自分の魔法馬を引いて行く。
「ネコちゃん、これのどの辺りが簡易なの?」
フリーダに抱き上げられた。
「にゃあ、全部相部屋にゃん、それに布団はマットレスだけにゃんよ」
「それが条件なら、州都の宿泊所の半分は簡易以下になるわね」
「プリンキピウムは全部ですわ」
「あたしたちの借家もそうだね」
布団ぐらい買え。
「これって普通に宿屋として営業できるんじゃない?」
「継続して使うなら従業員が必要にゃんね、管理に手間が掛からないからフロントと料理人が常駐してれば問題ないにゃん」
「わかったわ、冒険者ギルドで借りる形でもいい?」
「いいにゃんよ」
「細かいことは後で決めましょうね」
「OKにゃん」




